聖杯戦争から、数年後────。
「────だから、それはそっちでやっときなさいよ。西欧財閥? そんな小物はORTでも差し向けたらいいのよ! やるなら徹底的にやりなさい、良いわね!」
高速道路を走る車内、凛は携帯電話を乱暴に切る。
あれから本当に色々あった。この携帯電話も数年も経てば使いこなせるようになった。大魔術を使うよりも困難だが、今ではちゃんとツィートもできる。
凛は聖杯戦争後、サーヴァントや英雄王の財宝を駆使して、魔術師協会に乗り込んだ。
別に本人としては、自分達が保有する強力な戦力に変な警戒を抱かせないようにとの交渉のつもりだったのだが、騎士王の直感、英雄王の財、征服王のカリスマもあって何故か時計塔を乗っ取っていた。
その間にカレン・オルテンシアが内部工作で聖堂教会側を掌握。彼女もランサーやアヴェンジャーのマスターになったバゼットなどを利用して色々していたら、いつの間にかそうなったらしい。
ちなみに英雄王の財は、凛とカレンの共有財産だ。なんだかんだで、自分達の家は昔から懇意にしていたそうなので、なんだかんだでその関係を継続させた。
その他にも聖杯戦争の一件で知り合った人形師の伝手で、日本の退魔の家系と繋がり、些細な縁で真祖の姫君とも知り合いとなる。
挙句の果てに調子に乗った結果、裏世界の一大勢力の首領となり、世界に蔓延るマナの汚染問題解決や死祖対策、神秘の守護、他にも表世界の戦争根絶やテロ防衛などもやった。
ちなみに後半のものは、自分のサーヴァントであるアーチャーがほとんどした。
今の彼は世界中で誰もが知る正義のヒーローとして名を馳せている。
そんなアーチャーは現在自分達の乗る車を運転していた。助手席には妹のサーヴァントであるライダーが座っており時折、運転しているアーチャーと話している。
本当になんでこうなったのだろう? 思わず、溜息を溢す凛。別に自分は世界を掌握つもりはないのだが、自身や身内の保身のために動いたらこのようになってしまった。
「姉さんお疲れですね。ミカンでも食べます?」
隣に座る桜が心配そうな顔で凛の様子を窺った。
「う~ん、じゃあ、貰う」
「はい、んっぅううう」
「ちょっと待ちなさい、桜。何で当たり前のように口移ししようとしてるの? お姉ちゃん訳わかんない」
接近する妹の顔をがしと掴む。桜は顔を掴まれたまま不思議そうな顔を浮かべた。
「何を今更。昨晩だって四人で×××や○○○や■■■やら───」
「ごめん、桜、私が悪かったわ。だから昼間からそんな単語を連呼しないで。そして口移しを再開しろとも言っていない」
「ええええ」
「桜」
不満そうな顔にする桜を、運転するアーチャーが此方を見ずに呼びかける。
「ん? なんですか?」
「あと一時間で高速から出る。それまでに済ましておけ」
「ちょっと、アンタなにを────」
「じゃあ、姉さん、いただきます」
「え? そんな? 待って─────きゃあああああああああああああ!!」
本当に何でこうなったのだろう。
*
そんなこんなで一行は衛宮邸に到着した。
アーチャーが後部座席の扉を開くと、つやつやの桜とげっそりとした顔で着崩した服を直す凛が出てくる。
しかし、いざ衛宮邸の門を見ると、なんだか帰って来たという気分となった。
あれから、基本的に衛宮の人間とキャスター陣営は冬木の地にいる。
キャスター陣営は自衛以外の荒事には出ず、好き勝手暮らしていた。何処ぞの野武士は偶に街に出てナンパしたり、魔女な奥さまは夫にべったりしながら子供が産まれたぐらいであまり変化はない。
衛宮に連なるものは、こちらも色々とあったのだが、一段落したら揃ってこの衛宮邸に住んでいる。
ある意味、凛や桜にとってもここは、もう一つの実家と呼ぶべき場所であり、変わらない風景はどこか愛着を抱かせた。
『ただいま』
そうやって感慨に耽りながら門をくぐり、扉を開ける。
すると、ドタドタと、喧しい足音が近づいた来た。
「おみやげぇえええ!!」
「おい、そこはお帰りでしょう、“モードレッド”」
セイバーの容姿をそのまま六歳まで下げたような少女。
彼女の名は衛宮モードレッド。御想像通り、士郎とセイバーの娘である。
見た目はセイバーそっくりなのだが、母親譲りの金髪は動きやすいようにポニーテールにしており、一人称も『俺』だったりと色々と男勝りで活発な娘だ。
そして、どういう心境なのか、彼女の名は知る者は知る、アーサー王を貶めていた反逆の騎士と同じ名。
というか本人らしい。モードレッドも歴史と違って女性だったようだ。
正確にはキャスターの魔術でモードレッドの魂をセイバーの母体に降霊させ、彼女が産み落とした存在だそうだ。
態々自分を破滅に追いやった存在を子供として産むとは、正気の沙汰じゃないと誰しも思ったが、セイバーなりに考えがあってのこと。
どうやら、一度愛せなかった子供を今度こそは愛したいそうだ。
モードレッド自身、前世の自覚がないようだが、セイバーの直感では何れ訪れるらしい。
それでも、愛すると彼女は誓った。ならば自分達は見守るだけだろう。
「おかえり、リン叔母さん。サクラ姉さま。メデューサ姉さま。未来親父」
そんなモードレッドの言葉に凛は思わず顔を引き攣らせる。その他の三人は苦笑しながらそれぞれ挨拶を交わした。
何故桜は姉で、凛は叔母さんなのかは、歳の差だとのことだ。一歳しか違うのに納得がいかない。
ちなみに未来親父はアーチャーのことである。
「ほら言ったぞ? お土産よこせ」
「生意気な子にはあげません」
「むぅうう」
不満そうに頬を膨らませるモードレッド。そこに新たに士郎がやって来た。
「おいおい、廊下を走ると危ないぞ?」
「父上!」
「って、言った傍から────っと!」
モードレッドはやって来た士郎に振り向くと、そのまま飛び込むようにして、士郎の脚に抱きつく。
彼女は両親が大好きで、その光景は微笑ましいものだが、次の瞬間、凛は顔を強張らせた。
「父上、父上! リンの婆ぁが意地悪してお土産くれない!」
「おいガキんちょ、さっきよりも酷くなってるぞ」
「駄目だろ、モードレッド? 遠坂も年齢を気にする歳なんだから、そこは面の向かって言うのは可哀想だろう?」
「そうなんだ─────悪かったな、リン!」
「親子共々血祭りにあげてやろうか?」
「それは出来たら遠慮してほしいです」
そこに新たにセイバーが静かな足取りでやって来た。
「おかえりなさい、凛、桜、ライダー、アーチャー」
「ええ」
「ああ・・・・・・」
「はい」
「セイバーさんもお元気そうで」
「はい。そして、凛。家の娘がご迷惑を・・・・・・」
思わず頭を下げようとするセイバーを凛が止める。
「いや、いつものことだからそこまで気にしてないわよ」
「そうだよ、母上! 気にすることないんだぜ!」
「アンタはちょっと気にしましょうか!?」
「やなこった!」
あかんべー! をしてモードレッドは逃げるように居間のほうまで走り去った。
「あっ、こら、モードレッド! 重ね重ねすみません、凛」
「まぁ、いつもの事なんだけどね。アンタたちが育てて、よくもああ育ったわね」
「好きなように伸び伸びと、したらああなりました」
「それでも、可愛いのでしょう?」
凛がそう尋ねるとセイバーが苦悶から笑顔へと変わり頷く。
「勿論です。娘ですから」
*
そして、場所が変って食卓を囲む居間。
「うぁあ、イリヤさんは全然変わってないですね。いわゆるエターナルロリですか?」
「ふふん、羨ましい?」
「いえ全然。その胸を見ると悲しい気持ちになります」
「そのまま凋んでしまえ」
「■■■■■■■■」
「貴方は数年経っても狂化のままですか」
「こらっ! リズも少しは働きなさい!」
「セラ、うるさぁい。それにリズがやらなくても、シロウたちが勝手に働く」
「くっ! メイドの領域を奪う忌々しい所業です」
「二人は家政婦だからねぇ」
「だれが家政婦か───ところで爺さん、あまり無理はしてないか?」
「ははは、ヒーローシロウには負けないほどの現役さ」
「もう、切嗣ったら、この前ぎっくり腰でひいひい言っていたくせに」
「それは言わないでよ、アイリ」
居間では取り留めない談笑をしながら賑やかな空気が流れている。
何やら死んだはずの衛宮切嗣とアイリスフィールがいるのだが、それは数年前に虎聖杯という不思議アイテムによって復活したのだ。深く考えてはいけない。
とても平和的な日常。
ぬるま湯に浸かっているようで、数年前の自分なら心の贅肉と馬鹿にしたことだが、今思うとこのような時間が何よりも尊い。きっと、何億する宝石よりも価値がある宝物なのだろうと改めて想う。
アーチャーが淹れた紅茶を飲みながら、ちらりとある三人を見る。
「モードレッド、口を汚してはしたないですよ」
「ううう、母上恥かしい」
「ははは、こんなことは照れるんだな」
娘の口を拭う母。それを見守る父。
それぞれ己の存在は度外視して、他者のために生きた人間二人とは思えない光景に凛は思わず訊ねた。
「衛宮君、幸せ?」
嘗て、彼が自分の妹にした問いかけ。
当然、答えなど知っている。
彼はいきなりなんだと? 不思議そうにしていたが、迷いなく頷いた。
「───ああ」
完結!!
如何でしたか? ネタで出来た物語は? 最後蛇足?
少々描写不足もあるでしょうが、それは時間があれば修正、加筆していきたいですね。
あと、最後のモードレッドちゃん登場。アポ知らない人は誰やねんでしょうが、もともと複線は存在しており、彼女がいたから、この小説を短編から長編まで書こう思ったわけです。
まぁ、ロリですが。
ここまで付き合ってくれて、ありがとうございます。
二次小説で書き上げたのは初めてじゃないか? と思う一方で、それなりに読者を得て嬉しい限りです。できたら多くの読者様が納得できる結末だったと願っております。
なお、この小説には外伝を書くしかもしてない予定もあります。
あくまで予定ですので、絶対書くと断言できませんが、実は本編中で外伝用に残した複線が一つだけあります。それくらいは何れ回収したいと思います。
ではでは、またどこかでお会いしましょう。