雄英で保健医(見習い)やってます   作:メロンパン派閥

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副担任、放課後も働く

「それじゃ、放課後特訓始めようか!」

 

戦闘訓練の翌日、相澤先生の協力の元、第1回のA組放課後特訓が開催された。

当初は参加しないと言っていた轟くんと爆豪くんも結局は参加。総勢20名のトレーニングをすることになったのだ。

昨日の戦闘訓練で、彼ら二人にも実力を認めてもらえたのかもしれない。分からないけども、教えを請うてくれるというのは素直に嬉しいことだ。

 

「……基本は各々の弱点を強化するための訓練になる。それに加え、俺か時任との一対一の手合わせを行っていく」

「弱点強化のためのトレーニングは、個性把握テストと戦闘訓練の後に出してもらった課題を元に、俺たちと相談しながら内容を決めていくよー。一人一人回ってくから、ストレッチとか基礎トレしながら待っててね!」

 

相澤先生も忙しい中、俺一人じゃ面倒見切れません…!という泣き言を聞いて、参加できるときは手伝ってくれることになった。なんだかんだ言ってものすごく優しい人なのだ。

 

相澤先生と分担して、基礎的なトレーニングを行っている生徒たちの元へ向かう。まずは一人一人面談からだ。

 

俺がまず向かったのは轟くんである。彼は少々難敵な気がしたので、早めに潰そうという魂胆である。

 

「……よろしくお願いします」

「よろしくー、んじゃまずは提出してくれた課題についてからね!」

 

事前に提出されていた2種類の課題を返却する。一つは個性把握テストの後に出した「自分の個性の理解」のための課題。もう一つは戦闘訓練後に出した「屋内対人戦闘を想定した今後必要なトレーニングの考案」だ。

後者に関しては、轟くんのようにほぼ完封で戦闘訓練を終えた人もいたが、今回はあくまでも訓練であり現状からレベルを発展させる必要がある、ということで等しく全員に課している。

訓練で出来たからOKではないのだ。もっと高みを目指してもらわないといけない。

 

「個性の制御の甘さ、個性頼りな部分の認識、屋内での戦闘を踏まえた実戦向けの作戦、それを行うためのトレーニング……書いてある内容はすごくいいよ。しっかり自分の限界を理解できてるし、次につながる反省ができてる」

「……うす」

「ただ、ね? あくまでも片側については、って注釈がつくんだ」

 

轟くんの個性は半冷半燃。しかし彼は未だに氷の個性しか使っていなかった。

片側、という言葉を聞いて、彼の顔が険しくなる。

 

「……俺はどんなことがあっても、左を戦闘に使いません」

「うん、轟くんに使いたくない理由がある、ってことは想像できる。俺から無理に戦闘に使えっていうつもりはないよ」

「……ありがとうございます」

 

彼の抱えているものは、そう簡単に取り除けるものじゃあない。そして俺が簡単に口を出せるものでもない。

教師という立場は難しい。押し付けることは簡単だ。けれどそれが本当に生徒のためになるのか、それが大切なのだ。

きっとこれは、彼と同じ立場から真っ向にぶつかってくれる人がいないと始まらないのだろう。そして、そこから彼が悩んで悩み尽くして、ようやく少しずつ変化が訪れる問題なのだと思う。

 

「でもさ、轟くんの氷の個性、使えば使うほどデメリットがあるよね。違うかな?」

「その通り、です」

「見てれば分かるよ。戦闘訓練で建物ごと凍らせた君の体には霜が降ってた」

「……それでも、俺は左側は」

「うん、戦闘に使いたくないんだよね。今はその気持ちを尊重したい」

 

彼のこわばっていた顔が少しだけ緩んだような気がした。

しかし教師として、これだけでは終わらない。

 

「でもね、ヒーローを目指して訓練する上で、左側を触れないわけにはいかない。特に戦闘外では左側を使うことは多々あるよね?」

「…はい、解凍する時にはよく」

 

俺から提案するのは、あくまでも発想の転換。説教じみた真似も教師としての押し付けもしない、いや、できないのだ。

 

「屁理屈に思えるかもしれないけど、炎で攻撃はしなくていい。それでも、左側を自分の体温調節や細かい技術には使えるようにしない?」

 

轟くんの顔が曇る。左を使うということは、やはり彼にとって大きな壁なのだろう。

それでも、と俺は続けた。

 

「氷を使うとき以外、極論を言えば回避するときも移動するときも、自分の体を温めることができれば……氷の個性がもっと生きる。俺はそう思うんだ」

 

轟くんは少し考え込んで、口を開く。

 

「……分かりました。攻撃に使わないなら今までとは変わらない…あくまでも母さんからもらった氷の個性をフル活用するためっすからね」

 

これなら左を使う、には該当しないという結論を出したのか、轟くんが最低限のラインを認めてくれた。が、その表情は浮かない。

それなら、と、轟くんとトレーニング内容を話し合う。

 

目的はいついかなるときも常に微弱な炎を発動させて自分の体温を調節できるようにすることだ。極論氷を使いながらでも、走り回りながらでも左を使えるようにしてもらう。

そのために左に慣れること、個性を使いながら激しい運動を行うことにして、一旦轟くんとの面談を終わりにした。他の子も詰まってるからね。

 

合間に腕をバッキバキにした緑谷くんの治療を挟みつつ、次に俺が向かったのは尾白くんのところだ。体を動かしている尾白くんに声をかけ、面談スタートである。

 

「まずはこれが提出してくれた課題! 尾白くんもなかなかいい感じだったよ。採点してて楽しかった!」

「俺、そんな褒められるレポート書けてましたか…?」

「書けてた書けてた! 尾白くんは真面目そうだし、昔から反省と練習を繰り返せてたんだと思うよ」

 

尾白くんが分かりやすく照れ始めたところでトレーニング内容を検討し始める。

 

「尾白くんの個性はシンプル、だけど強い。書いてくれた通り、とにかく尻尾を使ってできることを増やすのが最善手。尻尾の強度を上げたり、組手を繰り返して更に自由な動きを出来るようにしたり……ま、こんな感じだよね」

「そう、ですよね。俺もそう思います」

「本当はね、放課後特訓では思考力や発想力の転換をしていきたいんだ。あんまり筋トレみたいなことはしたくないんだけど……尾白くんの場合はこれが最善手だから……」

「えっと、どういうことですか?」

 

言い訳じみたことを言いながら遠い目をする俺に、おずおずと尾白くんが尋ねた。

 

「あ、ごめんね。尾白くんがやるべきトレーニングは、立ち回りを強化するための組手と、尻尾の強度を上げるための反復トレーニングかな」

 

特に硬いものを殴っていきたいよね、と呟くと、尾白くんがえっ、と声を上げた。

そんな彼にわざとらしくニコッと笑みを浮かべると、そのまま遠くにいる切島くんを呼び寄せた。

 

「うっす! 時任先生、どうかしましたか?」

「ういうい、君もとりあえず座りたまえよ」

 

尾白くんはこの時点で察してしまったのか、複雑そうな顔を浮かべている。

一方切島くんはなぜ呼ばれたのかわかっていないようだ。

 

「はいこれ、出してくれた課題ねー。内容も良し!あとでコメント見てくれるとタメになるかな、と思うよー」

「あざーっす!」

「それでなんだけど、切島くんの課題は個性の持続時間と硬度、っていうのは理解してると思う。だからそれを改善するために、尾白くんに尻尾で殴られ続けよう!」

 

やっぱり…と引きつった笑みを浮かべる尾白くんに、理解して爆笑し始める切島くん。面白い光景だ。

切島くんは硬度を上げるために、尾白くんの猛攻に耐え続ける。できるだけ硬く、できるだけ長くだ。

尾白くんの尻尾での攻撃はかなり威力があるから、お互い効率よく訓練できるだろう。

 

「切島くんは立ち回りの中で部分部分を硬化していく必要もあるから、それも尾白くんとの組手で鍛えていこう。反復トレーニングと組手をスケジューリングしてやってこうね」

「うっす!」

 

もう少し具体的に手順を詰めた後、二人は向かい合って反復トレーニングを始めた。

早速硬化した切島くんをひたすら尻尾で殴打し始めた尾白くんを見て、よしよし、と満足しながら次へ向かう。いい感じだ。

弱点を考えれば考えるほど多くの問題が見つかるが、一気に潰すことはできない。一つ一つ向き合っていってほしい、と俺は思う。

 

それから耳郎さん、芦戸さん、峰田くんなどと面談をし、相澤先生と合わせて20人の面談を終える。今は生徒たちそれぞれが組まれたトレーニングに励んでいた。

ここからは一人一人生徒と組手をして、肉体的にしごいていく。

 

「んじゃ、そろそろ組手しますか?」

「そうだな。俺は一人一人回りながらアドバイスしていくから、時任は中央で組手だ。誰から行くか?」

「そうですね……上鳴くんにします。身体能力面の課題が大きいので」

 

相澤先生が生徒たちの元へ向かうと共に、俺は上鳴くんを呼び寄せる。

彼は既にサポートアイテムの開発を決めている。詳しくはサポート科頼りな部分が大きいが、どうやら遠距離から電撃を飛ばせるようにしたいらしい。うまくいけば彼の個性だけでは出来ない、痒いところをピンポイントで抑えられるだろう。

 

トレーニングとしては、体ができるだけ電気に耐えられるように特訓すること、そして必要な出力を必要な時間だけ放出する細かな調整をすることが決まっていた。

後者はつまり、相手を行動不能にするのに最低限の出力と時間を身につける、ということである。電力の使いすぎは良くないからね。

 

「時任せんせー! いきなり俺ですか!」

「いきなり君でーす。とりあえず最初は生身である程度戦えるように仕込んでくよー」

「うへぇ……めっちゃ厳しそう…」

 

上鳴くんはA組の中でもダントツに個性頼みの戦い方をする。トレーニングでは個性を鍛えているから、俺との組手では肉弾戦だ。

個性が無くてもある程度戦えるようにしないと、上鳴くんのような対策されやすい個性は苦労してしまう。

 

「んじゃ、しばらく避けるから俺にタッチしてみて。上鳴くんに隙ができたら投げ飛ばすから」

「え、いいんすか…?」

 

それじゃ、と勢いよく向かってくる上鳴くんを、個性も何も使わずにひたすら避けていく。

彼の身体能力のレベルなら、まだ個性を使わずに避けることができる。

 

「ほら、動作が大きいよー」

「スイスイ避けすぎっすよ…!」

「切り返しが弱い。足腰鍛えなよ」

 

左右に揺さぶるとすぐに置いていかれる。根本的な身体能力不足だ。

そのまま2.3分ただ避け続けると、上鳴くんが息も絶え絶え、といった感じになってきた。

 

「ほれほれ、こっちだよ」

「はぁ……まじで、先生、やべぇって…」

「そんなにダラダラしてたら逃げられちゃうよ? こんな風に」

 

上鳴くんがふらついている間に、右手で体に触れて擬似テレポートする。一気に距離が離れ、上鳴くんが目を剥いていた。

 

「せんせ…それ、反則……」

「反則じゃないでーす。そろそろ俺も攻めちゃうよ?」

 

それでもまだこちらへ向かってくる上鳴くんに対し、今度は背後に擬似テレポート。一気に背後を取って、思いっきり上鳴くんを投げ飛ばした。

 

「か、はっ…!」

「ナイスファイトだ上鳴くん。でも徹底的に身体は鍛えた方がいいよ」

 

倒れ伏す上鳴くんを肩を軽く叩き、ゆっくりと起こす。

 

「5分くらい端っこで休憩してていいよ。そしたら個性の特訓に移ってねー」

「り、りょーかいっす……」

 

こうした疲労なんかは俺の個性でどうにかすることはできない。巻き戻してしまえば体を鍛えた事実すらなかったことにしてしまうからだ。

上鳴くんを休ませて、次の相手へと移った。

 

上鳴くんの後に、瀬呂くん、障子くん、砂藤くんの順で組手をし、全員を綺麗に投げ飛ばした頃合いで解散の時間となった。

瀬呂くんは間合いを詰められた時が弱く、やはり個性頼りだ。障子くんはパワーにも索敵能力にも優れるがとっさの判断力や詰めが甘い。砂藤くんは力でごり押しの上、持久力がない。みんなまだまだだが、いいガッツを見せてくれた。

 

当初の訓練の目的だった緑谷くんを治療した回数は28回だった。相変わらずバッキバキで前途多難である。それでもやはり怪我の程度は軽くなっていて、彼の中で出力の感覚が掴めそうだと話していた。

個性を全身に纏わせながら動くことも出来るようになってきている。まだ数秒しか持たないが、いい傾向だ。

 

生徒たちが地に伏している中、相澤先生にコメントを求める。

 

「相澤先生、何か一言ありますか?」

「……ヒーローを目指す上で、反省とトレーニングの反復は欠かせない。けど最も大事なのは、体だ。オーバーワークにはならないようにしてるが、飯を食ってしっかり寝ろ。湯船にもしっかり入れ。休息も大事だぞ」

 

相変わらず相澤先生の言葉は重い。生徒たちもヘトヘトになりながら、真剣な目で聞いていた。

けど、それなら相澤先生もゼリー飲料をやめてほしい。体が大事って自分でも言ったでしょ。

 

「んじゃあみんな、勉強との両立も大変だけど、ゆっくり休んでね! 質の良い睡眠を!」

「……しばらく帰れなさそうだな」

「あはは、ですね」

 

みな中々立ち上がれず、結局挨拶をしてからしばらく経ってから解散となった。

相澤先生のおかげもあって、かなりスムーズに訓練が出来た。良い手応えだ。

 

「ふー! 次回は先生が組手担当してくださいよ?」

「……考えておく」

 

まだ1年生のひよっこが相手だと言っても普通に疲れた。早く帰りたい。

 

「A組のみんな、これからの成長が楽しみですね!」

「……まだまだだがな」

 

それって楽しみってことですよね、というツッコミはせずに、そのまま職員室へと歩いていく。

授業だけでなく放課後もこうして特訓に励むことは、生徒たちにとってかなりの負担だろう。それでもヒーローを目指す彼らがやりたいといったことを、できるだけ叶えてやりたい、そう思う。

それはきっと相澤先生もなのだ、と考えながら、職員室の扉を開けた。




きっと時任くんが何を言っても、轟くんは左を使わないのだろうなぁと。
こればかりは緑谷くんの力がないと厳しいのだと思います。
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