雄英で保健医(見習い)やってます   作:メロンパン派閥

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暗いです。三人称多いです。原作と結構流れが違います。


USJ、悪意との対峙

多くの不安もある中、救助訓練の日がやってきた。

校舎からバスで移動して、USJへと向かう。広大な敷地の中に様々な擬似災害エリアが存在する救助訓練のための演習場だ。

 

今回は13号、相澤先生、そして俺の三人で授業を担当する。本来ならばオールマイトもいたはずなのだが、午前中に出動要請があったとかで活動限界を迎えてしまったのだ。

 

本来ならば俺の個性でリセットをしたかったのだが、任務を終えたオールマイトと会えた時間がかなり遅かったためにそれも出来なかった。俺が行動不能になってしまう。

 

オールマイトは仮眠室で待機していて、最後に少しだけ顔を出すと言っていたがどうなることやら。

 

USJに到着しバスを降りると、13号が大きく手を広げて待っていた。

 

「皆さん待っていましたよ」

 

「わぁ〜! 私好きなの13号!」

「すっげぇ! USJかよ!」

 

思い思いの反応をしている生徒たちを集めると、13号は彼らに訓練を行うにあたっての注意事項を話し始めた。

 

個性を使う上での危険性、それを救けるために使うヒーローという職について話をしていく。力を持つものとしては常に忘れてはいけないことだ。

 

「君たちの力は人を傷つけるためにあるものではない。救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

「ブラボー! ブラーボー!!」

「素敵ー!」

 

13号の締めの言葉に対し生徒たちが歓声をあげる。彼らの心によく響いたようだ。全員が全員、対凶悪ヴィランを専門とするヒーローになるわけではない。そんな中、13号の話は全員に共通するところがあったのだろう。

 

何だか微笑ましくて笑っていると、隣の相澤先生に小突かれた。単純に痛い。

 

「よーし、それじゃあ…」

 

さっそく演習に入ろうとしたその時、空気が揺れた。

直感的に大広場へ目を向けると、黒いモヤのようなものが蠢いている。隣の相澤先生もそれに気づく。段々とモヤは大きくなり、中から手を貼り付けた異形の顔が出てくる。

これは敵だ。本能が警鐘を揺らす。

 

「総員ひとかたまりになって動くな! 13号、生徒を守れ! 時任、迎撃するぞ!」

「わかりました!」

 

素早い相澤の指示に従い戦闘態勢に入る。生徒たちは未だに状況を把握できておらず、戸惑っていた。

 

「これは訓練じゃない! 正真正銘本物のヴィランだ!」

 

次々とモヤから現れる敵にようやく状況を理解したのか、生徒たちの顔つきが変わる。

 

「せんせー! 俺たちも戦える!」

「バカ言うな! 危険な目に合わせられるか! 13号、避難開始だ! 学校に連絡試せ!」

「妨害されてる可能性もある。上鳴くんも個性で連絡してみて!」

 

加勢して戦おうとする生徒たちを諌める。彼らを危険な目に合わすわけにはいかない。それにいくらヴィランがいようと、相澤先生は強い。大丈夫だ。

 

かたまって移動する生徒たちを庇うようにして敵の眼前に立つ。彼らに傷はつけさせない。

 

「先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…」

「どこだよ…? せっかく大勢引き連れてきたのにさぁ」

 

声から滲み出る悪意に思わず身震いをする。狙いはオールマイトのようだった。

 

「子どもを殺せばくるのかなぁ?」

 

「んなことさせる訳ないだろうが。いくぞ時任。13号、任せた」

「了解、サポートします」

 

俺という存在が戦闘で真価を発揮するのは、誰かのサポートを行う時だ。

相澤先生のような多人数を相手取れる力の持ち主なら尚更、俺が死角を潰すことで隙を無くすことができる。

 

「射撃隊行くぞ!」

「……っ!? 個性が発動しない!」

「馬鹿野郎! あいつは見ただけで個性を消すっつうイレイザーヘッドだ!」

 

個性を消しながら捕縛武器で敵を行動不能に追い込んでいく相澤先生。ゴーグルで目元を隠しているため、いつ誰が個性を消されているか分からない。そのシチュエーションは敵の連携を遅らせ、戦場を相澤先生の独壇場にしていた。

 

一方俺は個性を消すことのできない異形型の、見るからに力が強そうな敵に絞って対応する。相澤先生も対策はしているが、どちらかといえば不得手な相手だ。

 

「異形型のも消せるのかよ!」

「いや……消せない。それより後ろに注意したらどうだ」

「か、はっ…!」

「周りはしっかり見た方がいいよー」

 

擬似テレポートで背後に移動し、両手で触れる。完全に動きが止まった敵を投げ飛ばし他の敵へと当てて巻き込んで行く。

 

相澤先生の懐に入り込もうとする敵がいれば、すぐさま飛んで投げ飛ばす。俺は多人数を相手に取るのは得意でないから相澤先生が要だ。

雄英に入る前から、相澤先生とはタッグを組んで仕事をした経験がある。個性の相性も悪くはなく、二人での戦闘には自信があった。

 

少しずつ、されど堅実に敵を減らして行く。

十数分経ってチンピラたちが少なくなってきた時、親玉らしき手を付けたヴィランがつぶやいた。

 

「嫌だなぁ、プロヒーロー。有象無象じゃ歯が立たない」

 

当然だ、雄英の教師陣を舐めないでいただきたい。しかしこのヴィラン、自分から全く動こうとしないのが不気味だ。何を考えているのかがピンとこない。

 

「相澤先生!」

「ありがと、なっ!」

 

タイミングを見計らって相澤先生と接触し、目の状態を戻す。相澤先生はドライアイだから個性のインターバルがある。それをリセットしたわけだ。

 

「はぁ…? せっかくインターバルがあると思ったのにさぁ、治すとかチートだろ」

「チートもクソもないだろ…っ!」

「……お前、邪魔だなぁ」

 

ヴィランの声が聞こえた、そう思った瞬間、背中に激痛が走る。皮膚が剥がれていくような、いや、体が少しずつ崩れていくような痛み。

 

「時任!」

「く、そっ…!」

 

反射的に前方へテレポートする。振り返ると手を付けたヴィランがにたにた笑っていた。

 

「タイムクロッカー、だったかな…? 個性は強いけど、身体能力はそこまで高くない」

 

見抜かれている、この少しの時間で。

周囲を警戒しながら自分の体に触れ、時を巻き戻す。ただでさえ戻すのは負担が大きいのに、自分の体を戻すのは比べ物にならないほどデメリットが大きい。腕のモニターを一瞥すると、6年分若返っていた。

 

「自分の怪我まで治せるのか…でも、それって限界があるんだろ?」

 

(そこまで知られてるのか…!)

 

自分の能力の限界を知られていることに恐怖を覚える。こいつの視線は今は俺にある。相澤先生は残った敵を処理していて手が離せない。

本命はこいつだ。何が何でも、俺がやるしかない。

 

「なぁ、お前戦闘は苦手なんだろ?」

 

濁った声が脳に響く。敵が少しずつにじり寄って来る。

 

「治せば治すほど、自分の体に負担があるんだろぉ?」

 

聞くな。俺から触れば動きを止められる。

 

「相手に直接触れないと、攻撃できないだろ?」

 

反応するな。こいつを拘束することだけを考えろ。

 

「それでも生徒を守るために立ち向かってきたんだろ?」

 

耳障りな声が反響する。思考がうまくまとまらない。

 

「うるさい…っ! 何が言いたいんだ!」

「え? それはさぁ…」

「時任! 上だ!」

 

「本命は俺じゃないってこと」

 

その瞬間、視界が赤に染まった。

 

 

–––––

 

 

「上鳴さん! 小規模な放電で敵の処理を! 耳郎さんは心音で妨害しながら敵の無力化を致しましょう!」

「了解、武器作って!」

「っしゃあ! 行くぞ!」

 

モヤのような敵––黒霧に山岳地帯へ飛ばされた八百万、耳郎、上鳴の3人は、日頃の特訓で学んだことをフル活用してヴィランと戦おうとしていた。

 

(上鳴さんの放電はリスクがある……もしまだ敵が潜んでいた場合、アホになられては困りますわ)

 

八百万は思考を働かせ続ける。耳郎と自身に武器を作り出しながらも、この場を切り抜ける最良の策を探そうとしていた。

 

自身らの周りを大きく取り囲むように数多くの敵が迫ってくる。上鳴がフェイントを聞かせて敵に接触し、必要最低限の帯電で敵を昏倒させる。

 

「どうだ! 時任ちゃんに扱かれた俺は強いぞ!」

「うっさい人間スタンガン! とっとと全滅させるよ!」

 

武器を持ったヴィランに近寄ることは危険だったが、ここ1週間ほど扱かれた近接戦闘の経験がプラスに作用していた。一気に大勢を倒すことはできないものの、着実に数を減らしていく。

 

耳郎もそれは同様だった。心音を敵にぶちかまして行動を阻害しながら、テンポよく鉄パイプの一撃を見舞わせていく。

 

「お二人とも! しゃがんでください!」

 

八百万の一声とともに、周囲に大きな捕獲ネットが放たれた。まだ立っていた敵の多くがネットに行動を阻害され、戸惑っている。

 

「くそっ! 抜けられねぇ…!」

「ヤオモモナイス! いくよ上鳴!」

「おうよ!」

 

動けない敵に追い打ちをかける。あれだけの数的不利を覆し、戦況は有利に傾いていた。

 

(百、油断はダメ…ここで作り出すべきは……)

 

いくら波に乗れていても、油断はしない。いつ戦局が変わるかはわからないと言ったのは、彼らの担任教師だった。

 

「耳郎さん! 上鳴さんに攻勢を任せて、周囲の様子を探ってください!」

「隠れてる敵がいないかってことね…了解!」

 

耳郎に索敵を頼んだ後に、八百万は創造を始める。創り出すのは、どんな敵が潜んでいたとしても、先手の有利を取るための道具だ。

 

「ちょっと規模大きめの放電行くぞ! もうちょい離れてろ!」

 

上鳴が残っている敵を誘導し、二人に危害が加わらない範囲で放電をする。出力の調整がうまくいくようになって、こうして長期戦をしても簡単にはアホにならないように成長していた。

 

「っし! ミッションコンプリートだぜ!」

「いや、まだ! 地中に何かいる…人だ!」

 

耳郎のイヤホンジャックが地中の音を確認する。恐らく人、そして敵の可能性が非常に高く、3人は依然として警戒態勢のままだ。

 

「お二人とも、これをかけてください!」

 

八百万が二人に手渡したのは遮光性のサングラスだ。三人してそれをかけると、八百万は耳郎に「地中に心音を流し込め」と指示を出す。

 

耳郎が指示通りに何かの潜む地中に心音を流す。すると心音に耐えきれなくなったのか地面から大男が這いずり出てきた。

 

「おいお前ら! 大人を舐めるなよ!」

 

八百万はそれに全く耳を貸さず、創りだした閃光弾を投げつけた。地中に長くいたその目に閃光弾は厳しいだろう。

突然の光に大男は目を抑えてのたうちまわる。

 

「叩くならいま、ですわ!」

 

八百万の言葉を皮切りに、三人で大男をタコ殴りにする。八百万の生み出したロープで全員を拘束し、改めて耳郎によって周囲の安全が確認された。

 

「うっし! 完全勝利!」

「日々の教えが役に立ちましたわね…」

「チンピラもどきで助かったよね」

 

三人して口々に感想を述べる。初めてのヴィランとの戦闘を無事に終え、どこかホッとした空気が流れていた。自分たちが今までやってきたことは無駄じゃない、ヴィラン相手にも戦える、そんな雰囲気だ。

 

「あ、上鳴。もしかしたら今なら通信できるんじゃない?」

「うぇ、確かにいけるかも。試してみるわ」

「私は双眼鏡で他のエリアを確認してみますわ」

 

上鳴が学校との連絡を試すと、ミッドナイトと繋がった。上手く連絡できたことに動揺しつつ、急いで今の状況を伝える。言葉がしっかりまとまらないものの、ミッドナイトはそれを把握して、すぐに駆けつけると約束してくれた。

 

「……っ!? ま、待ってください上鳴さん!」

 

双眼鏡で周囲を見渡していた八百万が悲鳴に似た声をあげた。

 

「ヤオモモ、どうしたん?」

「先生が…! 時任先生が! 血だらけで倒れてますの!」

「み、ミッドナイト先生! 今の聞こえました? 時任先生がやばいみたいっす!」

 

『落ち着いて! 既に超特急で向かってる! ゆっくり状況を報告して!』

 

双眼鏡から見えた大広間の景色、倒れ伏す多くのヴィラン達、顔に手のついたヴィランが笑っていて、脳みその出た気味の悪いヴィランが時任を地面に押し付けている。

時任の白衣は真っ赤に染まっていて、個性を使った影響か、その姿はいつもより小さく見えた。

相澤は周囲のヴィランに囲まれて時任を助けに行けない様子だった。

 

『時任くんが…? 絶対にそこには近づかないで! 危険だわ!』

 

戦闘がメインではないとはいえ、仮にもプロヒーローである時任。にもかかわらず時任が危険な状況になっていることに、ミッドナイトはヴィランの中にかなりの手練れがいることを認識する。

 

「時任せんせ……嘘でしょ?」

「もう…もうやめてっ!」

 

動かない時任は執拗に嬲られ続けている。徹底的に痛めつけようとしているらしく、もはやそこに命が残っているのかすら怪しい状態だった。

 

あまりの惨さに八百万が悲鳴をあげる。上鳴は勢いよく八百万から双眼鏡を奪ってその様子を確かめようとした。

 

「なんで……なんで先生がこんな目に合わなきゃいけないんだよ!」

 

その瞳に映ったのは圧倒的な理不尽だった。

 

 

–––––

 

 

「くそっ…! もうやめろ! これ以上時任を…っ!」

 

あまりの惨状に相澤が叫ぶ。残りわずかとなったヴィラン達であったが、そのわずかが相澤の邪魔をする。

今すぐ助けに行きたいのに、行くことができない。ヒーローとしての矜持をへし折られたような気がした。

 

「やだね。アイツがいると回復されてクリアできないんだ……敵の回復役は最初に、そして徹底的に潰すだろ? そういうことだよ」

 

至極当然、と言った風にヴィランが告げる。目の前の状況をなんとも思っていないようであった。

 

相澤が残ったヴィランを拘束して時任の元へ向かう。そこに勢いよく手のついたヴィランが飛び込んできて、相澤に手を向けた。

 

(クソ…っ!インターバルが…!)

 

時任によるリカバリーが受けられない今、酷使された相澤の目は悲鳴を上げている。個性を消そうにもインターバルが邪魔をする。

 

肘で受け止めるものの敵の手に触れた途端肘が崩れていく。分かってはいたが、体験したことのない激痛だった。

ヴィランの腹部を蹴り飛ばし距離を取る。自分の肘のことなど構っていられない。目の前で時任の命が消えかけているのだ。

 

「そうやって人のことばっか気にしてるから痛い目に合うんだよ。やれ、脳無」

 

時任を助けようと動いた相澤へとターゲットを変えた怪人––脳無は、ほぼ無防備になっていた相澤の腹部に一発重い拳をぶちこんだ。

いきなり向けられた拳に対応できなかった相澤はそのまま吹っ飛び、水難ゾーンで敵を倒しこちらまできていた緑谷、蛙吹、峰田のところへ落下する。

 

「相澤先生!」

「みみみみみどりやぁ! 早く逃げなきゃ! おいらたち殺されちゃうよ!」

「でも時任先生がっ…!」

 

その時だった。黒いモヤのヴィラン––黒霧が現れて言った。

 

「13号はやったのか」

「いえ…散らし損ねた生徒たちが思いの外強く、誰も行動不能にできませんでした」

「はぁ?」

「1名に逃げられた上にジャミング持ちがやられたようで、既に教師たちがこちらへ向かっているとのことです」

「黒霧……お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ」

 

13号率いる生徒たちは黒霧を防戦一方に追い込み、委員長たる飯田が外部へと脱出し応援を呼びに行っていた。

 

「緑谷…っ! 早く、ここから逃げろ…」

 

一瞬気を失っていた相澤が息を切らしながら告げる。緑谷たち三人がここにいても、危険な目に合うだけだ。

 

「先生っ! でも…」

 

未だ倒れ伏す時任から目が離せない。ピクリとも動かないその様子を見て、嫌な予感が募る。

 

ヴィランたちは攻勢をやめ、ブツブツと話し込んでいた。

 

「流石に何十人のプロ相手じゃ敵わない……ゲームオーバーだ。回復役はもう動けなくしてあるし…十分でしょ。帰ろっか」

 

「帰る…? これだけのことをしておいて?」

 

釈変したヴィラン––死柄木の様子に、緑谷は得体の知れない気持ち悪さを感じた。

ここで退く意味が感じられず、ただただ恐怖を覚える。

 

「あ、そうだ。まだコイツ生きてるかもしんないし……トドメ刺しとくか」

 

「や、やめろぉおおおお!!!!」

 

その場を見ていた緑谷が声をあげたその瞬間、轟音が響いた。

 

「もう大丈夫……私が来た!」

 

扉を蹴飛ばしてやってきたオールマイトの顔に、笑みは浮かんでいなかった。

それはオールマイトの活動限界を知る相澤、緑谷も同じであった。

 

「……コンティニューだ」

 

オールマイトとは対照的に、死柄木がニタっと笑う。

 

「待ったよヒーロー、社会のゴミめ」

 

超スピードでやってきたオールマイトが倒れ伏す時任をそっと抱き上げる。そのまま相澤、緑谷、蛙吹、峰田をも回収して安全な場所へと移動させると、無理やり笑顔を作り出して言った。

 

「時任くんと相澤くんを頼む。時任くんは今すぐリカバリーガールに見せないと危ない」

 

(すまない…後輩たち…)

 

オールマイトは後悔を抱えて脳無の元へと飛んだ。生徒を守るために身を呈して戦った後輩たちのためにも、勝たなければならない。

 

意識を失っている時任と相澤を受け取った三人は、13号たちのいる出入り口を目指す。

先ほどは意識があった相澤も、再び気を失って目を閉じていた。

 

「……ぅ、あ」

「時任先生!」

 

血だらけの時任が薄く目を開ける。口を半開きにして、掠れた声でしきりに何かを言う。

 

「…ぅ、え……あ…ぇ」

「ちょっと待て! 時任せんせ、何か言おうとしてないか?」

「……て…手、を」

 

何回も時任と治療を受けている緑谷が言いたいことを察する。手を体に乗せろと、そう言っているのだ。

 

緑谷はそっと時任の手を体に触れさせる。すると一瞬で時任の傷が癒え、同時に体が小学生程度の大きさまで縮んだ。

 

「けほっ……ごめん、三人とも。ありがと」

 

途切れ途切れになりながら時任が口を開く。

表面上の傷は消えていても、血に染まった白衣が先ほどまでの惨状を思い出させる。

 

「時任先生! もうお願いだから無理をしないで」

「そうだぞ! 先生は死にかけてたんだからな」

 

(血が、足りない)

 

体の傷は癒えても、失った血は戻ってこない。先ほど大量の血だまりを作った時任は、失血死の危険を抱えていた。

 

それでも時任は体を動かす。隣に倒れる相澤に触れると、相澤が怪我をする前の状態まで時間を戻した。

 

「先生! もうこれ以上はやめてください!」

 

緑谷が叫ぶ。蛙水と峰田はその瞳に涙を浮かべていた。

 

「……ねぇ、今から言うこと、よく聞いて?」

 

時任がゆっくりと口を動かす。

 

「今、血が足りない、から師匠に輸血を」

「分かりましたから! 寝ててください!」

「聞いて。今からオールマイトのところに行く。その結果俺はどうなるかわからない、けど……やらなきゃいけないことが、あるんだ」

 

活動時間を超えてなお戦っているオールマイト。平和の象徴にここで倒れられてはいけない。彼の活動限界をどうにかしてリセットしなければならなかった。

彼は今ギリギリの状態で戦っている。あの脳無というのは対オールマイト用に作られたものだ、と言っていた。

 

緑谷は時任のやろうとしていることに当たりがついた。緑谷は何せ何十回も時任の個性を使われているのだ。そして、オールマイトの活動限界についてもよく知っていた。

だからこそ、緑谷にはその危険性が分かった。

 

時任の右手のサポートアイテムを確認する。そこには7歳と表示されていて、彼の身体年齢を表していた。

 

(オールマイトの活動限界を戻したら、7歳分はとっくに越える……そしたら時任先生は死んじゃうかもしれない)

 

時任の考えもわかった。けれどその結果この人が死んでしまうのは、絶対にダメだと思ったのだ。

 

「ダメです! そんなことしたら、先生…先生…っ!」

 

ボロボロと涙を流す緑谷に、時任は穏やかな笑みを浮かべて言った。

 

「俺もわかんないんだ、どうなるのか。でもオールマイトさんに触れてから、すぐに俺を回収して輸血してほしい……頼めるかな」

 

それは緑谷にとって、師匠を救うために時任を殺せと迫っているようなものだった。あまりにも残酷な選択だ。

 

「お願い……オールマイトを、救けたいんだ」

 

否と言うことは、できなかった。

 

「梅雨ちゃん…峰田くん…ごめん。相澤先生のこと、頼んだ」

「うえっ!? おい緑谷! 時任先生のことどうするつもりなんだよ!」

 

(ごめんなさい……ごめんなさい、時任先生)

 

彼との特訓で身につけた、フルカウル。身体中にワンフォーオールを纏わせて、全速力で走る。不完全なそれに体は軋む。けれど早く、一秒でも早く彼の思いを届けなければならない。

だから彼は走る。オールマイトの元へ彼を連れて行くために。

 

オールマイトは脳無と激しい戦いをしている。物凄い威力の殴り合いだった。

側から見れば拮抗していたと思われた殴り合いも、黒霧の介入によってオールマイトが一気に不利になる。黒霧のワープゲートに体を拘束されたオールマイトは死の危機に晒されていた。

 

(まずい…! どうにかして抜け出さなければ)

 

黒霧がまさにワープゲートをとじ、オールマイトの体を切断しようとした瞬間。爆音が響いた。

 

「邪魔だぁ!」

 

(かっちゃん…!)

 

ヒーローのようなタイミングで現れた幼馴染に緑谷は心の中で歓声をあげた。

 

そこに追い打ちをかけるように轟の氷結が打ち込まれ、脳無を凍らせる。

 

「スカしてんじゃねぇぞ! モヤモブがぁ!」

「平和の象徴はてめぇらごときに殺れねぇよ」

 

爆豪、轟、そして切島の助けによってオールマイトが拘束から抜け出す。

その隙に勢いよくオールマイトに近づいた緑谷は、時任の手をオールマイトに触れさせる。

 

「……オールマイトさん、生徒たちを、頼みます」

「…待て! 時任くん! それはダメだ!」

 

オールマイトの制止をも振り切り、時任はオールマイトの時間を戻す。自らの限界をも超えて時間に触れた時任は笑みを浮かべ、そのまま意識を失った。

 

オールマイトの活動限界はリセットされた。なのに時任の体は全く縮んでいない。その事実にオールマイトは震えた。

 

「緑谷くん!轟くんたちも! 私はもう大丈夫だ。お願いだから一刻も早く時任くんを!」

「……何かあったのか?」

「何かじゃない! 今一番死に近いのは時任くんだ! どうにかしてリカバリーガールの元へ!」

 

敵を牽制しながらオールマイトは叫ぶ。

 

「ケッ、俺は戦うぜ。こいつらぶちのめしてやらねぇと気がすまねぇ」

「何のために彼らが戦ったと思ってるんだ! 君たちを守るためだ! それを無駄にするんじゃない!」

 

オールマイトが脳無を睨みつけながら叫んだ。

 

「かっちゃん! お願いだ、本当に時任先生が危ないんだ! それにオールマイトはもう大丈夫、足手まといになるかもしれない!」

「……ケッ、仕方ねぇなぁ!」

 

爆豪と緑谷が周囲を警戒しながら、轟と切島が時任を運ぶ。

活動限界のことは知らない爆豪らであったが、時任によってオールマイトの体の状態が良くなったことだけはわかる。今のオールマイトなら先ほどのように追い詰められることはないだろう。

それに、彼にとって生徒を守りながら戦うのはより負担になるかもしれない。

 

生徒四人がしっかりと時任を連れて行ったことを確認して、オールマイトは改めて脳無と対峙した。

 

(時任くん…本当にあの子は)

 

自らの対策として作られた脳無と対峙するオールマイト。相性は最悪だ。けれども負けられない理由がある。

 

生憎と体の調子は万全だった。全盛期にはもちろん劣るものの、活動限界自体は完璧にリセットされている。

 

パワー対パワー、力と力が凄まじい勢いでぶつかり合う。

ショック吸収、それを超えるショックを与える連打攻撃。オールマイトは行き場のない怒りを脳無にぶつける。

脳無に殴られる場所よりも、体の内にある心の方が痛むように思えた。その痛みすらも拳の力に変えて、オールマイトは脳無を殴り続ける。

 

「PlusUltra!!!!」

 

渾身のスマッシュとともに脳無が吹き飛んでUSJの屋上を突き抜ける。その人間離れした力に、死柄木は震えた声で言った。

 

「この、チートが!」

 

死柄木は首をかきむしりながら続ける。

 

「全然弱ってないじゃないか……あいつ、俺に嘘を教えたのか!?」

 

死柄木が声をあげたその時、弾丸が死柄木の肩を正確に貫く。

ヒーロー科の教員たちがやってきたのだ。それを見た死柄木は撤退を選択する。

 

「くそっ…!ゲームオーバーだ。帰るか、黒霧」

「逃がすわけないだろうが!」

 

オールマイトが死柄木に殴りかかり、モヤを広げた黒霧を13号が吸い込もうとする。

しかしオールマイトの拳が死柄木に届く直前、無情にもワープゲートは閉じた

 

「クソっ……クソ!」

 

時任の治療がなければ、確かにオールマイトは危なかった。敗北していた可能性が高いし、どんな結果に終わっても活動限界はかなり短くなっていたはずだ。

 

それでも、それでも悔やむことをやめられない。

 

後輩たちをあれだけ傷つけて、生徒たちをあれだけ苦しめた敵を取り逃がす。それが何よりも苦しかった。

 

 

 

ヴィラン連合による雄英高校USJ襲撃事件。生徒 数名軽傷。教員 意識不明1名。

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