ハイスクールD×D ~神(兄)と悪魔(弟)~   作:さすらいの旅人

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久しぶりに長く書きました。


三十五話

「神に手を出そうとする悪魔は、我ら天使が許さん!」

 

「我らの父上には指一本触れさせないぞ!」

 

「旧魔王派に属する愚かな悪魔たちよ! 裁きの槍を受けるがいい!」

 

「………お前等、張り切り過ぎだ。少しは俺もやらせてくれ」

 

 俺――兵藤隆誠はレーティングゲームのバトルフィールドで旧魔王派の悪魔共を片付けていた。最初は一人で大量の悪魔達を相手していたんだが、俺がここにいる事を知った天使勢の大半がやってきたんだよな。『神よ、私達がお守りします!』と言って守ろうとし、更には代わりに撃退していた。

 

 多分だけど、聖書の神(わたし)に良いところを見せようと天使(こども)達が躍起になってるかもしれない。再び甦った聖書の神(わたし)の力になりたいと。

 

 まぁ確かに今の天使(こども)達は嘗ての頃と違って強くなってるよ。旧魔王派の悪魔共は天使(こども)達の勢いに圧されてるから、全滅となるのは時間の問題だろう。

 

天使(こども)達よ、私は一旦此処を離れる。残りの敵はお前達に任せるぞ」

 

『はっ!』

 

 これ以上は俺が此処にいても戦う機会がないと思い、後は天使達に任せようと持ち場を離れた。

 

「さて……」

 

 天使達に任せた俺は宙を飛んで、ある場所へ向かっていた。そこにはアザゼルの他にもう一人いる。

 

 ソイツは腰まである黒髪の小柄な美少女だ。黒いワンピースを身につけ、細い四肢を覗かせている。

 

 端整な顔付きをした少女は俺の接近に気付いたのか、アザゼルと一緒にコッチを見てきた。

 

「よう、久しぶり。この前の食事以来だな」

 

 俺が友人みたいな挨拶をすると――

 

「聖書の神。また会えた」

 

 旧魔王派を含めた『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップ――『無限の竜神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスも挨拶を返す。

 

「アザゼルはどうして此処へ?」

 

「ファーブニルを宿した宝玉が反応してな。大きく反応していた此処へ来たら、オーフィスがいたんだよ」

 

「成程」

 

 確かアザゼルが持ってる宝玉は人工的に作り出した神器(セイクリッド・ギア)だったな。今更だけど、アザゼルには恐れ入る。嘗ては聖書の神(わたし)だけしか造る事の出来ない神器(セイクリッド・ギア)を独自の理論と製法で造ったんだからな。

 

「しっかしリューセーよぉ、コイツの容姿が美少女だったなんて聞いてないぞ。俺はてっきり前に会ったジジイの姿だと思ってたんだが」

 

「悪い悪い。教えるのをすっかり忘れてた。尤も、コイツにとって姿なんてものは飾りに過ぎないから、教えても大して意味はないと思うが?」

 

「……まぁ、確かにな」

 

 俺とアザゼルが会話してる中、オーフィスはジッとコチラヘ視線を向けている。主に俺の方を。

 

「オーフィス、お前が此処へ来た理由は何だ?」

 

「見学。ただ、それだけ。だけど、聖書の神がいるなら――」

 

「言っておくが前と同じく『禍の団(カオス・ブリゲード)』に入る気は無いからな」

 

「……我、凄く残念」

 

 断られる事にオーフィスが少し悲しい顔をする。いくらそんな顔したって絶対に入らないからな。

 

「高見の見物ついでにリューセーを勧誘ね……。それにしてもボスがひょっこり現れるなんてな。ここで俺たちがおまえを倒せば世界は平和か?」

 

 アザゼルは苦笑しながら光の槍の矛先を突きつけるが、オーフィスは首を横に振った。

 

「無理。アザゼルや聖書の神では我を倒せない。たとえ聖書の神が本来の力を取り戻しても」

 

 そうだよねぇ。いくら聖書の神(わたし)でも能力(ちから)を暴走せずに制御出来るようになったとは言え、それだけでオーフィスに勝つ事なんか無理だ。それは嘗て天界のトップだった頃の聖書の神(わたし)でも無理だったし。

 

「では、三人ではどうだろうか?」

 

 羽ばたきながら、舞い降りてきたのは巨大なドラゴンだった!

 

「タンニーン!」

 

 アザゼルの言うとおり、来たのは元龍王のタンニーンだ。

 

 彼もゲームフィールドの旧魔王派一掃作戦に参加していた筈だが、どうやら一仕事を終えて此処へ向かってきたようだ。

 

「折角、若手悪魔が未来をかけて戦場に赴いているというのにな。貴様が茶々を入れるというのが気に入らん! あれほど、世界に興味を示さなかった貴様が今頃テロリストの親玉だと!? 兵藤隆誠から貴様の目的は聞いたが、それだけとは到底思えないな! それ以外に何が貴様をそうさせたと言うのだ!」

 

 アザゼルもタンニーンの意見に頷いて、更に問い質そうとする。

 

「次元の狭間へ戻って静寂な世界を得たいから――なんて事をリューセーから聞いた時に俺は耳を疑った。今でも信じられねぇよ。それで各地に被害が出た連中からしたら、完全に傍迷惑もいいところだ」

 

 そう、アザゼルの言うとおり、オーフィスが様々な危険分子に力を貸し与えた結果、各勢力に被害をもたらしていた。更には死傷者も日に日に増えているから、もう無視出来ないレベルとなってしまっている。

 

 普通に考えて、たったそれだけで動くのは余りにも馬鹿げている。アザゼルやタンニーンが疑うのは当然だ。

 

 しかし――

 

「――我に他の理由なんてない。静寂な世界」

 

 オーフィスは俺が以前に聞いたたった一つの理由をそのまま答えた。

 

「………は?」

 

 アザゼルは何を言ったのか理解出来なかったのか、再び問い返す。オーフィスは真っ直ぐとこちらを見つめて再度理由を言う。

 

「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ」

 

「………ほ、本当にリューセーの言うとおり、それだけの理由なのかよ」

 

「これで信じてもらえたか、アザゼル?」

 

 当初、俺が三大勢力のみにオーフィスの目的を話したんだが、如何せん全員に全く信じてもらえなかった。もしかしたらオーフィスが俺に嘘を吐いているんじゃないかと。

 

 ま、本人の口から聞いたアザゼルは、これで俺が話した事は嘘じゃないって事が分かってくれたようだ。

 

「……まさかマジでホームシックだったのかよ。まぁ、あそこには確か――」

 

 信じてもらえたアザゼルが言おうとしてると、オーフィスは頷く。

 

「そう、グレートレッドがいる」

 

 オーフィスの言うとおり、現在の次元の狭間はグレートレッドが支配している。

 

 そして、オーフィスはグレートレッドを追い出すのを条件として、旧魔王派や他の勢力の危険分子に力を与えているって訳だ。

 

 アザゼルは何か考えている様子だったが、突然オーフィスの横に魔法陣が出現し、何者かが転移してくる。

 

 そこに現れたのは貴族服を着た一人の男性悪魔だ。

 

 そいつはアザゼルに一礼し、不敵に笑んだ。

 

「お初にお目にかかる。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団(カオス・ブリゲード)』真なる魔王派として、堕天使の総督である貴殿に決闘を申し込む」

 

 ……どうやら首謀者の一人が現れたようだな。

 

「やっと出てきたか、旧魔王派のアスモデウス」

 

 現魔王のファルビウムとは違って真面目そうだねぇと思いきや――

 

 

 ドンッ!

 

 

 俺の呟きに反応してか、クルゼレイは全身から魔力を迸らせた。随分と色がドス黒いな。どうやらコイツもオーフィスの力を得たようだな。

 

「そこの堕神! 俺は真なる魔王の血族だ! 旧ではない! 貴様はカテレア・レヴィアタンの敵討ちをした後、嬲り殺しにしてくれる!」

 

 ひょっとしてコイツ、カテレアの恋人だったのか? ま、俺にはどうでも良いことだ。

 

 それよりも、旧魔王派の連中は揃いも揃って俺の事を『堕神』呼ばわりするんだな。どうせ人間に転生した俺に対しての(べっ)(しょう)だと思うが、よくもまぁ人の目の前で堂々と言えるもんだ。俺はそこまで怒っちゃいないが、天使達が聞いたら絶対にブチ切れると思うぞ。特にセラフのミカエルやガブリエルとか。

 

「いいぜ。リューセーにタンニーン、どうする?」

 

「先にアザゼルからどうぞ。まぁ、向こうから手を出してきたら話は別になるが」

 

「俺はサシの勝負に手を出すほど無粋ではない。オーフィスの監視でもさせてもらおうか」

 

 タンニーンって本当にドラゴンとは思えないほど根っからの武人だな。ま、こういう所があってイッセーは彼を尊敬してるからな。

 

「頼む、タンニーン。さて、混沌としてきたが、俺の教え子どもやイッセーは無事にディオドラのもとに辿り着いてる頃かな、リューセー?」

 

「だろうな。ま、その後は俺の弟――イッセーがディオドラを徹底的にぶちのめしてる筈だ」

 

 アザゼルや俺の台詞に、オーフィスはそれを聞いて、首を横に振る。

 

「ディオドラ・アスタロトにも我の蛇を渡した。あれを飲めば力が増大する。いくら聖書の神の弟でも、倒すのは容易ではない」

 

「「ハハハハハハハハハッ!」」

 

 アザゼルだけじゃなく俺もオーフィスの言葉に爆笑した。どうやら何も分かってないようだな、オーフィス!

 

「なぜ、二人して笑う?」

 

「蛇か。そりゃ、結構だ。だが、残念な事にそれじゃ無理だな。イッセーが相手なら尚更無理だ」

 

「全くだ。そんな物を使ったところで、俺の弟があんなザコに負けるわけないだろうが」

 

「なぜ? 我が蛇、飲めばたちまち強大な力を得られる」

 

「それでも無理だ。先日のゲームじゃ、力を完全に発揮出来なかったがな」

 

「アレが(イッセー)の全力だと思っているなら大間違いだぞ、オーフィス」

 

 まさか悪魔のお偉方によって命じられたハンデのお陰で、オーフィスや旧魔王派の連中がイッセーをザコ扱いしていたとはな。

 

 イッセーは聖書の神(わたし)が十年以上も鍛え、今も修行を続けている。聖書の神(わたし)の修行が如何なるものか、ディオドラは身をもって知る筈だ。

 

 更には冥界で元龍王のタンニーンとの修行もさせた。未だに現役の伝説ドラゴンが、人間のイッセー相手に強烈な一撃を喰らって地に付けさせられたんだぞ。イッセーが赤龍帝かつ人間とは言え、若手悪魔の眷族がそんな事をしたら表彰ものだ。

 

 そしてアザゼルはオーフィスに言いたい事を終えたのか、あの人口神器(セイクリッド・ギア)の短剣を構えた。 

 

「さて、ファーブニル。付き合ってもらうぜ。相手はクルゼレイ・アスモデウス! いくぜ、禁手化(バランス・ブレイク)ッッ!」

 

 次の瞬間、アザゼルは黄金の全身鎧(プレート・アーマー)に包まれていた。

 

 初めて見たが凄いな。人口神器(セイクリッド・ギア)を作っただけじゃなく、禁手(バランス・ブレイカー)まで使用出来るとは。

 

 しかし、聖書の神(わたし)が今見たところ、アレはまだ不完全だ。使用者のアザゼルが使いこなせてるとはいえ、神器(セイクリッド・ギア)自体に禁手(バランス・ブレイカー)の力を完全に耐えられない感じがする。宝玉の方もまだまだ安定した状態とは言えない。それでも凄い事に変わりはないがな。

 

 今度詳しく見せてもらおうと思った直後、いきなり乱入する転移用魔法陣があった。

 

 それは見覚えのある紋様だ。輝く魔法陣から現れたのは、我が同志であり紅髪の魔王――サーゼクス・ルシファーだ。

 

「おいサーゼクス、何で出てきた?」

 

 俺の問いに彼は目を細める。

 

「今回は結果的に妹やキミの家族を我々大人の政治に巻き込んでしまった。私も前へ出てこなければな。いつもリューセーくんやアザゼルばかりに任せていては悪いと感じていた。――だからクルゼレイを説得したい。これぐらいしなければ妹やキミの家族に顔向けできそうにないんでね」

 

 全く、この同志ときたら……。

 

「……悪魔で魔王なのに、お人好しだな。けど、向こうが応じてくれるとは思えないが」

 

「リューセーの言うとおりだ、サーゼクス。ハッキリ言って無駄になるぞ?」

 

「それでも現悪魔の王として直接訊きたかった」

 

 アザゼルは呆れつつも、構えていた槍を一度引いた。

 

 サーゼクスを視認した直後、クルゼレイの表情が憤怒と化す。

 

「――この忌々しき偽りの存在がッ! 直接現れてくれるとはッ! 貴様が、貴様らさえいなければ、我々は……ッ!」

 

 予想通りと言うか、聞く耳持たない様子だ。まぁ旧魔王派の連中からすれば、サーゼクスや他の現魔王達は最大級に忌むべき存在だからな。

 

 だが、それでもサーゼクスは説得をしようとする。

 

「クルゼレイ。矛を下げてはくれないだろうか? いまなら話し合いの道も――」

 

 旧魔王派の幹部達と会談の席を設けたい、ファルビウムとも話して欲しいと言うサーゼクスだが、クルゼレイは更に激昂する。

 

「堕天使どころか、天使とも通じた貴様に悪魔を語る資格などないのだ! 益してや、そこの低俗な堕神と手を取り合うなど言語道断だ!」

 

 さっきから人の事を堕神堕神って五月蝿い奴だな。確かに自覚はしてるけど、いくら我慢強くなった俺も流石に何度も言われると腹が立ってくる……!

 

 内心怒りを込み上げてると、アザゼルは嘆息してクルゼレイに言う。

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』なんて言う、仲良しクラブを作った連中が何言ってるんだか。テメエ等が聖書の神(おやじ)の事を批判出来る立場じゃないだろうが」

 

 全く持ってその通りだと俺が頷いてると、クルゼレイは口の端を吊り上げる。

 

「我々は手を取り合っている訳ではない。利用しているのだ。忌まわしい天使と堕天使、そして下等な人間共は我々悪魔が利用するだけの存在でしかない。相互理解? 和平? 悪魔以外の存在はいずれ滅ぼすべきなのだ! その為にオーフィスの力を利用する事で俺たちは世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を創りだす! その為には貴様等偽りの魔王どもや堕神が邪魔なのだ!」

 

 あ~あ、ダメだこりゃ。アイツの発想はゲームでよく見るザコのボスキャラとソックリだ。しかも後先の事を全く考えていない超が付くほどの大バカだ。純血種悪魔の存在自体が危うい状況だって言うのに、本当に何考えているんだよ。

 

 あんなバカな奴より、サーゼクスを含めた現四大魔王の方が王としてやっているよ。

 

 どうして旧魔王派の連中って、こうも自滅の道へ向かおうとするんだか。

 

 だから現魔王派は旧魔王派のやる事を阻止しようと、辺境の地へ追いやったんだよな。俺から言わせれば自業自得なんだが、旧魔王派からすれば理不尽な扱いだと思ってるだろうし。

 

 サーゼクスは寂しげな目で呟く。

 

「クルゼレイ。私は悪魔と言う種を守りたいだけだ。種の繁栄の為に、いまの冥界に戦争は必要ないのだ」

 

「甘いッ! 何よりも稚拙な理由だ! ルシファーと呼ばれる貴様が滅びの力を持っていながら、なぜ堕天使や堕神に振舞わない!? やはり貴様は魔王を名乗る資格などないッ!」

 

 これが現魔王と旧魔王の子孫の最後の話し合いとなってしまった。

 

「サーゼクス、もう止めておけ。これ以上、こんな身勝手な連中の為にお前が身を削ってまで交渉する必要はない。バカは死ななきゃ治らないって諺はあるが、アイツ等の場合は死んでも治らないからな」

 

 交渉を止めるよう言ってると――

 

「貴様如きが我らを愚弄するかッ!? 下等な人間如きに現を抜かす堕神風情がッ!」

 

 クルゼレイは俺の台詞が気に障ったのか、今度はこっちに狙いを定めてきた。

 

「その蔑称はもう聞き飽きたよ。確かに嘗ての聖書の神(わたし)を知ってるお前たち悪魔から見れば、今の兵藤隆誠(おれ)は人間に現を抜かしてる愚かな元神だ。周囲から『堕神』と呼ばれてもおかしくはない。嘗て全盛期だった頃の能力(ちから)は使えない半端者だからな。だがその代わり、守るべき大切な人や家族が出来た今の自分も気に入っている。その者たちを守る為なら、俺は嘗ての聖書の神(わたし)より強くなる」

 

「大切な人? 守るべき家族? ………下らんッ! やはり貴様は堕神だ! 最早、貴様のような堕神は生きている価値すらない! 予定変更だ! 堕天使や偽りの魔王を始末する前に貴様から片付けてやる!」

 

 俺を片付ける、か。どうやらさっきの台詞が相当気に入らなかったようだ。

 

 ま、別に俺が戦わずとも、後はアザゼルかサーゼクスが――

 

「そうだな、これも先に言っておくとしよう。貴様を片付けた後、貴様と関わった全ての人間共を皆殺しにする」

 

 ―――今なんて言った? 俺に関わった人間を全て殺す、だと?

 

「特に、貴様のような堕神を育てた原因を作った家族は、生身のまま冥府へ送り永遠の責苦を受けてもらう。自分たちがどれだけ愚かな真似をしたのかを教える為にな」

 

 好き勝手ほざいているクルゼレイが調子に乗るように言ってきた。

 

 俺の大事な家族を……生身のまま冥府へ送る? 永遠の責苦を受ける? 両親が愚かな真似をしただと?

 

 何勝手な事をほざいていやがるんだ、あの野郎は……!

 

「クルゼレイ! 貴殿は何を口にしてるのかを分かっているのか!?」

 

「おいおい、ここで聖書の神(おやじ)を怒らせたら――」

 

 サーゼクスとアザゼルが何か言っていたが――

 

 

 ブチッ! ゴウッッッッッッ!!!!

 

 

『ッ!』

 

 頭の中で何かがキレた俺は気にせず全身から光のオーラを発して真の姿――聖書の神(わたし)となった。

 

 オーフィスを除いたこの場にいる全員が、私の姿を見て驚愕を露にする。

 

 フ、フフフ……ハハハハハ。まさか、この聖書の神(わたし)ともあろう者が、クルゼレイの台詞を聞いた瞬間にブチ切れるとは。これじゃイッセーの事をああだこうだと言えないな。

 

 人間に転生してから初めてだよ。ここまで自分の怒りが抑えられなくなるなんてな!

 

 そして俺はアザゼルとサーゼクスにこう言う。

 

「アザゼル、すまないがここは私にやらせてくれ。サーゼクス、勝手ながら交渉は終わりにさせてもらうぞ」

 

「あ、ああ、分かった。聖書の神(おやじ)に任せる」

 

 アザゼルは恐れるように俺から離れる。

 

 サーゼクスは天を仰ぎ瞑目するが、次に目を開けたとき……その瞳には背筋が凍るほど冷たいものとなって、私にこう言う。

 

「……聖書の神よ、三大勢力の協力者である貴殿に私は魔王――サーゼクス・ルシファーとして依頼する。目の前にいるクルゼレイ――冥界に敵対する者を排除して頂きたい」

 

「受諾した。これより魔王サーゼクス・ルシファーの依頼を実行する。覚悟しろ、クルゼレイ」

 

「この堕神風情が! サーゼクスを魔王と呼ぶなッ!」

 

 サーゼクスも下がり、前に出た私にクルゼレイが巨大な魔力を両手から掃射する。私は動じず、ただ黙って全身から発してるオーラで全て防いだ。

 

「ばかな! 全て防いだだと!?」

 

「……いま、何かしたか?」

 

 驚くクルゼレイを余所に、私は呆れたように質問する。

 

 だがアイツは聞いてなかったのか、不快そうな顔でこう言ってきた。

 

「いい気になるなよ、堕神。まさか本気でこの新なる魔王である俺を倒せるつもりじゃないだろうな?」

 

「倒せるから、こうして前に出ているんだよ」

 

「っ! ……ふん。大きく出たな」

 

 私の台詞が意外だったのか、クルゼレイは虚を突かれたような顔をしたが、すぐさま苦笑した。

 

「では見せてやるぞ。このクルゼレイ・アスモデウスの、恐ろしい真の力を……!」

 

 そう言ってクルゼレイは全身から禍々しい魔力を放出し――

 

「かああああああああ………!!」

 

 

 グゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 オーフィスの蛇によって力が増大しているのか、先程までとは桁違いの魔力の暴風が吹き溢れた。

 

「はあっ!!」

 

 

 ドンッッ!!

 

 

「ふぅ~~………」

 

 そして真の力を解放したクルゼレイ・アスモデウス、荒ぶる心を落ち着かせるように深呼吸をする。

 

「どうだ? これが本気になった俺だ」

 

「……それがどうした?」

 

 クルゼレイは得意気な顔で言うも、私は大して動じることなく呆れた感じで問う。

 

「どうやら力の差があり過ぎる所為で、頭がおかしくなったようだな。ならば……死ねぇ!」

 

 

 ギュオッ! バキィッッ!!

 

 

 一瞬で懐にまで接近したクルゼレイが、渾身の一撃を込めた拳を私の頬に当てた。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

「まさか聖書の神に一撃を当てるとは……」

 

 攻撃された事に少し仰け反る私を見た事に、アザゼル達から少し驚きの声を発している。

 

「ふっ……」

 

 それを聞いたクルゼレイは笑みを浮かべるが――

 

「何だ今のは? パンチのつもりか?」

 

「な……」

 

 俺が全く効いてないような顔をして問う事に少し目を見開いて固まっていた。

 

「ちぃ……!」

 

 すぐにまた攻撃しようとするクルゼレイだが――

 

「ふんっ!」

 

 

 ズドンッ!!!

 

 

「がっ!」

 

 私は一瞬でクルゼレイの腹部に光のオーラを纏わせた拳を捻り込む感じで当てた。

 

「あ、ああ……が……ぐぅ……!」

 

 攻撃を受けたクルゼレイはヨロヨロと私から離れながら、腹部を両手で押さえている。

 

「ぐ……こ、この……!」

 

「そらぁっ!」

 

 

 ドゴォッッ!!!

 

 

「ぶっ!」

 

 クルゼレイが反撃を仕掛ける前に、私は奴の顎に強烈なアッパーをお見舞いさせた。

 

 かなり効いたのか、クルゼレイは少し吹っ飛んで何とか空を飛ぶのを維持する。ついでに奴の口から血を吐いていた。

 

「ば……バカな……!」

 

 全く信じられないと言ったように呟くクルゼレイ。

 

「な、何故この俺が、あ、あんな堕神如きの攻撃なんかで……これほどの、ダメージを……!?」

 

 現実を直視したくないのか、奴はまるで理解出来ないように言っている。

 

 認めたくないんだろうな。自分と私が隠していた実力に差があり過ぎた事を。

 

「やれやれ。真なる魔王サマが現実逃避とはな。そこのところはどうよ、サーゼクス?」

 

「……さてな。今の私は魔王として、彼を冥界に敵対する者としか見ていない」

 

「ふんっ。魔王と名乗る以前に、同じ悪魔として情けなく見えるな」

 

 後方にいるアザゼル、サーゼクス、そしてタンニーンはそれぞれ思った事を口にしている。三人が共通しているのは、クルゼレイに対して物凄く呆れている事だ。

 

「お、おのれ……! こんな、こんな事が……あってたまるか……!」

 

 クルゼレイがすぐに全身から魔力を解放しようとすると――

 

「な、何だ……!? 魔力が出せなく、身体も動かない……!」

 

「もう全身に回ったのか? 思っていた以上に早かったな」

 

「っ!?」

 

 途端に動きが止まった。俺の台詞を聞いたクルゼレイが即座に反応する。

 

「き、貴様、俺に何をした……!?」

 

「先程の一撃、腹部に当てた拳に私の光のオーラをお前の体の中に注ぎ込んでやった。それも大量にな」

 

「んなっ……」

 

 自分の身体に光のオーラを注ぎ込まれた事に目を見開くクルゼレイ。

 

 以前に兵藤隆誠(おれ)が祐斗に光のオーラを注ぎ込んで動けなくした時と同じやつだ。あの時は最小限のオーラですませたが、今回クルゼレイには必要以上に注ぎ込んでやったよ。

 

聖書の神(わたし)の光は特別で、並みの悪魔が大量に喰らったら二度と回復出来なくなる。例え『フェニックスの涙』を使ってもな。更には今のお前のように魔力が使えなく、身体から途轍もない倦怠感に襲われて動けなくなる。理解したか、クルゼレイ? お前は今、絶体絶命の苦境に追い込まれてるって事を」

 

「ふ、ふざけるな……! こんな堕神の光如きに、俺は……!」

 

 必死に身体を動かそうとするクルゼレイだが、それでもまともに動ける状態でないのは一目瞭然だった。

 

 私や後方にいるアザゼル達から見れば悪足掻きの行動にしか見えない。だが、今の私にはそんな事はどうでもよかった。クルゼレイが何をしようが、始末するのに変わりはない。

 

 折角だ。ここはいっそ、クルゼレイには実験台になってもらおうか。この前に冥界で修行した時に編み出した私の技を。

 

 そう思った私は、胸の前で両手の五指の指先同士を合わせた。すると――

 

 

 ブゥゥゥン……グオッ!!

 

 

『ッ!!』

 

「……綺麗。我、あの光、好き」

 

 両手の中から極限にまで凝縮された光の塊が出てきた。それからは余りにも純白な輝かしい光を放っている。驚いているクルゼレイの他に、後方のアザゼル達からも驚きの声が聞こえた。オーフィスだけは相変わらず無表情で、ポツリポツリと呟いていたが。

 

「あ、あ……」

 

 私の両手の中にある光を見てる所為か、クルゼレイはまるで魅入るように動きを止めていた。

 

「くたばれ、クルゼレイ。そして受けよ。私の光を凝縮された技――『(しゅう)(まつ)光弾(こうだん)』をな!」

 

「サーゼクス! タンニーン! 今すぐ逃げろ! アレはマジでヤバイ!!」

 

 両手から凝縮された光の玉――終末光弾を放つと、後方にいたアザゼルはサーゼクス達を連れて全速力で離れた。

 

 そして高速で前進していく終末光弾はクルゼレイに向かっていくが――

 

「ぎっ! ぐぐっ……! こ、こんなもの……!」

 

 奴は最後の力を振り絞るように両手で受け止めた。だが終末光弾の勢いは止まらなく、前へ前へ進もうとする。

 

 すると、クルゼレイの両手が段々消えていく。もとい、消滅していくと言うのが正しいだろう。

 

 あの光の塊は、私の能力(ちから)の一つ――『終末の光』を極限に凝縮されたものだ。そんな物に触れてしまえば、触れた手なんかあっと言う間に消滅する。

 

 因みにあの技はドラグ・ソボールのナメクジ星人『ピッコル』が使った大技――『撃滅光弾』と似た技だ。

 

 兵藤隆誠(おれ)はピッコルの技が好きだから、前の修行の時にあの技をオーラの代わりに『終末の光』でアレンジした結果、途轍もなく恐ろしい技となってしまった。我ながらとんでもない技を思いついたよ。

 

 そう思ってると、クルゼレイの身体の殆どが消滅し、もう首だけしか残っていなかった。更には終末光弾が動きを止めて、爆発しそうな程に膨れ上がっていく。 

 

「……な、何故だ……? 真なる魔王の俺が、あんな、あんな堕神に負けなければならないんだ……!?」

 

 クルゼレイが無念の涙を流して言った直後――

 

 

 ズオッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 

 維持する限界を超えた終末光弾が凄まじい光が発すると同時に爆発と爆風も発生。それによって私の前方は純白な光によって埋め尽くされた。




サーゼクスの代わりにリューセーがクルゼレイを倒しました。
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