Fate/Extra _rePlay ~献身の巫女、烈火の化身~ 作:藤城陸月
どうも藤城です。
さて──────今回から第一回戦が始まります。
それにあたって、作品のタグを一部変更します。ご了承ください。
また、今回から本格的に戦闘が始まります。
ネタバレの心配がありますが、先んじて混乱しないように用語解説を行います。
用語解説
・ 神州八島:日本の呼称(造語)。神州も八島も古来日本の呼び名である。
また八島について──────より正確には大八洲国、あるいは大八洲と呼ぶ。国生みの神話に由来するが、元々、八とは聖数であり漠然と大きい事の意味なので、『多くの島からなる国』という意味になる。
因みに、神州の言い方は古代中国のモノが先である。
・ 狼(眷属):太古の時代、狼は真神と(あるいは大口真神。御神犬とも)呼ばれ神格化された。
一説には『狼は大神が由来である』というモノすらある。
本作では天照大神の眷属として解釈している。
それではどうぞ──────
1───First contact───
──────たった今、予選の終了を宣言。2階掲示板前にて、次の対戦者を発表する。
電子音と共に表示された、強い存在感を持つメッセージ。
それは平穏というベールを切り裂き、役者を戦いの舞台に上げる開幕の宣言。
全能の神を気取った人形遣いが、存在しない観客に向けた
†
「2階掲示板前にて、次の対戦者を発表する──────と言われて『はい、そうですか』とばかりに、真っ先に掲示板に向かう天邪鬼はいない」
「本当に捻くれてますね」
「今更何を言うのかね、相棒」
「えっと、自分で天邪鬼を宣言してるので、一周回って素直な感じさえしますね」
「捻くれた自分に素直なのさ」
校舎一階、保健室にて。
現在、この部屋にいるのは三人。
一人は保健室の主、保健委員の
残りは保健室に入り浸っている一組の主従──────マスター、美幸。サーヴァント、キャスター。
健康管理AIという役割上、全てのマスターに対する公平性が求められるが、積極的に保健室に来るマスターが居ないので、件の主従は実家のように寛ぎ、保健室の本来の主は珍客をのんびりともてなしている。
まぁ、頻繁に保健室を訪れるマスターは、周囲に対して『自分たちは問題を抱えている』というアピールをしているのと同義なのだが……弱みを見せたマスターの結末については、わざわざ語る必要は無いだろう。
「と言っても、行かないワケにはいかんよな」
「それならばどうするのですか?」
「こういう時の鉄板は──────RPGなら寄り道だよな」
掲示板は二階に上がった所すぐにある。
ならば、掲示板を見る前に一階と地下で出来る事を探す。
一階にある教室と保健室以外の施設は──────三つの出入り口。
一つ目は階段そのもの。地下には購買がある。
二つ目は保健室の向こう、教会及び中庭への扉。
三つ目は階段の正面───玄関。その先には校庭。
さて、どうするか。
校庭を隅々まで探索する時間はない。
階段付近で、強制的に二階に上がらさせられる仕組みがあったら面倒だ。
消去法だが、教会と中庭に向かおう。ついでに、使い魔を放って校庭を探索させよう。
──────方針は決まった。
以上の確認を終え、保健室を出ることにする。
「という訳で、お邪魔しちゃってゴメンね」
「次回の訪問は、時間のある時に」
「ええ、何時でもお待ちしています」
「ありがとう。また来るよ」
「──────はいっ」
ガラリ──────パタン。
†
「結局、ゴミ漁りですか」
「無駄遣いは厳禁です。使えるモノは何でも使ったほうが良い。特に、序盤はね」
相変わらず無人の教会──────というより、校舎内に人がいない。
恐らく、保健室を出た時点で隔離されたのだ、と推測される。
この校舎にいるのは、自分達と対戦相手のみなのだろう。掲示板の前で鉢合せをしてしまったら、何かしらの問題が生じる──────正確には、その恐れが在ると判断したのだろう。
つまり、やりたい放題。
我ながら外道の判断である。
「と言っても、出来る事は限られているみたいだ」
中庭の隅にある、コンクリートの壁がコの字型になっているゴミ捨て場。
ゴミのリソースを確認すると、前回───昨日の夕方───確認した時より僅かに少ない。凡そ80%といったところだろうか。
それらの全てを回収する。
ここのリソースの回復ペースは恐らく一定で、一日で上限に達するのだろう。
確証はないが。定期的な確認が必要となるだろう。
「狼たちの様子はどんな感じ?」
「もう直ぐ、全ての場所を探索し終えるだろう」
「了解。じゃぁ移動しようか」
玄関付近で使い魔の狼たちと合流。
曰く、校庭にも人影はなかったそうだ。
階段に向かう前に、教室の様子を確認する。
全ての教室は鍵が掛かっており、遮光カーテンが下りており、教室の中は見えなかった。
その後、階段を下り地下に。
購買の様子を見るが無人で、かつシャッターが閉まっていた。
「さて、掲示板に向かうか」
†
「──────随分と待たせるのだな」
「うげ」
「淑女らしからぬ挨拶をどうも」
階段を上がって直ぐ、見覚えのあるカソック姿が待っていた。
「御託は良いから、早く対戦相手を教えてくれないか?」
「では──────」
神父が移動する。
その刹那──────世界がズレた。
少なくとも、そう表現するしか出来ない現象が起きた。
恐らくは時間軸、空間軸をズラしたのだろう。
ムーンセルの出鱈目さに驚くと共に、この世界の性質に思いを巡らせる。
ここは量子虚構世界SE.RA.PH。全てがデータで表現された世界。
それならば、時間の速さや空間の広さなどの時空間曲率すらも自在に操作できるのだろう。
この性質を使用すれば──────
「──────ようも待たせてくれたなぁ!」
突然の罵倒により、思考が中断される。
「ほう──────対戦相手は君か」
──────件の不良。
対戦相手としては、随分とお誂え向きの相手だった。
†
「──────ではまた」
顔見せが終わったら、用事はもうないだろう──────そう判断して、背を向ける。
「待てや!」
正直うっとおしい。
「神父。顔見せが終わったら帰っても良いだろう?」
「別に構わんが、注意事項を聞かないで余計なペナルティを食らっても良いのかね?それに、初対面ではないようだし、交友を深めるのはどうかね?」
「良い事言うじゃねえか。わざわざ待ってやったんだ。何の成果もなく帰れるかよ」
「神父。待った待ったと恩着せがましく言っているが、彼は体感時間でどれくらい待ったのだ?」
「おおよそ五分だな」
「自分が早く来たときは相手を責めるくせに、自分が遅れたら大目に見ろ、という類の相手のようだな」
「テメェ神父!どっちの味方なんだ!」
「どちらの味方でもないだろう。AIは役割上、全てのマスターに対する公平性が求められる」
「その通りだ。その上、私に与えられた人格は神父でね。ほら、神の下の平等、というだろう」
「流石は敬遠な神父サマ。博愛と迫害を軸とする教えを大切にしているのだな」
「なに、隣人を愛せよ、とは説いているが、隣人の妻を愛せよ、と解いている訳ではない。全ての人間関係には適切な距離感がある。例えば異教徒に対して我々が親愛と解いても、相手が剣を向けて来ることはある。その時、無抵抗で殺されろ、とは言えんよ」
「ものは良いようだな」
「その言葉はそのまま返させてもらおう」
「──────オレをのけ者にするんじゃネェ!」
「まだ居たのか。分からない奴だな」
「まぁ、落ち着き賜え──────では注意事項を伝えよう」
この時刻──────10:00より、六日間の
これから君たちには、アリーナに赴いてもらう。
アリーナは二階層で形成されている。
初めは一階層のみを探索してもらう。後述する
階層には一つずつ
また、アリーナを探索できる機会は一日に一度、六時間までとする。
ここで言う一日とは、午前零時を以って区切るものとする。この時間をまたいだ場合、二回分とカウントされる上に、入っている時間は連続してカウントされるため、注意されたし。
今回は特別に、
何か、質問はあるかね?
──────よろしい。それでは解散だ。
さて、移動しよう。
「待てや!」
肩を掴まれ──────
「おっと」
上体をズラす。そのまま空振りした手の慣性に従い、男は思い切りバランスを崩す。
このタイミングで足を払うと、無様に転ばせることが出来るのだが、今回はそこまでする必要は無いだろう。
たいして自分は滑るように体重移動。踊るように距離を取る。
「女性をダンスに誘う時は、もっと優雅に誘うと良い。少なくとも、無様に転ぶようでは格好がつかないぞ」
羞恥と怒りの為に顔を上気させる男を更に煽る。
こういった手合は、冷静さを欠かせる事で対処することが好ましい。
「──────落ち着け、小僧」
男の側に揺らぎが現れる。
霊体化を半ばといた、強大な存在感。
──────相手のサーヴァント。
「グ──────分かったよ、ラ──────」
「フン──────」
あ、殴られた。
「何すんだよ!」
「それに気付かん内は半人前以下よ」
「──────同感だな」
相手側の口論とも見えるやり取りに口を挟む。
「戦う前から相手に情報を渡してどうする」
あ、と茫然とする対戦相手。
──────これでは、戦う前から結果が見えているようなものだ。
例えキャスターと相手のサーヴァントの実力差の天秤がどれ程相手方に傾いていようとも、マスターが戦いに相応しくないのならば、戦う以前の問題なのだから。
「──────じゃあな」
一瞥をくれて、その場から立ち去る──────
「──────おい、掲示板は見ないのかよ」
「掲示板に何かあるのかね?」
「対戦相手の名前だよ。それくらいは知っておいても良いんじゃないか?」
「──────それは必要ない」
「それはどういう意味だ」
振り返り告げる。
「殺す相手の名前を憶えてどうする?」
人気のない校舎に、ひっと息を飲む音が響いた。
「お前が誰で有ろうと関係ない。お前はただ、スコープの向こうの標的であれば良い」
コツコツとローファー特有の足音を響かせて、今度こそ立ち去る。
†
一瞬意味のある言葉に見えたが、その羅列にラグが走り──────数秒後、ノイズの上に『美幸』という名前が現れる。
マスター:『実幸』
決戦場:一の月想海
コイツが対戦相手。
無意識的に唾を飲みこむ。
さぁ、腹をくくれ。オレは勝ち残るんだ。
そして、現れたのは何時かの少女。
腰まである髪、セーラー服、ストッキング、羽織っている長ラン──────そして、余りに冷ややかな眼光。それら全てが漆黒の少女。
対照的に、僅かに露出した肌は雪のように白い。
虚ろな目をしていた時とは明らかに違う存在であった。
その恐怖を誤魔化すように、大声を出す──────。
『大丈夫か、小僧』
大丈夫なはずがないだろう。
オレではアイツに──────『美幸』に勝てない。
そもそもアイツはオレを敵とすら見なしていない。
格が違い過ぎるんだ。
『珍しく殊勝ではないか小僧』
強大な存在の圧が迫る。
だが、それは息苦しいものではない。
『何のために、あの時
どういう事だ?
『何、あの小娘の反応を試したのよ』
…………えっと?
『やれやれ、余程恐ろしかったと見える。確かに、あ奴は小僧より強いだろう。だが、お主は一人で戦っているのではないだろう』
…………ライダー。
『さて、これからどうするのだ?』
決まってる──────アリーナに行くぞ。
『応よ』
待ってろ──────お前がどんなサーヴァントを従えてるかは知らないが、オレのライダーに勝てるとは思うなよ。
†
二階から階段を下りて一階、そして地下。
即ち購買。
一階に下りた時点で複数の人影が現れてことから、時空間の独立性が無くなったと推測。
マスターに紛れて多くのAIが確認されたことから、購買が使えるようになったと踏んだが──────正解だったようだ。
『どうするのですか?実幸』
アリーナには準備をしてからだ。勢いで行っても損をするだろう。
『それもそうですね。キャスターのクラスに恥じぬ働きを致しましょう』
それと──────昼飯を食べてからのほうが良いだろう。
『──────。それは楽しみですね』
了解。腕の見せ所だな。
†
第一回戦──────1日目14:00。
アリーナの入口にて、装備の最終確認をしながら。
「まさか既製品だけで、食材がないとは……」
「手料理がお預けになるとは……」
牛乳を飲む様子だけでも十分見ごたえがあったが、残念である。
まぁ、学校をベースとしている購買に食材がある方が違和感があるのだが。
普通の学校の購買には武器なんて置いてないだろ、という斬新な切り口で『既製品だけで、食材がない』件については神父に要望を出しておきました。
「さて──────行くぞ『セイバー』」
「ええ、行きましょう。マスター」
装備などの事前準備が完了。
事前の打ち合わせにより、実体化している時はセイバーと呼ぶことにしたキャスターと共に、両腰にそれぞれ礼装の日本刀を佩いた『実幸』はアリーナに足を踏み出す。
そこは、一面の荒野。
所々に岩山や崖があり、乾いた風が吹き荒れる。
そして、二人を出迎えたのは──────空を覆んばかりの矢の雨だった。
「──────実幸ッ!」
「大丈夫」
キャスターの魔術、ましてや宝具を見せるのは余りにも早計だ。
「照らせ日華──────
コードキャストを発動させる。
現れたのは半透明の壁。文字通りのバリア。
それを十数枚。角度や厚さを丁寧に調整し、次々と降り注ぐ矢の雨を順次逸らしていく。
──────およそ20秒。
雨が晴れる。
被害──────なし。
「やはり、実戦で試さない事には、な」
「見事ですマスター」
「君の役割を奪ってしまって済まないねセイバー。さて、何か掴めたか?」
サーヴァントからの奇襲を態々マスターが防いだのには幾つか理由がある。
一つは礼装の運用実験。
今回の礼装は右腰に吊るしている日本刀───陽剣・日華の霊刀。左腰の日本刀───陰剣・月精の霊刀───と合わせて陰陽の関係にある。
内蔵されたコードキャストは汎用の『add_regen()&boost_mp()』。そして、オリジナルの『plank()』。
効果は順に、時間経過での体力回復、最大MPの増加──────そして空中にバリアを張る、という礼装だ。
それ以外を纏めるとキャスターの手を開けさせるため。
奇襲が二段構えの場合や陽動の可能性に対応するため。
そして──────こちらから仕掛ける為。
このタイミングで、キャスターは段取り通り、使い魔を放った。
「大まかな位置はつかめましたが、何かしらの妨害を受けています」
「了解。何かわかったら伝えて」
「早速ですが位置を掴みました」
「随分と早いな」
「かなりの準備が必要な行為でしたからね──────そして、残念な知らせを一つ。彼らが全滅しました」
「何──────」
走る。走る──────走る。
太古の盟友に従い、自分たちを呼び出した主の命令を受けて追いかける。
辿るのは気配。
自分が馴染み、敬愛した神性とは大きく異なる汚らわしいソレ。
アレは存在してはならない。
あの気配は侵略者のソレだ。
そういった類はことごとく滅ぼさなくてはならない。
それこそが、我らの太祖たる神狼と大いなる英雄が交わした約定にして、天に座し神州八島を照らす大御神の意志であるからにして──────。
見つけた。大男。
見つけた。腰には長剣。
見つけた。身に纏うのは羊毛と皮の服。
見つけた、見つけた、見つけた──────一斉に飛び掛かる。
「──────ガァァァアアァァアァァ!!!!」
鮮血が溢れる。
──────何が起きた。
雄叫びを上げて飛び掛かった。
だが、20を超える我らの総力を遥かに超えるような衝撃を食らった。
アレは獣の──────いや、我らの太祖と渡り合えるような神獣の咆哮。
それをまともに食らい、一瞬動きが止まった瞬間──────その一瞬だけ、我らを囲むように無数の兵士が現れ、一斉に切りつけた。
──────そうか、失敗したか。
我らはここで消失する。
だが、まだ生きている。
肉体がある、魂がある──────意地がある。
我らを侮ったな。
致命傷を負わせただけで慢心した事を後悔するがいい──────
24の意志は火球に変じ──────決死の遺志となって襲い掛かる。
彼らの覚悟は──────無数の兵士という壁に阻まれて届くことは無かった。
だが、その決意と手に入れた情報は、確かに主に届いた。
「──────以上です」
「──────そうか」
悔やむ事はしない。
所詮は使い魔。自分たちも、そして彼ら自身もその事をわきまえている。
だからこそ──────
「──────無駄にはしないぞ」
「ええ──────その通りです」
位置は分かった。
次は此方の番だ。
──────彼らの遺志を最後の一欠片まで使い切る。
それこそが、彼らの覚悟に応える唯一の方法である。
†
「対戦相手はアリーナを浸食しています」
「なるほど、侵略者とはそういった意味か」
「そのようです──────宝具の開放をしても良いですか?」
「了解。宝具の開帳に加えて、真名の公開まで全て一任する」
「ありがとうございます──────それではヤマトタケルの名のもとに払夜の神剣をお見せしましょう」
「今のは──────」
「見ての通り、狼だな。俺とは異なる神性を帯びている」
「そのようだな。最期のは炎、というより太陽だろう。
神性を持った狼に纏わる英霊は数多くいる。例えば、ローマ神話のロムルスやギリシャ神話のメレアグロス。だが、彼らは太陽や炎の神性とはそこまで関係ない──────筈だ。マルスやアレスに炎に纏わる逸話はない筈。
狼の種族から裏付けを取るべきだろうが、恐らくは日本神話に纏わる英霊。その中で神性を持った狼に纏わるのは神武天皇。或いは──────」
「──────ヤマトタケル」
巫女装束の少女が自身の名を──────真名を名乗る。
果たして──────二組の主従は邂逅する。
†
「隠す気がなかったとは言え良く見抜いた。礼儀として改めて名乗ろう」
──────我が名はヤマトタケル。クラスはセイバー。敵対者の全てを滅ぼす日ノ本の守護者である。
「我が目の前で『己が領土を広げる』という禁忌を犯した罪を贖ってもらおうか」
†
「──────真名を名乗った」
それは聖杯戦争におけるタブーの一つ。
死ななかった英霊はいない。
全ての英雄は死ぬことで英霊として語り継がれる。
従って、相手の真名を知ることは攻略の大きな足掛かりとなる。
英霊として召喚されたサーヴァントは死因に代表される弱点も再現される。
と問えば、ヘラクレスならヒュドラに代表される毒、アキレウスならば踵、ジークフリートなら背中。そして、ヤマトタケルならば──────病。
だが、アイツはセイバーを名乗った。
ヤマトタケルが死んだ時は高名な草薙剣を持っていなかった、という事は余りにも有名である。
そして、セイバーならば草薙剣を持っていない筈がない。
それでも、ある程度の対策は立てられる。
だが──────
「良い名乗り上げだ」
──────ライダー。
セイバーは正々堂々と真名を名乗った。
余りにも、だ。
セイバーが英霊である事と同じように、ライダーもまた英霊である。
セイバーの名乗り上げに対して、ライダーがどう思うのか。
彼の意思を尊重して、真名を名乗ることを許可するべきなのだろうか──────。
「だが、
──────え。
「だろうな。別に構わんよ。私が名乗ったのは、己が決意を示す為に他ならん。お前の言う所の愚か者だ」
顔を見上げる。
二メートルを超える大男の気配はいつもと変わらない。
今のやり取りで此方を気遣った、というのではないのだろうか?
「変な勘違いをしているようだな小僧」
「え──────だってお前、誇りとか大事にしそうじゃん」
「おいおい決めつけてくれるなよ」
そう言って、乱暴に頭を撫でられる。
「確かに誇りは大事だが、勝つ事の方が大事だ。何より、
「お前──────」
「小僧も進歩したではないか。クラス名で呼ばないだけマシになった。さて、最後に勝って憂さ晴らしをしながら大笑いしてヤロウぜ」
「ああ──────お高く止まった大英雄の鼻を明かしてやろう」
「随分と大きく出たものだ」
「同感だセイバー。掲示板前のマスターの小物っぷりが嘘のようだ」
精神や肉体が完成している英霊とは異なり、マスターは成長する。
特に、肉体が伴わない電脳世界ならば尚更だ。
相手のサーヴァントが側にいる限り、ボロを出すことは無いだろう。
二騎のサーヴァントがマスターを守るように、距離を詰める。
──────セラフより警告:アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています。
皮肉にも、その警告が開戦の合図になった。
「──────来い」
そう大男が一言告げた瞬間──────そこには無数の兵士が居た。
サーヴァントがマスターを攻撃することが出来ない以上、彼が呼び出した兵士が『美幸』を攻撃することは出来ない。
だが、サーヴァントが死ねば結末は同じである。
少女一人を地面に残った血の染みにするのには過剰な数の兵士が顕現する。
だが──────対する少女もサーヴァント。それも、真偽は不明だが名乗った真名は大英雄ヤマトタケルである。
「これなるは守護の霊剣にして敵屠る絶刃──────天に座す大御神の意志を示せ」
宣言と共に、セイバーの持っていた剣が露わになる。
──────それは異様な剣だった。
刀身は鉄どころか金属ですらない。柄には呪符が巻かれている。
恐らくは、単一の素材でできたナニカに何かしらの封印を施し、武器としての運用を可能にしたのだろう。
これこそが『
このままでも、常時発動型の宝具として様々な効果がある。
そして、逸話に由来する真名を開放することで更なる力を発揮する──────!
宝具の真名開放。
真名を名乗った以上、宝具を使わないメリットは一切ない──────!
膨大な魔力のせいか、刀身に揺らぎを帯びた異形の神剣を大上段に振りかぶり──────
†
その時──────
「────────────」
──────大仰な宣言と身振りの後に、小さく告げた一言を聞き取れる人物はこの場にはいなかった。
†
「──────
大きく弧を描くように。神剣が振るわれる。
切っ先から純白の炎が広がる。
──────ファイアウォール。
文字通りの火炎壁にして、本来の意味の防火壁。
ヤマトタケルがどのクラスでも保有する象徴的宝具──────対軍にして結界宝具である。
その炎はマスターたる美幸に一切の害を与えずに通過し、キャスターから同心円状に燃え広がり一定範囲内を焼き尽くす。
そして──────。
「──────危なかったのう」
無数の兵士を呼び出した時点で逃げる算段を立てていた、敵のサーヴァント以外の敵を焼き尽くした。
「ではなセイバー!次に相まみえるときを楽しみにしておるぞ」
そう言い残して行方をくらませた。
「逃がられましたか……」
「多分、脱出系のアイテムを使ったようだな……。お疲れ様。凄まじい劫火だったな」
肩で息をする己がサーヴァント──────キャスターを労う。
「いえ、どんなに強力な攻撃でも、効果が無かったら意味が無い」
返ってきたのは自責。
真名開放に伴う消耗の影響か、それとも大技の後の喪失感か。
「いや、効果は十分あっただろう」
ならば、それを補うのがマスターとしての役割だ。
今の一撃で、相手は警戒するだろう。それは大きな隙になる。一撃で葬り去るだけの宝具を持っていると分かれば気軽に攻撃することは出来なくなる。
また、アイツが浸食していた”領土”を塗りつぶすことが出来た。
そして──────。
「そして、凄くかっこよかった」
そう締める。
一瞬、あっけに取られていたキャスターは、ここまでの硬い顔を破顔させる。
「ありがとう実幸──────。改めてですが、ヤマトタケルの名に掛けて貴方を守りましょう」
その笑顔は、つい数十秒前に大破壊を行った凛々しい姿とは結び付かないような物だった。
「こちらこそよろしく、大英雄ヤマトタケル。俺も君に守られるに相応しい行いをしよう」
「さて、取り敢えず回復をしよう。あくまでも
「ええ、お願いします」
「了解。照らせ月精──────heal(16)」
左腰の日本刀───陰剣・月精の霊刀───礼装として刻まれたコードキャストは全て汎用の『gain_con()』と『boost_mp()』そして『heal()』。
効果は順に耐久の強化、最大MPの増加──────そして体力を回復する。
先に紹介した陽剣・日華の霊刀とは対になっており、陰陽剣が揃う事で発動するコードキャストも存在する。
「ありがとうございます。実幸」
「どういたしまして。と言っても、礼装を作ったのは君だろう。キャスター」
道具作成スキル。
キャスターの固有スキルで礼装を作成することが出来る。キャスターはこのスキルをA+という極めて高い精度で保有している。
確証はないが、本当にセイバー召喚されていたらこのスキルは保有していないと思われるので、キャスターで召喚されて寧ろ良かったと思っている。
「ええ、確かにそうです。ですが、誰かに癒してもらえるのはとても嬉しい事なのですよ」
「そっか──────さて」
周囲を見渡す。
先ほど開放した宝具の効果は浄化であって。関係ない物を壊すことは無い。
してがって、当たりの雰囲気は焼け野原というより聖域のような物を連想させる。
「このままアリーナを探索しよう。相手に占領された地域は此処だけじゃないだろうし」
「同感です。土地の支配権を奪い返すだけなら真名開放の必要はありませんから、先ほどよりはスムーズに行くでしょう」
「よし、行くか」
「ええ、敵対マスター及びサーヴァントは退去しましたが、エネミーなどは徘徊しているでしょう、気を付けていきましょう」
第一回戦一日目。
この日は時間いっぱいアリーナを探索した。その過程で、
その後、六時間が経過したことでアリーナから強制的に退去させられたのであった。
前回投稿した後、イベントの前に必ずしもメンテナンスが入るわけではないんだな、と感慨深い気持ちになりました。
長くしてしまったと後悔中。
追加で出した情報も多いので、下で整理します。
追加ルール
・ アリーナに一日に居られる時間は6時間まで。
例えば、21:00からアリーナに入っていた場合、03:00に強制退去&翌日は入れない、のコンボを食らいます。
マスター礼装
・ 陰険・月精の霊刀『gain_con()&boost_mp()/heal()』
耐久の強化、最大MPの増加、体力を回復。
・ 陽剣・日華の霊刀『add_regen()&boost_mp()/plank()』
時間経過での体力回復、最大MPの増加、空中にバリアを張る。
宝具(キャスター)
・
ランク:A+ 種別:対人(自身)・粛清宝具
レンジ:1~2 最大補足:1人
剣が持つ常時発動型の宝具。持ち主に加護を与える霊剣であり、魔性殺しにして神殺しの絶刃。
霊剣としては、物理・概念に対する強固な防御。単純に耐久を大幅に上昇させる。それ以外に病や呪詛、精神攻撃などに対する強い耐性を与える。但し、対神の概念に対しては無力。
絶刃としては粛清宝具に該当。相手が魔性であったり、日本神話以外の神性であった場合、その高さに応じて与えるダメージが向上する。また、この剣が存在する、という事は逆説的に多くの邪龍(加えて全ての悪竜)の死が証明されるので、効果が劇的に増加する。
ヤマトタケルが東征の際に、彼の叔母
・
ランク:A+ 種別:対軍・結界宝具
レンジ:1~5 最大補足:5人
ヤマトタケルの逸話を基にした象徴的宝具。第一宝具と同じく、その真偽に関わらず、その名を持つ者が必ず保有する宝具。
切っ先から白炎の壁を展開する。炎を完全に遮断し、それ以外の攻撃を焼き払い、夜気祓う結界である。
因みに、クサナギノツルギの表記が前者が『草那芸剣』で後者が『(焼津(やきづ)・)草薙剣』なのが地味に拘りポイントだったりします。
ん?
判定はランクに依ります。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
評価、感想──────及び真名予想などをお待ちしています。
次回更新は何時になるか分かりませんが、のんびりとお待ちいただければ幸いです。