電脳空間のAgentが異世界から来るそうですよ?    作:ガーネイル

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 さて、早速第三話です。楽しみに待ってくれている人がいるといいなぁ(希望的観測)。
 前回に引き続きガルドの話です。
 それではどうぞ。


3.早速喧嘩を売ってみました

 三人が四人の元へ向かいだした頃。ガルドによるノーネームの現状説明が終わった。そして、ガルドが三人を勧誘する。

 

「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」

「な、何を言い出すんですか! ガルド=ガスパー!?」

 

 思いもよらない提案にジンは机を叩きながら抗議する。

 しかし、ガルドは先ほどのような獰猛な瞳でそれに怯むことなく睨み返す。

 

「黙れ、テメェがさっさと新しく名と旗印を改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。我が儘でコミュニティを追い込みながら異世界から人材を呼び込んだ。何も知らない相手なら騙し通せるとでも思ったか? その結果黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら……こっちも同じ箱庭の住人として通さなきゃならねぇ仁義ってもんがあるぜ」

 

 ガルドの獣のように鋭い眼光に怯む。しかし、それ以上に黙っていたことへの後ろめたさや申し訳なさで胸がいっぱいになる。

 ただ、十一歳の子供がそうしてしまう程に黒ウサギたちがいるノーネームは崖っぷちに立たされているのだ。

 

「どうですか、レディ ?返事をすぐにとは言いません。一度彼らのコミュニティと私どものコミュニティを視察してから十分な検討を――」

「それなら結構よ。ジン君のコミュニティで間に合っているもの」

 

 拒絶の言葉を放ったのは飛鳥だった。ジンとガルドの二人は何を言われたか分からない顔をしたまま発言者の顔を見る。

 当の本人は何もなかったかのように紅茶を飲み干すと、笑顔で二人に話しかける。

 

「春日部さんと鈴森さんはどうかしら?」

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」

「わたしもジンくんのコミュニティでいいかな。大くんと黒ウサギさんに手伝うって言ったからね」

 

さっき、黒ウサギに嫉妬していた人とは思えない発言である。

 

「なら、私が友達一号に立候補していいかしら? 私たち、正反対だけど上手くやっていけると思うの? 鈴森さんもどうかしら?」

「いいと思う。じゃ、わたしは二号で!」

 

 自分から言い出したのはいいが、少々気恥ずかしいのか隣に座っていたまりねも一緒に巻き込む。

 そんな様子を見ていた耀は少し考えてから、小さく笑い頷き返す。

 

「……うん。二人とも私の知っているタイプとは違うから大丈夫かも」

『よかったなぁ、お嬢』

 

 人間だったらホロリと涙を流していそうなくらいしみじみと言う三毛猫。リーダー二人をそっちのけでわいわいと盛り上がる女性陣。姦しいとはまさにこのような状況のことを言うのだろう。

 まるで提案をなかったかのように会話を続ける三人に顔をひきつらせ、それでもなお取り繕おうと大きく咳払いし、問いかける。

 

「失礼ですが、理由を伺っても?」

「あら、聞いていなかったのかしら? 春日部さんは友達を作るため、鈴森さんは相棒とそう決めていると言ったでしょ。――そして私、久遠飛鳥は裕福な家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払ってここに来たわ。今更、そんな環境いらないし、欲しくもないわ」

 

 飛鳥の少し小バカにした態度が気に喰わなかったのか、ガルドの額の横には僅かに青筋が浮かんでいる。ただ、ジンと会話をしている時のように怒鳴り声を出さないのは自称紳士としての小さなプライドだろうか。

 

「お、お言葉ですが、レデ」

「黙りなさい」

 

 ガチン! と音がしそうな勢いで口を閉じたガルド。その様子は余りにも不自然だった、いや、不自然すぎる。

 何故なら、ガルド本人も口を開こうともがいているが、声すら出ないからだ。ガルドの口から僅かに聞こえるのは空気が抜けているようなひゅー、ひゅーとした音だけ。

 そんなガルドを気にせず、飛鳥は言葉を続ける。

 

「まだ話は終わってないわ。貴方からはまだ聞かなければならないことがあるの。貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい」

 

 先ほどと同じように飛鳥が紡いだ言葉通りに動くガルド。今度は勢いよく地べたに座り込む。

 完全にパニック状態に陥っていた。どういったカラクリなのか全く分からないが、手足の自由は奪われ、全く抵抗が出来ない。身じろぎ一つ許さないレベルでその場に拘束されたのだから。

 騒がしいと思ったのか、先ほどオーダーを取りに来た猫耳店員が飛鳥たちに注意を促すが、その店員を制して言葉を続ける。

 

「店員さんも第三者として聞いていてほしいの。きっと面白いことが聞けるはずよ。……貴方はこの地域のコミュニティに“両者合意”でゲームに挑み、勝利したと言ったわ。だけど、さっき私が聞いたギフトゲームの内容と多少の差異があるの。……ジン君。コミュニティそのものをチップにゲームをすることは、よくあることなの?」

「や、やむおえない状況なら稀に。しかし、それはコミュニティの存続と同義になるのでレアケースになります」

 

 飛鳥が確認の意味も込め、店員を見る。店員はそれに対し同意するようにコクコクと頷く。

 

「そうよね。だからこそ、コミュニティ同士の戦いに強制力の持った“主催者権限”を持つ者は魔王として恐れられる。それを持たない貴方がなぜ、そんな大勝負を続けることが出来たのか教えてくださる?」

 

 彼女から放たれたその言葉にガルドは今すぐにでも口封じを実行する、という行為に及びたくなったが、それは出来ない。その意思に反してゆっくりと言葉を紡いでいく。

 その光景を見て徐々に周りの客は異変を感じ始める。                                                                                                                                                                                                                                     

 あの、ガルド=ガスパーですら久遠飛鳥の言葉に逆らうことは出来ないのだ。

 

「強制させる方法はいくつかある。その中で最も簡単なのは相手のコミュニティにいる女子供を攫って脅迫すること。動じない所は後回しにして、徐々にコミュニティを大きくしてから、受けざるを得ない状況を作った」

「実にらしいやり方ね。だけどそんな脅迫紛いなことをして吸収した組織が従順に働いてくれるのかしら?」

「各コミュニティから数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

 その言葉に飛鳥は片眉がピクリと反応する。そういうことに無関心そうな耀でさえ嫌悪感を隠せないでいた。一番大きく反応し、忌避感を出しているのは、まりねである。彼女自身、幼い頃から児童養護施設で育ってきた。エージェントとして働いている今でも学校との合間を縫って手伝いに行くほど子供が好きなのだ。その時も当然大輝がいるのだが、この際それは置いておく。

 彼女自身両親のことはぼんやりとしか覚えていない。それでも施設の人が親の代わりとしてしっかり育ててくれた。子供にとって親の存在とはとてつもなく大きいものなのだ。それを知っているからこそ、そんなことをするガルドが許せなかった。

 

「……ますます外道ね。それで、その子供たちは?」

「もう殺した」

 

 ガルドが放ったその一言にこの場の空気が凍った。

 ジン、店員、耀、飛鳥、まりね、近くにいた客。今この場にいる全員がその耳を疑い、一瞬思考を停止させた。

 その間もガルドは一人語りを続ける。

 

「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声に頭がきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思ったが、父が恋しい母が恋しいと喚くからイライラしてやっぱり殺した。それ以降、連れてきたガキは全員まとめてその日のうちに始末することにした。けど、身内にいるコミュニティの人間を殺せば亀裂が入る。だから証拠が残らないように」

「黙れ!」

「もう黙りなさい!」

 

 もうこれ以上聞いていることなど出来なかった。まりねと飛鳥が声を荒げるのは全く同時のタイミング。飛鳥はまだ椅子に座り、多少の自制が効いていた。だが、子供が好きな彼女はそうはいかない。机を叩いて立ち上がり、ガルドを見下ろしていた。

 飛鳥と耀の二人はもちろん、まだ出会って一時間経っていないジンでさえ、まりねの怒声に、その感情の揺れ動きに驚いていた。

 二人からすると大輝を猫可愛がりする結構変わった格好のお姉さん。また、ジンも彼女のことは優しいお姉さん程度の認識。幼馴染みである大輝でさえ、ここまで激怒しているところを見た回数は片手で数える回数あるかどうかだろう。それくらい、鈴森まりねという人物は明るくて、優しい、おおらかな性格である。

 

「さすが、絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石、人外魔境の箱庭といったところかしら? ねぇ、ジン君」

「彼のような悪党は箱庭でもそういません」

 

 その後、飛鳥がジンに今の証言を元に箱庭の法で裁けるか聞くが、答えは難しいの一言。何故ならそれまで箱庭の外に出てしまえばそれまで。ガルドがいなくなった後の“フォレス・ガロ”は烏合の衆でしかないため、それこそ瓦解するのが目に見えている。

 それだけでは腹の虫は収まらない。ただ、方法がなかった。

 苛立たし気に指をパチンと鳴らす。すると、合図だったのか今までの拘束力が無くなり、体に自由が戻る。

 小娘にいいようにされたガルド。当然彼のプライドがそれを許さなかった。

 

「この小娘がぁァァァァ!!」

 

 テーブルを砕き、雄叫びと共に体が激変する。巨躯を包んでいたタキシードは弾け飛び、体毛も変化し、黒と黄色のストライプが浮かび上がってくる。

 彼は人狼に似たギフトを所有していた。通称、ワータイガーと呼ばれる混在種である。

 ガルドは怒りに身を任せ、その剛腕を振るう。

 その瞬間、ガルドの眉間に銃が突き付けられていた。銃の持ち主はカウボーイの格好をしたカエル。一体どこから出てきたのか。その答えは簡単だった。今まりねを囲うように39枚のカードが並び、一枚だけ別にガルドの方を向いている。

 彼女が呼び出したのは緑属性のユニット『ケロール・キッド』。二丁拳銃で巧みに戦う珍獣である。

 そして、彼女の手にはもう一枚カードが握られている。そのカードがケロール・キッドの上に重ねる。行ったのは進化。カエルが電子変換され、体積を膨張させていく。そして、実体を伴って現れたのは紀元前において生態系の頂点に位置していたであろう存在。白亜紀末期において最大最強肉食の恐竜。Tレックスの形をしていた。

 

S・レックス

緑属性

種族:ドラゴン

LV1. BP8000

 

 別の世界で生きていた太古の生物に後退っていくガルド。

 少し暴走気味のまりねを止めたのは意外にも耀だった。

 

「やりすぎ……喧嘩はダメ」

 

 ごめん。と謝りながらS・レックスを撤退させ、電子情報へと戻す。耀はガルドが暴れださないようにしっかりと抑え込む。

 

「貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。――そこで提案なのだけれど、私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と私たち“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて」

 

******

 

 十六夜ら三人が合流して、早々黒ウサギが顔を青ぞめて絶叫にも近い悲鳴を上げる。

 

「えぇぇぇ! “フォレス・ガロ”とゲームする!? 何故そんな急展開な……」

「「ムシャクシャして腹が立ったから後先考えず喧嘩を売った。反省はしていない」」

「このおバカさまたち!」

 

 まるで口裏を合わせたかのように一字一句同じ言い訳をした。それに激怒し、何処から取り出したのかハリセンを二人の頭にたたきつける。

 プンプンと怒るのを十六夜が止めに入る。その後、“契約書類”を見せながらその説明を始める。

 それが終わってから今までずっと下を向き、何もしゃべらないまりねに声をかける。

 

「まり先輩。ガルド何某と何かありましたよね。じゃないと、“契約書類”以前に発生すること自体おかしいですから」

 

 黙って聞いている十六夜以外がそれに首を傾げる。どういう意味なのか理解できていないからだ。

 まりねは普段、ストッパーのような役も担っている。危険なことを承知した上でおいそれとGOサインを出すわけがないのだ。でも、それは腰抜けだからとか、争いが苦手だからとか、そういう事ではない。死、という概念を深く理解しているからである。確かにARCANAという電脳空間においては意識だけで活動できるため、死ぬわけではない。ただ、死なないだけであり、それに近い状況にまでなら陥ることはある。つまり、そこまで陥れることも可能なのである。死なないと分かっていても、直前の恐怖を味わう、体験することが出来る。それはエージェントである者なら誰もが体験したことだ。

 だからこそ、それすら知らない女の子二人を止めないことが不思議で仕方なかった。

 

「わたしは、ガルドさんが許せなかった。黒ウサギさんの説明で命を失うことがあることは理解したつもり。ただ、自分が甘いだけなのかもしれない。それでも、何もしていない子供の命を奪うことだけは許せなかった。大くんなら分かるでしょ?」

 

 その言葉を聞いて理解した。ガルドはまりねの触れてはいけない部分に触れてしまったようである。この場にいる大輝以外が知らないこと。先程も説明したように彼女は三歳の頃から児童養護施設で育ってきた。引き取られてから義理の両親ができ、高校生となった今でもその施設の手伝いに行っている。だが、それは育ててくれた恩を返しているなど、そう言うことではない。知っている子でも、全く面識がなく知らない子でもいい。ただただ純粋に子供という存在が、子供と遊ぶのが、触れ合うという行為が好きなのだ。

 想像でしかないが、優しい子、ムードメーカーのように明るく元気な子。色んな子がいて、皆が大きくなったらこんな大人になりたいと、夢を持っていただろう。両親から引き離されて不安があればそれだけで騒ぐし、泣きもする。

 それをただ、五月蠅かったから子供を殺したと言われて平静を保てるだろうか。それだけで殺した人を許せると思うだろうか。

 

「分かりました。それなら思いっきりやっちゃってください」

「何でそうなるのですか!」

 

 シリアスっぽいムードから一変。黒ウサギのハリセンを用いたツッコミにより、元の雰囲気に戻る。

 

「で、でも“フォレス・ガロ”相手なら十六夜さんと大輝さんがいれば……」

「俺は出ねぇぞ」

「十六夜と同じく」

「当たり前よ。貴方たちになんか参加させないわ」

 

 フン、と鼻を鳴らし答える二人と何ら問題もないと言わんばかりに答える一人。黒ウサギはそんな三人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ。これからコミュニティの仲間なんですから協力しないと」

「そう言うことじゃねぇよ。この喧嘩はこいつらが売って、やつらが買った。俺が手を出すのは無粋ってもんだ」

「あら、よく分かってるじゃない」

「大輝さん……」

「黒ウサギ、俺たちが入ったら過剰戦力になるぞ」

「はい?」

 

 大輝に助けを求め、見やるが大輝の意図が分からず首を傾げる。だが、その言葉は正しい。

 

「まり先輩は、俺より力は弱いかもしれないけど、上手な使い方を知っている。だから格上にとも対等に勝負できるし、実際勝利もしている。多分、女性三人の中で一番強いのは先輩だ」

 

 その言葉にムッとしたのはそれなりにプライド高い飛鳥。だが、ガルドとの一連のやり取りを思い返すと少なからず思い当たる節はある。

 不意打ちとはいえ、誰もが思った。あんな珍獣に何が出来るのかと。ガルドもその正体を知った瞬間、次の行動をとった。あれでは意味がない。もっと大きな力が必要だと。誰もがそう思い、怪力を発揮できる耀が出ようとしたがそれは必要なかった。何故ならカエルが現代的要素の含まれた恐竜に姿を変え、ガルドに威嚇していたからだ。

 ユニットの中にも進化ユニットというものが存在する。それはユニットの上に該当する色の進化ユニットを置けばいいだけ。属性の縛りはあれど、種族の縛りはない。

 一瞬の緊張の中、銃を持ったカエルで油断させる。だが、その後、地球という惑星に存在した太古の王者『レックス』を呼び出し、改めて流れをこちらに持ってくる 。だが、これは本来通用しない手だ。ユニットという存在を知らないからこそ通用したのである。

 結果として、耀が止めに入るまで一時的とはいえ誰も身動き出来なかった。という事実がそこに残った。

 耀が止めていなかったら血祭りになっていたのはガルドだ。そうなったら周りは捕食される様を見ることになっていただろう。その事実から納得するしかなかった。

 その言葉に安心か、呆れか分からないが一息吐いた黒ウサギ。何とか自分なりに納得するしかなかった。

 

 

 

 話しがひと段落したところで椅子から腰を上げ、隣に置いた水樹の苗を抱き上げる。一つ咳払いしてから全員に切りだした。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎するために素敵なお店をチェックしていたんですけれども、不慮の事故続きで本日はお流れになってしまったので、後日きちんと歓迎を――」

「無理しなくていいよ。コミュニティが崖っぷちなのはここにいる皆が理解しているだろうから」

 

 三人を見て、それを理解しているか確認すると頷き返した。ジンも申し訳なさそうな顔をしている。黒ウサギはウサ耳まで赤くしながら頭を下げる。

 

「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが……黒ウサギ達も必死だったのです」

「気にしてないわ。そもそも、コミュニティの水準がどうこうなんて気にしてないもの。春日部さんはどう?」

「私も気にしていない。あ、……でも」

 

 耀が何かを思い出しかのように呟くが言っていいのかを悩んでいる。ジンは身を乗り出し、それを問う。

 それを迷いながら口にする。

 

「そ、そんな大したものじゃないよ。私は……三食お風呂付で寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

 そんな申し出はジンの表情を固めるのに十分すぎる威力を持っていた。

 この箱庭の中で水は買うか、数km離れた大河から汲んでくるしかない。そんな苦労が必要な土地でお風呂というのは大変贅沢なことなのだ。

 固まっている“ノーネーム”のリーダーを見て取り消そうとしたが、それよりも早く嬉々として黒ウサギが持っている水樹の苗を持ちあげながら訂正を入れる。

 

「それなら大丈夫です! 十六夜さんがこんなに大きな水樹の苗を手に入れてくましたので問題ありません! 水路を復活させられるので水を買う必要はありません!」

 

 お風呂に入れることが分かり、安堵したのか女性陣三人は喜んでいる。

 ジンは一度コミュニティに帰ることを提案するが、それを否定する。

 

「いえ、ジン坊ちゃんは先に先に帰っていてください。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹のこともあるので」

「“サウザンドアイズ”?」

「Yes! 特殊な瞳のギフトを持つ者たちの群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸い、この近くに支店がありますし」

 

 反論も出なかった為、ジンを除き、六人で“サウザンドアイズ”に向かう。その間、五人は興味深そうに街並みを見ている。あっちを見てこっちを見てと随分せわしない。

 

 運河の近くに立っていた木から舞っているピンク色の何かが視界に入る。

 

「桜……のようなものかしら? この世界は春なのね。私の世界では真夏だったけど」

「いや、まだ初夏だろ? だったらまだ気合のある桜があっても不思議じゃねぇだろ」

「私のところは秋だったよ」

「俺たちのところは秋に入る少し前だったな」

 

 綺麗なくらい噛み合わない会話に全員が疑問符を浮かべる。それを見ていた黒ウサギが可笑しそう笑う。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など違ったところがあるはずです」

「へぇ。パラレルワールドってやつか?」

「近しいものですね。正しくは立体交差平行世界論というものですけれど……今からですと一日二日では終わらないのでまたの機会に」

 

 目的地に近付いてきたのか黒ウサギが語るのをやめる。商店の旗は青い生地に向かい合う二人の女神像が描かれている。どうやらそれが“サウザンドアイズ”の旗らしい。

 日が暮れ始めているからなのか割烹着を着た店員が看板を下げている。

 黒ウサギが店員に滑りこみでストップを――。

 

「待っ」

「待ったなしですお客様。うちは時間外営業をやっていませんので」

 

 ……掛けあってすらもらえなかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨むが、全く気にしない。流石、超大手だけあって客のあしらい方というか、捌き方には大変慣れている。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

「ま、全くです、閉店時間五分前に客を締め出すなんて!」

「文句があるなら他所のお店へどうぞ、あなた方は今後一切の出入りを禁止します。出禁です」

「出禁!? これだけで出禁って御客様舐めすぎでございますよ!」

 

 ピーチクパーチクと騒ぐ黒ウサギ。店員の彼女を見る目はまさに絶対零度。声に侮蔑を交えて返答する。

 

「なるほど。“箱庭の貴族”たるウサギのお客様を無下に扱うのは確かに失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティ名を教えていただけますか?」

 

 その言葉に対し即座に返せる答えを持っていなかった黒ウサギは言葉に詰まる。代わりに十六夜が名前を答える。だが、それも意味を成さなかった。

 

「ふむ。だったらどこの『ノーネーム』か旗印を見せてもらってよろしいでしょうか?」

 

 黒ウサギが、ガルドが語った名と旗印がないコミュニティのリスクというのはまさにこの状況を指していた。自分たちを証明するものがない。相手に信頼させるためのモノが存在しないのだ。

 

(ま、まずいです。“サウザンドアイズ”は“ノーネーム”このままだと本当に……)

 

 大手と呼ばれ、力のあるところだからこそ客を選ぶのだ。信頼できるものだけを商売相手にする。リスクを負うような相手に商売はしない。

 全員の視線が黒ウサギに集中する。心底悔しそうに小さな声で呟く。

 

「あの……、その……私達に旗印は……」

 

 ありません。そう言おうとしたが黒ウサギの言葉は店内から爆走してきた和装の美少女ならぬ美幼女にタックルされ、クルクルとキリモミ回転しながら街頭の向こうにある浅い水路まで飛んで行った。

 基本的に驚くことの少ない十六夜を含め、全員が目を丸くしている。ただ、店員だけは痛そうに頭を抱えていた。

 

「……おい、店員。この店にはドッキリサービスでもあるのか? んら、別バージョンで是非」

「ありません」

「何なら有料でも」

「やりません」

 

 真剣な表情の十六夜と女性店員。両者共にマジだった。

 一方、タックルをかました白髪の和装美幼女というと黒ウサギに抱き着き、豊満な胸に顔を埋め、擦り付けていた。

 

「し、白夜叉様!? どうしてこんな下層に!?」

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしていたからに決まっておるだろうに! フフ、フホホフホホ! やっぱりウサギは触り心地が違うのう! ほれ、ここが良いか、ここが良いか!」

 

 白夜叉と呼ばれた幼女の言動はむしろオヤジのそれだった。見た目にそぐわず、思っていたより残念な様子。とはいっても世の中にはニーズというものがある。そこがいい、という変わった者もいるだろう。

 

「白夜叉様! ちょっと離れてください!」

 

 いつもでも頬ずりをやめない白夜叉を引きはがし、頭を掴んでお店の方へと投げる。飛んでいった先には十六夜が立っている。本来だったら、両手で受け止めるのだろうが、彼はこの場にいる問題児の一人。そんなことをするはずがなかった。

 右足を振り抜き、耀の方へと蹴とばす。ノリがいいのか、彼女はそれに対し、同じように蹴り上げる。その光景はさながら、セパタクローでもやっているようにしか見えない。蹴っているものがボールだったらという話ではあるが。

 白夜叉が次に飛んで行ったのは端末を操作している大輝。端末の操作に夢中で気付いていない。

 まりねが声を掛けようとしたが遅かった。二人は頭から激突し、沈没する。

 

「だ、大くん!」

「やっべ!」

 

 白夜叉のことはそっちのけで大輝の元へ向かう問題児たち。一足先に復活した白夜叉が声を荒げる。

 

「飛んできた初対面の美少女を蹴り飛ばすとは、おんしら何様だ!」

「十六夜様だぜ、以後よろしく和装ロリ」

「私は春日部耀。以下同文」

 

 未だ、倒れている大輝のことを気にしつつ、飛鳥が白夜叉に声をかける。

 

「貴女はここのお店の人でいいのかしら?」

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよ。仕事の依頼ならおんしの年齢のわりに発育の良さそうな胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

 黒ウサギに抱き着いた時からそうだが、和装ロリの皮を被ったセクハラおやじと言われたら反論の余地なく同意されそうな発言である。というか、こんな人物が幹部にいるコミュニティ。……かなり不安である。だが、黒ウサギがここに連れてきたということは当てがここしかないのだろう。

 

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

 女性店員は冷静に釘を刺すが、本人は何のその。自分の欲が優先らしい。店員の注意は気にも留めていない。

 白夜叉はいつの間にか復活している大輝を含め、十六夜たち五人を見回す。そしてニヤリと付きそうな笑顔を浮かべる。

 

「ふふん。お前たちが黒ウサギの新たな同士か。異世界の人間が私のところに来たと言うことは……ついに黒ウサギが私のペットに」

「なりません! 一体どんな起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

 黒ウサギが耳を逆立てて怒る。このままだと一向に話が進む気がしない。どこまで本気だったのか分からないが、白夜叉が店へと招く。

 

「まぁいい。話しは店で聞こう」

「よろしいのですか? 彼らは旗を持たない“ノーネーム”。規定では……」

「“ノーネーム”だと分かっていながら名を尋ねる性悪店員の詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

 女性店員としては規則を遵守しただけなのだ。気を悪くしても仕方ない。六人と一匹は女性店員に睨まれるような形でお店の中へと入っていった。




 仕事が始まってから1ヵ月が近づこうとしているわけですが、夜勤は眠気との戦いが大変です。それでも頑張りますけどね。
 それはそれとして、今回、COJ的要素が少し出てきました。次回はさらに多く出てくる予定です。ストックはありますが、そんなに数が多くありません。次回はいつになるか分かりませんが、なりべく速く投稿出来るよう頑張るので待っていてください。
 いつからヒロインたちを強く出していこうかぁ…………。
 それではまた。
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