Fate/Extra _rePlay ~献身の巫女、烈火の化身~ 作:藤城陸月
原因は多くございますが、その全ては自身の至らなさが諸悪の根源でございます。お待ちしている方々には、誠に申し訳ない事を致しました。申し訳ございませんでした。
さて、マスターの方々、CCCイベントは完走できたでしょうか?
今回のCBCイベントは本格的なシナリオやクエストがあるようです。張りきっていきましょう。
という訳で、メンテ中の暇な時間にでもどうぞ──────
目の前の『問題』と向き合っていた。
決して避けられない宿業。
日常として熟すべき因果。
『今までの自分』には縁がなかったこと。
だが、今の──────これからの自分とは切れないこと。
いま、自分の目線の高さにあるモノ──────『布切れ』。
それは、身に着けるモノ。
しかしながら、今までの自分には必要なかったもの。
目の前の『問題』──────そう、着替えである。
──────女性用下着。
男性にとっては追い求めるモノであり、崇拝の対象とする『極めた人』もいる。
一種の『哲学』、あるいは『宗教』と表現しても過言ではないのかも知れない。
しかし、今の自分の『体の性別』──────女性にとっては、ごく当たり前のモノでしかない。
これが現実逃避だ、ということは分かっている。
今の自分が『身に付けた状態』であり、着替えることは『脱ぐ行程』が増えるだけであり、精神的負担を軽減したいのなら着替えない方が良いことも理解している。
だが、この
前提として、電脳空間なので着替えなくても汚れることはないことは承知である。
だが、兄として妹を着替えさせない、というのは問題があるのではないだろうか?
逆に、兄が見ている前で、妹に着替えさせる、ということは問題が生じるのではないか?
このような思考のループに囚われて、早20分──────。
この場にいるのは、顔を真っ赤にして下着を見つめる少女と、霊体化して苦悩する少女を優しげな顔で見守る美女だけである。
顔形は似ていないが、仲の良い姉妹と見紛う様な──────事情さえ知らなければ微笑ましさすら感じる光景だった。
そして、自問自答すること合わせて四半時──────。
少女の姿をした人物は、自分は美幸なのだ、と呟いてから──────きつく目を瞑った。
その葛藤を見守っていた美女は己のマスターの決断を目守っていた──────他意はあったが。
†
目が覚めたのは一時間ほど前。
疲れが今一つ取れていない事を微睡みの中で感じた。
まぁ、段ボールの上で寝ていたのだから当然ではあるのだが。
昨日の自分に、なぜ寝具を買わなかったのか、と問い詰めたい。
確かに、慣れている、と思った。
しかしそれは、慣れている体だった事が前提である。
今日は寝具を調達しよう。
そう思って、目を開ける。
──────海の青と目が合った。
「──────きゃす、ター?」
「はい、キャスターです。おはようございます美幸」
おはよう、と返して。上体を起こして大きく背伸び。
自分の出した声が少女のモノである事には、慣れるしかないだろう。
昨日手に入れ、
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名義──────??????
/仮名義──────実幸
時刻──────07:15
アイテムリスト
/アイテムファルダ──────
/礼装ファルダ──────
メール──────1件
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──────メール?
食事の前に、タイトルと差出人ぐらいは確認しておこう。
添付データ付きのソレの差出人は間桐桜、タイトルは『制服の件について』。
間桐桜──────。
保健室の後輩の姿が浮かぶ。
彼女の床につきそうな髪は、光の具合で桜色に見える事がある。
思わずいじり倒したくなるような。そして、いじめた後に抱きしめて頭を撫でたくなるような。そんな、軽い加虐思考と重度の庇護欲を掻き立てる少女である。
制服については心当たりがある。
恐らく、データサーバを漁って探してくれたのだろう。
急いで見たい気持ちもあるが、朝食を食べた後に、一端落ち着いてから見たいと思った。
設備がないので、昨日購入した惣菜などで簡単に済ませる。
購入した時から、半日近く経っているのに暖かさを感じる。──────携帯端末の中に収納した物は時間の経過がないのだろうか?
そんな事を考えながらメールを開く。
本文は簡潔に二行と短い。
曰く──────
──────取り敢えず、先輩が希望していたセーラー服一式とその付属品を送ります。
──────セーラー服以外の制服のデータや制服以外の洋服についてのデータも送るので、こちらについてはリソースを消費して作成してください。
それに添付されていたデータを開く。
内訳はファイルが二つ。
上がセーラー服その他。
下が洋服データ。
極めてシンプルな内容。
単純明快で非常に見やすい。
優等生らしいメールだが、単純にメールに慣れていないのかも知れない。
セーラー服のファイルを丸ごと実体化させる。
シンプルなハンガーラックと其れに掛った洋服類。
紺色を基調としえんじ色のスカーフ。襟に二本、袖と胸ポケットに三本の白線。
スカートの丈は……恐らく、膝よりも上だろう。短く感じるのは慣れていないからだろうか?
そして……スキッパー(だったか?)襟が開いている白のブラウス。そして──────そして、下着。
………………下着。
テセウスの船、という哲学的議論がある。
これはギリシャの英雄テセウスが所有していたとされる船に由来している。
立派な船であったが、この船は木製。長い年月が過ぎる内に、少しづつ朽ちていった。
船の保有者(勿論、テセウスではない)は、朽ちた部品を新しい部品と少しづつ取り換えることで船のカタチを保っていた。
さて、全てが新しい部品と置き換わった船は嘗ての船と同じなのだろうか?
あるいは、古い部品を搔き集めて船を作った場合、どちらの船が本物なのだろうか?
以上を踏まえて、だ。
この身は──────
そして、
自分は誰なのだろうか──────という事については考えない、という結論でおちついた。
自分──────俺は『美幸』だ。少なくとも今は、それ以外の誰でもない。
だが、自分の性別はどちらなのだろうか?
体である、妹のモノに合わせるべきなのか。
意識である、『俺』に合わせるべきなのか。
そんなことを考えながら、テセウスの船は思想の海へと出港した。
結論として、体を装うものである以上、体の性別に従うべきだ、という結論に至った。
その過程で、男性的な好奇心による明らかに潔白ではない意志による強権が発動したかどうか──────それは、本人にすら分からない。
†
着替えるには脱がなくてはならない。
──────摂理である。
初めに制服の上半身──────紺のリボンタイの蝶結びを解き、ベージュのブレザーを脱ぐ。
一番初めに、右が前、という事に戸惑う。
……そうか、こんなところから違うのか。
まだ序の口の段階。些細なところですら少し感動すら覚える。
続いて、制服の下半身──────ブレザーと同色のスカート。
左腰にあるホックを外す。
重力に従い、落ち行くソレを掴む。
高が布切れなのに、ソレが太ももを撫でる感覚に体の芯が震える。
今の痺れるような感覚は触れてはいけない様な気がした。
そして、白のシャツ。
ブレザーと同じく右前のボタンを外していく。
少しづつ、地肌が外気に晒されていく。
……ボタンを一つずつ外していく。
それと同時に、隠れていたナニカが少しずつ露わになっていく。
さて──────。
残るは本丸たる二枚。
「──────えいっ☆」
「ひぃゃぁッ!」
つつっ、と。背筋に冷たさが走る。
背筋を指でなぞられたのだと気付くのに数瞬。
「可愛らしい反応。ありがとうございます」
ふふ、と怪しげな笑いを含めて。キャスターは背後からこちらを玩ぶ。
「ってキャスター!?いきなりなにをす──────」
「失礼。見ていて微笑ましかったので」
何をするんだ、と言おうとするのを遮り、振り向くのを抱きついて防ぐ。
上下二枚の下着しか身に着けていない体──────その背中に、キャスターの来ている巫女装束の生地が擦れる。
──────その感触に。
ここまで初心だと色々とからかいたくなりますよ──────なんて言いながら、冷たさを感じる指が“私/俺”の手を優しく、だが確りと掴む。
──────その冷感に。
──────その吐息に。
体の奥深く。大切な部分。
そこに痺れが走るような。
─────この感覚に流されてはならない。
「例えば、そう」耳元で囁かれる「こんな風に」
キャスターが手を動かす。
─────此方の掌を掴んだまま。
─────指を動かす。動かされる。
白い腹に─────薄い脂肪の下に、鍛え上げられた腹筋が感じられる。
へその辺りから。右手を下に、左手を上に。
シミ一つない、なだらかな白陶磁の肌を滑らせていく。
最後の防壁の前で掌の誘導が止まる。
キャスターの手の掴み方が変わる。
指と指を絡めていた持ち方から、手首だけを軽く支えるように─────ここからは自分の手でやるのだ、と言うように。
手首の動きに釣られて、掌が動いていく。
その僅かな力での誘導にすら、白熱した思考では抵抗することが出来ない。
指先が生地に届き、布地と─────その奥にある柔らかさを感じ─────
「─────ここら辺にしておきましょうか」
唐突に、手首の拘束が外れる。
「─────え」
「ですから、今日はここで終わりにしましょう。
それとも─────続けて欲しいのですか?」
「え、あ、いや」
「それとも、自分でやりますか?─────あなたが今、自分を慰めようとしているように」
一瞬の、思考の空白。
白熱した意識のままキャスターを引き離し、先ほど脱いだブレザーを腕に抱えてキャスターを睨みつける。
対してキャスターは蛇を思わせるような動きで距離を詰めながら、ふふ、と嗜虐的な笑みを浮かべつつ。
「その可愛らしい仕草、ミヤズちゃんを思い出させます」
そんな風に、後退るこちらを更に煽る。
その言葉に、今の自分の動作が嗜虐欲を煽るような行動であったことを自覚する。
混乱と赤面がますますひどくなっている事を自覚しつつ、強引に話題を逸らすことに神経を傾ける。
「ミヤズちゃんって、ミヤズヒメの事か?」
ミヤズヒメ。
遠く神の血を引く天孫族の一人にして、走水の入水で有名なオトタチバナ以外にヤマトタケルと結ばれた女性である。
「ええ、その通りです。可愛くて、つい食べちゃいました」
てへ、と笑うキャスターに背筋が冷える。
もしかして、俺も食べられるのではないだろうか。
「──────まぁ、今日はここら辺にしておきましょう」
突然そう言って、にじり寄るのを止める。
理性は警告を続けているが、精神的に僅かだが余裕が生まれる。
「止める、と先ほど宣言していましたからね」
本当に助かったのだろうか、そんな風に考えてしまう。
そんなはずがないのに──────。
「それに──────楽しみは後に取っておいた方がいいですから」
僅かに生まれた心の好きに入り込む宣告。
分かっていた、分かっていたさ。
「やっぱりお前、俺もおいしくいただくつもりじゃないか」
「勿論ですとも」
「ちくしょうめ……。自分の身は自分で守るしかないか」
「妹の体の貞操を守ろうとする、妹の体に入った兄の精神。調教し甲斐が──────おっと」
「──────っ!令呪を以って」
「まぁまぁ、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか──────!」
†
羽陽曲折(という一言に纏めるしかないような事が多数)あった後、ブレザーからセーラー服に着替る。
それだけでは何となく心許なかったので、間桐桜からもらったデータを検索し、男性用制服から学ランを作成。キャスターと協力して学ラン風の黒いロングコート(俗に言う長ランのような物)に改造し、セーラー服の上に羽織る。
結局、令呪は使わなかったが、後々の事を考えると使っておいた方が良かったのかもしれない。
だが、聖杯戦争で勝ち抜かなくてはならない事を考えると、こんなところで使うのは得策ではない事は明かである。
認めたくはないが、スキンシップにってマスターとサーヴァントの関係が深まるのならば、極めて過度な行為であるため遺憾ではあるが、この関係を推奨するべきなのかもしれない。
そして、この行為で自分の──────今の『美幸』の体の状態について知ることが出来るのならば、全ての事柄よりも優先して行わなくてはならない。
「全く、儘ならないモノだ」
腰まである濡羽とスカートの裾、そして学ランを改造したロングコートをなびかせ、マイルームを出る。
目的は特にないが、最終的に保健室に着けば良い、という感じで校舎内を適当にぶらつく事にした。
ぶらついている間、自分以外のマスターと何度かすれ違う。
その全てが、ほとんど同じ霊子体である。顔と体格以外相違点がない。
自然と、目線は指定の制服ではない生徒を探していた。
──────そして、出会う。
角に身を隠し、即興のコードキャストで隠蔽しながら。『二人』の会話を遠くから見るに止める。
一人は昨日話し合った青年。
高貴な雰囲気を纏った彼は、ルビィと名乗った。
そしてもう一人、彼と話している男。
背の中ほどまであるの黄金の髪。
力強い蒼穹の瞳。中性的な顔づくり。
長躯を白い装備で全身を固めている。
此方もルビィと似た、本来あるべき理想的な貴族を思わせる気品──────与えられた地位に胡座をかかずに築き上げた実力による自負からなる強い自信と意思を感じる。
──────この男には誰よりも玉座が相応しい。
そんな畏怖すら感じる。
事実、この二人は地上の覇者だったのだろう。
──────貴族、王族。
彼らこそが、魔導の叡智を、神秘を独占し、研究し──────そして、辿り着いたのだろう。
彼らの話はこちらには届かない。
気付いているのかは分からないが、視線がこちらに向く事すらない。
今この瞬間、彼らのどちらかと目が合わない事が幸運なのかは分からない。
だが、聖杯戦争を勝ち抜くのならば、彼らのどちらか───或いは両方───が必ず障害として立ちふさがるであろうことだけは自明であった。
†
「おや、ここで君に会うとは」
「ボクも驚いているよ」
「テロリストの日本人男性。恐らく、探している人物は同一のようだ」
「だろうね。もし、この聖杯戦争に参加しているのならば、間違いなしの優勝候補だ。彼に関しては、情報交換を重ねた方が良いだろう」
「噂によると、ハーウェイの殺し屋も参加しているらしい。彼についても警戒が必要だろう」
「名高い『死の沈黙』の黒天使だろう。私もその情報を掴んでいる。相変わらず、ハーウェイは人材が豊富だ。彼らには多くの友を殺された。私の恩師も行方をくらませたままだ」
「正直、テロリストや殺し屋といった手合に対して、我々は不利だ。出来る限り多くのマスターと協力して対処しなくてはならないだろう」
「極めて同感だ。聖杯戦争とは情け容赦のない生存競争だ。最終的に決裂することが定められているとしても、聖杯を渡してはならない相手がいる以上、彼らに対しては共同戦線を組むことが好ましいだろう」
「ここで、君のような優秀なマスターと協力関係を築けたことを喜ばしく思うよ」
「私もそう思うよ。最後に残るのは自分と君のサーヴァントがふさわしい」
†
会話を終えて、『偶然』一人で歩いてきたルビィ。
廊下の角を通り、『偶然』知った顔に合った実幸。
「やぁ、一日ぶりだね」
「ああ、久しぶり」
互いにワザとらしい挨拶を済ませる。
そして「健闘を祈るよ」「貴方こそ」というありきたりの言葉で会話を切る。
互いに話したい事、知りたいことが山ほどあるが、周囲に不特定多数の耳があることが推測される、ここで話すべきではないだろう。
そして、最終的に決裂することが定められているとは言え、出来ることなら敵対したくない、という一種の暗黙の了解じみた認識があった。
『────貴方/貴女は───?』
互いに共通している一番知りたい事柄。それを聞いてしまったら、この関係は即座に瓦解する。そんな予感を二人とも感じていた。
──────一体、貴方/貴女は誰なのだ?
†
「桜ちゃーん……いやしてー……」
「どっっどうしたんですか?」
保健室の机に、ぐたーっと状態を投げ出しながら。
真摯な対応をしてくれる桜ちゃんを見るだけで癒される。
やはり天使……!間違いない、誰がどう見ても天使。──────いや、女神なのでは?
「ボクと契約して、新興宗教の女神にならないかい?」
「…………本当に何があったんですか?」
戸惑いながらも、お茶を出して丁寧に対応してくれる。
この憩いの場に、他のマスターがいない事を嬉しく思う。
「ああ、そうだ。制服のデータありがとうね」
「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」
「折角もらったのに、勝手に改造してゴメンね」
「それは大丈夫ですよ。私服の方もいらっしゃいますし、その制服も可愛くて個性的です」
「…………可愛いかぁ」
「──────急に震えだしてどうしたんですか!?」
「君は悪くないんだ……。悪いのは、そこで霊体化しているキャスターなんだ……」
「一体何をしたんですか?キャスターさん」
「ついつい、マイルームで可愛がってしまった」
「ダメですよキャスターさん。いくら可愛いとは言え、嫌がる人を強引に可愛がってはいけませんよ」
「ここに味方はいないのか……」
「そんな……!全てのマスターに対する公平性の範囲内ではありますが、私は何時でも美幸さんの味方なのに……!」
「ありがとうサクラちゃん……その気遣いだけで癒されるよ」
そんな風に、のんびりした時間を過ごしていた。
──────唐突の電子音。
そして、平穏な時に訪れるのがソレだ。
──────たった今、予選の終了を宣言。2階掲示板前にて、次の対戦者を発表する。
──────運命は突然現れるからこそ、運命と呼ぶのだ。
さあ、仮初めの平穏を潜り抜け、ぬるま湯につかっていたマスター諸君。
Sword or Death──────殺し、殺される覚悟は出来たかね?
という訳で、三話でした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
さて──────
──────主人公……精神がおっさんの為、少女が好き。
──────キャスター……本人が少女好きを暴露。
自分の性癖をぶつけ過ぎたような気がします。勿論、倍プッシュです。
次回から新章──────第一回戦の予定です。
肝心の次回更新がいつ頃になるかは分かりませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。