ハイスクールD×D ~神(兄)と悪魔(弟)~ 作:さすらいの旅人
俺――兵藤一誠が匙を一方的に攻撃してから数分。
状況は観戦側から見ても分かるように俺が圧倒して有利だ。匙は――言うまでも無く俺によって満身創痍。俺の攻撃をラインを束ねて盾のように防御しながら繋げようとしていたが、俺がすぐに距離を取って連続
それでも匙は何度も立ち上がる。打ちのめされて何度もだ。足だってガクガクしてるのによ。
時折、何の小細工をしてない拳を放ってくる事もあった。全身に
「……勝つんだっ。……今日、俺はお前を倒して……夢の第一歩を踏む……ッ!」
血反吐をダラダラ吐き散らしても尚、俺に勝とうと挑み続ける匙。
……成程な。俺にダメージを与えたのは『こもった一撃』って訳か。
夢を叶えようとする匙のやり方に問題はあるが、拳に『こめる攻撃』は本物のようだ。さっきの一撃は、夢を、あるいは魂を、匙の一生を拳に『こめていた』モノ。
兄貴やタンニーンのおっさんから教わったヤツだ。『こもった一撃』は体の芯に届くものだってな。俺も修行してる時、兄貴に勝ちたいと思いながら攻撃した事があった。その時に当てた攻撃で、兄貴は痛みで顔を歪ませていたな。今がそれと似たような状況だ。
これは後で匙に謝らないとダメだな。頭では油断しないと考えてても、心の底では見縊っていたかもしれない。
俺が接近して一撃を与えて吹っ飛ばすが、匙は倒れまいと両足を地に付ける。
「兵藤ォォォォォッ!」
力の差を見せ付けても、匙は何度も俺に挑んで攻撃を仕掛けてくる。
俺とラインを通じるのを漸く諦めたのか、今度は打撃のみの攻撃をしてきた。全部紙一重で躱してるけど。
「ひとつ聞かせろォッ! どうなんだよ! 眷族候補とは言え、主さまのおっぱいはやわらないのか!? マシュマロみたいって噂は本当か!? 女の人の体は崩れないプリンのごとくというのはマジなのか!?」
今度は何か急に匙が嫉妬に燃えた瞳で殴りかかってきた! ってか戦闘中に聞くことか!?
匙の問いに俺が思わず一瞬固まってしまい、匙はその隙にラインを別の方へ飛ばし、後方のベンチに接続して力の限り振り回してきた。それを見た俺は咄嗟に拳を繰り出し、ベンチが粉砕されて床に散らばった。
魔力を纏ってない物じゃ、俺にダメージを与えるのは無理だ。
「おっぱいを揉んだとき、どう思ったんだよ! ちくしょぉぉおおおおおおっ!」
おいおい、夢を語った一撃よりもこっちのほうが激しいぞ!
………まぁ敢えて匙の返答に答えるなら、凄く気持ち良かったぞ。極上に柔らかな感触だったぜ。ずっと揉み続けたいと思ったほどだ。
何て言ったら部長だけじゃなく、兄貴からキツ~いお叱りの言葉を受ける事になるな。
そう思ってると、匙は次にラインの複数を伸ばし、そこから大型家具をしこたま引っ張って宙で弧を描くように俺の真上に持ってきた。あんだけの家具全部振り下ろすなんて凄ぇな。
予想外な匙の攻撃を見て、一度に全部粉砕出来ないと判断した俺は超スピードで躱す。
「俺だって揉みたい! もみたいんだよぉぉぉぉぉっ!」
ついに匙はぶわっと悔し涙を垂れ流した。まぁ、俺が匙と同じ立場だったら涙を流してるだろうな。
「乳房すら見た事ないんだぞ! 乳首なんて一生拝めるかわからないんだ! それをお前は人間なのに自由気ままに見やがってぇぇぇぇぇっ!」
いや、部長から見せてくれてるんだよ! だってあの人、寝る前に裸になって俺のベッドに潜り込んでるんだよ! 最近は部長だけじゃなくアーシアもだけどな!
心で叫びながら匙を殴り飛ばすも、匙はすぐに立ち上がる。さっきから思ってたけど、マジでタフな奴だな。
「でもな兵藤! 一番はおっぱいじゃない! 先生だ! 先生なんだよ! 俺は先生になるんだ! 先生になっちゃいけないのか!? 何で俺達は笑われなきゃいけない!?」
さっきとは打って変わるように、匙は俺に吠えた。と言うより、これを見ている多くの者達に向かって。
「俺たちの夢は笑われるために掲げたわけじゃないんだ……ッ!」
「笑いはしねぇよ。だがなぁ!」
ドゴッ!!!
「ごはっ!!」
一瞬で匙の懐に入った俺は
「あ、が……!」
「こんなゲームなんかで俺に勝つ為に、命を捨てようとするお前のやり方が気にいらねぇ!」
実力差があると分かっても挑もうとするのは良い。だけど死ぬ事を前提として挑むのはNGだ!
「冥界のお偉方に笑われたからって何だ!? そんな事で命かける理由にならねぇだろうが! 今は好きなだけ言わせとけ! お前ら悪魔は人間と違って長い時間があるんだからな! 先生になるんだったら、二度とこんなバカな事はすんじゃねぇ! あと俺に勝ちたきゃ、もっと修行して力を付けろ!」
「っ……」
拳に力を込めながら抗議するように叫ぶ俺に、匙は痛みに耐えながらもコッチを見る。
「……兵藤……おまえの言ってる事は正しい……。確かに、俺は……とんでもない大バカ野郎だ。けどなぁ……!」
ガシッ!
「今の俺が、おまえに勝つためには……これしか方法がねぇんだよぉ……!」
「やべぇ!」
俺のボディーブローを受けて動きを止めていた匙が、突然ボディーブローをしてる俺の左腕を掴んできた。同時に腕に巻かれているラインも接続させる。
しまった! 匙の言動に不満をぶつけていた所為でラインの事を頭から失念してた!!
「やっと、捕まえたぜ……!」
「くっ!」
血を吐きながらも俺の左腕を掴んで笑みを浮かべている匙。同時に左腕に繋がれてるラインから俺の
「この、離れやがれ!」
「ぐあっ!」
思わず匙から離れようと攻撃して吹っ飛ばした。けれど匙は笑みをうかべながらもヨロヨロと立ち上がる。
「へへ……。言っとくが兵藤、俺から離れたって無駄だ。このラインは一度繋がった以上、お前のオーラを根こそぎ吸い尽くす……! 益して今のお前は
「ちぃっ!」
分かっていても思わず舌打ちをする俺。
くそっ、俺とした事がしくじった。まさか匙がこんな土壇場で繋げるなんて思いもしなかったよ!
「さぁ兵藤、ここからが根競べだ! 俺とお前、どっちが先にくたばるかをなぁ!」
匙はここから先ずっと防御に集中する気だ。アイツが何もしなくても、ラインは今もずっと俺の
しかし――
「悪ぃけど匙、生憎俺はお前と根競べするつもりはねぇよ」
ブシュッ!
「んなっ!」
俺が右手で服の背中の内側に隠し持ってたモノを出して振るった瞬間、匙のラインはすぐに切断された。それを見た匙は信じられないように目を大きく見開く。
「兵藤、おまえ、それは……!」
「ふぅっ、危ねぇ危ねぇ。コレが無かったら危うくリタイヤしてたな」
俺が出したモノは教会のエクソシストが使う武器の一つ――光の剣。以前に元エクソシストのフリードが使っていた武器だ。
本来は加護を与えられてるエクソシストじゃなければ光を発動させる事が出来ない武器だが、聖書の神である兄貴が俺でも使えるよう改良してくれた。俺の場合は
俺は
だけど
本当だったらフリードのクソ野郎と同じ武器を使うのは癪なので使いたくなかった。だけど何の対策も無く意地張ったまま使わずに負けたなんて事になれば、それこそ救いようのねぇバカ野郎になっちまう。俺個人だけならまだしも、部長だけじゃなく兄貴の顔に泥を塗っちまう事になるからな。
しっかしまぁ、昨夜にちょっと練習した程度で使えるようになったとは言え、マジで匙の
『
って、兄貴が言ってたけど、ついさっきまで半信半疑だったんだよなぁ。まぁ自分を信じてやったからこそ切れたから問題ないってとこか。毎回思ってるけど、ホントに兄貴には恐れ入るよ。
「何でおまえがそんな物を持って……っ! そうか、兵藤先輩か!」
あ、匙も気付いた。そりゃ気付くのは当然だろうな。
教会関係者でもない俺がエクソシストの武器を持ってるって事は、聖書の神である
「ご明察。この武器は兄貴からのプレゼントだ。お前のライン対策として使わせてもらったぜ。つーか、匙だけじゃなく会長にも言える事だが、詰めが甘かったな。あの兄貴がお偉方から課したハンデをバカ正直に従って、俺を丸腰のままゲームに参加させるとでも思ってたか?」
「ぐっ!」
切断されたラインを外しながら会長の事も含めた俺の問いに言い返せない匙。
兄貴は俺と違って、相手の裏をかくのが好きだからな。今回俺は
「ってな訳で匙、そろそろ勝負を決めさせてもらうぜ」
「くそっ、こうなったら……!」
匙が玉砕覚悟で俺に接近して再びラインを繋げようとする気だ。
「残念だが、そんな暇は与えねぇ」
ゴウッ!
持ってる光の剣の柄に
「な、何だ、刀身が……!?」
俺の剣を見た匙が戸惑いの表情を見せる。
けれど俺は気にせず、光の剣を両手で持って振り上げ、トドメの構えを取る。同時に光の剣も出力も最大状態だ。
「嘘、だろ……。何だよ、その光は……!」
「匙、さっきも言ったが手を抜くつもりは無い。だから俺はお前に敬意をこめて、この一撃で決める!」
光の剣を翳しながら言う俺は、昨夜に兄貴が説明した内容を思い出す。
『その光の剣は急造したモノだから、お前の
そして俺は光の剣を匙に振り下ろしながら――
「『
ズォオオオオオオオオオンッ!
「あ、あ、ああ……うわぁぁあああああああああああああああああああっっ!!!」
兄貴が命名した技を言うと、赤い斬戟はそのまま匙に襲い掛かった。躱せる体力が無かった匙はモロに受けて、絶叫をあげながらそのまま姿を消した。
『ソーナ・シトリーさまの「
「ふうっ」
ピシッ!
グレイフィアさんのアナウンスを聞いた俺が構えを解いた直後、光の剣の柄がすぐに罅が入った。役目を果たしたのか、柄はガラガラと壊れて灰となり消えていった。
「今回は俺の勝ちだ、匙。次やる時は命をかけないで、真っ向のガチンコバトルをしようぜ」
ダチを倒した事に少し負い目を感じる俺だが、それを表に出さずにそう言った。勝負をして勝った以上は前に進まないとダメだからな。
そして俺は後方にいるアーシアと小猫ちゃんがいる方へ足を運ぶ。
「アーシア、小猫ちゃん……悪いけど、俺の手を握ってくれないかな?」
「イッセーさん?」
「……先輩?」
無理矢理浮かべた笑顔で言った俺に二人は首を傾げてる。
「俺さ、今まで敵はぶっ倒しても、ダチをぶっ倒したのは初めてなんだ。頭では分かっちゃいたけどさ。分かっていたけど……。ゴメンな、こんな情けないところ見せちまって……」
震える拳をアーシアと小猫ちゃんは微笑みながら優しく握ってくれた。二人の優しさが俺の手を包んでくれるようだ。
「イッセーさんは、情けなくなんかないです」
「かっこ良かったです。自慢の先輩です」
「………ありがとう」
二人の言葉は俺に充分なぐらい届いた。