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とじともワイ(頭を抱える)
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今のワイ (頭を抱える)
今回は時系列とか無視してます。
ぶっちゃけリハビリ的なアレです
イヴ閑話的な
「映画のチケット、ですか」
「うん。百貨店のクジ引きでクリスマス記念のペアチケット当たってさ、どうかなって」
「結芽さんの方が良かったのでは?」
「……結芽にはちょっと早いかな」
以前、いちご大福を買いに百貨店に行った時の抽選券が、見事にペアチケットと引き換えられた。
結芽と見に行くには余りにも危険すぎる早すぎる内容に困っていた。
とは言え、当たったものだ。
そのまま捨てるには惜しいな、と考えつつ当日を迎えたのだが、結芽が『今日は用事あるー!』といってどこかへと出かけていった為、夜見を誘う事にしたのだった。
「拝見しても?」
「ああ、どうぞ」
チケットを渡す。
内容は確か、売れっ子のアイドルだとかが主演を務めている、恋愛モノ、だったか。
何かと話題を博しているから、駄作という事はないだろう。
「私でよかったのですか?」
「真希と寿々花に渡そうとも考えたんだけどね、二人もなんか用事あるみたいだったし、かと言って捨てるのもどうかと思ったんだけど……ダメかな?」
「そういう事でしたら、付き合わせていただきます」
◆◆◆
「ごめん、遅れた」
待ち合わせに余裕を持って現地に来たら、もう既に夜見が着いていた。
正直言ってなにも遅れてなどいないのだが、待たせてしまったのは事実だ。
「いえ、遅れてませんが」
「……寒くなかった?」
「いえ、大丈夫です」
「そっか。……とりあえず、行こっか」
「ハイ」
会場の映画館は、ここからはそう離れていない。
少しペースをゆっくり目にして、街を歩いていく。
街は仄かに日が暮れ、ポツポツと街灯が辺りを照らしていた。
「それにしても…私服なんだね」
「なにか、可笑しかったでしょうか」
黒のタイツに、膝が隠れる程度のワンピース。上から羽織る様にカーディガンを着込んだ、冬で少し寒そうではあるが、それを加味しても十分に可愛らしい服装だった。
「まさか。似合ってるよ」
「はあ。そうですか」
余り意に介さない夜見。
最初の頃は結芽も僕も困ったものだったが、今となっては彼女の個性として受け入れる事が出来ている事を、改めて思う。
確か、僕が彼女を見た時は────
──
───
─────
「……君、大丈夫かい?」
「問題ありません」
「頰、腫れてるけど……」
「大丈夫です」
「いや、一応冷やした方が……」
「次の任務がありますので、これで」
ああ、そうだ。取りつく島もない。
そんな感じだった。
今思い返すと、高津学長のいつものヒスに巻き込まれた後───と言うのは適切ではなかったか。
兎にも角にも、ファーストコンタクトは割と良くなかった。
そこから時間を経るにつれ、いろんなことがわかってきた。
高津学長に、異常とも取れる次元の忠誠を誓っていた事。
夜見はどうも刀使としての才能はなく、代わりにと言うのもなんだが、ノロとの適合率が凄く高かった。
そこを高津学長に拾い上げられた。
だから──と言った様な理由からだったのだろうか、細かい事はわからない。
多分、「刀使」に対して何かあったのが、その時すり替わった、だろう。
兎に角、ふとした弾みにそんな結論に至った時は、苦虫を噛んだどころか、寧ろすり潰して呑み込んでしまった様な気分だった。
(まぁ当人が良いなら…いやでも……うーん……いやダメだろ…でも、しかし……)
一人勝手に煩悶する僕は、よほど酷い顔をしていたのだろう。
結芽からは「えっと…だ、だいじょうぶ?」などと顔を覗き込まれた覚えがあった。
とはいえ見知った人が何を言われようが叩かれようが平然と受け入れる様は、見ていて辛いモノがある。
何というか悪い男に引っかかってしまった人を見るようなあの感覚。学長は女性だけど。
真希や寿々花も、知っていてもどうしようも出来ない様な感じだったと思う。
とは言え。
流石にすぐ眼の前ってのは見過ごせない。
「っ!?……離せ!」
丁字路を行こうとしたら、罵声が聞こえてきた。
そのまま素通りする予定だったのだが、気がつけば、振り上げた右手を背後から強く摑んでいた。
「聞こえているのか!!!」
「聞こえてますよ」
そう吐き捨て、払いのけるように手を離す。
「チッ…!」
こちらを睨みつけながら、右手を摩る学長。なんとも鋭い眼光だ。
気を引き締めなければたじろいでしまうだろう。
「もういい!!」
コネの分際でだのなんだのと普通に罵倒される事を覚悟していたのだが、意外にもそれはなかった。
いやまぁ、あの人外面だけは良いから、ヒスの捌け口は身内の刀使だけなのかもしれない。……もっと悪いな。
流石にあの状況、分が悪いとでも思ったのだろうか?
しかしあの人に限ってそれは無いと思うし、そんなんだったらもっと楽なのだが、兎に角この場は終わった。
問題は次。
「…………」
皐月夜見。彼女の方だった。
さてどうするか、と悩む。
話した事そのものはあるし、それとなく学長の件についても再考を促す様な事もあったが、ここまで直接的な行動に出た覚えは、なかった。
会釈もそこそこに立ち去るのだろうか。それとも拒絶の意を示されて終わるのだろうか。
妙な緊張が、その身を走った。
「真希さんか、寿々花さんにでも頼まれましたか」
「いいや」
「では、結芽さんですか」
「いいや」
「では、何故」
厭に抽象的な問いだ。
彼女の琥珀色の瞳が、真っ直ぐこちらを見つめている。
「なんで、か」
前にも、こんな質問を問われた気がする。
「夜見ちゃんがすごく頑張ってるのは、ちゃんとわかってるから、その、なんだ」
「…?」
「もっと胸を張って生きていいんだ」
「………」
「あっ、その…慣用句的な意味だからね? 誤解しないで…ね?」
「ハイ、解ってます」
「…………」
今度はこちらが言葉に詰まった。
多分、届かなかったのだろう。僕ごときで何とかなるのなら、真希や寿々花が何とかしている、か。
身体を大事にしろ、とは言えない。
ノロを打ち込んでいる時点で、妹にまでそれを容認している時点で、それは空虚なものだ。
だけど。
彼女には自分を大事に、心の面で自分の事をもっと大切にして欲しかった。
「………君の事が心配だ」
そんな事を呟いて、その場を立ち去った。
─────
───
──
(アレからどうなったんだっけ)
なんか、いつからか少しずーつ対応が良くなっていって……ダメだ、上手く思い出せない。
悩んでいると、ふと。夜見の視線がある一点に留まった様な気がした。
「どうかした?」
「いえ、なんでも」
とは言うが、少し気になる。
ちょっと前の映像を頼りにあちこち見渡す。
近くにあった、ちょっと古風な感じのアクセサリーショップだろうか。
「時間はまだあるよ」
「えっ……」
「寄ろっか」
「………すみません」
どうやら当たりだった様だ。控えめに向かっていく。
ドアの向こう側には、レトロな雰囲気を醸し出しつつ、清潔感のある空間が広がっていた。
足取りは変わらず、とは言え少し浮かれた様な感じで店内を物色する夜見。
正直、こう言うのに興味を持っていたとは驚きだった。
「………」
一瞬、立ち止まった夜見。
しかし直ぐにまた歩き出したが、確かに視線はある一点に留まっていた。
少し前の感覚と、同じだった。
不自然にならない様に過ぎ去り様に見ると、月の意匠のネックレスが目に映った。
(……ちょっと高くない?)
驚きの余り立ち止まってしまった。
よく見ると、銀色の三日月に、詳しくはないので判らないが、精微に工夫を凝らした彫刻が施されている。手の込んだ美しいもの、と言うのが見て取れる。値札に偽りはないだろう。
ちらりと夜見の方を見ると、目が合った。
「…………」
「…………」
暫しの沈黙。
「あの……」
最初に口火を切ったのは、夜見だった。
「そろそろ、行きませんか」
腕時計を見ると、確かに良い頃合いだ。
「うん、そうだね」
同意する様に歩き始める、が。
「ちょっと待ってて」
先程のネックレスを手に取り、会計へと運ぼうとする。
「あ、あの……」
夜見は腕を掴んできた。
一旦、立ち止まってそちらを向く。
「うん?」
「いいんですか?」
「もちろん」
◆◆◆
「……あの、有難うございます」
胸元に銀に光る、月を象ったネックレス。
彼女──皐月夜見には、よく似合っていた。
「今日は12月24日だからね。それくらいあっても良いさ」
「そう、でしょうか」
「うん」
誕生日プレゼントなのか、クリスマスプレゼントなのかは、明言しなかった。
「それにしても……」
先程まで見ていた映画。
「まさか終盤主人公が刺されるとは……」
「ハイ。しかも刺した犯人がエンドロール後に幼馴染だったと明かされたのは中々驚きました。しかもコネを使って迷宮入りにするとは」
「幼馴染エンドっぽかった分、驚いたなぁ。僕は犯人はてっきり米好きの転校生だと思ったんだけどなぁ…」
「私はお嬢様が英国料理に舌と頭をやられた弾みで…だと思いました」
「それにしても宝塚上がりの人は凄かった」
「そうですね、鬼気迫る演技でした」
そんなたわいも無い話をしながら、道を歩いている。
「あ……」
頰を濡らす、白い粒。雪だ。
それと同時に、イルミネーションが点灯し、街を彩る。
「今年も終わりですね」
「色々有ったなぁ」
「帰りましょうか」
「そうだね」
「燕さん」
「うん?」
「……メリー、クリスマス」
「メリークリスマス。夜見」
「あれ、は?」「……あら?」「あー!」
「夜見おねーさんが私服だってのがそれでもう珍しいのに、のに、お兄ちゃんといっしょに歩いて……?え?」
「真希さん」
「わかってるよ、寿々花。燕さんには聞くことがいろいろありそうだ」