Fate/Extra _rePlay ~献身の巫女、烈火の化身~ 作:藤城陸月
落ち着け、これは運営の罠だ──────!
という訳で、お久しぶりです。
合宿に行っていて遅れました(言い訳)。藤城です。
さて、新イベント『大奥』の概要が公開されましたね。皆様、特攻サーヴァントの育成などのイベントの準備をお急ぎください。
また、ベラ・リザの交換期限が来月末日なのでお急ぎを──────自分も含めてですが。就活生でもベラ・リザは欲しい。
周回の片手間にでもお読みいただければ幸いです。
それではどうぞ──────
アリーナで獲得したアイテムと購買で購入した物品を材料に、マイルームを更に改築する。
足りない時間は神殿化させたマイルーム内の体感時間を自分だけ書き換える事で解決する。
とにかく時間がない。
だからと言って、手を抜いて良いわけではない。
最低限のラインは昨晩の時点で到達している。
そして、趣味と実益を兼ねた今朝の一件と戦闘によるアリーナでの魔力消費。
──────恐らくは後一押し。
神殿に必要なのは霊魂の活性化と経路の安定化。
彼女に──────否、二人に必要な事も同様。
改めてだが、急がなくてはならない。
私の企みが露見しては効果が薄まってしまう。
これが彼女らにどのような影響をもたらすかは図らない。
だが、やらなくてはならない。
互いを大切に思いあう二人の結末が別離で終わってしまう。そんな互いに後悔し続けるようなバットエンドだなんて、断じて認めることが出来ないからだ。
†
一回戦1日目20:00──────アリーナ探索開始から六時間が経過しました。規定により、現時刻を以てマスター:『実幸』とサーヴァントを第一階層より強制退去させます。
そんなアナウンスが聞こえた直後。アリーナに居られる時間を過ぎため強制的に退去させられ、気が付くとアリーナの入り口に居た。
本日のアリーナでの成果はトリガーの獲得。
そして、敵サーヴァントとの交戦による情報の獲得。代償に、こちらのサーヴァントの真名と宝具の名が知れたが──────それに関しては大した問題ではない。
これからすべきことは、今回の探索で得た情報を整理する事。そして、その情報を本に明日以降の行動の指針を立てる事である。
まぁ、その前に夕食だが。
購買に行ったら食材が入荷していました。
ありがとう言峰神父!
気が進まないが、後日お礼を言いに行かなくてはならないな、何て事を考えるくらいには上機嫌に買い物を進めていく。
なぜか、食材のコーナーの目立つ場所に『麻婆豆腐に纏わる物』がこれ見よがしと陳列されているような気がした。
調理に必要な食材を購入した後、キャスターが要求する品物を確認し購入していく。
キャスターが要求する物は道具作成、陣地作成に必要な物がほとんどなので、食材よりこちらを優先させようとしたのだが、キャスターが食材の方が優先だと主張したので、食材を優先した。
曰く、精神的に休んだ方が良い、購買の素材よりアリーナで手に入る物の方が質が良い……などなど。何となく、隠し事をしているような気がしたが、キャスターが隠し事をするのなら、そうすることが良いと判断したのだろう、と思う。
「何を作るのですか?」
「鉄板だけどカレーかな」
「かれー、ですか」
何かの手本に出来るような見事な平仮名発音。
必要な食材は購買で色々と買って来た。
また、マイルームにはキッチンがまだないので言峰神父に相談するか、キャスターの陣地作成スキルと道具作成スキルに期待しよう。
取り敢えず、マイルームに焚火などを用意し、野外炊飯のような感じでカレーを作ることにする。
ご飯に関しては飯盒炊飯で準備している最中である。
換気については十分気を使った。匂いがこもる心配はないし、ましてや一酸化炭素中毒になったりといった懸念事項は完全に処理した。
さて、髪をポニーテールにまとめ、エプロンと三角巾を装備して──────料理開始である。
ムーンセルという電脳世界で、焚火を使ってカレーを作るマスターの姿がそこにはあった。
何となく場所にそぐわないような気がするが……こんな風にして作るのも乙なものだろう。
学校机の上に、昼に飲んで乾かしておいた牛乳パックを開いたものを置いて、まな板代わりにする。
購買で購入したカレーの材料をテーブルの上に並べる。
「随分と手慣れているのですね」
マイルームの改造を完了させたキャスター。
興味津々、といった感じで覗き込んでくる。
「まぁね、アイツは料理が出来なかったからなぁ」
色々とお疲れ様、と労いながら。
ニンジンをまな板の上に乗せながら応じる。
「真面目かつ要領が良くて成績優秀。ついでに体を動かすことも得意で、武道全般に強く、真剣を使った訓練でもとんでもない腕前でな」
ニンジンを切る手は手慣れたモノで──────あれ?
「だけど、アイツは料理だけは不得手でな。日本刀で落ちる木の葉を切ったりは出来るのに、包丁を扱うのが全然ダメで、しまいには弱火で15分は強火の5分同じとか言い出す始末」
おかしい。ニンジンがうまく切れない。
「──────実幸?」
後ろのキャスターの怪訝な声。
「ちっちゃい頃から魔術以外にも色んな才能が有ったアイツに怪我させたくないからって包丁を持たせなかったり、火元に近づけなかった周りの───本家の連中も悪いんだけどさ」
視界が歪む──────。
「アイツの練習が終わる頃に出来上がるようにお菓子を作ったり。家の人がみんな忙しい時とか俺が夕飯作ったりしてて、アイツが『お兄ちゃんまだー』なんて急かしてきて。普段はお兄様呼びなのに、二人の時はお兄ちゃんで呼ぶんだよな、アイツ。その呼び方は、ちっちゃい頃から変わらないんだよな。大きくなってからも、俺よりも強くて出来ることも多いのに、出来の悪い俺の事をよく頼ってくれて、だから俺も──────」
「実幸──────!」
柔らかさと体温──────人肌?
キャスターに後ろから抱きすくめられたのだと気付くのに数秒掛かった。
「どうしたキャスター?」
「もういいですから、いったん休みましょう」
「いや、大丈夫だキャスター」
「そんなはずはありません。そんなに泣いて、そんなに震えて──────」
「この後、玉ねぎを切るから同じことだ」
「なぜ、そんなに強がるのですか──────!」
「なぜって──────」
そんな事は決まっている。
「──────俺が兄だからだ」
「は──────」
後ろで絶句しているのが分かる。
キャスターが自分の事を心配してくれているのは知っている。
正直、先ほど自分が答えた理由が答えになっていないことなど百も承知なのだ。
強がっているだけ。そんな事、初めから分かっている。
だが、向き合わなければならない。受け入れなければならない。──────今の涙を否定してしまってはならない。
今の自分は妹の体。
だが、俺はあいつがどんな顔をして、俺に話して来たかを覚えていない。
あんなに大切だったはずなのに。守りたかったはずなのに。──────守れなかったくせに。
「────────────っぁ」
手が止まる。
今更ながら酷い出来だ。
皮を剥く事すら難儀している。いつもとは廃棄率が段違いに悪い。
切り口もだ。力任せに切ったことがよく分かる。乱切りと誤魔化すにも限度があるというモノだ。
──────なんて無様。
多くのモノを切り捨てて来た。
多くのモノを置き去りにした。
そして、結局何が残ったのか──────。
──────空虚。
強がることしか出来ない。
失って、失って、失って──────。
始めに一番大切な人を失って───喪ってから。果たして得るものが在ったのだろうか。
「──────『実幸』」
声。優しく抱き留められる。
「料理を止めろとは言いません。ですが、私にも手伝わせてはくれませんか?」
奈落に──────海底に落ちていく意思を受け止める。
子どもに料理を教えるように、包丁を持つ華奢な手の甲に、後ろから一回り大きい掌を重ねる。
体温、毛髪、体臭、鼓動、呼吸──────自分以外の温もりが、まるで水に浸かったかのように包み込む。
「私にも背負わせてはもらえませんか?『実幸』」
──────ああ。
こんなにも。温もりとは、こんなにも──────。
「お願いしていいか、キャスター」
「もちろん。あの時、私は貴方を──────あなた達を守ると決めたのですから」
「世話になる──────ありがとう」
「どういたしまして」
「干し飯がふやけるかと思った」
「謎の強がりは相変わらずですね」
説明しよう!
干し飯とは古代日本の保存食である。乾飯や糒とも呼ばれる。
現代ではアルファ化米と呼ばれており、加水加熱によってアルファ化(糊化)させた後、乾燥させることで長期保存を可能にしたもの。ただし、乾燥処理の方法が現代とは異なり、天日干しなどで乾燥が緩やかにで行われていたので糊化度が異なる可能性がある。
また、有名な平安貴族が詠んだ詩に感動して旅の一行が号泣した際に、よくふやかされている。
そこから古代日本の保存食事情に話が発展。
東征の際の軍隊の食料調達についての雑談。
現代の保存食事情や紛争地帯での食料事情。
アリーナ探索の興奮が残っているのか、互いの話が連鎖的に繋がっていく。
途中から量を増やし、カレーは三人前作った。
余分に作った分は、二人で分けて食べた。
食べ終わった後にブリーフィングをするつもりだったが、時間が遅いことも有り、そのまま眠ってしまう事にした。
「──────しまった、布団買ってないじゃん」
まぁいいや。眠ってしまおう。
せめてもの抵抗として、段ボールを何枚か重ねて──────ん、キャスター?道具作成で何とかした?ありがとう。布団に運ぶから身を任せろ?いや、それは少し抵抗があるような──────。
キャスターの声に惹かれるようにして、意識が落ちていく──────。
†
広げた両の手に倒れ込むようにして華奢な体が落ちて来る。
胸で受け止め、そのまま抱きしめる。
傷ついた少女。
頼もしい少女。
愛おしい少女。
そんな少女をサーヴァントとして──────ヤマトタケルとして守ると決めた。
小さな子供の様に寝息を立てる。その耳元で──────。
「初めまして、実幸」
深い眠りに落ちている少女の耳元で囁く。
「ええ──────
今までとは明らかに異なる口調で少女は──────実幸は応じる。
様々な偶然により、量子虚構世界SE.RA.PHに存在する
──────確かな『肉体』と希薄な『精神』と『魂』を持つ妹。
──────確かな『魂』を持つが『肉体』が妹のモノである兄。
それ故、『実幸』という『一人』のマスターは『肉体』『精神』『魂』のバランスが著しく悪くなっている。
──────そのアンバランスな『一人』を『二人』にすることで安定化を図る。
最も正しい解決法は『肉体』をもう一つ作る事である。
だが、この方法では幾つかの問題が発生する。
兄の『肉体』の情報がない事。『精神』と『魂』の分化が完全には出来ない事。仮に分化出来たところで、妹の『精神』と『魂』が活性化出来ない事である。
その解決策として、意識の底で眠りについている妹の『精神』を呼び覚まし『魂』を活性化させる。
混ざり合っている『精神』と『魂』に刺激を与え、安定化させる。
一人の『肉体』に二人の『魂』、そして二つを結ぶ二人の『精神』が同居させる。二重人格、と言うと分かりやすいだろうか。
それに必要なのは、『実幸』の『肉体』『精神』『魂』に刺激を与える事。
趣味と実益を兼ねた今朝の情事。アリーナの探索での魔力消費。兄妹では勝手の違う料理。
そして、神殿の作成により『美幸』に介入。眠っていた妹を呼び起こす──────!
向き合う二人。
マイルームに月明かりが入り込む。
「すごいのね、キャスター。僅かに反応しただけの私を起こすなんて」
「私は巫女ですから、精神や霊魂の扱いに掛けては長けているのですよ」
僅かに棘が──────警戒があり、皮肉げな美幸。
それらを無視し、豊かな胸を自慢げに張るキャスター。
「……その仕草は嫌がらせのつもりかしら?」
「どうでしょうか」
含みのある笑みを見せるキャスター。
改めて不満げな表情で返す、本来の実幸。
「──────それで、どういうつもりなの」
「何がですか?」
「トボケないで」
沈黙に負けた実幸が切りだす。
「答えてキャスター。どうして私を──────体の底で眠っていた、本来起きることのない私を起こしたの」
「どうして、とは」
「なんで、このタイミングで無理やり起こしたのかを聞いているのよ」
「貴女のお兄さんが、向き合うと決めたからですよ」
「──────っ」
「分かっていたでしょう、実幸」
──────今まで見守り続けていた貴女なら。
「黙って消えようとするなんて、私は認めない。貴方たちを守ると決めたのだから」
貴女は『実幸』としての行動の全ての記憶を持つけれど、『肉体』が一つしかない以上、お兄さんと会うことは出来ない。
それだったら、自分の存在に気付かせないほうが良い。
そして、万が一の事態になった時は自分の意識を身代わりにして、兄の意識を守る──────そうするつもりだったのでしょう。
事実、私が何もしなくても、しばらくすれば──────四回戦の頃には一時的に意識を乗っ取ることが出来るようになるでしょう。
だけど、私は貴女も守って見せる。何故なら、私は──────。
「私はヤマトタケルなのだから」
「そっか──────貴女もそうだったんだね」
「私に、ヤマトタケルに任せてください。必ず──────必ず、貴方たちを守り抜いてみせます」
「うん。それじゃ、お願いね」
この夜、本来の主従が邂逅を果たした。
──────この会話を『彼』の意識が知ることはない。
「ところで、この後はどうなるの?」
「貴女の意識が眠りに落ちる。或いは眠っているお兄さんの意識が目覚めると共に、体の主導権が移るはずです」
「そっか、それなら安心だね」
「ええ。それと、まだ貴女は覚醒しきっていないので、現時点ではここ──────私が神殿と定めたマイルームでしか体の主導権を得ることは出来ません」
「なるほど、祭壇を作って儀式として降ろす方が安全、という事ね。それに加えて、模擬戦ならともかく、ルールなしの戦闘では私よりお兄ちゃんの方が圧倒的に強い以上、私は出しゃばらないほうが良い。
「そのように考える方が前向きで良いですね。今後も継続的に貴女の『精神』と『魂』を起こすことで、『貴女の肉体』と『貴女の精神』『貴女の魂』。そして『貴女の肉体』と『お兄さんの精神』『お兄さんの魂』の結びつきを強化します」
「そういう計画も兼ねていたのね。確かに、今みたいに『肉体』『精神』『魂』のバランスが崩れたままじゃ問題がある」
「ええ。このまま放置していても、時間経過で安定はしたでしょうが、時間が掛かり過ぎると考えられます」
「そこまで考えていたなら、不満は取り下げるわ。お兄様──────お兄ちゃんをお願い。あの人は誰にも負けないけど、誰よりも傷つきやすいから」
「任されました。貴女のお兄さんと貴女を守りましょう。安心してください──────貴女の後悔は繰り返させませんから」
「そう、安心したわ──────ありがとうヤマトタケル。優しい英雄さん」
†
「久しぶりにお兄ちゃんの料理を食べれらた事には感謝するけど、一つだけ文句を言ってもいいかしら?」
「何ですか?」
「私に無断でお兄ちゃんを玩ばないでくれるかしら?私の『肉体』が女子同士の経験が豊富だとは言え、お兄ちゃんにとっては初体験なんだから、少しは加減して欲しいものです」
「むぅ……善処しましょう。所で、貴女の『肉体』をお兄さんが使っている事についてはどのように思いますか?」
「その言い方は、不満に思っている、と感じているのかしら。むしろ、喜ばしい事に思えるわ。だって──────
だって、私の中にお兄ちゃんがいるのよ!私の『肉体』に依存して、振り回されて、溺れかけている。たまらない───本っ当にたまらないわ!私なしでは存在することが出来ないお兄ちゃん!お兄ちゃんがいなければ存在していない私!究極の共依存!
いい機会だから話してしまいましょう。キャスター、貴女と同じように、私も巫女なのよ。正確にはちょっと違うけどね。お兄ちゃんと私は由緒ある神社を管理している一族の分家に産まれた。これだけだったら、本家とは全く関係のない人生を送ったのだろうけど──────本家のクズども曰く、私にはずば抜けた才能があったらしいのよ。望んでない才能のせいで干渉されて、生活をメチャクチャにされた。アイツらは、私に経験と修行を積ませて優れた霊媒に仕立て上げた後、本家の適当な男と子供を作らせようとしたのよ。その前に傷とか余計な醜聞が付いたらいけないからって余計な干渉をしてきたわ。私は優秀な子孫を作るための道具であれば良いからって、行動を制限されたり、周囲から隔離された女子校に入学させたりしたわ。ああ──────思い出しただけで、本ッ当に腹立つ!
そんな中、お兄ちゃんだけは違ったわ。両親すら迂闊に手を出せない──────まぁ、陰でお兄ちゃんを支援していたらしいけど、表立っては行動できなかったのに、お兄ちゃんは大々的に行動してた。
大きな災害があったせいで世界的に犯罪が増加していた時代だったから、日本中に自警団が出来ていたんだけど、お兄ちゃんは中学生の時点で地域の自警団をまとめ上げていたわ。それを利用して、本家のクズを監視していた。クズどもの中で出世争いに焦った最底辺なグズ・オブ・クズが私を攫った事があってね。私を助けに来た時のお兄ちゃんはまるで──────いいえ、正に王子様だったわ!単身乗り込んで、十人はいた護衛を瞬く間に無力化して、首謀者を文字通り不能にした。私を抱きしめて、「怖い思いをさせて済まない」って耳元に囁かれた時。ああ、今でも心が高鳴るわ。いいえ、時を経るにつれ興奮が増していくわ。多くの事を諦めて、自制を心掛けていた当時の私ですら、感極まって唇を奪ってしまったわ。近親相姦?禁断の愛?知らないわ。むしろそそるというモノよ。ああ、ファーストキスの時のお兄ちゃんの初心な反応、可愛かったなぁ。上目遣いに涙目で「上書きして」っ意地悪くお願いして、抱きしめたままで色んな所を撫でさせたり、耳元でひたすら「可愛い」って囁かせたり、卑猥な事を言わせたりした事は悪かったと思うけど、その時のお兄ちゃんが顔を真っ赤にしてて──────あぁ、
その一件以来、基本的に男子禁制なはずの私の学校によく来てくれるようになったわ。その事は嬉しかったのだけれども、女子校にイケメンが来たらどうなるか何て言うまでも無いでしょう。高身長で細身ながら筋肉質。線の細い見た目でありながら、抜群の身体能力を持つ。狙わない女子はいないと言っても過言じゃないわ。お兄ちゃんを狙う女子を追い払うのは苦労した。最終的には女の子にしか興味が持てないようにした娘もいたかしら?あの娘たちには悪い事をしたかもしれないけど、女子校だもの女子の同士の経験ぐらいどうってことないわよね。
おっと、閑話休題。お兄ちゃんの魅力を布教しなくてわ。
そうだ、さっきお兄ちゃんが私の事を過大評価していたけど、私よりもお兄ちゃんの方が凄いからね。例えば、私が日本刀で落ちる木の葉を切れるって言ってたけど、お兄ちゃんは強化した拳で爆裂させることが出来るわ。魔力量では私の方が上だけど、頑丈さと丁寧さではお兄ちゃんが圧倒的だったわ。あの災害の後、世界中で
そう、そのお兄ちゃんが、私の華奢な体に入っている!これほど興奮することはあるかしら?
優れた才能を持っていて、十分鍛え上げたとしても、押し倒されたりでもしたら抗う術はないわ。そんな体に、誰よりも強固な肉体を持っていたお兄ちゃんが入っているのよ。このギャップだけでも興奮するのに、お兄ちゃんは私の体を守ろうとして必死に戦っている。その上に、自身のサーヴァントに鳴かされている──────。何?何なの?どこまで私を興奮させれば気が済むの?
しまった、お兄ちゃんを玩ぶのを自制してもらおうと思ったのに、結論が真逆になってしまったわ。
まぁ、良いわ。お兄ちゃんを可愛がるな、とは言わないけど段階を踏んで欲しいわ。
私が知る男はお兄ちゃんだけで良いし、お兄ちゃんが知る女も私だけでいいけど、今の状況は私の体を知ってもらうのには最適の状況。本当は私の体になったお兄ちゃんを私が直接可愛がってあげたいけど、貴方で妥協するわ。とても、とても不本意だけど、お兄ちゃんを可愛がってあげてくださいね。
貴女とはいい関係を築けそうだけど、お兄ちゃんを貴女にあげたワケじゃないんだからね。勘違いしないでくださいね。
「なろほど、そこまで(こっそり録画してしまうほど)語れるような素敵なお兄さんだったのですね。ところで、女子同士の経験が豊富と言っていましたが、それは私への挑戦と受け取っても構いませんか?」
「どうしてその結論に至ったのかしら?でも──────ええ、構わないわ。規則の厳しい女子校に通わさせられたせいで、お兄ちゃんと一緒の学校に通えなかった私の──────お兄ちゃんと私の学校内での禁断の恋が出来なかった逆恨みをぶつけさせてもらおうかしら?」
†
──────。
「酷い目に遭ったわ」
「私は楽しかったですよ」
月明かりの下、抱きしめ合った二人の少女は話し合う。
月光が裸体を照らし、真珠を思わせるような光を纏う。
「年季の差か……」
「悔しがり方が可愛いですね」
不満げな声───鳴いている時も可愛らしかったですよ───刹那で掻き消える。
貴女は少ししゃべり過ぎましたね。戦う前に、弱点を喋ってどうするのですか?
余計な話は、終わった後に話すのですよ。
ああ、その悔しげな表情。真っ赤に上気しながらも存在感が変わらない、声を我慢する強情な紅い唇。湿り気を帯びた薄桜の肌に涙に揺らめく星空の瞳。貴女は──────いえ、貴女たちは本当に可愛らしい。
「あのサーヴァントには負けないでね」
静寂が続いた後、呟くように。
「嫌な感じがする。アイツは侵略者。もし負けたら死ぬよりも酷い目に遭わされる」
自分が行った事が現実になってしまう恐怖を感じ、抱きしめる力を強くする。
直後、抱えていた不安を感じることが出来なくなり、抱きしめる力が一瞬強くなり、抜ける。
「当たり前です。私はヤマトタケル──────侵略者を倒し続けた侵略者。侵略者として負けた事は一度もありません」
腕の中で、脱力する少女に言い聞かせる。
「そう、私はヤマトタケルなのですから」
言い聞かせている、と思い込んでいる相手が意識を失っている事には気付かなかった。
†
温かい微睡みの中、穏やかに意識が戻る。
そして──────明らかな違和感。
体温と湿り気、そして微かな風を肌で──────全身で直接感じる。
これは、誰かに抱き締められている──────いや抱き合っている?
誰が、という疑問に意味はない。正直、目を開けるのが怖いが、このままでいるわけにはいかない。
目を開く──────肌色。谷間。
……………………。
互いに全裸。全裸で抱き合っていた。
「おや?起きましたか実幸。ふふ、昨日はお楽しみでしたね」
やっぱり、令呪を使うか。
「穢された……。自分のせいで色を知らない無垢な妹の体を穢された……!」
「いえ、その体、男は知らないようですけど女の子同士は知っていたようですよ」
「余計な醜聞を嫌った本家のクズどもが、閉鎖的な女子校に入れたのが原因か……」
「何方かと言うと、鳴かせてきた側のように思います。弱点を知られなければほぼ一方的だったでしょうね」
「…………知りたくなかった」
「着替えに慣れてしまったのですね……」
「着替えではないけどな」
「揚げ足を取らないでくださいよぅ。まぁ確かに、脱いでから着る事と全裸から着ることは精神的な負担が段違いですね」
「そういう事。でも、慣れた事は──────勝手が分かったのは確かだよ。美幸の通っていた女子校の制服がセーラー服だったからかな。体が──────いや、『肉体』が覚えていた、とでも言うべきか」
「文字通り手取り足取り世話をしようと思っていたのに……」
「れっ、令呪ぅ──────」
「おやぁ、私の作り上げた神殿の中で令呪が効力を発揮するとでも?」
「──────なん、だと」
「しまった……ぐっちょぐちょにして、朦朧とている意識の中、最後の綱として震える声で令呪を使おうとした時に令呪が使えない事を突き付けて、その絶望で堕とそうと思ったのに」
「…………………………………………」
「ああっ、ごめんなさい!謝る。謝りますから、絶望して無言で泣かないでください──────!」
一回戦二日目07:30──────。
「何だかんだで優しいですよね。実幸」
「半ば諦めたんだよ。お前が見境なく女子を襲うレズビアンでも、テロリストよりはマシだよ」
白米。味噌汁。焼き魚。卵焼き。ほうれん草のお浸し。
ちゃぶ台を挟んだ二人の「いただきます」が唱和する。
「今日の予定はどうしますか、美幸?」
「それは朝ご飯を食べ終ってからで。ご飯の時くらいはのんびりしたいんだ。他愛のない事を話したりして、団欒を楽しみたい」
「それもそうですね。ご飯は美味しく食べなければ」
「全くだ。序に言うのならば、時間を掛けて落ち着いて食べられるのなら、それに越したことは無いんだけどな」
「時間の取れない場合もありますからね。──────さて、他愛のない事。他愛のない事……」
「んー。いや、悩むことじゃないんだがな──────」
きっちん?についてですが、試作品がもう少しで完成しそうです。
マーベラス。流石はキャスター。頼もしすぎる。
そうでしょうとも!もっと褒めてください。
君の為に、毎日ご飯を作ってあげよう。
それって殺し文句じゃないですかー!
ええい、抱きつくな。うっとおしい。
そ、そんな……あれほど情熱的に愛を囁いたあの夜は一体どこへ──────。
今してる髪留めを基に、新しい礼装を作ってもいいですか?
髪留め?ああ、ヘアゴムか。身近な物だからむしろ助かる。
今の髪型、ぽにーてーる?が可愛いので、それを活かすようなモノにしたいですね。
あー……これか。料理中は髪が邪魔でな。ホコリの心配もあるけど、綺麗な髪だから痛めたくなくてな。
とても魅力的ですよ。特に、白いうなじが──────おっと。
やっぱ却下で。どうしても作るのならカチューシャとかで。
そんな殺生な──────。
「さて、今後の予定を考えましょうか」
「それに関しては同意だが、オレを膝に座らせようとするんじゃない」
朝食の片付けが終わり、緑茶と湯呑を用意。
キャスターを振り切って、二つの湯呑が並ぶちゃぶ台を挟んで話し合う。
「さて、先ずは敵サーヴァントの情報を順番に整理しよう──────」
アリーナに入った直後の大量の弓矢による奇襲。
此方の使い魔(神性を帯びた狼)を怯えさせるような咆哮。
使い魔を全滅させた、相手方の大量の兵士(使い魔?)。
日本神話以外の神性を帯び、アリーナを占領する侵略者、という情報。
「こんな感じだな。重要なキーワードは侵略者だな」
「そうですね。アリーナを侵略する、という能力は私の剣で打ち消せますが、警戒が必要でしょう」
「だろうな。アリーナを侵略する事に注目するのではなく、侵略してどうするのか、という事を考えた方が良いだろう」
「侵略した後にする事──────統治、略奪。当たりでしょうか」
「多分正解。恐らくは、大量の兵士を召喚した事や、大量の弓矢での奇襲もこのキーワードに帰結すると思う」
「侵略者、という糸口から正体を探るべきですね」
「多分、それが一番の近道だろうな。だけど、もう一つだけ」
「何でしょうか?」
「アイツが侵略するのはアリーナだけなのか、という疑問がある」
「それはどういう事でしょうか?」
「何かしら条件があるとは思うが、スキルや宝具を奪うことが出来る、何てなったら最悪だろう」
「──────それは」
「最悪の事を考えて、想定しておく価値はあるだろう」
「そう、ですね」
「ただ、警戒しすぎて負けるのは本末転倒だから、警戒しすぎないようにね」
「…………難しい事を要求しますね」
「ところで、クラスの推定は出来ますか?」
「まだ無理──────だが、少なくともセイバーとランサーは除外していい」
「そうなのですか?少なくとも彼や兵士たちは曲刀を持っていましたしよ」
「あの剣は馬上で振るう事に特化している。仮にセイバーだったとしても必ず馬を持っているだろう。馬に乗っているのならば、取るべき対策はライダーと変わらない」
「そういうモノなのですか?」
「というより──────
あの曲刀ではセイバーで呼ばれるのは不自然。
その性質は騎馬による機動力を生かす類のモノで、性質は地上戦でも使える日本刀ではなく
「まぁ、着ている服からして、多分遊牧民だろう。遊牧民ならば、大方ライダーだろう。次点でキャスター。アーチャー、アサシン、バーサーカーに関しては未知数って感じかな?」
「という事は、ライダーと考えるべきでしょうか?」
「いや、正直まだ分からない」
「まぁ、そうですよね」
「今のところはセイバーでもランサーでもない、とだけ。そうだな、差し当たってはアーチャーとしておこうか」
「アーチャー、ですか……。まぁ、それで」
「名前を付けることは大切だ、正体不明よりは恐怖心を抑えられる」
「そうですか。暫定的、としているので違っても心理的なショックが抑えられる、という訳ですね」
「そういう事。ついでにだけど、アイツの──────アーチャーの剣については、馬に乗ってなければそこまで警戒は不要だろう」
「まぁ、馬に乗る事が前提、と言ってましたからね」
「そういう事。馬に乗るという事は圧倒的な機動力と高さを得る。そのアドバンテージの代わりに行動を制限される。だからこそ、騎乗に特化した剣が産まれたのだ。そして、武器を警戒するのならば、第一に弓だ。あそこまで弓を大々的に使うのならば、剣技の方はそこまで警戒しなくても構わないだろう」
「さて、最後に残った情報──────日本神話以外の神性、について考えよう」
「使い魔たちを怯えさせた、アーチャーが放った咆哮についても日本神話以外の神性に由来する神秘が影響しています」
「だろうな。咆哮という攻撃方法を執った以上、その咆哮が天候に由来する類の物であっても、その神性は何かしらの獣に由来するだろう」
「例えば、獅子や豹、羊や山羊、猪や熊──────そして、狼」
「現時点で真名について大まかな見当がついている」
だが、と区切り──────
「だが、万が一の可能性がある。あらゆる可能性を考慮すべきだろう」
「そうでしょうね。私たちが真名を伝えながらもクラスを偽って伝えているように、相手も渡すべき情報を選んでいる可能性もないとは言えない」
「同感だ。俺たちがアーチャーとしているが、本当はランサーだった、という可能性も無いワケじゃないだろうしな」
「あり得ますね。剣と弓のみを使っているのはランサーだと思わせない為だとか」
「だったら恐ろしいな。仮にランサーじゃなくて、俺たちが本命と見ているライダーだったとしても、馬上槍を持っている可能性もなくはないだろうしな」
「可能性が無いワケじゃありませんからね」
「そうだな……じゃぁ、クラス以外の情報である、遊牧民かつ侵略者、獣に関わる神性から、仮称アーチャーについて考えていこうか。ただし、今持っている情報のうち幾つかが罠である、という仮定の下で、露骨すぎる者は除いていこう」
「そうですね。本命については言うまでも無いでしょうからね」
例えば、獅子心王リチャード一世。
生涯の多くを戦闘に費やした中世のイングランド王。
即位する前は数多くの冒険に明け暮れ、即位した後は第三次十字軍を指揮した。
侵略者かつ獅子という呼称には相応しいですが、遊牧民と神性についてが薄いですね。
そこはブラフの可能性がある。
リチャード一世はアーサー王の大ファンで仮装していた、という逸話がある。
そこから、仮想する宝具やスキルを持っている可能性がある。あるいは、あの格好がアーサー王のコスプレの可能性もある。
薪に由来する不死身の肉体を持つ。神獣を殺し、
栄光と失墜、武勇と好色を体現した英雄らしい英雄。ギリシャ神話における七大英雄の一角、メレアグロス。
狼を聖獣とする軍神アレスに由来する神性。
見方によっては侵略者の一行であるアルゴナウタイの一人。
槍の逸話が余りに有名だが、戦争の象徴である剣を持っているのは不自然ではないし、カリュドーンの猪狩りの時に英雄を指揮し、英雄たちの中には有名なアタランテを始めとした弓使いだって多いはずだ。
「まぁ、こんなところだろうか?」
「でしょうね。あくまで推測ですが──────チンギス・カンですね」
「え、アッティラじゃないの?」
「──────はい?」
「おや?」
チンギス・カン。
人類史上最大版図を持つ大帝国・元の基礎を作り上げたモンゴル帝国初代皇帝。
一代で遊牧民族をまとめ上げた最も有名な
何より、チンギス・カンの遠祖は天命を受けて地上に降り立った蒼き狼──────ボルテ・チノと言われており、チンギス・カンはその化身であるとされている。
アッティラ。
遊牧民族であるフン族の王。中世ドイツの叙事詩ではエッツェルとも呼ばれる。
キリスト教徒からは『神の鞭』などと恐れられた統治者──────西方世界の大王を名乗るに至った最高の侵略者。
何より、アッティラは──────
「何より、アッティラは──────うグぁッッ」
「キャスターッ!?」
「いえ、大丈夫です。原因不明の寒気と頭痛がしただけなので」
「そ、そうか……。それを大丈夫と言うのか?」
「ええ、取り敢えずは収まったので。心配してくれてありがとうございました」
「分かった。だが、無茶はしないように。君に何かあったら困る」
「君が居なくなったら生きていけない、と言って欲しいものです」
緊迫した空気が和む。
互いの湯呑が空になっている事に気づき、新しく入れ直す。
「何方にしても、神性に対する武器があると便利だな」
「アリーナの侵略に手間取るように設置式のトラップも作りましょうか」
「クサナギノツルギ以外に
「使えなくはないですね……後ほどコードと提供しましょう。言うまでも無く危険なので扱いに注意です」
「まぁそうだろうね……。危険性は兎に角、ありがとう。弾丸に応用して打ち込むかね」
「──────うわ、えげつな……」
「珍しく素が出たな」
真名から対策に。対策から戦法に。
話題を変えて、根が詰まった話し合いを一度リセットする。
アーチャーの特性であるアリーナの占領・侵略については、キャスターの剣で解除すること外できる。
だが、アーチャーは俺たちが居なくなった後に、再びアリーナの土地を宝具、あるいはスキルで上書きすればいい。
つまり、必ず後攻が勝つ陣取りゲームのような物だ。
それならば、日付が変わってアリーナに入る時間が更新される直前に入るべきであり、当然、このことは相手も熟知しているだろう。
ここで、アーチャーがキャスターの宝具の威力を知っている事が効果を持つ。
あの粛清宝具ならば、特殊な防御方法によって対抗する来ない相手であれば問答無用で焼き尽くすことが出来る。従って、アリーナに入る時間が被る事は避けようと思うはずだ。
だから、時間が同じでも鉢合わせをする可能性が下がる──────つまり、アリーナの二階層が開放されるまで戦局は動かないだろう。
「──────という訳で、恐らくだが、次にアイツと相まみえるのは四日目以降──────より正確には五日目だろう。十分時間があるだろうから罠や武器を作る時間は十分ある。神性を持っている相手には効果が劇的に増す病魔──────バーサーカー以外に、使えるクラスはないか?」
「そうですね……まだ一回戦なので贄を捧げられないので真名の開放は出来ませんが──────
初めに食らった奇襲を再現することが出来る
身に纏った物の気配を遮断することが出来る
一時的に自分の
──────どれも使い方次第かと。現状ではもう少し情報を集めたいので、今まで通りの
そして、話題はヤマトタケルという英雄に変わる。
ヤマトタケル。
一般的に日本武尊と書かれる日本神話に登場する大英雄。
東征・征西を成し遂げ古代日本の基礎を築いた──────日本における神代を終わらせるに至った。
成し遂げた偉業から、皇族としてだけではなく、彼個人が戦神や軍神として神格視される。
また、逸話が非常に多く、特に有名な
しかし、キャスターとして召喚された場合のみ、全く異なる説を採用する。
即ち──────
ヤマトタケルの表記に一貫性がない事や日本書紀と古事記の内容の食い違いなどからこの説が有力視されることもある。
これにより、キャスターとえしてのヤマトタケルは
この特殊な召喚形式により、キャスターはキャスター以外の6クラスの宝具を保有し、常時発動させることが出来る。初めはセイバー以外のクラスの宝具の真名を開放することは出来ないが、倒したサーヴァントを贄として捧げることで相手に対応するクラスの宝具の真名を開放することが出来るようになる。
──────のだとキャスターは説明した。
「なるほど、一人の英雄に紐づけられた宝具にのみ特化した召喚術師、ということか」
「ええ、そういう事です。キャスター故にステータスが低いですが、初めからセイバーとしての宝具の真名を開放することが出来る事から示されるように、この剣の使い方については任せてください」
「それは頼もしいな。ただの巫女さんではない所を見せて貰おう」
「お任せください。何しろこの剣の管理をして──────」
「キャスター?」
「いえ、何でもありません。実幸、貴女は大英雄ヤマトタケルの輝かしい功績に目を輝かせていればいいのです」
「…………。それもそうだな──────」
変装や迎え火などの計略に長けており、軍勢の指揮をすることも出来た。大和王権の版図を大きく広げ、高い神性を持ち、自然災害に紐付けられる剣を持ち──────
「──────なあ、キャスター」
「…………なん、でしょうか?」
「もしかして、アーチャーの正体って」
「──────やめてください」
深く、静かで。光の見えない──────海の底。
「──────ッ!悪い。根拠の薄い事を言った」
「仮に、ヤマトタケルが対戦相手ならば分からない筈がありません。例え、変装の宝具を使っていようと変装の宝具の気配を感じることが出来ます」
「そうか。それならば、安心だ」
「ええ、その通りです。取り乱してしまい申し訳ありません。──────ですが、同じ話題が出た時は令呪を一角削ってもらう事になります。」
「──────分かった。厳守しよう」
……………。
よし、保健室に行こう。
良いですね!両手に花と洒落込みましょう!
そうだな、両手に花だな。
今まで見た事のない激情を目の当たりにした
今まで目を逸らしていた懸念をぶつけられた
最悪の可能性を忘れるように保健室に駆け込むことにする主従。
この話題が早い時期にマイルームで起こったことで、二人の関係が致命的に拗れることは無かった。
予想通り、彼らがアーチャー(と仮称するサーヴァント)と邂逅するのは五日目となる。
そこまでの時間で、二人の主従の関係は辛うじて修復することが出来たのだった。
†
「やはり参戦していたか
対峙する二組の主従。
アリーナでも校舎でもなく。
そもそも、この二組は対戦相手ではない。
「参加しない筈がないだろう。改めて確信したが──────聖杯は西欧財閥が、ハーウェイが管理すべきものだ」
漆黒の男──────西欧財閥の暗殺者デュマは応じる。
この空間はハーウェイのスーパーコンピューターのバックアップにより、ムーンセルのシステムにハッキングを行う事で成立している。
同じ名を持つ天使の名から
対峙するマスターは輝きを持つ者。暗闇に生きる暗殺者とは対極に位置する選ばれた者。
「頼む、ランサー」
「応よ」
呼び出しに応じるは黄金。
青銅の短槍と軽鎧、紅蓮の短髪と相貌。そして、稲妻のような黄金の気配を放つ偉丈夫。
「来い、セイバー」
「了解した」
戦士を従えた、宝石のように煌めく才能を多く持つ貴人──────ルビィは闇夜の暗殺者と彼のサーヴァント、セイバーと邂逅する。
セイバーの持つ剣。
柄に呪符が巻かれた剣は、明らかに金属製ではなく──────。
…………
当該箇所(2000字オーバー)は極めて早口です。ドウシテコウナッタ。
という訳で5話でした。長くしてしまったと後悔中。
説明&考察回という事も大きいですが、性癖が暴走してしまった結果です。
読みづらい個所が多かったと思うので、ここまで読んでいただいたことに多大なる感謝を──────。
また、見直し用。および混乱を避ける為、以下に纏めさせていただきます。
キャスターが保有している、セイバーとキャスター以外のヤマトタケルの宝具の一覧。
一度見た弓での攻撃を再現することが出来る
一時的に自分の
眷属である狼を大量に召喚することが出来る
身に纏った物の気配を遮断することが出来る
神性を持っている相手には効果が劇的に増す
これ以上の情報はネタバレになるのでご容赦を──────。
また、真名の予想についても粗が多いのでご注意を──────。
遊牧民族ならば、大方ライダーだろう。
「……そうか」⇦マルスの剣を持つ遊牧民族の長
あそこまで弓を大々的に使うのならば、剣技の方はそこまで警戒しなくても構わないだろう。
「……ほう」⇦非才ながらもギリシャ神話最大の英雄からも称賛される剣技を持つに至った弓兵。
──────以上、クラス予想より抜粋。聖杯戦争において、先入観は大敵である。
改めて、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
評価感想──────及び真名予想などをお待ちしています。
次回更新は何時になるか分かりません。気長にお待ちしていただく事をお願いします。