Fate/Extra _rePlay ~献身の巫女、烈火の化身~ 作:藤城陸月
という訳で、EXTRAがアニメ化したので前々から構想を練っていたEXTRAの二次小説を投稿します。いまさらは禁句です。
───え?『お前、もう一つFate/の二次小説投稿してなかったか』って?『しかも、一年近く更新してなくないか?』
……な、何のことかなー(ダイマ)
──────ああ分かったよ!更新すればいいんだろ!どうせ時間は戻らねぇんだ、同時に更新すればいいんだろ!(ダイマ)
尚、サモさんは持ってません(血涙)
という訳で(どういう訳?)、どうぞ──────
1───Partner───
後頭部に衝撃を受ける。
前後関係は分からない。
正直な話、ここ数日(多分)の私は終日ぼうっとしている。
……目的意識がない、とでも言い換えるべきだろうか。
───いや、物事を深く考えることが出来ない、が正解だろう。
激しい痛みの中───『誰か』が囁く。
確かにその通りだ、と内心で肯定する。
全てが曖昧なのだ。
そもそもの話、私は───この月見原学園に通う私たちはどの様に暮らしているのだ?確かに、友人はいる。先生もいる。──────ならば家族は?帰るべき場所は?
第一に──────
───先ほどから感じていた頭痛が酷くなる。
───喪失感と浮遊感が同時に襲い掛かる。
だが、これは後頭部の痛みとも、失われていく温かいナニカとも関係ない。
白熱し、白濁する意識が罅割れる──────
それはまるで、袋とじを白刃で切り裂くようで──────
†††††
──────放棄された研究施設。
そんな風に形容するのが相応しいような、長い年月を感じさせる部屋だった。
しかしながら、不思議と生活感があった。
「───いよいよだな、■■■。調子はどうだ?」
「ああ、全く問題ない。むしろ、普段よりもいいくらいだビリー」
後ろから『私』に投げかけられる、老人の声。
そして、応える男性の───『私』の声。
「しかし、今日まで長かったような短かったような、という感じだな」
「正確には、4年と6か月だな」
「そっか……。俺はもっと長い間一緒に居た気がするなぁ」
「お前は無責任に要求するばかりだったからな。私は逆に、あっという間に感じている」
「……まぁ、お互いに
「余計なお世話だな」
混乱する『私』を置いて二人は雑談を続ける。
因みに、『私』老人『私』……の順だ。
振り返りながら答えた『私』の目に入った老人───ドクターは白衣を着た、研究者然とした男性だった。
年齢は少なくともを70歳を越したように思える老いた博士。しかしながら、その鋭い眼光から聡明さは老いとは無縁に見える。
返って、『私』の外見は分からない。
『私』自身が出している声なので自分の年齢も今一つ分からない。精々が、手術着のような物を着ている、という事ぐらい。
それも、コフィン、と言いながら冷凍睡眠維持装置に似た機械を親指で示した時に僅かに袖が見えた事からの推測だが。
「既に、ムーンセルにダイブする準備は整っている。行けるか?相棒」
「あんたに相棒と呼ばれる日が来るとはなぁ。全く、改めて俺は4年半を長く感じるよドクター・ビリー。
──────いや、
そう言って、『私』は拳銃を突き付け、剣呑に告げる。
……不思議と戸惑いはない。むしろ、不思議と馴染むような、奇妙な感覚がある。
「……何のつもりだ?テロリスト」
「いや、これが最後だしな。今後の事を含めて、ハッキリさせないといけない事は済ませないとな。───全く、何がウィリアムだからビリーと呼べ、だ」
「一介の研究者に偽名のセンスを求められても困るな。生憎、専門外なのだ」
「そりゃそうだ。ロード・アニムスフィア───元、魔術協会の一角たる時計塔が一学部、
全く、何処が一介の研究者、だ。最高位の専門家じゃねえか。ホントに食えない爺さんだよ。全く。
そんな風に『私』はボヤく。全く関係ないが、『私』の口癖は「全く」らしい。
しかし、テロリスト、か。先ほどの、自分ながら───『私』ながら、何処から出したか分からない拳銃の自然な使い方から、ある程度以上に使いこなしているように思える。
「さて、何が望みだ?」
「いや、特には。これは一種の儀式みたいな物だと思って欲しい。最後の会話なんだ、本名を明かしても良いだろう」
「全く、変わらんなお前は」
口癖が移ってしまったな。4年と6か月は短くはなかったか。
そう続ける博士に『私』は笑って、拳銃を───銃弾の入ってない拳銃を放る。ついでに、右ひざのサバイバルナイフも一緒に。
───呆れ返る老人博士と面白がる不良助手。
その関係に、何処か名残惜しそうなものを感じた。
「さて、ハッキリさせたい事とはなんだ?」
「さっきも言った通り、今後の事さ」
手術着(合ってた)を脱ぎ捨てる。
その後、右手首から右ひじまであった謎の───恐らく拳銃を収納していた───バネなどの複雑な絡繰りを分解し、左ひだのサバイバルナイフを収納していたベルトを取り、その下に巻かれていた包帯を手早く解く。
文字通りトランクス一枚になり、そのまま体を解す。
その際、両腕・両足に無数の古傷が刻まれている事に気付く。
積み重なった痛ましさを悲しく思いながら『私』は受け入れる。
「俺が死んだ後、研究成果を持って西欧財閥に投降しろ」
「そうすべきなのだろうな。今までの臨床試験データを持ち込めば、私は好条件で迎え入れられるだろう」
「そうする以外に選択肢がないからな。幼い娘さんもいるんだろう。
俺が死んだなら、それを何かに役立ててくれ。今まで壊すことしか出来なかったからな、それくらいはしても良いだろう」
「───だが断る」
「……おい」
「お前の持ってきた漫画を読んで以来、言ってみたくてなぁ。許せ」
「全く、あんたと過ごした4年半、退屈したことは無かったよ。ドクター」
「私もだ。相棒」
身体を解しながら。先ほどコフィンと呼んで指さした機械を見つめながら、そんな下らない事を言い合う。
「因みに、娘はお前より一回り下ぐらいだがな」
「マジか……思いっきり騙されてたな」
「勝手に勘違いしておいてよく言う」
「成長する前の話しかしてないでよく言う」
「年を取ると、昔の事ばかり思い出すものだ」
そういうモノか。という呟きに、そういうモノだ、と返ってくる。
こんなことを言い合える奴が出来るとは思わなかった。という独り言に、同感、と返す。
友人とかいなさそうだしな。お前こそな。
本当にくだらない言い争い。ありふれた、ありふれていた───もうすぐ終わる日常。
「───あ、娘はやらんぞ」
「それも言いたかっただけだろ……。んで、結婚してんの?」
「さて、どうだろうなぁ。私は死んでることになってるしなぁ」
「情報が入ってこないだけかよ……」
「私が知ってるのは精々が十代後半ぐらいまでだ」
「───そっか、あんたもか。ドクター」
『私』が入るコフィン───
──────
口の中で消えたソレはその少女の名前だろうか。
コフィンの中に横たわる。
元々、このコフィンは別の目的のために設計された物らしい。
曰く、疑似霊子転移───より正確には疑似霊子変換投射───を行うための装置として設計されたが、魔術の衰退と共に計画は頓挫。今回、ムーンセルへの霊子ダイブを行うための装置として再設計したらしい。
緊急時に備えた冷凍保存などの仕組みも組み込まれている。
必要な電力は秘密裏に作られた海底油田基地から供給されているらしい。
『私』が知らなかった───こと知るはずがない『知識』が頭の中に入ってくる。
──────いや、これは■が『此処』に来るために使った──────。
───ガラスが罅割れるような。そんな幻聴。
───脳髄が熱暴走するような。そんな幻痛。
「また会える日を楽しみにしている」
「そうだな、ドクター」
『私』───『■』とドクターとの話声が、何処か遠くから聞こえる。
───まるで、深い水底から陸の声を聞くような。
──────まるで、夢から覚める直前のような。
「───もし、───ってこれな─ば」
「そんな───な……。まぁ、──ぐらいは─てやる。此処ごと──────がな」
「す──な、正直──」
「フン。それに、──────だしな」
「──────よ、ド──ー」
「おま─────。───じゃな───」
──────長生きしろよ、ドクター。
──────お前こそ、死ぬんじゃないぞ。
全てが暗転する。
──────さあ、そろそろ起きる時間じゃないのかな?
†††††
ぼやけていた視界が焦点を結ぶ。
───初めに目に入ったのは0と1の青空だった。
情報の海ならぬ、情報の空。
あるいは情報の世界。
すなわち霊子虚構世界。ムーンセル内に作られた、聖杯戦争の舞台となる仮想現実世界。
───頬が緩むのを感じる。
コンクリート製と思われる壁でコの字に切り取られた、0と1の青空。
どうやら自分は、腰をくの字に曲げた体勢で寝ころんでいるようだ。
自分がいる場所は袋小路。
先ほど後頭部に感じた激痛と出血。そして自分の体勢から、今、自分がどの様な状況に置かれているかを判断する。
上を向いていた視線を正面───袋小路の出口に向き直す。
目に移ったのは三人の男子生徒。三人の内一人が金属製の長物───古き良き鉄パイプを持っている。
着崩された制服やアクセサリーなどをした典型的な不良。
───腕に力を籠める。
色素の薄い細腕は想像以上にスムーズに動く事が
それ以外に、身長や体重を始めとする体格。および、五感の鋭さなどの身体技能が全て把握できる。──────いや、自覚できる。
───そのまま、一気に立ち上がる。
視線の低さに違和感を覚える
それに反して、滑らかに動く
視界の端に移る長い黒髪に違和感と既知感を同時に自覚する。
──────
──────唯一の救いはこの体に見覚えがある事か。
さて。確認しなくてはいけない事が溢れているが、その前にやらないといけない事が有る。
───目の前で出口を塞いでいる三人の男子生徒。
───見た目は華奢な少女の体になっている自分。
数分後の自分が辿るであろう末路は一瞬で理解できる。
この状況では、じっくりと物事を考えることは出来ないでだろう。
そして何より──────電脳空間とはいえ、
それでは、久しぶりに兄としての責務を果たすとしよう。
張りきって。
喜び勇んで。
肝心な時に守れなかった兄失格の男だけど──────いや、だからこそ今ぐらいは守りたい。
そのために──────その為だけに、戦ってきたのだから。
『自分』が、『俺』が立ち上がったのを見て、下卑た笑みを浮かべる不良───
倒すべき、乗り越えるべき、別に殺しても構わない。そんな明確な敵を確認する。
重心移動から護身術、格闘技等の経験はなし。
同じく比較的大柄だが、身体能力はそこまで高くない。
服装は、着崩したブレザー。シルバーアクセサリーがいくつか。
総合して、個人個人の危険度は極めて低い。
まぁ、この学校(多分)が平和(だった頃)な日本の学校に似ており、再現されている
詰まるところ、群れなければ『ごくありふれた悪行』すら出来ない様な三下な雑魚。
群れなくては何も出来ないくせに、結束も何もない烏合の衆。
結論として、不意を付いた個別撃破に限る。
意識が朦朧としているふりをして歩きより、油断して近づいてきた一人目の不良───不良Aの股間に膝蹴り。
悶絶し、崩れ倒れる不良A。
驚き、一瞬茫然としていた二人の不良。その内、鉄パイプを持っている不良Bが三歩の距離を一息に縮め、得物を振り上げる──────前に軌道から体を外し、鉄パイプを支柱にして不良Bの体勢を崩す。握力が緩んだ手から鉄パイプを奪い、後頭部にフルスイング。
そのまま動かなくなる不良B。まぁ、正当防衛だろう。無罪無罪。
「おッ、お前……まさかッ、マスター、なのか!?」
確かな手ごたえに内心満足していると、上ずった声で不良Cに
体勢をずらし、不良Cと向かい合う。
しかし、マスターなのか、か。
色々と聞かなくてはならない事が出来たが、どう誘導するべきか。
さて──────。
「──────さて、どうだろうね」
取り敢えず、余裕があるように振舞い誤魔化す。
今更だが、自分が出している声が懐かしい。自分が出しているので、少しズレがあるが聞きなれた声。聞きなれていた声だった。
「ふざけるなッ!NPCに、AI風情にそんな事が出来るはずがないだろう!」
「そんな事、か」色々と突っ込みたいことが多いが飲み込もう。ここは──────煽るか。「どんなことだい?」
──────一歩、足を踏み出す。
後ろに下がる、下がろうとした不良C。彼は自分が恐怖を抱いた、という事に気付く。
「──────っせぇんだよ!!」
恐怖を感じて後ずさった。その事実に逆上して、あるいは恐怖を誤魔化すように吠える。虚勢を張る。
ああ──────よく見た光景だなぁ。
「──────ヒッ」
目を会わせる。こちらの表情に、彼が何を見たかには興味がない。
ただ、何かが壊れたのを感じる。
狂気を感じさせる甲高い笑い声。
「ああ、いいよ。教えてやるよ」
不良Cの歪んだ笑顔。壊れてしまったのは、最低限のタガか。
右手と握るジャックナイフの周りで活性化する霊子。
「教えてやるよ。教えてやるよっ。教えてやるよォッ。どんなことか教えてやるよォッ!」
一つのフレーズを狂ったように連呼し、凶器を振り上げる。
「くらえッ!sla───」「遅い」投擲した鉄パイプが鼻面にぶつかる。「───ガッ!」
急速に霧散する霊子。
ジャックナイフは、不良Cの後ろに飛んで行った。
低くしていた体勢から一足に間合いに入り込む。鼻血を出しのけ反る不良の襟首を両手で掴み、鼻面に頭突きをする。
鼻が潰れ、気を失った男の顔面を片手で掴み、コンクリートの地面に叩きつける。
痙攣していた男は、今まで見慣れた様に動かなくなる。
今になって思い出したが、妹は剣道と合気道を習っていた。
当時の自分にはどの位の実力だったかは詳しくは分からないが、魔術師の家系ゆえ無茶な練習が出来たので全国大会で好成績を取っていた──────ような覚えがある。
──────先ほどの自分は、妹が武道を嗜んでいたことを思い出せなかった。
原因は不明だが、この『
…………正直、大分困った。
只、自分の名前や経歴が思い出せないのは仕方ないと割り切れるが、妹のことをほとんど思い出せない事だけは残念だった。
ここは地上を遥か月面。
──────やれやれ。思えば、遠くまで来たものだ。
寂寥と共に吐き出された自嘲は、誰にも届かずに消えていく。
†──────†──────†
時は僅かに前後する。
正道の武を身に着けた少女の体に、純粋な殺に慣れた悪鬼の精神が入り込んだ魔人は刃物を回収し立ち去った。
残されたのは、気を失っている二人の不良と一つの死体。
「───く……ソが」
──────いや、訂正しよう。
先の魔人が殺した、殺したと思っていた不良は──────サーヴァントと契約をしたマスターは、何らかの法則により意識を取り戻した。
「───ち、く生……」
痛い。
痛い。イタイ。痛い。イタイ。痛い。
「クソ、畜生……」
痛みが引かない。
「ああァあああんのアマァぁあああ!!!」
叫ぶ。
恥も外聞もなく叫ぶ。
怒りに任せ、使えない
「──────おい、どうした。野良犬にでも噛まれたか?」
「あァ!?」背後からの声に振り返る。「───チ、
羊毛と馬の皮で作られた民族衣装をした大男──────サーヴァント、ライダー。
「無様だが、随分と男前になったじゃないか」
「クソが……ッ。どうせ見てんたんだろうが、ライダーァッ!」
「ああ。見物させてもらったぞ」
「ならッ!どうして──────」
「どうして、手を貸さなかったのか、か?」
「ク……。ああそうだよ!お前だって、
「まぁ、お前が死んだら確かに困る。
───だが、これはお前の戦いだろう。お膳立てされた手に入れた女を抱いて何が楽しいんだ?」
気迫に押され息を呑む。
ライダーの声は此方を落ち着かせようとするものだ。
「そう、だな。ライダー……」
「何事も経験だ。死にさえしなければ何とでもなる。
保険として、お前には
「そうか……」
「落ち着いたか」
「ああ……。済まなかった、ライダー」
「お前は小物の上に臆病者だ。自分に出来ることを考え、冷静に振る舞える状況を作り出せ。
数で攻めるのは良い。こちらが優勢ならば、息を付けずに畳みかけろ。
今回は質や量の問題ではなく、疾さが足りなかったな。状況を的確に把握して迅速に指示をしろ」
「……手厳しいな。頭が痛い」
「仕方ないだろう。お前には成長してもらわなくてはならんのだ。そうでなければ勝ち抜けん。
頭に手を置かれ、そのまま乱暴に撫でられる。
相変わらずな子ども扱いに抗議したいが、ライダーにとってはただのガキなのだろうと自分を納得させる。
「さて、いかに出来の悪い小僧でも
「ライダー……」
「お前とて、やられはなしになるのはご免だろう」
「ああ……。ああ、そうだ。そうだよライダー!
さっきは、急な展開だったから失敗しただけだ。きちんと準備をして、正面からぶつかれば負けることは無い!」
「その意気だ。
──────ああ、もしかしたら、あの女めを逃がして正解だったかもしれんな」
「……ア?どういうことだよライダー?」
「どの様な結果であれ負けは負け。それは覆しようがない事実だ。
あの女は其れをよく分かっている。故に、お前を殺した──────殺したと思い込んだ」
「───そうか。アイツを一泡吹かせるってことか」
「そういうことだ。それに──────」
「それに?」
「それに──────ただの女を犯すより、
ライダーは獰猛に笑う。
生前の行いを表すような悍ましい笑みに頼もしさと、一抹の恐ろしさを感じた。
†──────†──────†
アイテム名───護身の仕込みナイフ
コードキャスト:slash(16)
効果:軌道に沿って、短い斬撃を飛ばす
「……ほぼゴミだな」
ジャックナイフを回収し、そのスペックを確認する。
最大射程は5m。切断力、破壊力は貧弱。射程ギリギリでは薄皮が切れる程度。……(魔)改造確定だな。
───さて、これからどうしてら良いのやら。
メニューを開き、ジャックナイフを収納。そのままアイテム欄から回復系アイテムを取り出す。
どうやら初めから持っていたらしい、回復系アイテムを利用し後頭部の怪我を完治させる。
本来はサーヴァント用らしいが、少し調整して人体に使っても問題ないように加工した。
辺りを見渡す。
ここに居ても仕方がない。移動しよう。
ここは袋小路。出口は目の前の一か所しかない。
──────袋小路から出る。
──────視界が白一色に染まる。
上下左右が無数の、まるでガラスのような硬質で半透明な、正方形の板の連続で出来た通路。
壁、床、天井の向こう側には一面幾何学模様。その上を無数のバイナリコードが流れていく。
赤光に照らされた通路の世界に果ては見えず、只々、幾人の己と薄暗がりを写すのみである。
──────何処だここは。
とっさに装備を確認すると、先ほどアイテム欄に放り込んだジャックナイフと何時の間にか入っていた鉄パイプ。後は日常品と回復アイテムが少し。
……以上。
正直、心許ないのでジャックナイフと鉄パイプを使って、即興だが礼装を作成することにする。
アイテム名───数打ちの
コードキャスト:slash(32)
効果:軌道に沿って、斬撃を飛ばす
アイテム名通りの打刀。刀身が70cm程の抜刀しやすい、主に徒戦用の日本刀。
コードキャストの斬撃の射程はおおよそ15m。
二三分で作ったにしては上等だろう。元より、細かい作業は苦手だった──────ような気がする。
左腰に刀を帯び、抜刀。数度の素振り、打ち込みの後納刀。
正直なところ、まだ心許ない。
だが、このまま此処で立ち止まっている訳にはいかない。
後ろを振り返る──────前方と同じく、通路が続いている。
どちらに進もうと同じ事だと思い、足を踏みだ──────
──────ガシャリ。
足音。
不意に背後に気配を感じ振り返る。
其処には──────跪く
──────その姿勢は、これからの奉公を主に誓う騎士のようで──────
「──────俺と一緒に来てくれるかい」
──────ガシャリ。
期待半分、思い付き半分の提案を
何かの
歩く。
歩く。歩く。歩く。
カツカツという
歩き出して約10分。代り映えのしない通路を進む。
時たま、球体の敵対プログラム───以下、エネミー───が現れるが、
歩く。
歩く。歩く。歩く。
歩き出して約30分。距離にして、3㎞ほど。未だ通路の先は見えない。
遠距離斬撃でエネミーを屠ると、僅かだが相棒が拗ねる様子を見せるので彼(?)に戦闘を任せている。先ほどからこちらがしているのは簡単な指示だけである。
歩く。
歩く。歩く。歩く。
……。
走る。
走る。走る──────立ち止まる。
壁、天井と同様に床も半透明──────つまり、ある程度は反射することを思い出し、反射的にスカートを抑える。
何があったかは描写しない──────が、短パンあるいはホットパンツ。若しくはスパッツの類をスカートの下に着用しようと思った。
決して、白い布は見ていない。決して。
───コツコツ。
───ガチャガチャ。
───コツコツコツコツ。
───ガチャガチャガチャガチャ。
───コツコツコツコツコツコツ…………。
───ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ…………。
歩く事一時間。倒したエネミーは16体。
目の前にあるのは──────平坦な道だった今までとは異なる上り坂。
──────たどり着いた。
その実感があった。
──────振り向く。
僅かな時間だが、ともに歩いた
相変わらずの無機質さ。だが、その姿に確かな頼もしさを感じる。
「──────行こうか」
足を踏み出す。
──────ガシャリ。
初めは驚いた足音にも慣れた。
背後の足音に頼もしさを感じながら、上り坂を上っていく。
†
石造りの
目の前で立ちふさがるは──────こちらの従者と同型の
応じるように、主の身を護るために前に出る武骨な騎士。
──────完全なる
違いを挙げるなら、背後に守る物が居るか、否か。
正面から激突──────すると見せかけ、横っ飛び。一瞬たたらを踏んだ敵影に
衝撃によろめく相手を強烈な蹴撃を見舞う。
吹き飛んだ人形に追撃を与える人形。
──────どれほど力を持つ者でも、生存競争は避けられない。
不意に、そんな事が───ごく当たり前の事実が───頭をよぎった。
戦いは続き──────そして、片方の戦士が動きを止める。
不意に、左手の甲に痛みが走る。
三画の血色の入れ墨。その模様は海面から昇る朝日を思わせる。
──────決着は着いた。
敗者は頽れ、その姿は風化し消えていく。
勝者は驕らず、物静かに帰ってくる。
「──────お疲れ様」
乾ききった口から出たのはその一言。
傷だらけの騎士に回復を施す──────。
──────傷ついた従者は無言で回復を断り、主からの労いの言葉にのみ体を休める。
「お前──────そう、か」
ここまで、なのか。
「今までありがとう
物言わぬ
見ず知らずの相手に仕えることを良しとした誇り高い騎士。
たとえそれが、予め定められたプログラムだとしても──────いや、プログラムに従った結果だと初めから気付いていたが、その姿は頼もしかった。
何時の間にか現れていた光の階段を数段上る。
──────後ろ髪を引かれ振り返る。
そこには棒立ちになり、こちらを見上げるかつての従者。
ありがとう。さようなら。
そんな気持ちを込めて小さく手を振る。
前を向き直し、改めて階段を上る。
コツコツという足音が重く響いた。
──────ガチャリ。
弾かれたように振り返る。
大きく右手をふる人形の騎士。
…………全く。最後までこちらを立ててくれる良い従者だ。
笑みと共に前を向き直す。
足音は軽やかに。
遥か前方の光を希望と信じ、駆けあがる──────。
寡黙な騎士は、光に向かって走り続けるかつての主を見送り続けていた。
†
光の門をくぐる。
そこは──────海の底だった。
ほとんど光の届かない、暗い海底。
だがそれは深海ではなく──────嵐の海。
嵐の中、船から投げ出された船員が今際の際に見るような暗く、静かな海。
絶望を感じる、陸の上でしか生きる事の出来ない命──────一秒後の死が確定した哀れな魂を海は優しく迎え入れる。
「──────問いましょう」
背後からの声。
冷たさを帯びた。静かな、落ち着いた女性の声。
だが──────それは無慈悲なわけではない。
その声は微かな柔らかさを残しており、こちらを試すような──────そして、何処か期待するような。
ゆっくりと振り返る。
顔を付した巫女装束の少女。
「あなたが──────」
少女が顔を上げる。
──────目線が合う。
腰まである濡羽。薄桜の肌──────そんな日本人を思わせる体色に反する
「あなたが、私のマスターですか──────」
大いなる海。母なる海。
その姿は何処か海を連想させる。
「君は───」
「私のことはキャスターと呼んでください」
唱えるもの。投げかける者。
何かの役職の名前だろう、と当たりを付ける。
「そうか。じゃぁ、キャスター。
君の問いに答える前に、幾つか質問をしても良いか?」
「構いません」
目の前の少女───キャスターは冷たい声で機械的に返す。
「了解。では──────マスター、とは」
話の順序を飛ばし、先ほどの問いかけで唯一分からなかった単語の意味を問う。
マスター。
先の諍いで叩きのめした不良からで聞いた言葉。
恐らく、キャスターと同じく何かの役割を示す名なのだろう。支配する者、だろうか。
「己が願いを叶えるため、熾天の玉座を目指す者。
そのために戦闘代理者たるサーヴァントを従える者。
今現在、あなたはその資格を持つ者。左甲の令呪はその証」
熾天の玉座とは聖杯の事と判る。
鮮血の文様は令呪と言うらしい。
そして、サーヴァント。
読んで字のごとく従者。
戦闘代理者という文言に、先の人形の騎士が思い浮かぶ。
「そうだ──────俺はマスターだ」
宣言する。
自分は前に進むのだと。
「俺のサーヴァントになってくれないか」
依頼する。
自分と共に戦って欲しいと。
「いいでしょう。ここに契約は成立した」
一拍。軽く息を吸うのが聞こえた。
「──────サーヴァント、キャスター。あなたの期待に応えましょう!」
花が咲いたかのような満面の笑み。
一瞬前迄の硬い表情は跡形もない。
その表情は、屈託のない純粋な、喜びを表すもの。
『──────お兄ちゃん』
「──────
一瞬のフラッシュバック。鮮明な幻覚。
零れ落ちた名は、欠けていた妹の名前。
顔は似ていない。
似ているのは髪くらいだ。
身長は近いが、強い母性を感じさせる目の前の少女とは体型は大きく異なる。
しかし、輝かしさすら覚える笑みに、妹が──────人見知り故に普段は冷たいが、本当は気性は激しく、親しい人の前では本音をぶつけて来る。俺は、本心からの笑みを守ろうと誓った。その少女が──────実幸が思い浮かんだ。
「マスター!?どう、したのですか」
「大、丈夫だ。全く……問題ない」
「強がらないでください。
単に綺麗ごとではなく、私たちは運命を共にする仲です。
出会ったばかりで話しづらい事は察しますが、私に打ち明けてくれませんか」
駆け寄り、あやすように頭を撫でる少女。
封印したはずの凝り固まった感情が頬を伝い、僅かに解ける。
「実幸は俺の妹なんだ。
そして同時に、この
「俺は本当は男だった──────はずなんだが、気付いたら記憶を失った上に妹の姿になって彷徨っていたんだ」
誤魔化し、取り繕う。
心の底で押し固めた輝石。剥き出しのままでは、喪失感で歩く事すら覚束なかった。
「──────どんな妹だったんですか?」
追撃にして止めの一撃。
柔らかさで包まれた言葉の剣。
心の欺瞞を暴くために振るわれる、刃を持たない斬撃。
傷つけることの能わぬはずの一撃は古の城壁すら容易く切り裂くだろう。
俺には勿体ない、出来た妹だった。
人見知りが激しくて、基本的に無口で無表情。
ある程度親しくないと世間話すらしてくれない。
その割に、本当は感情の起伏に富んでいて、本当に親しい相手には本心をぶつけてくれた。
時たま見せる心からの笑み。
俺はその輝きを一番近くで見ていた。
守りたかった。──────守れなかった。
「──────。
俺は、守れなかったんだ」
何時の間にかぼやけていた視線が、気が付いたら下がっていた。
膝頭が冷たく、硬いものに触れていることに今更ながら気付く。
「──────そうですか」
頭部を柔らかさに包まれる。
抱きしめられているのだと気づくのに一瞬の時が掛かった。
「頑張ったのですね」
掛けられたのは、同情でも慰めでもなく労いの言葉。
「──────キャスター」
「──────はい」
何と無しに呟いた呼び名に律義に答えたキャスターはあやすように頭を撫でる。
やめて欲しい。そう、言おうとした。
ひぐっ──────と、しゃくりあげるような音が漏れた。
「我慢しなくても良いのですよ」
こらえる。
我慢する。
そうしなければ、柔らかさと温かさに全てをぶちまけてしまいそうだった。
「あなたは痛みを抱きながら歩き続けた。
その行いに、その日々に、私は敬意を表します。
私には、その感情に共感する資格はありません。
ですから──────いえ、だからこそ私はあなたを称賛します。
改めて、よく頑張りましたねマスター」
なぜ、この少女は見栄とかプライドとかいうものを砕きにくるのだろうか。
俺は震える手でキャスターの背に手を回す。そして、そのまま豊かな胸に顔をうずめる。
キャスターは、柔らかで温かな──────そんな当たり前の、傍らにいる誰かのような手で頭を撫でていた。
†
何時の間にか涙は止まっており、頭を撫でていた手はゆっくりとしたリズムで背中を叩いていた。
このまま背を叩くリズムに身を任せ──────いや、このままだと眠ってしまう。
「キャスター。もう──────」
「──────マスター。いえ、
もう大丈夫、と言おうとしたのを遮られる。
俺の名前は美幸ではなくて──────と訂正しようとして、自分の名前すら思い出せない事に気付く。
「あなたは私が──────この
「ですから、安心して身を任せてくれませんか」
……そうか。実幸を守ってくれるのか。
そして、美幸を守ってくれるサーヴァントがかの有名な英雄、ヤマトタケルなのだ。
──────それなら安心だ。
キャスターは出会って間もないマスターの状態を察している。
その上で、こちらを安心させる為に、わざと名前を間違えた。
──────あなたの代わりに、あなたが守りたかったものを守る。だから安心してくれ。
全てを背負う。
その覚悟を持ってキャスターは宣言したのだ。
ならば──────
ならば──────
歪な関係であることは分かっている。
──────だからどうした。
元より、今の自分はがらんどう。
聖杯に託す願いすら思い出せないのだ。
今、この瞬間。キャスターの宣言で俺の覚悟はできた。
聖杯戦争をこの体で──────実幸として勝ち上がる。
薄れる意識の中で、そう決意した。
安心して眠りにつく、という当たり前の幸福を噛み締めながら。
という訳で、詰め込み過ぎた感がある一話です。
アニメの波に乗り遅れたけど、まだ致命的ではないと信じて。
それどころか、今日(4/1。投稿予定日)の十話が最終回、なんて疑惑があるのだが……予約投稿なので確かめようがないのですが、違ったら魔力供給()の回数増やします。
魔力供給を増やすことが目的ではありませんよ。念のため。
【クラス】:キャスター
【マスター】:──────/
【真名】:ヤマトタケル(?)
【宝具】:?????
【キーワード】:ヤマトタケル
:?????
:?????
【ステータス】:筋力:E(?) 耐久:E(?) 敏捷:C(?) 魔力:A 幸運:B 宝具:EX
【スキル】:陣地作成:A+(B) 道具作成:A+(B) 神性:A+(D) ?????
【出典】:日本神話(古事記・日本書紀など)
ヤマトタケル:日本神話に登場する英雄。
古代日本の皇族であり、西征・東征を行ったとされる。
キャスターの真名として伝えられた。少なくとも、関係者であると思われるが果たして──────。
??????????。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回投稿は来月の予定です。