艦娘(?)を匿うことにした   作:肉羊

12 / 14
十一話目です、まさか一年も間をあけることになるとは…






第十一話 戦艦棲姫

この世には三人は瓜二つな人間がいるらしい、元々妙な説得力がある言葉だったが、今日この日を以て俺の中では完全にこの言葉は真実と化した。

 

何故かって?そりゃぁ…

 

目の前に言葉を裏付けるように自分と瓜二つな男が立ってるからだよ。

 

言っちゃ悪いけど、すっげえ不気味!

 

_________________________

 

 

 

 

「ほえ~警備員のお仕事をなさってるんですか?」

「ええ、この近隣に勤務してます」

 

顔が瓜二つの警備員務めさん(以下警備員さん)

ズボンにTシャツ、ある意味サービス業だからおしゃれには気を使ってるのか?服装はともかくとして、髪型とかは妙に小奇麗だけど…いや判断しようにも肝心の俺がセンスないせいでなんとも言い難い。

 

顔だけじゃなくて、表情が俺に比べてどこか昔の俺に似てるような気がする。

目の前の現実から逃げたいような、でも逃げるには忍びない荷物を抱えてる、自分は全部どうでも良くなる瞬間が来て、あろうことか人間関係含めて全部置いてきてしまったが、まあ人間誰しもそんな瞬間が来るんだろうと思ってる。

 

まあ、そんなに煤けた顔ができるようになるって事は、こいつ多分俺と同じブラック企業勤めだな、イイノヨォ……コッチ(人生の敗者)ニキタラァ……?

 

「もしかして普段忙しかったりしてますかね?」

「いやぁ、最近どうも仕事が増えましてね…」

「忙しい中親戚のお世話ですか、いやぁそれは大変そうだ」

「鎮守、家に籠もってようとも思ったんですが、心配性の陸…同居人に連れ出されましてねぇあの人は心配性だから」

 

警備会社の仕事が増えたって怖いなおい、田舎ヤンキー共がまたイキりだしたのか?

 

困ったようにポリポリと頭をかく警備員さんはやっぱりどこかくたびれている。

ご飯に黒ゴマをいくつかパラパラとまぶしたかのように少し白髪が交じった髪の毛とくっきりと刻まれた目元の隈が苦労を物語っている。

 

可哀想に

 

いやそんな事よりも、えーと、何か忘れたことがあったような…あ

 

早くあの自称姫の貧乏舌とクラゲ頭を見つけて説教しなきゃいつ艦娘だとバレちまうかも分からない!

 

「ああ!あのバカ何処行きやがったんだ!すいません…人探し中なんでここらで!」

「え、ええ…お気をつけて」

 

しまった、急に大きな声を出したせいで警備員さんが驚いてる、いや申し訳ないけど構ってられない!

 

困惑する警備員さんを尻目に、俺は走り出した。

 

雪風ちゃんもそうだけど、なんか喋ってて気持ちいい人だったな(それこそ数十分あるかないかの関係だったけど)

 

そこまで歳は離れてない筈なのに、すげえ安心感があるんだ、守られているような錯覚を覚えるっていうか……あの人が警備員の仕事してるからかな?

 

あ、そういえば雪風ちゃんに別れの挨拶してねえや、それだけが心残りかな。

 

 

 

_____

 

屋台通りの中間地点にある広場にて

 

「あ、陸奥さん来ましたよ!しれぇ!…あれ?おじさんは?」

「行っちゃったよ、何やら急いでたみたいだけど」

「ええ!?今度はおじさんの探してる人を探そうと思ったのに!探してきますね!」

「ちょっと待っ…早いなぁ」

 

そう言って、提督はついさっきもそういう風に駆け出したっきり迷子になった雪風の背中を眺めながら、待ち合わせ場所から動くわけにもいかないので椅子に腰を下ろした

_____

 

 

 

 

 

ああ、糞、居ない、居ない、居ない!

 

早く見つけて説教しなきゃ気が気でならないってのに見つからねえええ!

あのバカどこ行きやがった?

 

早歩きで屋台が並ぶ道を進む、走って探せればいいんだけど注目されそうなので早歩きに留めておく。

 

「あの馬鹿舌め…」

 

賑わった屋台を横目にズカズカと進んでいると、普段なら目につかない小道が妙に気になってきた

大通りを布とするならば、この小道は糸が一本だけぴょこりと飛び出しているに等しい、それほどまでに小さく、暗く、それでいて人気のない不気味とも神秘的ともつかない奇妙な雰囲気をまとった道だった。

 

「ん?」

 

時に人は経験や知識とは別の第六感的なものに頼る事があるというが、今回この小道に第六感が反応した

 

というか根拠はないんだけどこの先にあのクソッタレ共がいる感じがする。

 

よくわからない感覚だ

 

いや、前にも一度こんな感覚を覚えたことがある

退屈からの解放を求めていたのか

自分でもよくわからない内にあの綺麗な海を目指していた。

 

まさにあの時の感覚と同じだ、思えばあれもこんな感じで引き寄せられていたのかもしれない。

 

「行ってみるか」

 

そうと分かれば進んでみなけりゃな

 

中央通りの喧騒が嘘のように静まり返った小道は、薄暗く申し訳程度の街灯が細々と蛍のように行く先を照らしている。

 

俺の家も中々にホラーだったが、この小道もまた迫力あるわ

振り返ったら魂取られたりしない?大丈夫これ?

 

まあいいや、行ってみっか!

 

そう行って俺は歩みだした。

 

歩き始めたが、小道はさっきも言った通り暗くてしょうがない、大通りに比べればか細い小道といってもその気になればワゴンくらいは通れそうな大きさなので、こんな小さい街灯では力不足だろう、建て替えないのは市だか県だかの予算不足なのだろうか?それとも苦情が出てない、ないし出しても取り合ってもらえない位の人数しかこの近辺には住んでないのだろうか。

 

 

どっちでもいいけどね、どうせあいつら二人組を回収したら二度とこないし、少なくとも夜のうちは。

 

考えつつも足を進める、怖さを紛らわせるために色々考えておこう…

怖いんだよぉ!電柱付近にそこそこ影ができるのとか狙ってるとしか思えんわ!

 

まず、雪風ちゃんの可愛さ…

 

じゃなくて

 

あの「二人は艦娘俺の心マックスブロークンハート」のことだよ、今までは思考停止してたけど

あの二人組は一体どこから来て、なんで俺の家にたどり着いたんだ?

いや、戦艦棲姫の方は俺が連れてきた、だがヲ級の方はどうだ?あいつは自分からやってきた

 

この時点で二つの可能性が考えられる、一つ戦艦棲姫の方からコンタクトを取った(驚いたのは演技である)

もう一つはあっち(ヲ級)から探知する手段を持っていた。

 

どっちも考えたくないな、特に後者はその探知を使えば誰でも追跡してこれることになる。

でも前者は色々無理があるんだよなぁ、こっちはこっちで色々あれだし

だって連絡手段があるってことは俺が知らんうちに連絡してたってことだろ?

 

裏でなんの作戦を立ててたのか分かったもんじゃない、俺の家に住み着いたことといい意図が分からん。

 

ん?マジでなんで俺の家だったんだ

俺を駒にするとか、ばれないようにするとか、協力者に仕立て上げてやり過ごすとか

警戒レベルにしては鎮守府に近い俺の家に住むって事そのものが釣り合ってない。

矛盾してるぞ、戦いが嫌になって逃げてきたって(脱走をした)って言うのなら想定される追跡者が間近の俺の家に住むのは得策じゃあない。

 

明らかに追っ手とかの存在を警戒しているムーブをしてる割に、拠点が最悪の場所にある

 

本来脱獄とかするにしても、まず初めにやることは遠くまで逃げることのはずだ、そうじゃないと検問とか、そういうのに引っ掛かって逃げられなくなるし、目撃情報とかからどんどん潜伏場所を絞られて見つかるはずなんだ、まして鎮守府から1kmも離れていないここを拠点にするなんて見つけてくださいと言ってるようなもんだし。

 

おかしい、明らかに

追っ手を警戒してるのに近い位置って、それじゃまるで鎮守府がこの事を知っていないみたいじゃないか、でもその一方で演技とは思えないビビり方をしている。

 

そんならバレるかもしれないここに住むメリットって何なんだ?

 

鎮守府から隠れつつ、かつ鎮守府近辺に拠点を構える理由

まさか鎮守府に対して自分が何かしら好くない行動を起こそうとしているんじゃないか?

 

あるいはアイツがそこに居ることそのものが鎮守府にとって大きな影響を及ぼしているか。

 

好ましくない影響を理解したうえで留まるって、それじゃまるで、アイツが鎮守府の敵みたいじゃ

 

ゴツン!

 

そこまで考えていたら、目の玉から火花が出たんじゃないかと錯覚するほど強かに爪先と頭を打ち付けた

「いってえ!なんだよこれ」

 

俺は怨敵を見るような目で俺が頭を打ち付けた対象を見た、怒りに任せてそれを蹴っ飛ばしてやろうとして

慌てて足をひっこめた。

 

「ええ?なんでこんなところに鳥居が?」

 

そこにあったのは、一基の鳥居だった

 

「どうしてこんなところに神社があるんだよ…」

 

暗いとはいえ神社を見逃すほど俺の目は曇っちゃいないような気もするが、まああるんだからしょうがない

 

そもそもなんでこんなところにあるんだろう、神社ってのは何だかんだ参拝されてナンボな筈だ

それなのにこんな所に建てたんじゃ、誰も来やしないんじゃないか?

 

えーっと、この神社で行き止まりなのか、でもここまで来たんだから進むしかないだろ。

 

石段を数えながら上る、といっても五段もないんだが

 

神社といってもそれほど大きくはない、ただ狛犬と社と賽銭箱とがある簡素な造りだ

 

「えーと、手を洗う場所は…あったあった、あちゃー…水が枯れてら」

 

どうやらあんまり整備されてないようだ、そら立地が悪すぎるよ、当然寂れるわな。

 

ともかく先へ進もう、ついでに参拝しよう

 

前へ踏み出したとき、明らかに人影が見えた

 

「ほ、ほげえええええええええええええええええええええ!!!??」

 

思いっきりブルった俺は、足腰ガタガタになり、その場から動けずにいた

 

「か、勘弁してください神様ぁ!」

 

神様なら目の前(社)にいるだろう、というか何回目のお祈りだよ。

心の中で神頼みとツッコミを繰り返していたが、そこで影の正体に気が付く

 

「戦艦棲…バカ舌か…びっくりさせんなよテメェ!」

 

幽霊の正体見たりバカ舌、ビジュアルは完全に幽霊のそれだっただけに、戦艦棲姫にガチビビりしてしまった、その事実が後から悔しくなってくる。

 

「おい?」

 

怒りをぶつけてやろうとした、余程怒鳴りつけてやろうとしたが、明らかに様子がおかしい

「あれ?うわぁ!」

 

そうこうしてるうちに、戦艦棲姫が抱き着いてきた

信じられない行動なもんで、しばらく頭が空っぽになる

そうしてようやく事態が飲み込めたとき、俺は我に返って引きはがそうとした

 

「おい、何やってんだよバカ!離れろよ!…離れ…」

 

あの高慢ちきが抱き着いてきただけでもおかしいのに

 

「ッ…ウ」

「お前、泣いてんのか?」

 

俺の胸に顔を埋めてすすり泣いていた

ごめん角がめり込んで痛い、割と痛い。

 

「何があったんだよ、な?」

こうなると俺は弱い、女の涙が弱点なもんで怒りやらが全部抜けちまった。

「スン」

泣いてる戦艦棲姫を宥めようとする、どうして泣いてるんだろう

 

「な、ヲ級はどこにいるんだ」

抱き着かれている俺に、女の甘い香りが漂ってく…甘い香りが…甘…

 

「磯くせぇ!」

凄い磯の香りがする、この数十分で海水浴でもなさって来たんですかって感じだ

 

「ワタシハ…沈ンダト思ッテイタ」

「あん?」

 

俺が固まっていると、しゃくりあげながらもポツリポツリと喋りだす戦艦棲姫

どうしたんだよマジで

 

「冷タクテ」

「うん、俺今マジで冷たいよ、冷え性だろお前」

「独リデ」

「俺とヲ級はアウトオブ眼中かよ、ひでえなおい」

「デモ、戻ッテコレタ」

「回収したの俺だよね?」

 

よくわからないが、でもこいつが泣くってことは相当の何かがあったんだろうな

 

「よくわかんないけどさ、もう一人じゃないだろ、お前」

「…ウン」

 

とりあえず慰める、クソッタレとはいえ一週間以上同居してたら流石に情も湧く

 

それに…なんか寂しそうだし、こいつ

 

「さ、行こうか、この神社にどうしても来たかったんだろ?」

「ああ、ヲ級のやつはどこ行ったんだよ」

 

聞くと、戦艦棲姫は暗がりを指差してきた、そこにはヲ級が無言で佇んでいた。

 

あっちも怖いわ

 

「ヲッ」

 

こっちが気付くとあっちも手を振ってきた、どうやら空気を読んで黙っていたらしい

いや抜けてそうな見た目してる癖にやけに気が回るな、おい

 

「まあよぉ、もう帰ろうぜ、祭りは十分見て回ったろ?そもそも何で祭りの日なんだ?神社だけなら別の日にでも良いだろ、一般人の目にも警戒してたんじゃねえのかよ」

 

そう素朴な疑問を口にする、何故今日なのか

 

「今日ジャなきゃだめなんだ、祭りの後に訪れたんだ」

「ん?今何か言って…お前風邪ひいたか?」

 

何かを口にする戦艦棲姫、その声の調子が変わったので俺は風邪をひいたのかな?と思ったが声が枯れるとか、掠れるというよりも、声帯がまるきり別の人の物に変わったように聞こえるのでちょっと困惑する。

 

「おい、ちょっとおでこ出せ」

「ん…」

 

ひとまず現実的に風邪を疑い、帽子を除け、角の生えた額に触れる

その瞬間、生えていた角のうちの片割れがポトリと落ちる

 

「ごめん!角抜けたんだけど!」

 

謝って済む話じゃないかも知れないがひとまず謝る、どうしよう声の件も相まって艦娘特有の病気とかだったら俺には治しようがねえよ、というか普通のインフルとかでも病院連れてけねえし詰むぞ…どうか生え変わりの時期とかでありますように。

 

「ヲ~」

 

ヲ級に話しかけられてハッとする、どの道帰らなきゃ

病気なら病気で意地で家で看病するしかねえ、尚更連れて帰らなきゃ

 

そうして未だに俺にしがみ付いたままの戦艦棲姫を引き剥がそうとした所

 

「動かないでください!」

 

可愛らしい叫び声が聞こえる、叫び声の先に視線を送ると、そこには真剣な表情でこちらに何かを向ける雪風ちゃんがいた。




この世界でのドロップは素体のある深海棲艦(上位種)が倒された後に艦娘に戻る事です
しかし(馬鹿舌の)戦艦棲姫の場合は半分のみドロップしたような状態で留まっています。

それ以降は艦娘としての記憶が強く出るか、深海棲艦としての精神面が強く出るかによって深海棲艦か艦娘かどちらかになる事となります。

顔や声、なんなら素の性格という所まで瓜二つな男と出会った戦艦棲姫は記憶を揺さぶられ、このまま行けばそのうち艦娘へと戻るでしょう。

このままいけば
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。