ハイスクールD×D ~神(兄)と悪魔(弟)~   作:さすらいの旅人

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今回は戦闘前の閑話です。ついでにフライング投稿です。


二十九話

「ぷはー」

 

 俺――兵藤一誠は家の地下一階にある大浴場の脱衣所で湯上りのフルーツ牛乳を飲んでいた。

 

 いっつも思ってるけど、どうして風呂上りに飲む牛乳ってこんなに美味いんだ? ホントに不思議だぜ。

 

 まぁ、それはそれとしてだ。俺は風呂に入る前、兄貴からディオドラとの戦いに供えた最終調整の修行をしていた。戦いが直前にまで迫ると、修行はある程度軽くなる。身体を休めるのも大事な事だって、兄貴がいつも言ってるからな。

 

 ついさっきまで兄貴と一緒に大浴場で汗を流していたが、一足先に上がっていた。この前アーシアに渡した装備の調整をしておくんだと。しかも矢鱈と真剣な顔でな。

 

 思わず『何でそんな事をするんだ?』って俺が訊いても、『万が一の事を考えて、な』と兄貴が言葉を濁して大浴場から出て行っちまった。あの兄貴があそこまでディオドラを警戒してるって事は、何かあると見た方が良さそうだ。ま、俺は俺でディオドラをぶっ倒す事に変わりはないけど。

 

 牛乳を飲み終えた俺は大浴場を出ると、向かいにある大広間の明かりが点いていた。

 

 扉が少しだけ開いているので気配を消しながら覗いて見ると、練習用の剣を振るうゼノヴィアがいた。

 

 体操着を着て、真剣に剣を振るっている。

 

 俺と同じく修行してるんだなぁって思いながら、消していた気配を戻し、堂々と扉を開けて入った。

 

 さっきまで剣を振るっていたゼノヴィアは俺が入ってきた事に気付いて、こちらに顔を向ける。

 

「イッセーか」

 

「よっ。ここの明かりがついていたもんだから、ちょっと気になってな」

 

 俺がそのまま入室してもゼノヴィアは何も言い返さなかった。

 

「俺と同じく特訓か?」

 

「ああ、ゲームも近いからね。尤も、私はおまえと違って一人で特訓だ」

 

 随分と皮肉が篭った台詞だな。ま、俺がいつも兄貴と修行してる事にゼノヴィアからすれば、色々と文句を言いたいんだろう。

 

「そういや兄貴が言ってたぞ。ゼノヴィアがここ最近、練習量を上げすぎてるって。あんまり上げ過ぎると、後々に兄貴から怒られるぜ」

 

 いくら修行でもオーバーワークは身体を鍛えるどころか、却って怪我をしてしまうからな。以前の小猫ちゃんみたいに。

 

 ゼノヴィアもそれくらいは分かっていると思うけど、多分それを知った上でやってると思う。何かにとり憑かれたような表情をしていたし。

 

「だろうな。だがそれでも私は――イッセーより更に、木場よりも弱いからな」

 

 ゼノヴィアは真っ直ぐな瞳で言った。

 

 確かにその通りだ。以前までゼノヴィアの方が祐斗よりも強かった。けれど、祐斗が聖魔剣を得てから才能を開花させていった事で、いつのまにか立場は逆転していた。

 

「映像記録を見ただろう? 木場はデュランダルを私以上に上手く扱っていた。そしてイッセーも、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)無しでも匙を圧倒していた。単純に才能と言う点では木場やイッセーのほうが上なのだろう」

 

 少しだけ目を陰らせたゼノヴィア。祐斗だけじゃなく、まさか俺にも嫉妬していたとは。

 

「それは違うぜ、ゼノヴィア。俺に戦闘に関する才能なんて全くないぜ」

 

「え? でもイッセーは隆誠先輩――主に鍛えられたんだから、あそこまで強くなったんだろう?」

 

「まぁ、確かにそうなんだが……。修行を始めた頃の俺は超ヘッポコで、戦いのセンスもゼロだった。歴代赤龍帝の中で最弱でもあったしな。それでも持ち前の根性で諦めずに続けた結果が今の俺って訳だ。兄貴も兄貴で、こんなヘボな俺によくもまぁ十年以上も付き合ってくれたよ。いくら家族だからつっても、普通ここまでしないと思うぜ」

 

 かなり前に『俺なんかより、もっと才能溢れる奴を鍛えた方が良いんじゃないか?』って訊いた事があった。

 

 けれど――

 

『何を言ってるんだか。お前にも充分才能があるよ。諦めずに続けようとする“根性”の才能って奴がな。俺の修行内容はどんなに才能溢れる奴がやったとしても、簡単に音を上げてしまうからな』

 

 って、呆れながら兄貴が言い返してたんだよな。

 

 今更だけど、確かに兄貴の修行内容ってメチャクチャハードだった。初期の頃は身体作りを中心とした基礎練がメインで何年も続いてたし。

 

 例えるならドラグ・ソボールのキャラで空孫悟とツリリンの師匠――海仙人と同じものだ。

 

 海仙人は武術の神さまと呼ばれるほどの達人だが、弟子に戦い方の指導は一切しない。主に身体や精神の鍛練、そして学習の時間を取って、人間の育成と人格教育をメインにしたものだ。兄貴はそれを参考にして俺と同じ修行をしていたからな。

 

 内容に関しては海仙人に近い修行で、初期の頃はずっとそれをメインでやってた。お陰で数年後には、途轍もない身体能力を得る事が出来たな。修行の詳細については省かせてもらうが、それでも並大抵の人間が続けられるものじゃないってのは確かだ。

 

「だから才能のない俺からすれば、才能や根性のあるゼノヴィアを羨ましく思うよ」

 

「私より強いイッセーに言われても実感が湧かないな」

 

 と言ってるゼノヴィアだが、それでも笑んだ。

 

「だけど、一番許せないのは……前の試合で何も出来ずに敗退した自分自身なんだ。だからその為に、次は油断しないよう鍛え直している」

 

 ……なるほどな。

 

 ゼノヴィアはシトリーとの一戦でカウンター型の神器(セイクリッド・ギア)を持つ副会長――真羅先輩に敗北したんだよな。

 

 パワーは当然ゼノヴィアの方が上だが、相性が最悪だった為に真羅先輩にやられてしまった。

 

 カウンターの恐ろしさを分かってはいても、映像記録を見た時は改めて認識した。もし俺も真羅先輩と戦ってドラゴン波でも撃ったら、ゼノヴィアと同じ運命を辿ってしまうってな。

 

 ま、俺も俺でドジを踏んだんだよな。会長の挑発で使用禁止にされていた筈の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発動させて強制リタイヤになっちまったし。だから俺もゼノヴィアの事をどうこう言える立場じゃない。

 

「お前の気持ちは分かるよ。俺だってそうさ。前の試合でドジ踏んでリタイヤしちまったからな。部長の眷族として、我ながら情けなく思えるよ。……あんなんじゃ、兄貴を倒すなんて夢のまた夢だ」

 

 俺は床に座り込み、息を吐いた。すると、俺の台詞を聞いたゼノヴィアは少し驚いた顔をしている。

 

「イッセーは主を倒そうとしてるのか?」

 

「まあな。強くなるなら目標ぐらい立てとけって兄貴に言われたから、前に人間界行きの列車で『聖書の神(あにき)を越えてぶっ倒す』って言ったんだ。それを聞いた兄貴は楽しみに待ってるんだとさ」

 

「………ふっ。おまえらしい目標だ。もし私がまだ正式な教会の信徒だったら、神に対する冒涜とみなし問答無用で切り伏せていたぞ」

 

「悪魔になったゼノヴィアだから教えたんだ。ってか、そういうお前こそ今の兄貴を知ってどう思ってるんだ? 今まで尊敬していた神さまが、実は家族思いでシスコン気味な兄貴だったって事に対してかなり予想外だったんじゃねぇか?」

 

「そうだな。確かに私が考えていた理想の主とは大きくかけ離れていた。けれど、あの方は私が悪魔になっても一切見捨てようとしないばかりか、今もこうして一緒に生活し、時々だが剣の特訓にも付き合わせてもらっている。私にとっては夢のような日々だ。だが教会の背信者(うらぎりもの)である悪魔の私に、ここまでしてもらって良いのかと時々疑問に思うこともある」

 

「兄貴が神さまだった頃はよく分からねぇけど、少なくとも今はゼノヴィアが悪魔になったからって掌を返すなんて事はしねぇよ。そこは弟の俺が保証する。ってかもしそんな事してたら、俺が兄貴を思いっきりぶん殴ってるけどな」

 

「……イッセーは本当に凄いな。自分の兄が嘗て天界のトップだと分かっても、今も全く変わらない態度で接しているんだから」

 

「元神さまだろうがなんだろうが、俺は兄貴の弟だ。それに兄貴も俺がこうしている事を望んでいるからな。つーか考えてみろよ、ゼノヴィア。もし正体を知った後、教会の信徒みたいに(うやうや)しく敬語を使う俺を兄貴が見たらどうなると思う?」

 

「それは………即行で止めろと言うかもしれないな」

 

「だろう?」

 

 俺もそれは容易に想像出来る。

 

『お兄さま、ではなく神さま、今日はご機嫌如何ですか?』

 

 なんて事を俺が訊いたら――

 

『その気色悪い呼び方と話し方を今すぐ止めろ!』

 

 鳥肌が立って即座に言ってくる兄貴の姿が目に浮かぶぜ。

 

「まぁ取り合えず、俺が兄貴を越えるってのはまだまだ先の話だ。今は強くならなきゃいけないからな。けれどまだ他にやる事もある。悪魔になって部長の正式な眷族にならないといけないし」

 

「確か聞いた話では、リアス部長とイッセーでは実力差があり過ぎて眷族にする事が出来なかったそうだな。私から見ても、今のリアス部長ならイッセーを眷族にする事が出来ると思うが」

 

「いいや、残念だが無理だった。冥界で修行した後に試してみたんだけど、俺も修行で多少強くなった事もあってか、未だに部長は俺を眷族にする事が出来ないみたいだ。アーシアだったらすぐに出来るんだけど、俺と同じ日に部長の眷族になるって言ってるし」

 

 実力差があって眷属に出来ないなら他にも方法はあると思うんだが、部長は頑なにそれをやろうとしない。自分の力で正式に俺を眷族にするって言ってたし。

 

 兄貴も兄貴で何か眷族に出来る劇的な切っ掛けがあれば部長の眷族になれると言ってた。それが何かは未だに分からないけど。

 

「ま、もしこれから何年、何十年経って悪魔になれなくても、俺はずっと部長の眷族でいるつもりだよ」

 

「私としては是非とも悪魔になって欲しいな。もし人間のイッセーやアーシアが先に逝かれでもしたら、悪魔の私は寂しい日々を送ってしまう」

 

 確かにそうだ。永遠に近い生命を持った悪魔と違って、人間の寿命は短いからな。

 

「んじゃ、なるべく早めに転生悪魔になるとするよ」

 

「そうしてくれ。まぁイッセーの事だ。リアス部長の正式な眷族になった後、いずれ独立するのだろう? 上を目指し、そして隆誠先輩を越える為に」

 

「まぁ、そうだな。尤も、それはまだ先の話だが」

 

「アーシアはおまえについていくと言っていた」

 

「ん? ああ、そうだな。俺とずっと一緒にいるって約束したぞ」

 

「アーシアと共に私も連れて行ってくれ」

 

 予想外の台詞に、俺は思わず少し目を見開いた。

 

「……ゼノヴィア、お前どうして俺についていきたいんだ? 俺なんかより兄貴の方が良いんじゃないか?」

 

 俺がそう訊くとゼノヴィアは満面の笑みで答える。

 

「イッセーと一緒にいると面白いからだ。兄の隆誠先輩以上にな」

 

 そうですか。兄貴より面白いのか。まぁ悪い気はしないな。

 

「了解。考えておきますよ」

 

「うん、前向きに頼むぞ」

 

 とは言え、目標は立てても将来のプランなんか全く立ててないからなぁ。いっそのこと、アーシアとゼノヴィアと一緒に稼業を立ち上げるのも面白いかもしれないな。

 

「少し話しが長引いてしまったが、イッセーと話していたら張り詰めていたものが良い感じにほぐれた気がするよ」

 

「そうか? 俺でよかったらいつでも話し相手になるぞ」

 

 俺がそういった後、ゼノヴィアは座り込む俺に近づき――

 

 

 チュッ

 

 

 突然俺の頬にキスをしたっ! え!? 何!? いきなり過ぎて驚いたぞ! ほっぺにチューですか!?

 

「話し相手をしてくれたお礼だ。口の方がいいか? それとも……それ以上がいいか?」

 

「え、あ、そ、それは……」

 

 余りの事に俺がドモりまくってると、ゼノヴィアは急に笑みを浮かべる。

 

「冗談だ。こんな汗臭い身体で子作りする訳にはいかないからな。それじゃあ、今日はもう休むよ」

 

 そう言うとゼノヴィアは退室していく。

 

 俺は突然のチューに頬を擦っていることしか出来なかった。

 

「……ん? まてよ。もしゼノヴィアが汗臭くなかったら……あのまま此処でほっぺにチュー以上の事をしても良かったのか?」




原作通りのイッセーとゼノヴィアメインの話でした。
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