人類の敵である深海棲艦、最初の個体が発見されてから10年以上経つも未だその実態は誰にも知られることが無く、上位種に至ってはごく一部の人間しかその存在すら知られていない。
そんな上位種の深海棲艦と直接面を合わせたことがある人は更に極々僅かだろう。
しかし僅かながらも全く居ないわけではない。
第一に(純粋な人であるかは別として)艦娘、練度の高い艦娘は鬼~姫級との戦いが主となるため、必然的に接触する機会が多くなる(交流という意味ではないが)。
第二に艦娘を指揮する提督、深海棲艦と直接対峙し、迎撃する職業についてるだけに、上位種に攻め込まれるなり、逆に攻め込むなりで直接お目にかかる機会も多くなる(この場合大半はその体験談を冥土の土産としてあの世に直送する事になるが)
第三に、中でもこれはレアケース中のレアケースだが、原因は不明ながらも人類と敵対しない個体が存在する。
例えばネズミと仲が良い猫が存在するように、或いは特に調教したわけでもないのに人に慣れてくる野生動物が居るように、一体何処で分岐したのかは分からないが、人を襲う訳でもなく思い思いの行動をする。
そういった敵意のない個体と交流した者が居る。
とはいえこれは前述の通りレアケース中のレアケースであり、悲しいかな上位種含む人型の深海棲艦の存在に情報規制が敷かれている事も相まって接触した人間はそもそも話し相手がまさか深海棲艦である等とは思いもしないし、余程の事が無ければ相手も敵対している人間と不用意に接触するようなリスキーな真似はしない。
万が一敵意のない個体に出会えれば奇跡だろう
そう、奇跡だ。
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買い物の後、静まり返った道をトボトボ歩いてボロ家に着く、屋根の瓦は所々剥げていて、使われている木材は少し腐食している、庭や玄関前には草が生い茂っていてプチジャングルと化しており、おまけに付近の道などが暗いのも相まって昼なのに幽霊の一人二人出そうなくらい迫力があるが、今の所そういった怪異が起こったことは(あまり)ない。
幽霊なんて怖くないし、むしろしょっちゅう出没するカマドウマ(バッタ目・カマドウマ科検索しちゃだめだぞ☆)の方が怖い位だよーHAHAHA!
噓です、本当はカマドウマも幽霊も怖いです、でも金銭とか諸々の理由で引っ越せないんだよ……
元々度胸試しの一環や改造車で暴走しに来る田舎DQN、おまけにオカルト的な意味でヤバそうな物を呼び寄せる事に関しては物凄い町だが、愉快な(やべえ)仲間たちにもう一人加わったのが、俺の隣にいる改めて家の全貌を見てギョッとしてる自称姫の艦娘だ。
「ネ、ネエ、ココニ本当ニ入ルノ?ココデ寝ルノ?」
「嫌なら出てけばいいんじゃないかな、むしろ大歓迎だったりするんだけど」
「遠慮シテオクワ……」
あからさまに嫌そうな顔をして冷や汗まで流している戦艦棲姫、青白い肌とか黒づくめの服とか真夜中に見たら驚かれる側だぞその見た目。
実際の所最初に見た時は死人かと思ったし、異様に冷たい体温も相まってバリバリ幽霊っぽい。
「仕方ガナイ、ア、コレ返スワネ」
戦艦棲姫が頭に着けていた手拭を外したので必然的に露わになる角、明確に角であると主張するそれに視線が吸い寄せられる。
角の事忘れてたわ~物の怪だね、幽霊通り越して。
「なぁ、その角的にむしろお化けサイドだろ、怖がられる側でしょ、というか鬼の友達がいるんじゃあないか?」
「……」
なんて冗談半分に聞いてみる、もう半分は角や生い立ちについての純粋な好奇心。
それと談笑の流れであわよくば鎮守府の内部事情なんて聞きだせないかな~なんて。
談笑のつもりだったんだが、鬼という単語にギョッとした顔になった後に急に無口になった。
怒るか反論するか笑うかしてくれなきゃ申し訳ない気分になるんだが。
あんまり踏みこんじゃいけない領域に踏み込んじゃったようだ、あれ?マジで鬼とかなの?
「サテト、貴方ハ恩人デ協力者ダカラ」
「いや待って、協力したくてしてるんじゃないんだけど」
「トモカク恩ハ返スワ、本当ニネ、要求ヤオ願イハ聞クワヨ?」
静寂を切り裂くように話し始める戦艦棲姫、戦艦田舎娘モード全開だったつい先程と違って真面目な顔をして話すもんだから調子が狂う。
ただツッコミ入れるべき所はツッコませてもらうぞ、俺は協力したくてしてるんじゃないし、恩を売ってる訳でもない、まぁ貰えるものは病気以外なら貰っておく主義だし、本人から恩を返したいと言ってくるなら要求しよっかなぁ~
なんだよ、プライドで飯が食えるか!
いや・・・やっぱりやめた、奴が要求(脅迫混じり)して俺が泣く泣くそれに応えるギブギブ(give-give)状態だからこそ俺には被害者感があるが、これがgive&takeの関係になったらそれこそまさしく協力者になっちまう。
既に世間には言い訳不可能だが一線だけはまだ越えたくない、一線越えれば自他ともに認める犯罪者だ。
そう考えを巡らせて玄関に入ろうとすると、遠くから爆音が近づいてきた。
頭悪そうなネオンを付けた車に乗って、パラリパラリうるさいラッパホーンに爆音改造マフラーをブンブン言わせてる典型的な田舎珍走団って感じの馬鹿ドライバーだが、こういうナーバスな時に近くを通られると頭にくる。
「ああいう連中マジで消えてくれないかな、くたばっちまえよ本当に」
それでつい毒を吐いてしまった
あ、勘違いするなよ?ただ爆音改造車を見かけただけで本気の殺意を抱くようなサイコパスじゃない。
「ツマリ、アノウルサイノガキエレバイイノネ?」
「まぁ、さっさと消えてほしいね、ああいう輩は」
今まで以上に平坦な口調で話す戦艦棲姫を訝しみながらも俺はポケットから玄関の鍵を出す。
予防線貼っておくがさっきの爆音ドライバーが消えてほしいってのも俺は「爆音を止めてほしい」くらいのニュアンスで言ってる。
玄関の鍵を開けようとしてそこでハッと違和感に気付いて振り返ると、あいつは砲塔とクリーチャーが合わさった様な物(生物?)を後ろに出して、爆音車に照準を合わせていた、それも人形のような無表情で。
「おい止めろ馬鹿!」
「ヤメルノネ?」
察しも頭も悪いと自負してる俺でもこいつが何をしようとしていたのか気付けた、間違いない、俺がここでストップ掛けなければ、冗談抜きに残り数秒であの車は吹っ飛んでいたろう。
何故こいつは車を吹っ飛ばそうとしたのか?
簡単だ、俺が消えてほしいと言ったからだ。
こいつは冗談でも俺がGOサインを出せば絶対に従う、従ってその要求を満たそうとする。
心底ゾッとしたのは、こいつは命令(要求)一つで人を殺そうとした、更に殺そうとしたのを俺に止められたのに何も疑問に思っていない、つまりそれだけ盲目的に従ったわけだ。
まるで機械だ、所持者が指示を出せば言葉通りの事をする、そこに本体の意志は存在していない。
ただの脱兵者だったらどれだけ良かったか・・・問題児ってレベルを遥かに飛び越したぞこれは。
俺はようやく消えかけた緊張感がまた蘇ってきてカチカチになった手で玄関の鍵を何とか開けた。
……慣れたから漏らしてなんかないぞ?
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それから何分経ったのか、現在時刻は12:30頃昼飯時だ
先程見せた無機質さはどこへやら、俺が適当に作ってやった山盛りのカレー(レトルト)をおいしそうに頬張る戦艦棲姫。
感情あるじゃないか(呆れ)
黙っていれば可愛いのに、いや黙るとさっきの無表情を思い出しちゃうから可愛くなくてもいいから喋ってろ。
「オイシイワネ」
「お、おうサンキューな、仮に不味いって言ってたらキレてたけど……」
なんで平常心でいられるんだこいつ、おまけにレトルト食に舌鼓打つのはテンプレか何かなのか……?
とりあえず切り替えよう、俺がこの戦艦貧乏舌とやっていくにはどうするかも視野に入れないといけない、どうせ一緒に居る所も見られてるし防犯カメラにも映ってるんだ。
脅されていたから一緒に買い物をした、これは事実だが世間様に認められる可能性は低い。
いや待てよ?こいつは本当に脱兵者なのか?
近くに鎮守府がある、海岸でぶっ倒れてた、明らかに艤装っぽいものを出してた。
これだけの要素で艦娘の脱兵者と決めつけるのは・・・いやそうじゃなきゃ何なんだ、上の命令なら少なくともほとんど世間に公表されてない艦娘を辺境の町にいきなり放り出すようなことはしないわけだし、戦闘とかで行き倒れてただけなら本部に戻ろうとするし。
うん、脱兵者だな、間違いない。
戦闘が嫌になったかあっちで問題を起こしたかで逃げてきたんだろう。
いやそんなことはいい、この爆弾娘曰く(もし上手く弁論できれば処刑されないかも)らしい、どんな理由があるにしろ、鎮守府にバレちゃならない+この戦艦一般人を敵に回してもいけない。
最初は絶望したが、この二つさえしなきゃ良い訳だ。
なーに、俺なら大丈夫さ、多分、恐らく、ひょっとしたら、もしかすると・・・いや無理かも
考えもまとまったし、ひとまずはこいつを刺激したりしないようにしつつ、怪しまれずに日常を過ごす!
中身は別としてルックスは良いんだ、別嬪さんと同居してると思えばそのうち癒しに変わるかも。
さて、何気なく目線をテレビに移してニュースを見てみるとニュースキャスターが真面目な顔をして現在の戦況を説明している、あ、今テロップ間違えたな。
最初はテレビから目が離せなかった深海棲艦関連のニュースも、今じゃテロップ間違いの方に目が行っちゃう程度だ、随分人事になったもんだよ。
ま、実際本土が襲撃されたの何てここ数年ないけどな。
「深海棲艦関連ノ情報ハドコマデ知ッテイルノ?」
あん?急だな、当事者の艦娘が一番色々知ってると思うんだが。
「戦況は人類側優勢、深海棲艦にも効く新兵器の開発も進んでて、今じゃシーレーンも7割方奪還してる」
「艦娘ニツイテハ?」
「あんまり知らない、情報規制が敷かれててさ、艤装出せて深海棲艦にも攻撃が通る女の子」
「聞クケレド、深海棲艦ノ見タ目は公表サレテルノ?」
深海棲艦の見た目?ああ、すっげえグロイよな、直に見たら多分SANチェック入るだろうねあれは。
「公表されてるよ、クジラを土台に触手とか霊長類の腕とか色々くっつけた見た目してるよな、キモイ」
「後ハ、何故私ヲ拾ッタノ?」
何故拾ったか?最初はまっとうな艦娘かと思ったからだよバーカ!なんて言ったら引き裂かれそうだから、ボカしておこうかな、拾ったは100%善意からだったのは本当だし。
「最初に話した通り、100%善意だよ、見かけたのは偶然だし」
「……エ、エエ、善意?」
「最初は一般人かと思ったんだよ、で、顔立ち見て外国人かと思って、角を見かけて最終的に艦娘だと思った、そんでもって救急車呼ぶか病院に連れてこうと思ったんだよ、ほらお前顔青白いだろ?」
「続ケテ」
「それで、携帯を家に忘れてきて救急車を呼べない事に気付いた、病院も遠いし、それで携帯を取りに戻るついでに安全な自宅に運んだってわけ」
まぁ、その後俺の携帯はこいつに握りつぶされることになったんだがな、あれ?こいつ疫病神じゃね?
「……ソレデ?」
「いや、自宅に運んだ直後にお前は目を覚ましたから、後はお前の記憶通りで、事の顛末は語り終わったよ」
うん、こうして思い返すといくつものIFが重なってこんな状況になってるわけだ、海を間近で見たくなったとかふざけんなよ当時の俺は、いくら気持ちのいい朝だからって海に行くとか論外だわ。
「俺は全部語ったんだからこっちも聞いていいよな?」
「……」
「だんまりは通じないぞ、黙秘権は取り調べで使いな、俺はお前曰く協力者なんだろ?」
「……可能ナ限リハ話スワ、ソレデドコマデ聞キタイノ?」
ようやくここまで持ち込めた、ここまで来たんだ、聞けるだけ聞いてやるぞ。
「まず、お前はなんで海岸で倒れてたんだ?」
俺の推測だとここから最寄りの鎮守府から脱兵してきて行き倒れた、だが?
「戦イデ撃タレテ、失神シテ例ノ海岸マデ流サレテキタ」
「ん?その理由だと鎮守府戻らないのは何故なんだ?」
「察シテイルデショウケド、戦イガ嫌ニナッタカラ」
まぁ、8割正解って所か、こいつが鎮守府の実態という国家機密を知ってる以上、何としてでも国サイドはこいつを取り返そうとするってわけだ。
「どうして俺の家を隠れ蓑にしたんだ?いやこれは大体わかるが」
「マァ、アナタノ想像通リ目立ツ外見ヲシテイルカラ、サッキハ目撃サセテ証人ヲ作ッテ、アナタヲ逃ガサナイヨウニスルタメニ外出シタケレド、モウ表ニハ出ナイワ」
「やっぱりわざと目撃させてやがったのかクソ……他には……ウーン何もないな」
何か聞けることは無いか?まぁ残りは思いつく度に聞いていくとしよう。
今度は天気予報に切り替わった映ったテレビを見るために振り返る、海も山も近いから天気が不安定なんだよねこの辺、お天気アナの話を聞いていると、玄関のドアが叩かれた。
トントントン トンドンドゴォ!
居留守使おうかと思ったけど、戸を叩いて出てこないならもっと強く叩けばいいと言わんばかりに強くドアを叩かれたものだから、たまらず出ることに。
「出テ」
「言われなくても、不安だけど」
このタイミングでの訪問者は凄い不穏だ、N○K集金人とかセールスであって欲しいと思ったのは人生で初めてかも知れない。
「はいはい今出ますよ」
不安を隠して何事も無いように扉を開けた
「ヲ!」
閉めた
うん、俺の目は腐ってる、抉り出して代わりにキャンディでも詰めときたい
目の前に少女が立ってるなんてファンタジーやメルヘンの世界じゃないんだからさ。
もう一度開けてみる
「ヲ!」
変わらぬ景色だった。
相変わらず目の前には女の子が立っている。
目の前に立ってる女の子で、まず目に入るのがクラゲのようなグロテスクな被り物、魔女の杖の様なスティック、ハイヒール。
何よりオーラみたいなものが出てて左目から比喩表現抜きに眼光を放っている。
間違いねえ艦娘だ。
そしてこのタイミングで訪れてくるってことはつまり・・・
ガサ入れ来ちゃったあああああああああああああ!?!
「ヲ?」
目の前が真っ暗になった!
戦艦に空母、エンゲル係数がマッハだね、良かったね