田舎のスーパーは無駄に大きい、老人しかいない上に宅配だのネットスーパーだのが流行ってる今のご時世で辛うじてとはいえ、この規模の店舗を経営できてるのは奇跡なんじゃないかなぁ……
今そんな無駄に大きなスーパーに居る。
スーパーまでは結構遠くて相変わらず嫌になるが、燃料がバカ高いから買い物如きで車に乗るわけにもいかない。
まして食費が異常に掛かる奴を抱えてるんだから尚更財布の紐を締めて行かなきゃ。
「~♪」
「ああ、俺の労働時間が……俺が汗水たらして稼いだ金が……」
数十分後、そこには言ったそばから食料品だけで既に使用金額が万を越えそうになって卒倒しかけた哀れな男が居た!
だってこの子自重という物を知らないんだもん、鼻歌歌いながらポンポン買い物かごに商品ぶち込みやがってぇ
会計のパートさんも顔引きつってたぞ!?
はぁ……はぁ……まぁ、悲観してもしょうがないか、食料品に関してはあの食欲を目の当たりにした分覚悟はできてたさ、問題は次だな、家具類だ。
当然使う金額も食料品とは比べ物にならないだろう、うわぁ想像したくねぇ。
「さ、次は家具や日用品類だな、隣のホームセンターで買うとするか」
「エエ、行キマショウ」
手を繋いで仲良くショッピングする様は事情を知らない人が見れば仲睦まじく見えるだろう、正直な所、自分もこのシチュエーションに若干心高ぶってない訳でもないさ。
でも、自分の行動次第で手首から先が消失するかもって考えるといまいち嬉しくないのよ……
「ソロソロ手ヲ離シマショウカ」
「え?おい、いきなりなんで手を放すんだ、いいのか?」
パッといきなり手を放される、手錠が外れたみたいで凄い解放感だが、一体どういう風の吹き回しなんだ?
「貴方ハモウ絶対ニ逃ゲレナイ」
「え、いや待て、それどういう事だって」
待って?マジでどういう事?逃げれないって、え またカマ掛けてるの?
頭にいくつもクエスチョンが浮かんでは消えていく、そうして俺の少なめの脳みそが導き出した答えは……
「もういいや、次行こう」
「ウフフ」
選ばれたのは諦めでした(まるで急須で淹れた茶の様に心が濁っていく)
最後通告されてるのに逃げるなんて真似は怖すぎてできないって。
完全にやられたなぁ、助けを呼べば協力者扱いされて最悪道連れに、自分一人で逃げれるか逃げられないか確かめる手段もない(賭けに出るのは怖すぎる)つまり俺に残された手はあのド外道戦艦娘を匿う事だけだ。
おばさんにも目撃されたし、スーパーの監視カメラにも映った、言い逃れは不可能だろうなぁ……事情はどうであれ、映像を見れば10人に見せれば10人が仲良く手を繋いでる映像だと思うだろう。
どん詰まりである事が嫌でも理解できて自分の目と心が腐っていくのを実感しながら、俺は隣のホームセンターへと歩み出した。
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所は変わってホームセンター内、相変わらず人は少ないが、無いと不便だ。
ところで、ホームセンター独特の香りってあるだろう、俺はあの香りが結構好きなんだが、残念ながら隣の姫様にはお気に召さなかったようだ、顔をしかめさせている。
その職人さんっぽい格好からしてホームセンターにしょっちゅう入り浸ってそうなんだが。
「来客用があるから布団は買わないぞ?」
「使ウノハ、貴方ガ来客用ネ」
「いやいや、家主は俺だから、お前が来客用だ」
「ムムム……」
分かりやすく『ぐぬぬ』って感じの顔になる戦艦棲姫、こういう所は抜けてるのにいきなり鋭くなったりする。まるで二重人格みたいな奴だな。
そのままの流れで陳列スペースを通り抜けていく、ついでに必要なものを見つけてはホームセンター用の異様に大きい買い物カートに入れていく(勿論できるだけ安いやつを)
そうしてクッションコーナーに着いた時に、戦艦棲姫は急に立ち止まる、そして一点を凝視しだした。
「なにやってるんだ?」
戦艦棲姫の視線の先をなんとなく見てみると、『こんなの買うやつ居るの?』って感じの大きなリスのぬいぐるみが陳列されていた。
「買ッテ頂戴」
「だ め だ」
「ドウシテモ?」
「だめだって」
「ダメナノネ……」
クソ!買わされてたまるか!
「お前これいくらすると思ってるんだ!これを買う金は俺がニ時間労働せにゃ稼げないんだぞ!」
「ネェ、オ願イ」
袖を引っ張りながら上目使いで懇願してくる戦艦棲姫、おお……これが上目使いか、なんという破壊力だ、一種神々しさすら感ぜられるよ、いやぁご馳走様です。
まぁ買わないんだけどね
「エ、待ッテ買ウ流レジャナイノ?」
「威力的にはお前の上目使い<ぬいぐるみの値段だからな、今の所俺を引っ張り回してしかないお前さんに上目使いされてもなぁ~ ん?」
ってムカつく感じに煽ってみても内心は滅茶苦茶アガってる、こういう所とか美人ってホントずるいよなぁ……
「ム~、アナタガ買ウマデ動カナイワ」
「子供か!さっきまでのカリスマは何処へ行ったんだよ!ああ、もう分かったよ」
「買ッテクレルノ?」
「ただ~し、明日の内職でお前さんも手伝えよ、いいか?」
「……?承知シタワ」
交渉成立、精々こき使ってやるわぁ!フハハハハ!
いやしかし、血も涙もないと思ってたが意外と可愛い一面もあるんだな、気になるのはリスのぬいぐるみに対して可愛いと思う感情も確かにあるんだろうが、それよりもむしろ懐かしそうにしてたような……?
まぁ、どうでもいいか、交渉成立した以上個人の意思決定にケチ付ける気はないし。
「フフン、可愛イデチュネェ~♡」
「おう、ウン千円は可愛いか」
大事そうにぬいぐるみを抱きかかえる戦艦棲姫、そのせいでもう一方の手だけで結構な重量の荷物を持ってる筈だが全然重そうにしていない、むしろ軽々とぶら下げている、やっぱり艦娘の身体能力は凄まじいな、走って逃げようとしなくて正解だった。
まったく……ウン千円を後生大事にしとけよ、ちなみにお会計で俺の意識は再び吹っ飛びそうになった。
買うべきものは大方買えてホームセンターを後にする、次は服屋だが、もう金ないぞ?
いくら偉大なる我らが『安い服屋』様でもこの残高でフルコーデは無理じゃないかな。
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入店すると目に飛び込んでくる様々な衣服類、バッチリ過疎の影響を受けて全く賑わず、心なしか店員もやる気を無さそうにしている。
まさしく大衆の洋服店って感じの店内だ、ところが戦艦棲姫は格安の衣服類の数々に目を輝かせている。
お前はもう姫名乗るの止めろよ、戦艦民間人とか戦艦一般人とかに改名しろよ、どう見ても姫じゃなくて
田舎から出てきたばかりの田舎者に見えるぞ、俺は都会から田舎に引っ込んだんだがね!(どうした、笑えよ)
試着室に行けば試着が出来ると教えてやると、気に入った服を見つけては試着して見せてくる。
「ドウ?似合ウ?」
「おお、似合うんじゃないかな、いやマジで似合ってるから困る」
正直な所何を着ても想像以上に着こなしてくる、原因は多分、恐ろしいほど整ったボディラインと顔立ちのせいだろう。
下手なファッションモデルでは勝てないエレガントさに一々度肝を抜かれる、信じられるか?この服そこらの服屋の売り物なんだぜ?
少しでも高かったら却下してやろうと思っていたが、一種脅迫じみた魅力に圧倒されて結局大半を買う事になった。
こんなところでファッションモデルの宣伝効果がいかに重要かを知ることになるなんて夢にも思わなかったんだけど……
ちなみに金額?ああ、財布からついに完全に札が消えたよ。
さぁ、家に帰るか
俺は涙を拭いて重い足取りで家に向かって歩き出した。
本編の解説
大まかな設定
艦娘は人造人間で妖精さんが資材を憑代に色々すると誕生。
戦争は人類側が大分優勢で、経済危機こそ起こってもバブル崩壊やリーマンショックに比べればまだまだってレベルで、内地はほぼ安全、国の新兵器の開発も進んでいる。
研究が進んでそのうち深海棲艦にも効く兵器とかが開発されるんじゃないですかね
そうなった場合、そこからは戦争どころか一方的な蹂躙になるでしょうが・・・
艦娘
:ご存じ艦の擬人化した娘達、艦娘の運用方法をそのまま報道されたら非人道的と批判される事が懸念されているので報道規制が厳しい、ながもん可愛い
深海棲艦
:これもみなさんご存じ人類の敵、混乱を防ぐため人間型の深海棲艦は公表されていない、ただし人外型の深海棲艦は公表されている(例:駆逐イ級)
どういうわけか上位種(鬼~姫)の周りに他の強力な個体が集まってくる傾向がある。
そういえば上位種が確認されたのって艦娘が登場してかららしいですよ、連中も対艦娘の為に進化してるのかなぁ。
戦艦棲姫
:本編に出てくる子は厳密には戦艦棲姫「改」
ちなみに性能は人間並の知能と凄まじい戦闘力がある(ポンコツに見えて超エリート)
しかし本当に凄いのは知性よりも理性があることで、大半の上位種が折角の知性を戦闘にしか使わないのに対して、この戦艦棲姫に限って言えば「純粋に食事を楽しむ」「ショッピングに胸を高ぶらせる」など、良い意味で人間臭い行動を取る傾向がある。
貧乏舌
主人公
:元リーマン(なおブラック企業勤め)メンタル弱い、サブカルチャー好き(サブカル脳)で、「艦娘は人外の少女」という噂から想像した結果が俗にいう『人外キャラ』だった為、角が生えてる戦艦棲姫に対して余り驚かなかった。
本人は真面目に戦艦棲姫の事を「脱兵してきた戦艦の艦娘」だと思っている。
彼は自分の事を不幸だと思っているが、実際こんな事件に巻き込まれて財布がすっからかんになるだけで済んでるだけで結構な強運かと。(もし主人公が拾ったのが好戦的な種類や、知能が余りないノーマル下位種等、話が通じない種類だったら撃たれて主人公ミンチルート)
提督
:本人の能力は平凡、彼の鎮守府は上位種による深海棲艦の強化現象の影響をモロに受けている為、秘書艦の大淀と共に精神をゴリゴリ削られながら対応中、そのストレスにより胃袋に穴がプチプチと空いている。(まぁ、そうなるな)