ハイスクールD×D ~神(兄)と悪魔(弟)~   作:さすらいの旅人

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四十一話

 一先ず勝負は俺――兵藤隆誠の勝ちだが……あの愚弟(バカ)、こうなる事を見越してたな。既に重症であった事を隠して俺に勝負を挑み、最後は武道家として戦って死のうと。俺のドラゴン波に飲み込まれる寸前、一瞬だがニヤリとほくそ笑んでいたからな。

 

 してやられたよ。まさか兄の俺が(イッセー)の思惑通りに動かされるとはな。結果的にはアイツの勝ちも同然だ。憎たらしいったらありゃしない。

 

 俺のドラゴン波を受けたイッセーは力を使いつくしたのか、禁手(バランス・ブレイカー)を解除しながら地上へと落下していく。それを見た俺は即座に向かい、お姫様抱っこの要領でイッセーを抱える。

 

「全く、お前には恐れ入ったよ」

 

「ははは……兄貴にそんなこと言われるなんて、初めてだな……ごほっ! ごほっ!」

 

 俺の台詞にイッセーがしてやったりと笑みを浮かべるも、途端に咽て血を吐いた。同時にイッセーの左胸が徐々に出血していく。

 

 早くイッセーを治療しようと完全崩壊した神殿へと降下し、俺はすぐにイッセーを横にしたまま地面へと下ろす。その直後には『治癒の光』を使って治療を始める。

 

「お前と言う奴は……ずっとこんな状態で戦っていたのかよ」

 

「ま、まぁな……ごふっ。兄貴と戦う前に、シャルバって野郎に、不意打ちを、喰らっちまってな……」

 

「シャルバだと?」

 

 その名は確か、旧ベルゼブブの子孫――シャルバ・ベルゼブブっていう旧魔王の名だったな。

 

 俺が始末した首謀者の一人――クルゼレイ・アスモデウスの他にいたのは知っていたが、まさかイッセー達の所にいたとは……。

 

「そのシャルバはどうしたんだ?」

 

「俺が、ぶち殺して、やった……。けどあの野郎……俺が、止めを刺す寸前に、ギリギリで、転移を、使って、逃げや、がった……ごほっ、ごほっ……」

 

「……そうか」

 

 となると、シャルバの阿呆がアーシアを手に掛けた事によって、イッセーが禁手(バランス・ブレイカー)となったのか。

 

 念願だったイッセーの禁手(バランス・ブレイカー)がアーシアの死による怒りとは……俺としては凄く複雑だよ。こんな形でイッセーが禁手(バランス・ブレイカー)に到達するなんてな。

 

「それと兄貴、すまねぇ……。俺の所為で、アーシアが……!」

 

「もういい、それ以上喋るな。言っておくがアーシアは今……ん?」

 

 おかしい。さっきから『治癒の光』を当てて、重症だったイッセーの左胸は完治してる筈なのに……どうしてイッセーは未だに完全回復しないんだ?

 

 それに加えて、イッセーの闘気(オーラ)が減っているどころか、身体もどんどん衰弱していって……まさか!

 

「おい、イッセー! 今になって気付いたが、お前……自分の命を闘気(オーラ)に変換してたな!?」

 

 どうやって出来たのかは知らんが、コイツは以前のレーティングゲームでのシトリー戦で、匙がやった方法を実行していやがった!

 

「よ、よくお分かりで……。どうせ死ぬんなら、兄貴と戦う前に、無駄遣いしておこうと、思ってな……」

 

「だからあの時、闘気(オーラ)弾をばら撒いていたのか……!」

 

 確かに考えてみれば、イッセーが禁手(バランス・ブレイカー)によって暴走状態になっても、あんな余りにも無駄過ぎる行いはしない。もしやるにしても、自身の許容量で済ませる筈だ。

 

 くそがっ! コイツ、自分が死ぬ事を前提として色々な事を考えていたな! 俺とした事が、それに全く気付かなかったなんて!

 

「ふざけるなよイッセー! 俺がお前を死なせると思ってるのか!?」

 

「思って、ねぇから、ああしたんだよ。それに、いくら兄貴でも、傷は治療出来ても、失った命までは回復、出来ねぇだろ?」

 

 この野郎……それも見越して自身の命を使ったな! 俺のやろうとする事は何もかもお見通しかよ!

 

 ここまでイッセーの思惑通りに動かされるなんて考えもしなかった。それに一切気付かなかった俺自身にも腹が立ってくる!

 

「兄貴、勝手で悪いけど、俺は、ここまでだ……。アーシアの後を追うから、父さんと母さんに、上手く、言っといてくれ……」

 

「だからアーシアは――」

 

「何か、疲れたから、俺もう、寝るわ……」

 

 俺の話を全然聞かないイッセーは勝手に話を終わらせて、両目を瞑って眠ろうとする。

 

「おい! 勝手に寝ようとすんな……って不味い!」

 

 本当に死ぬ寸前になっていやがる! このままイッセーが死んでしまったら、アーシアに何て言えばいいんだよ、このバカが!!

 

 一先ず延命措置を施そうと聖書の神(わたし)能力(ちから)で、イッセーの周囲に特別な加護を施した光で包ませる事にした。

 

 今の私ではもうイッセーを助ける術はない。となれば……もう一つの手段として、リアス(・・・)の力を借りるしかないか。まさかこんな展開になるとは予想もしなかったがな。だが果たして上手くいくかどうか……。

 

 すると、遠くから見守っていたリアス達が此方へとやってくる。

 

「リューセー! イッセーは大丈夫なの!?」

 

 我先にと言わんばかりに、リアスが俺に駆け寄ってイッセーの容態を訪ねてきた。

 

「……イッセーはもう死ぬ寸前だ。もう聖書の神(わたし)では手の施しようがない」

 

「そんな……!」

 

 俺の言葉にリアスだけでなく、気絶してるアーシアを除く眷族の朱乃たちも顔を青褪めていた。自身の大事な存在が危篤状態だと知った事に。

 

 その中で一番深刻な状態は朱乃だった。今はもう両膝をついて絶望寸前の表情になっている。

 

「どうしてよ!? あなたは全知全能の神なんでしょう!? どうして人間のイッセーを助ける事が出来ないのよ!?」

 

「生憎、今の俺は“元”神だ。全知全能なんかじゃない。能力(ちから)を制限されてる今の聖書の神(わたし)では無理なんだ」

 

 今の聖書の神(わたし)では傷を瞬時に治せても、失った寿命まで再生させる事までは出来ない。尤も、それは他の神々にも言える事だがな。

 

「じゃあ、何であなたはそんなに落ち着いているのよ!? 自分の大事な家族が死ぬ寸前になっているのに!」

 

「イッセーが助かる方法はあるから、今はこうして冷静になってるんだよ。尤も、その方法は賭けに近いが」

 

『………え?』

 

 イッセーが助かると聞いて、さっきまで絶望状態に近かった朱乃達が一斉に俺を見る。

 

「助かるって……それは一体どんな方法なの!?」

 

「おいおい、もう忘れたのか? お前は今も肌身離さず大切に持っている筈だろ? イッセーを正式な眷族にする為に必要な『兵士(ポーン)』の駒――『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を」

 

『!』

 

 リアス達は本当に忘れていたのか、まるで今思い出したようにハッとした顔になる。『(キング)』のリアスがそれを忘れてどうすんだよ。

 

「なるほどな。彼に『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使えば、失った命を取り戻すどころか、転生悪魔として新たなる生を授かると言う事か」

 

 リアス達と一緒に同行してるヴァーリが納得な表情をした。が、その後は不安そうにリアスを見る。

 

「しかし聖書の神の言う通り、それは本当に賭けも同然だな。知っての通り、主のリアス・グレモリーは兵藤一誠との実力差が余りにも開き過ぎているから、果たして上手く転生する事が出来るのかが怪しいものだ」

 

「っ!」

 

 ヴァーリの指摘にリアスは悔しそうに唇を噛みしめながらも、大事に閉まっていた『兵士(ポーン)』の駒を出している。言い返さないのは、ヴァーリの言ってる事が事実だと分かっているからだ。

 

 その証拠として、以前にリアスが『兵士(ポーン)』の駒を使ってイッセーを眷族にしようとしたが、物の見事に弾かれてしまった。その為にイッセーは今も眷族候補のままである。

 

「まぁ、そこは多分大丈夫だろう。今のリアスならイッセーを眷族に迎え入れる事は出来る筈だ」

 

 リアスは以前と違って、イッセーの主になるよう今も己を鍛えている。修行して強くなっているイッセーに追い抜かれないようにな。

 

 純血種の上級悪魔は元々才能に優れた存在だから、自らを鍛える事はしない。サイラオーグは諸事情によって鍛えざるを得ないが、そこは敢えて省略させてもらう。

 

 んで、将来有望として優れた才能を持っているリアス・グレモリーが、今は抗うよう必死に努力して人間のイッセーに近付こうとしてる。異性として惚れているからと言っても、それは上級悪魔として信じられない行為だ。

 

 だが今のリアスはそんなの知った事かと言わんばかりに、大好きなイッセーの為に頑張っている。俺はリアスのそう言うところを気に入ってるから、イッセーを眷族にする事に反対はしない。

 

「後はお前の想い次第だ、リアス。それによってイッセーを眷族に出来るか否かで決まる。どうする?」

 

「わ、私は……」

 

 俺からの問いにリアスは迷っている表情をしている。恐いのだろう。今の自分で本当にイッセーを眷族にする事が出来るのかと。

 

「もし無理なら………緊急措置として、現魔王サーゼクス達の誰かに頼んでイッセーを魔王の眷族にさせる手もあるが」

 

 魔王であるサーゼクス達は今でもイッセー以上の実力があるから、容易に眷族にする事が出来る筈だ。

 

 もしリアスが断れば、俺はすぐにサーゼクス達に連絡をして事情を説明するつもりだ。代わりにイッセーを自身の眷族にして欲しいと。

 

 向こうは俺の要請を断らないどころか、率先してやってくれるだろう。サーゼクスを除く現魔王達はイッセーを眷族として迎える事に一切の不満は無いからな。

 

 だが――

 

「冗談じゃないわ! イッセーは私が眷族にするって決めてるのよ! いくら貴方や魔王さまでも、そこだけは絶対に譲れないわ!!」

 

「そうか。なら早くやってくれ」

 

 どうやらリアスが漸く決心したから、サーゼクス達に頼む必要はなさそうだ。

 

 迷いのない表情をしているリアスは、八つの『兵士(ポーン)』の駒を持ったままイッセーに近付く。

 

 それを見た俺はすぐにイッセーを包んでいる光を解除する前に、確認をしようとする。

 

「ではリアス、覚悟はいいな?」

 

「そんなの聞くまでもないわ! 早くこの光を解除して!」

 

「了解、と」

 

 リアスの覚悟を見た俺は包んでいる光を解除すると――

 

「イッセー、私はあなたが大好き。だから死なないで! あなたと一緒にやりたい事がまだたくさんあるのだから!」

 

 そう言って彼女は持っている『兵士(ポーン)』駒を使って、イッセーを眷族に迎え入れようとする。

 

 果たして結果は…………




イッセーが悪魔になるかは次回で!

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