君が可愛く見えるまで。   作:4kibou

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弾ける友情の香り。

 一通り二人から説明を聞いた弾は、ふむと顎に手を当てながらきっぱりと。

 

「なるほど、分からん」

 

 解答に迷いが無かった。これは酷い、と蒼は思わず頭を押さえる。顔は抜群、スタイルも文句なし、おまけにファッションセンスもそこそこ。一夏が居なければ女子一同から引っ張りだこ、居たとしても人気を二分しそうなスペックを持つ彼がモテない理由を、なんとなく察する一言だ。これには一夏も思わず苦笑い。というより顔が引き攣っている。それらの反応を弾は気付かないのか、気にしないのか、腕を組んでうんと唸った。

 

「朝起きて女になって、それが知り合いの姉による犯行でした、とか。まだお前が悪の組織に捕まって肉体改造手術を受けた、って話の方が信憑性があるぞ」

「なんで俺がそんな仮面のライダー的な性転換をしなきゃいけないんだよ」

「いやどんな理由であれ性転換することはないだろう……」

 

 そもそも一般人を拉致して性転換させる悪の組織というのは、その目的以前に色々とヤバイ感じだった。まあ、というのはともかく、弾の言っていることはそこまで的外れでも無い。顔の知っている人物によって女の子にされました、なんて空想上の話にも程がある。だがそんな無理難題且つ奇想天外なコトをやってのけるのが世界のSHINONONOこと篠ノ之束だ。

 

「大体一夏、お前気付かなかったのかよ。注射されたんだろ?」

「気付かなかった。本気で。ぶすっとやられてたのに」

「鈍感過ぎじゃねえか? 人の好意的にも肉体的にも」

「そんなワケあるか。針で刺されたら普通に痛いぞ」

 

 あーだこーだという二人の会話に耳を傾けながら、蒼はなんとなくその理由について考えてみる。まあ、あの人ならどうとでもすると思うが。答えが出るまでもなく答えが出てしまった。突き詰めると篠ノ之束に出来ないことはまともに考えても出来ないことで、彼女に出来ることは人類が努力して出来ることでもある。何でもできる希代の天才、細胞レベルでオーバースペックと豪語するのは真実でしかない。

 

「で、それ、戻らねえのかよ」

「いや、一応戻るには戻るんだが……」

 

 ちらり、と一夏が蒼の顔を覗き込むように視線を向ける。性別が変わろうと、考えていることが比較的顔に出やすいのが彼だ。その行動に込められた意味を、蒼は瞬時に理解した。登校する前に軽く話し合った結果、性別が元に戻るかもしれない、という情報は基本的に隠す方針になっている。理由としては幾つかあるが、なんにせよ、今朝の男共によるお祭り騒ぎを思い返せば自然と理解できるだろう。

 

「一年間無事で過ごせば元に戻る、って話だ」

「ちょっ、蒼!?」

「良いんだ。弾なら何も心配いらない」

「……? なんかよく分かんねえけど、それなら安心じゃねえか」

 

 頭にクエスチョンマークを浮かべながら、一体何が問題なんだ? と聞いてくる弾。たしかにそれだけなら何も問題なかったが、そうはいかないのが束クオリティ。人に迷惑をかける悪戯事に関しては随一だ。

 

「無事で過ごせば、って言っただろう?」

「ん? 無事、だろ? なにか変な条件でもあんのか?」

「ある。一夏自身の意思に関係なく、キスとかエッチしたら女で固定されるらしい」

「ほーん……なんだか面倒なことになってんなあ」

 

 ぎっと弾が椅子の背もたれに体重を預け、どこか上の方を見上げながら呟く。本人の問題で無いのだから当たり前だが、全くもって他人事ですという反応。しかしながらそれでも、理解してもらえただけ良しである。蒼と一夏がお互いを見合わせながら苦笑していると、不意に弾がぽつりと漏らす。

 

「……待てよ。てことは今の一夏にキスすれば永遠のチャンスが平等に到来する……?」

 

 盲点だった、と言わんばかりの表情。そして。

 

「なあ、一夏」

「弾。待て、なんだ今の不穏な一言。今の流れだと嫌な予感しかしないぞ」

「率直に言う。――――その唇、俺に寄越せ」

 

 無駄に格好良い重低音なのが余計に本気度を増している。

 

「誰がやるか! 男とキスなんて死んでもごめんだ!」

「良いだろうが別に! 減るもんじゃねえし!」

「減るわ! 俺の正気度とか純潔が減るわ! 大体男に戻れなくなるだろうが!」

「うるせえ! 良いからさっさと俺にキスされろ! 例え中身がお前だろうと美少女とのキスが体験できて尚且つ今後の未来も明るいとくれば一石二鳥どころの話じゃねえ!」

 

 うがーっ! と各々の言い分を並べ立てながら取っ組み合う双方。性転換の影響もあり、純粋な力比べでは一夏の分が悪い。旗色は弾の優勢。じりじりと迫り来る赤髪の友人に、一夏は負けじと必死で押し返す。

 

「こ、の……っ、いい加減に、しろ!」

「あ」

 

 ごうっ、と一夏が右足を振り上げる。そのつま先が描く軌道を見た瞬間に、蒼はこれから起こる悲劇を理解した。霊長目ヒト科ヒト属のオスである彼には、想像したくもないことの一つ。一般的な上履きの先端を覆う赤色のそれが、今、五反田弾の股間に向けて綺麗な弧を描き――

 

「あ゛ッ」

「……あ」

「…………うん。あれは、痛いな……」

 

 メリークリスマス、という声がどこからか聞こえてくる。シャンシャンという鈴の音の空耳は、不埒な真似をしようとした男の不幸を笑っているような気がしてならない。時間にしておよそ十五分。弾は床の上を芋虫のように這いずりながら、苦悶の声をあげ続けた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「この世の地獄を垣間見たぜ……」

「正直やりすぎた。マジですまん」

 

 がたがたと小刻みに震えながら、弾はそっと椅子に座る。男なら誰しもその痛みに同情してしまう。転生経験のある蒼も、性転換経験をしている一夏もそれは同じだ。あの勢いで折れていなかったのが不幸中の幸いか。なにはともあれ、五反田弾の五反田弾は絶賛デリケートな時期に突入していた。

 

「でも、お前にだって原因はあるんだぞ。そこは自業自得だ」

「そうだな……ちょっと、ふざけすぎたか。よし、そんなら真面目にやろうぜ」

「……弾が真面目といって上手くいく想像が出来ないよ、俺は」

「はいそこそこー、ブルーボーイ。静かにしなさい」

 

 変なあだ名を付けないでもらいたい。むっと膨れる蒼を余所に、弾は今一度腕を組んで真剣な様子だ。

 

「まあ、さっきまでの話で大分理解できた。ようはコイツの処女を一年間守り通せば良いんだろ?」

「言い方はあれだけど、それで大体合ってる。ついでにキスも奪われないように」

「そりゃあ大変だ。なにせ一夏ちゃんは可愛いからなあ」

「……意外だ、弾が協力的なんて」

 

 当然、と彼は鼻を鳴らしながら胸を張った。そうして一秒も経たないうちにそれを崩し、がしがしと後頭部をかきながら。

 

「一夏。俺もな、友人としてお前がそれだと困るんだよ、正直」

 

 少しだけ困ったように眉尻を下げながら、弾が誤魔化すように笑う。彼はたしかに自分の欲望に忠実なところがあるくせ、本質的にはヘタレという残念美男子だが、根っこの部分にある人の良さは相当だ。なんだかんだで周りの人間から嫌われないのは、きっとそういう“愛すべき馬鹿”といった雰囲気を持っているからだろう。

 

「ま、本当のコトを言うと、だ。彼女作って青春したいのも山々だが、お前らとこうして馬鹿やるのも悪くはねえからな。腐れ縁みたいなもんだけど、俺にとったら大切な縁なのに変わりないしな」

「弾…………」

「それにほら、なんだ。お前が男じゃねえとやっぱ調子狂うんだわ。さっさと戻っちまえよ」

「……ばーか。戻れたら戻ってるよ、ったく……」

 

 恥ずかしそうに言う弾の言葉は変わらず真っ直ぐで、一夏はつい泣きそうになった。普段はいつも巫山戯ているからだろう。そのギャップが元々良い見映えとも相まって、この時こそは一夏に勝るとも劣らないと錯覚するぐらい。――が、この男、内心では全く違うことを考えていた。

 

『これが蘭に知られたら間違いなく俺がとばっちりを受ける』

 

 なによりも先ず自己保身。自分第一。妹の制裁はマジで洒落にならないという評価を下している弾にとって、かの五反田蘭が想いを寄せる相手が女になっていたという事態はかなり不味い。

 

「そうと決まればなにがなんでもやるぞ。我ら貞操隊ボーイズ、ここに始動だ!」

「貞操帯の“帯”と“隊”をかけてるつもりか……?」

「ネーミングセンスが酷すぎるだろう……」

 

 割と冗談になってないあたり、なんというか恐ろしかった。

 

「ところで、一夏。一つ聞きたいんだが」

「ん、なんだよ」

「お前さ、今女の子になってるワケだけど」

「ああ。……それが?」

「やっぱり自家発電とか直接指でやって――」

「「アウトだ馬鹿」」

 

 ……ともあれ、一応、頼りになるかはさておいて、秘密を共有する仲間が増えたのだった。

 




どうでも良い情報ですが、このオリ主くん諸事情で割とM寄りだったり。
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