20××年、突如現れた深海棲艦により世界は大混乱に陥った。
連中は何処からともなく沸き出てきて、恨み言を呟やきながら、見た物全てを破壊する異常な存在で、おまけにどういう訳か、通常兵器が一切効かないそいつらが、世界のシーレーンを破壊するのにそう時間は掛からなかった。
特に島国である日本はその打撃をもろに受け、一時期は経済危機やらで大変だった。
いつの間にか現れた艦娘と名乗る少女達や、艦娘達を指揮する提督によって、世紀末な世界になるような事態は回避こそできたものの、当時平サラリーマンだった俺は深海棲艦による混乱で起こった経済危機の影響であっさりと上にクビ宣告された。
いやホント、クビ宣告された時はリアルに目の前が真っ暗になったよ……(死の宣告は現実の技だったのか)
それなりに頑張ってきた会社からクビにされ、自暴自棄になった俺は逃げるように
田舎のボロ家に移り住んだ。
元々数少なかった貯金と退職金は吹き飛んだが、個人的には良い選択だったと思う。
今は少ない街の住人に新聞を配ったり、内職したりして生計を立てている。
元来活気が無かった上に、海が近いせいで一層過疎化が進んだ小さな街だが、それなりに落ち着く場所で、今じゃここから離れて暮らすことなど考えられない。
このまま静かな暮らしを老いるまで続けて恐らくはここに骨を埋めるだろうと思っている。
そんな人によっては退屈かもしれない日を過ごし続けて、今日に至る。
今日は休日だったのに、変に目が冴えて直ぐに起きてしまった、ゴロゴロしている内にふと、思い立った。
朝食も取らずに家から出て、ばったり出くわした顔見知りの爺さん婆さんに会釈して足早に通り過ぎ、何かに呼ばれている様にある場所を目指した、今ではすっかり危険な場所と化した海に。
別に死にたくなったわけでもなく、理由はただ間近で見たくなっただけ。
一年ほど住んでて深海棲艦がこの街を襲ったという事が一切なかったので慢心してたのかも知れない。
あるいは数km離れた場所に鎮守府があるため安全だと思っていたのかも知れない、正直な所、非常に軽率な行動だとは思ったが足取りは妙に軽かった。
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まあ、んな訳で今、海岸に居るわけだが……こうして海を眺めてみるとやっぱり綺麗だなと思う。
今この瞬間にも、この美しい水平線の向こうで艦娘と深海棲艦がドンパチしているのだろうか?
そんな物騒な場所にはやはり見えない、ただこんな綺麗な海なのに、平時と違い見ようとする人が殆どいない所を見ると、やはり血生臭い闘争が起こってるんだという事実は分かる。
頭では分かるが……ああ、やっぱり綺麗だ、澄んだ潮の香りに何処までも続く青い水平線、うつ伏せにぶっ倒れてる黒いネグリジェ着てる女性……心が浄化されていくようだ……。
ん?女性?
「どういう事だよおい……え?何これ、刺激的な恰好……じゃなくて!」
ぶっ倒れてるなら助けなきゃ、いや凄い青白いし手遅れなのかも……やべぇよやべぇよ、やっぱ海めっちゃデンジャラスですやん……海舐めてましたすいませんマジ。
「え、えと……あの、大丈夫ですか?なんだったら救急車お呼びしましょうか?あ」
おどおどしながら声を掛けて、このタイミングで携帯を持ってきてない事に気付く、そうだよねぇだって数分で帰ろうと思ってたんだもの!
反応が無かったのでひとまず体に触れて脈を確かめてみると、脈はある(正常かは知らん)。
ほっとした後、次は意識の確認をするために体の向きを変えた。
そして体の向きを変えて頭に変なものがくっ付いているのに気が付いた、そしてそれが「角」であり、この女性の頭に生えているのだと気が付くのにそう、時間は掛からなかった。
なんで角が生えてるんだ?凝視すると悪いと思って見てなかった胸元にもよく見れば変なものが生えてるし。(いやぁ邪魔な物は付いてるが素晴らしいバストだ)
もしかすると、これが艦娘か?深海棲艦と戦ってる人外の少女、鎮守府も近いし・・おお!繋がってきたぞ。
つまり鎮守府に所属してる艦娘が、戦いやらなにやらでここまで流されてきたんだろう、こんな麗しい美人が常日頃から血で血を洗う戦闘行為を繰り広げてるとは、頭が上がらないなぁ。
とはいえここに放置していたらまた波に流されるかもしれないので、ひとまず家に運ぶことにした。
病院まではかなり遠いし、鎮守府までこの艦娘を運ぶのはまず無理だと判断したからだ。
「えーと、どっこいせ……ん?おいおい軽いな」
俗にいうお姫様抱っこで持ち上げてみると、妙に軽い、スレンダーな体系をしているが、それにしたって軽すぎる、小学生でも抱きかかえてるのかと錯覚するくらい手ごたえが無い。
家にまで連れ帰って、朝方にめんどくさくて畳んでいなかった布団に寝かせると(後で布団干さなきゃ……)連絡するために床に無造作に置いてあったスマホを拾った、119か鎮守府に電話をしようとスマホの電源を付けると、背後に気配を感じた。
なんとなく振り返ってみると寝ていたはずの美人がいつの間にか真後ろに立っていた。
ここで想像してほしい、何気なく振り返ってみると真後ろに青白い顔した女性が居る……これが肝が小さい人にとってどれだけダメージになるか。
「ネエ……」
「ほんぎゃあああああああああああああ!?」
「イヤアアアアアアアアアアア!?何、ナンナノ!?」
目を覚ましたら見知らぬ天井で、運び込んだっぽい人に話しかけたら叫ばれるとか、相当怖かっただろうね、でもこっちも死ぬほどビビったから勘弁してよ……
俺は心の中で謝罪と言い訳をした。