雄英で保健医(見習い)やってます   作:メロンパン派閥

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長らくお待たせして申し訳ありません。そしてありがとうございます!

物語の調整を入れさせていただきました。詳しくはあとがきに記載しております。


歩みを止めないように

緑谷くんと心操くんの第1試合の後も、着々と対戦は進んでいった。

 

まずは第2試合、抜群の戦闘能力を持つ轟くんと、意外性で勝ち残ってきた青山くんの対戦カードだ。

 

師匠に「何かあったら呼ぶから、あんたは近くで見てきなさい」と出張保健室を追い出された俺は、教員席でオールマイトとステージを眺めていた。

 

「轟少年相手かぁ…少しくじ運が悪いかな」

「青山くんの戦闘能力自体、高くなってきてはいるんですけどね。彼の個性の扱いづらい状況の中、同世代で圧倒的とも言える轟くんが相手となると…中々厳しいでしょうね」

 

正直轟くんは、戦闘センスで言えばそこらのプロヒーローに並ぶ、もしくは超えるレベルで優れている。オールマイトや相澤先生ならともかく、俺のようなヒーローでは瞬殺されかねない。

 

そこを補うとすれば、ヒーローとしての経験だ。例えば俺ならば場数の力で何とか立ち回れる……はず。しかし青山くんはまだヒーローの卵。ここで打開策を生むのは難しいかもしれない。

 

(…いや、先生が信じなきゃ、誰が信じるんだ)

 

青山くんは青山くんなりに努力してきたはずだ。2人とも可愛い生徒。勝負が始まる前から決めつけてどうする。

それに彼はここまで、周りが予想だにしないような方法で戦ってきた。

 

「……青山くんならきっと、みんなを圧倒する何かを見せてくれますよ」

「彼の言うキラメキ、ってやつかな? 楽しみだね!」

 

オールマイトが楽しそうに笑う。彼にとっても青山くんは可愛い教え子だ。たとえどんなに不利な状況だろうとも、その可能性に期待してしまうのだろう。

 

『さぁー2回戦! 先が読めないキラメキボーイ! ヒーロー科青山優雅! 対 優秀過ぎてなんなんだ君! 同じくヒーロー科轟焦凍!』

 

ステージで向かい合う2人。青山くんはお腹を抑え、どこか緊張した様子だ。

 

「…オールマイトさん、轟くんの様子、どこかおかしくないですか?」

「むむ? あまりよく見えないが…精神統一してるんじゃないかな」

「そう、ですかね…」

 

轟くんは集中している時と少し違う、尖った雰囲気を醸し出しているような気がした。

 

プレゼントマイクが大きく息を吸い込む。轟くんが狙うとすれば、短期決戦。勝負は一瞬で着く可能性が高い。

 

『レディィィィイスタート!!!』

「…悪ぃな」

 

一瞬。まさしくそれは一瞬だった。

 

開始の合図と共に、ステージに巨大な氷柱が現れた。それは轟くんの個性による氷結の「最大火力」だろう。

 

スタジアム全体が冷気に覆われる。それほど物凄い力だった。

 

あっという間に決着がついた、スタジアムにいる多くがそう思っていた。

 

「緊! 急! 回! 避!」

 

青山くんは凍らされてなんかいない。多くの観客は巨大な氷に目を奪われていたけれど、青山くんは「飛んで」いた。

 

『おおっとぉ! 勝負はついたと思いきや! 氷結攻撃を避けた青山ァ! まさかの空中退避!』

 

「…チッ!」

「僕だって成長してるのさ!」

 

おそらく氷結攻撃を読んでいた青山くんは、開始直後後ろを向いてレーザーを噴射。轟くんの方向へ飛ぶことで氷結の範囲外に逃れたのだ。

 

「轟くん側に回避することで、どんな威力の氷結が来たとしても逃れることができる…」

「相手側に詰め寄ることで攻撃の起点にもなる。いい選択じゃないか!」

 

轟くんの背後に着地した青山くんがレーザーを放つ。鈍い動きで回避した轟くんに対し、青山くんは時折お腹を抑えながらも笑顔を浮かべて追い込んでいった。

 

轟くんは氷結のデメリットに苦しめられている。彼としては一撃で決めるつもりだったのだろうが、回避されたことで身体にかなりの霜が降り、思うように身体が動かないようだ。

 

青山くんが間隔を空けてレーザーを放つ。轟くんはそれを避けながら、少しずつ距離を詰めていった。

 

左を使えば簡単に勝利をつかめる中で、彼は意地でも右しか使わなかった。

 

(くそ…っ、アイツの前で左は…!)

 

放課後の特訓で、「左を攻撃に使用しない」ことについて轟くんと話したことがある。相手への直接攻撃でなければ、身体を温めるだけならばいいのではないかと。

その時は頷いていた彼だったが、やはりそう簡単に「左を使う」ことはできないようだった。

 

それはきっと、彼がまだ囚われ続けているからなのだろう。

 

彼がどんな信念を持っているのか、そして何に囚われているのか、俺には分からない。

 

ただ、左を使わずに苦しい表情を浮かべる轟くんを見ていると、どこか胸が締め付けられるような気がした。

 

–––––

 

 

「…なかなか面白い子たちが揃ってるなぁ」

 

雄英体育祭は国民的イベントであり、もちろんテレビ中継をされる。水島はそれを利用して、事務所から1年ステージの様子を見ていた。

 

事務所を構えるプロヒーローにとって、この体育祭は生徒たちのスカウトのための重要な場だ。仕事の都合で会場に向かえない者も、テレビ中継やその後の配信で、指名する生徒を選ぶ。

 

「あれ、もう第4試合ですか?」

「ちょうど今終わったところだよ。これから第5試合」

 

お茶を持ってきてくれた事務員に対し、水島は礼を述べつつ言った。

 

「第2試合ってどうなったんですか? 私、イケメンがおっきい氷を出したとこまでしか見てないんですよ」

「あれは氷を出したわけじゃなくて……まぁいいや。あの後は轟くんが青山くんを凍らせて行動不能にしたよ」

 

この事務員は仕事はできるが、少し雑なところがある。おそらく轟の個性についても理解はしているが、適当に話しているだけだろう。

そう踏んで水島は第2試合のあらましを説明する。

 

「なるほどー。やっぱりイケメンはそう簡単には負けませんね!」

「顔は関係ないと思うけどなぁ…青山くんも善戦したんだけど、決め手がなくてズルズル追い込まれちゃった感じかな」

 

初手を回避したり、動きの鈍い轟をレーザーで追い込んだりと奮闘したものの、青山には轟を行動不能、もしくは場外に追い込む手段がなかった。それが勝敗の大きな理由だろう。

 

「瞬殺されちゃうんじゃないかと思ってたんですけど、そんなことありませんでしたね」

「ここまで残った生徒だからね。それ相応の力はあるんだと思う」

 

水島はそういうと、湯呑みを両手で持ってゆっくりと傾けた。

ほっ、と一息ついて、更に続ける。

 

「それに、アイツの教え子たちだからね」

 

嬉しそうに語る時任の姿を思い出し、水島は穏やかに微笑んだ。

 

「あぁ、タイムクロッカーさんの教え子なんですっけ」

「そうだよ。次の第3試合の2人もそうだった」

 

第3試合、尾白と八百万の一戦だ。

轟の消耗により長引いた第2試合とは違い、こちらはあっという間に決着がついた。

 

開始早々発煙弾で目くらましをした八百万は、尾白から身を隠しながら時間をかけて武器を創造。いざ攻勢を仕掛けようとしたが、近接戦においては群を抜いて優れている尾白に翻弄される。

 

担任である相澤の捕縛武器を真似て創造し、尾白の行動不能へと路線を切り替えたものの、手足に加え尻尾も有する尾白の手数の多さに場外へと追い込まれた。

 

八百万が先手を取ったのは良かったが、尾白相手に近接戦に挑むというのがミスだったかもしれない。ただ八百万の個性の有用性はしっかりアピールできていたし、尾白には敵わないものの戦闘スキルもうかがわせた。いい試合だったといえる。

 

「なんだかA組だらけですね。他のクラスの子はいないんですか?」

 

水島は第4試合のダイジェストが流れるテレビ画面を見やって言った。そこには生き生きとした姿の発目と、翻弄される飯田の姿が映っている。

 

「今終わった第4試合にサポート科の子がいたかな。プレゼンタイムみたいな感じだったけど」

 

発目作のサポートアイテムの売り込み、まさにそんな10分間だった。きっと飯田はうまく乗せられたのだろう。そんな真面目そうな彼に、水島はどことなく親近感を覚えていた。

 

事務員が間延びした相槌を打っていると、事務所内に着信音が鳴り響いた。

 

「出てきますね!」

「よろしく頼むよ」

 

サッと事務員が電話を取る。水島はもらったお茶を静かに飲んで、ステージに向かい合う生徒の姿を見ていた。

 

(お、次は女子対決か)

 

蛙吹と耳郎。共に中距離攻撃の手段を持つ女子同士の対戦カードだ。

水島がプレゼントマイクの実況を聞きながら結果予想をしていると、電話を取っていたはずの事務員が突然声を張り上げた。

 

「マニュアルさん! インゲニウムが!」

 

平和だった保須に、何かが起ころうとしていた。

 

 

–––––

 

 

勝者がいるということは、敗者がいるということだ。

そんな当たり前のことは、誰もが知っている。

 

世の中には努力で覆せないことがある。

そんな当たり前のことも、誰もが知っている。

 

わかっているのだ。痛いほど、わかっている。

 

努力してこなかったわけじゃない、むしろ過程だけ見れば褒められてしかるべきなのだと思う。けれど、欲しているのはそんな言葉ではなかった。

 

ヒーローを目指している。あの姿に、精神に、力に、生き方に憧れた。

 

雄英体育祭という場はその通過点に過ぎない。ここで「敗者」になったとしても、人生の敗者になるわけではない。

 

才能に負けたのかもしれない。自身を上回る努力に負けたのかもしれない。それとも運なのか、相性なのか、自らの努力を傷つけないような理由は大量に出てくる。

 

(そんなもの、いらない)

 

心を守る後付けの理由なんて要らない。今ここに必要なのは自らの信念だけ。

 

自分の原点を思い出すように、そっと胸に手を当てた。そこにある大切なものを感じ取る。

 

アスファルトから腰を上げる。風が一際強く吹いて木々を揺らす。葉擦れの音が周囲に響く。

 

さらなる高みを目指す決意を胸に、次の一歩を踏み出した。

 

「……悔しい、なぁ」

 

それでも負けるということは悔しくて、思わず唇から声が漏れる。声は風と木々に吸い込まれ、誰にも届かないまま消えた。

 

勝者になれるのは一握りの人間だ。この雄英体育祭においての勝者は、たった一人。

 

数多の敗者の中で、その悔恨の言葉を漏らしたのは、果たして。




物語全体の調整について
・保健医というワードを「保健室の先生」や「養護教諭」に差し替えました。タイトルは変更なしです。創作でよく使われる保健医という言葉ですが、現実にないということで気になる方もいるだろうということで(というか私も言われたら気になっちゃいました) 差し替えさせていただきました。

・時任先生の「英語も教えている」という設定を無くしました。ヒロアカ世界での教員免許の扱いはよくわかっていませんが、設定の盛りすぎは時任先生の年齢不詳感を醸し出すためザックリカットです。彼は一介の保健室の先生だぜ!

・時任先生に「サイドキックを5年やっていた」経歴がつきました。
雄英卒業→2年間夜間で教員免許取得を目指しながら、養護教諭の傍らで地方を回るリカバリーガールの手伝い→5年間サイドキックとして活動(この間の話は閑話で書かせていただきます)→雄英に就職(3年目)
ということで、水島くんと同じく28歳になるかと思われます。

・時任先生の個性に「生物の時間を進めると酔う」というデメリットが追加されました。
建造物や道路、石など→時間を進めても大丈夫
植物や動物、人など→時間を進めると酔う
人の座標の時間軸操作(作中での擬似瞬間移動)→酔うが、操作する時間が短い+訓練で耐えられる時間が増える→ある程度は使える(無限ではない)
ということで、全く使う予定はなかったものの「老い」なんかの力は使えなくなりました。

ここらへんの調整に従って、色々と描写が変わっています。が、話の流れは変わっていませんので読み返す必要はございません。お時間があれば読んでいただけると…くらいです。


頂いたご意見は出来るだけ大切にしたく、自分が納得いく形で調整させていただきました。
感想やお気に入り登録、とても嬉しく思っています。これからものんびりと見守っていていただけると嬉しいです!

次回以降も不定期となりますが、月一は必ず、しっかり更新させていただきます。ありがとうございます!

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