20XX年 日本某所 鎮守府内執務室
「はぁ……ここ最近、鎮守府近海に出没する深海棲艦がどういう訳か強力な個体になっているようだ、実際戦ってみてどうだったかな、大淀」
「はい、間違いなくelite個体やflagship個体と言った強化個体でしょう」
煙草の煙が充満した執務室内で秘書官の報告を聞いた提督は、うんざりとした感じで短くなった煙草を灰皿で押し潰すと、懐から煙草の箱を取り出し中身を探る、しかし生憎中身は入って無かったようで、苦々しそうに箱をゴミ箱に投げ捨てた。
そして引き出しの中から新たな煙草の箱を取り出すと慣れた手つきでパックをひん剥く。
「提督、少々吸い過ぎでは?体を壊してしまいますよ」
「いやでも、ヤニがないとやってないからさぁ……本当なら蒸留酒か睡眠薬でも呷って意識を飛ばしたいくらいなんだがね」
大淀と呼ばれる艦娘が心配して注意するも暖簾に腕押しといった体である「そんなことより」と提督は付け加えて続ける。
「連中が何故いきなり強くなったかだがね、付近に上位種がいるんじゃないかと思うんだ」
「上位種……鬼や姫と言った個体ですね?」
「その通り、比較的平和だった海域に突然強力な個体が集まり出すのはその近辺に上位種が居る証拠だよ」
紫煙を吐き出しながら提督はゆっくりと続ける
「まぁ、確定はできんがね、実際我々の本丸を前にして上位種本体が何のアクションも起こさないのは不自然だ」
「上位種本体は何らかの原因で潜伏している、という線は?」
淡々と語っていく提督に大淀は恐る恐る、といった感じで尋ねる。
「そうかもしれないな、いずれにしても飛んでいるコバエを潰してもキリがない、蛆の発生源を知らない事には始まらないさ」
「提督、この後の艦隊へのご指示は?」
「引き続き鎮守府周辺の哨戒にあたってくれ、ああ、それと大淀、他の艦娘たちに指示を伝えたら君はそろそろ休んでいいぞ」
「承知しました、ありがとうございます、提督も無理をなさらずに」
綺麗な一礼をして執務室から出ていく大淀、タバコ臭い執務室から一転してクリーンな空気の廊下に出たため一瞬ひるんだが、すぐに歩き出した。
「どう探しても近海で見つからないのなら本土に侵入されている可能性も出てくるな、胃が痛くなってきたよ……」
大淀を見送った提督は若干白髪が交った髪を掻き毟ると頭を抱える、彼が熟睡できる日は遠そうだ。
_________所変わって日本某所 ボロ家内
ついさっきの恐怖体験から大分経ったが(ズボンは履き替えた)
ようやくまともに戦艦棲姫の奴を直視できるようになった、多分話しかけられたら再び膀胱を空にする羽目になるだろうが。
「ネェ、アナタ」
「ふぇヒィッ!」
前言撤回、いきなり話しかけられても漏らさなかったよ!(死ぬほど怖かったが)ひとまず奴は俺の事を処分する気はないようだ。
「食糧モ家具モ足リ無イヨウネ、二人デ住ムヨウニナッタノダカラ当然ナノダケド」
「あ、ああそうだな……」
勘定は早いんだね、いやそもそもこの家に住む事を前提で話すのが間違ってると思うんだ、マジで
まぁ口には出さないけどね!(怖いし)
いや、だが物資不足は否めないな、一週間は持つと思ってたんだがなぁ・・・いったい誰のせいなんだか。
「んじゃぁ買い物に行こうか、色々買い出しに行ってくるから留守番を」(そしてあわよくば逃げ……)
「私モ付イテイクワネ」
「もう勝手にして……」
うん知ってた、まぁぶっちゃけあんなえげつない恐怖体験した後なだけに、俺のパーフェクト☆エスケープ作戦を実行に移そうとする意志は90パーセントぐらい折れてるんだけどね。
ところで、こいつが付いてくるなら付いてくるで仕方がないが、こんな分かりやすい人外が町を歩いてたらいくら町が過疎ってると言ってもバレるだろう。
「いやでも、バレるでしょ?角とか生えてたら、いくら楽観主義の爺さん婆さん達が相手でも、隠し通すのは厳しいんじゃないかなぁ……」
「ソレモソウネェ・・・アア、アレヲ付ケテイクコトニスルワネ」
そういって戦艦棲姫が指さしたのは俺が日曜大工の時によく付けている手拭だった
いやアンタが良いなら異論は無いんだけどさぁ……
「ネェ、角ハ隠レテル?」
「うん、ばっちり隠れてるけど」
角は隠れてるけど、正直女海賊にしか見えない、それか職人さんか?ワゴン車とか運転してそうな、いずれにしても限りなく姫からは遠いよその格好。
「サァ、行キマショウカ」
「ああ、どうか誰にもバレませんように……」
俺の祈りよどうか通じてください
「ソレト手、繋イデ行キマショウ?」
「うぇ!?、あ、ああデートにゃ理想のシチュエーションですねー特に別嬪さんと手を握るのは夢に見てたよ」
手を差し出してくる戦艦棲姫、え?これなんてラノベ?
「嬉シイ事言ッテクレルワネェ、デモ逃ゲヨウトシタラ握ッタ手ヲソノママ握リ潰シチャウカ……モ」
「折角現実逃避して妄想に浸ろうとしてたのにどうしてそう言っちゃうかなぁ!?」
妄想に逃げるともれなく脅迫して現実に戻してくれる、いやぁ気が利いてるなぁ……利いてるってか精神的に効いてるが。
逃げようとしたらデート(逢引)じゃなくて合挽きにされるのか、やっぱり女海賊じゃないか……
「ホラ、早ク握ッテ?」
「何もしないから握りつぶさないでね?いやマジで」
恐る恐る差し出された手を握る、手が凄い柔らかい、結構理想的なシチュエーションなのに全く嬉しくねぇ・・・
どうでもいいが異様に手が冷たいなこいつ、まるで血が通ってないみたいだなぁ、血も涙もないって意味なら同じ血が流れてると思えないが。
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ん?遠くに人影が、あれは……ゲッ
近所のおばさんじゃないか、普段なら世間話の一つはするだろうが、今この状況で話しかけられるのは非常に困る、おばさんの情報網は凄まじいし怪しまれたら当分噂されるぞ。
頼む、見つかるな、見つかってもスルーしてくれ
「あら彼女?こんな美人さんを捕まえるなんて隅に置けないわねぇ!」
「いや、彼女じゃなイデデデデデェ!(腕が握りつぶされるゥ!)」
俺の腕がスマホ君と同じ末路を辿っちまううううう!
おまけにおばさんに見つかった上に話しかけられたぁ!せめて話を合わせれば良かったのに咄嗟に否定しちゃったよ!あ、人生終わったかもしれない。
「エエ、最近越シテキマシタ、ホラ早ク買イ物ニ行クワヨ?」
「うふふ、仲がいいのね、ほら彼女さんを待たせちゃいけないから行ってらっしゃいな」
どうやら解放されたようだ、腕も潰れずにそのままだし、助かったの・・・か?
というかこいつ愛想笑いなんて出来たんだな、いくらなんでも往来で殺しはできないか。
「サァ、行キマショウカ」
「分かった行くから、行くからそんな強く引っ張らないでって!腕がメキメキ鳴ってるからぁ!」
えげつない力で引っ張られるせいで腕が外れそうになる、無理矢理散歩に連れられる犬の気分だよ。
ガバガバプロットの書き直しを余儀なくされました