君が可愛く見えるまで。   作:4kibou

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イカれたモブキャラを紹介するぜ!

包茎の四ツ浪!


……以上だ!


晴れのち心は雲り気味。

 風になびく黒髪、ふわりと揺れるスカート、それらに伴って漂う甘い香り。

 

「……見られてるな」

「気にしたら負けだ。俺も気にしない」

 

 弾を仲間に引き込んだ入学式の翌日、とある男子が女の子の状態での登校二日目。制服を着た学生たちで埋め尽くされる朝の通学路は、とある女子の存在にざわめいていた。制服を程よく崩して着こなし、背筋をピンと伸ばして歩く絶世の美少女。その顔も、スタイルも、身嗜みも文句なしの一級品だ。身のこなしは少し及第点に及ばないぐらいか。彼女の名前は織斑一夏。知る人ぞ知るイケメン男子中学生――だった者である。

 

「可愛い……」

「綺麗……」

「美しい……」

「天使かよ……」

 

 ぼそぼそと、左右に割れた生徒らの呟きが耳に入る。女である一夏を目にした途端に、彼ら彼女らはずばっと人の波を割った。まさにモーセの海割りもかくや、といった勢いであったことを蒼はここに記録する。とはいえ、左右には常に人、人、人の連続。途切れる様子は未だない。おまけにこの注目度、並大抵のそれではなかった。

 

「気にしたら負け。気にしたら負け……!」

「無理はしないでくれよ。多分これ、何かアクションを起こしたら失敗だ」

「そんなの分かってるよ……はあ。憂鬱だ」

 

 僅かに肩を落としながら、一夏はひとつ息を吐いた。昨日の時点では特に何とも無かったが、この様子だと登校してからも苦労しそうだ。“新学期早々3年A組に現れた謎の美少女! その正体は元男の織斑先輩!? ”という紙面が学校新聞に載らないことを祈る。大事と言えば大事なのだが、あまりそう大々的に取り扱われるのはよろしくない。特に性別固定化云々の話が漏れた場合、最悪ふざけていた弾のように無理矢理キスやそういうコトを迫ってくる輩がいないとも限らなかった。

 

「とにかく、余計なことはしないように立ち回らないと」

「あんまり気張らなくても。普通にしていれば良いんじゃないか?」

「ボロがでるのが怖い」

「気負いすぎると逆効果だ。もう少し、肩の力を抜いてくれ」

 

 そう言う彼だが、台詞の割に動きは若干硬い。多くの人間から関心を向けられることに慣れていないどころか、むしろ人と接すること自体あまり得意としていない蒼にとって、この状況は非常に辛かった。先ほどから一夏を向いたものに交じって、ちらちらと送られてくる視線が痛い。およそ九割が刺々しいもの、という事実が特に。

 

「何を言うか。お前だって緊張してるくせに」

「緊張というより、なんというか、……なんだろうな」

「なんだよ、それ」

「なんだっけ、これ」

 

 知らねえよ、と一夏は首をかしげる蒼を横目で見ながらため息をついた。頼りになる時はとことん頼れるのだが、平時はやっぱり少し変というか、ズレているというか、天然ボケというか。そんな風に呆れる一夏に、ふと、正面から声がかかった。

 

「――やあ、おはようございます。良い朝ですね、センパイ」

「え? あ、うん、おはよう。たしかに良い朝、だけど……」

 

 “……誰だったっけ。見覚えはあるんだが”と、一夏は目の前に突如現れた美男子を見ながら考える。サラサラとした金髪、女子にモテそうな甘いルックス、透き通るような声、爽やかな笑顔は標準装備。蒼や弾と同じ制服だが、袖口に一本入ったラインの色からして二年生、つまり年下にあたる。そこまでいって、やっと彼は答えに辿り着いた。

 

「……あー、サッカー部の四ツ浪(よつなみ)だっけ」

「知っててくれたんですね、嬉しいです。でも、すいません。俺はセンパイの名前をご存じなくて……もしよろしければ、教えていただけませんか?」

「……え、えっと……」

 

 ちら、と一夏が斜め後ろに自然と下がって待機していた蒼を見る。これは正直に話すべきなのか否か、ということだろう。まあ、歩いていて突然こんな対応をされたら、誰だって他の誰かに訊きたくもなる。蒼はふんふむと顎に手を当てて、これが一体なんなのかを直ぐさまに理解した。周りにバレないように、口パクで一言。

 

『一夏。君、その子にナンパされてる』

「……? ……。…………、……えっ!?」

「? センパイ?」

 

 綺麗な段階形式の驚きだった、思わず拍手を送りたくなるようなほどの。それにしても行動力が凄まじい、と蒼は堂々と立つ男子生徒を見る。サッカー部二年現主将四ツ浪 紅樹(こうき)。昨年にも少し噂になっていた、一夏に埋もれるイケメン群の一人。こうして比べる相手がいないとまあ普通に格好良い。ちなみにとある筋の噂では、女癖が悪いだとか男のくせに調子乗ってるだとか。

 

「あ、いや、えーっと……あ、そうだ。よく先輩って分かったな」

「タイの色で分かりますよ。センパイに似合う綺麗な水色ですね」

「そ、そっか……よく見てるんだな……」

「ええ、気分を害してしまったらすいません。……あまりに、センパイが綺麗だったものですから」

 

 くしゃりと、四ツ浪紅樹は恥じらうように笑う。

 

『なんだコレ』

 

 一夏は内心で頭を抱えた。ワケが分からない。いや、なんとなく理由とか意味としては分かるのだが、男に口説かれるというこの状況が全くもって分からない。ダレトクだダレトク、責任者出て来いと叫びたい気持ちである。生粋の女子なら今の一言二言で“きゅん”とくるのかもしれないが、あいにく一夏の体は女、頭脳は男だ。その名もTS少女一夏。週刊誌では連載出来そうに無い。

 

「は、はは……そ、それで、なんだったっけ」

「センパイの名前、です。差し支えなければ、教えて欲しいんです」

「なら、あれだ。他の人に聞いてみたら……」

「――センパイの口から直接じゃ、駄目ですか?」

 

 何故だろう、一夏はとてつもなく名前を教えるのが億劫になった。その一言により別の意味でクラッとして、目が半分死にかける。おかしい、俺はついこの前まで男だったのに。嘆く一夏の言い分はしかし、女になってしまった事実の前にあっけなく潰れてしまう。昨日一昨日去年一昨年、はては生まれた時に男であろうとも、今現在進行形で女なのであれば、その人物は間違いなく絶対に女なのだ。現実は非情である。

 

「無理だ、蒼。助けてくれ」

「と言われても。俺はこういう経験、ないんだけど」

「ソウ……? ああ、たしか、上慧センパイ」

「……あれ。いや、まさか、覚えられてるとは」

 

 殆ど関わり合いないのに、と蒼は驚きながら言う。

 

「色々と有名ですよ、上慧センパイ含めた織斑一派。……まあ、その中でも、あんまり注目はされてないと思いますけど」

「…………注目?」

「うん。まあ、そうだろうね」

 

 さらりと吐いてきた様子見の嫌味を無視して、蒼は極力微笑みながら答えた。実際、真っ当に有名な一夏に付随するものとして、弾や数馬、蒼もそこそこに他校へ名が知れている。主にイケメンとその取り巻きだとか、トラブルメーカーの四人衆だとか、決して良い意味とは言えないが。一年前まではそこに鈴も加えて、割と問題児的な武闘派集団だった。

 

「にしても、上慧センパイの知り合いですか。 ご一緒に登校を?」

「一応は、そうだけど」

「へえ。……なんだ、じゃあ、問題ないっすね」

「……蒼?」

 

 一夏がなにかを感じ取ったのか、不思議そうな表情で彼を見る。煽っているワケでも、馬鹿にしているワケでもない。恐らく四ツ浪という人間は器こそ小さめであれ、そのような真似をする男ではない。あるのは無駄に塗り固められて肥大化したプライド。根拠はともかく、絶対な自信を持って、己が上慧蒼よりも上だと確信している。

 

「――センパイ」

「ひあっ!?」

 

 一夏の手がそっと取られる。思いのほか自然で、尚且つ優しい手付きだったからか、変な声が漏れた。くそう、と彼は胸中でぎりぎりと歯を噛む。が、失態を恥じるよりも早く、件の男子が言葉をかけてくる。

 

「俺ならあの人よりきっと、センパイと一緒に居て楽しませることができますよ」

「いや、待て四ツ浪。ちょっとあれだ、うん。待とう」

「顔は可愛くてその口調も素敵です。ね、センパイ。上慧センパイとじゃなく、俺と歩きませんか?」

「は、はい? その、お前はなにを……」

 

 そして、金髪イケメン美男子である彼は。

 

「それに、あの人とセンパイじゃ釣り合いませんよ。正直、魅力ないでしょう?」

「――――」

 

 相手をしている人物が織斑一夏だとも知らずに、特大の地雷を踏み抜いた。

 

「……てめえ、今なんて言った?」

「だから、釣り合わないですって。センパイと上慧センパイじゃ、差がありすぎて」

「差? 差だと? 本気で言ってんのか?」

「……一夏?」

 

 今度は蒼が訊ねる側だった。ゆらり、と一夏が肩を揺らして姿勢を整える。そうしてクルリとUターン、後ろで成り行きを見守っていた友人の腕をがしっと掴み。

 

「行くぞ、蒼」

「え、ちょっと」

「良いから。ほら、早くしないと遅刻するだろ」

「でも話が……って聞いてくれよ」

 

 ずるずると引きずられていく蒼と、何やら不機嫌なオーラをまき散らす一夏。四ツ浪を含めた生徒一同は、その二人の姿を呆然と立ったまま眺めていた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ――ああ、どうにも、苛々する。

 

「ちょっと、一夏。どうしたんだいきなり」

「いきなりもなにも、あの野郎があんなコト言うからだ」

 

 校門を過ぎても一夏の怒りは収まらないどころか、益々潜めていた苛烈さを露わにしていった。彼女の腸は煮えくりかえるどころか、今やぐつぐつと煮えたぎって沸騰寸前。

 

「蒼に魅力が無いだの、差があって釣り合わないだの、好き勝手言いやがって……っ」

「それは事実だと思うけど」

 

 なにせ今の一夏は目に入れても痛くないレベルで可愛い。友人同士で問題なかった同性の頃はともかく、異性となるとどうしても他人の目はそういう風に捉えてしまう。平々凡々な見た目の蒼と、完璧と言えるまで整った一夏では雲泥の差だ。

 

「事実なワケあるか! 大体、あいつがお前のなにを知ってる!」

「殆ど知らないんじゃないか?」

「ああ、知らないだろうな! お前が教科書忘れた弾に貸してやったり、女子がプリントの束を運んでたら代わったり、放課後の掃除当番サボらずやってたりすること!」

「よく覚えてるな。いや、実を言うと、どれも気まぐれなんだけど」

 

 それなのに、と一夏は続ける。

 

「本気で何様だ、あいつ……完全に頭にきた。ここまでムカついたのは久しぶりだ」

「……というか、どうして一夏がそこまで怒るんだ?」

「友達を悪く言われて腹の立たない奴がいるか!」

 

 がーっと蒼に向かって吠える。

 

「…………そう、か」

 

 彼はぱちくりと目をしばたたいて、少し恥ずかしげに頬をかきながら呟いた。

 




モブキャラくんのヒミツ

・十秒で考えられた名前。
・五秒で考えられた設定。
・なんとなく金髪イケメンはサッカー部だろという偏見。
・今後一切メインに取り扱われることナシ。
・女尊男卑の社会でこれはショウジキナイワーだった。

・実は主張の強いタイプなので一夏よりオリ主くんの方が相性が良い。
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