機動戦士ガンダムSEED Pale Peace Makers 作:杉鋸
『今ここで私を殺して何になる! 何になるっていうんだ! 私はまだ殺せていないんだ! だから! 殺させてくれ! コーディネイターを! プラントのバケモノ共を! 私に! 私に殺させてくれ!』
……嫌な夢を見た。Nジャマーが落ちて来て、地球に住んでいるコーディネイターもコーディネイターである事を理由に表立った迫害が当たり前になったある日、知ってる人が殺されていた。私も殺されそうになった。
私は私を殺そうと襲い掛かってきたヤツらを素手で撃退した。撃退できてしまった。相手の方が数も多く、武器だって持っていたのに、私は1人だけで、素手だというのに撃退できてしまった。
その時の私を見る目が忘れられない。バケモノを見る目、バケモノに怯える顔。分かっていたはずだ、知っていたはずだ。それでも自分がバケモノだとあそこまで痛烈に叩き付けられたのは初めてだったと思う。
私は前から所属していたブルーコスモスの力を借りて連合軍に入った。プラントの理性の欠片も無いバケモノ共――理性があるというのならコーディネイターをお題目に掲げているのに多くのコーディネイターをも一緒くたに殺して平然としている訳が無い――が許せなかったし、普通に暮らしてても襲われるんならいっそ戦場でプラントと戦う方が気が楽だった。
……『コーディネイトした通りの理想の我が子の空想』と私を比べる事しかしない親と離れられるのも軍に入るのを後押ししていたかもしれない。
ブルーコスモスの有力者の口添えは『憎むべきコーディネイター』である私を――コーディネイターを宛がうしかないというのも大きかったとはいえ――ただの歩兵ではなくモビルスーツのパイロットにしてくれた。
連合の鹵獲したジンに乗り突撃機銃で敵のジンを穴あきチーズに変えたし、ザフトの歩兵を鉄臭いケチャップにした。重斬刀でジンのコックピットを叩き割って、それでも死ななかったパイロットが這い出てきたところをジンの左手で捕まえて握り潰した事もあった。
『お前だってコーディネイターだろう! どうして連合の味方をするんだ!』
『コーディネイターの裏切り者が!』
裏切ったのは私じゃなくてNジャマーを落としたプラントの方だろうし、大して好きでもない国の集まりでも嫌いで嫌いでしょうがないプラントよりはマシだった。
コーディネイターを作る事もコーディネイターである事も肯定される、成功作共の集まり。それでも私に関わってこないならなんだって良かったのにNジャマーと戦争と更なる偏見を私にくれた。そんなヤツら、嫌いにならない方がどうかしている。
『お前もコーディネイターだろ? どうしてナチュラルに混じって戦う』
私も
いつからか私はそういう問いにこう答えるようになっていた『人間同士だって争うんだからバケモノ同士なら尚更争うに決まってる』『バケモノを殺すのならバケモノが殺すのが一番だろう』
最初のうちは半分強がりだった。気が付けば当たり前の事になっていたし、一緒に居た誰よりもコーディネイターを殺すのが得意になっていた。
……嫌な夢が本当に全部ただの夢で、私が普通の人間だったならどれだけ良かっただろうか。
私は現実でもバケモノで、現実はその夢の延長線上にある悪夢そのものだった。
夢に見たのと違うのは乗っている機体が
そして、もう戦争が終わろうとしている、という事だろうか。
◇◇◇◇◇
CE71年9月27日、ヤキンでの甚大な被害もあってなし崩しで停戦に至ってからよく聞く噂がある。
『この戦争が終わる。お互いに耐えられない程の死が双方を撤退させて一度は停戦に追い込んだから悲しみを増やすだけの戦争なんてこれ以上続けられる訳が無い』
細かい表現に差はあっても、おおよそそんな内容の噂が流れている。馬鹿らしい。『悲しみを増やすだけの戦争』なんていうのなら端から戦争なんてしなければ良かったものを。
そして大抵こんな事を言い出す。
『この悪夢の様な戦争が終われば夢にまでみた平和を取り戻した故郷で幸せに暮らせるんだ』
そいつにとってはそうかもしれないが、私にとってはもはやそんな事はありえはしなかった。
私は
戦場でなら恐れられても頼もしい武器として居場所がある。他人にとっては戦争で悲しみが増えるのかもしれないけど、私にとっては戦争が続く事で増える悲しみなんてない。だから私は戦争が終わって欲しくなかった。
……あるいは「プラントはロクにツケも払っちゃいない」とでも言うべきか。好き放題やったプラントの被害がユニウスセブン1基ぽっちで済んでしまうのも許しがたかった。
そんな時『最終作戦』の話を聞いた。いわゆる
……死んでしまえば戦争は終わらない。
どれが本音で、どれが嘘か。あるいは全部本音なのか、全部嘘なのか。自分でも分からないまま、それでも私にとって『最終作戦』はとても魅力的なものとして映った。
◇◇◇◇◇
私は修復と調整を一応終えた
神経接続の調子は今日も抜群。
機体とパックの両方を改造して取り付けたエールストライカーの影響で質量移動による機体制御は弱くなっている――総質量が増え、相対的に四肢が軽くなったからだ――が、それでも推進力の増加やバッテリーと推進剤の増加は最終作戦で大いに役立ってくれるはずだ。
そして元は隊長機用の
実体弾の試射では2色の模擬弾を撃ったが、実戦では徹甲弾と榴弾を装填する予定だ。徹甲弾は安全で使いやすいが、榴弾は宇宙だと自爆や誤爆の危険がとても大きい。自分の進行方向に撃てばセンサー類は全滅すると考えていいだろうし、着弾した榴弾の側面方向に味方がいればそいつもズタズタ。もちろんそのリスクを負ってでも使いたくなる威力を発揮するからこそ宇宙でもエース向けに配備されている。
……私という
「なあシーラ、本当に参加するのか?」
私が機体をハンガーに納める中、
「私がビビるとでも? それとも私の事が能力以外のところで信じられないか?」
いくら仲間とはいえ
「冗談きついぜ、お前が信じられないなら誰を信じればいいって? ……結局のところ『最終作戦』は無駄死にしに行く様なものじゃないか。お前は若いんだし」
どういう意味で信じてるかはともかく、無駄死にしに行く様なもの? 若い?
「冗談はお前の方だろ。ハッ! 失敗する確率を態々高めろって? この隊で誰が一番
今の隊の中で一番前からMSに乗っていたのは私だし、誰が一番活躍したかなんて話そうものなら大概私が一番になるものだから「意味が無くなってるから殿堂入りにでもして除外しちまえ」と言った日が懐かしい。
「おぉ怖い怖い。俺達の紅一点、最恐のお嬢様だろ?」
機体を停止させ通信を切って、コックピットから降りつつ答える。
「そりゃあバケモノはバケモノが殺すのが一番だからな!」
明日おっぱじめるって時にそんなヤツが、しかもパーツだ何だを優先しまくったってのに居なくなるんじゃあやってられないだろう、なあ?
「……変な事聞いて悪かったよ。ちょっとビビってたのかもな」
話し掛けて来たアイツは降りた私の隣に来てそんな事を言い出す。
「で、ビビリなお前は本当に参加できるんで?」
変な事を聞いたと思ってるならこれくらい言ってもいいだろう。
「ここで逃げて変な生き延び方するのも怖いし、何よりお嬢様の怒りが怖いからな」
おどけてそう言って、離れていった。
内容はともかく、結局はそれなりにある軽口の叩き合いだった。
……大なり小なり誰だって落ち着いては居られないのだろう。私だって落ち着いては居ない。
『最終作戦』が失敗すれば死ぬ。成功したって結局は反乱兵として処刑されて死ぬ。死ぬのは怖い。それでもここで逃げて変な生き延び方するのも怖い。私達はそんな輩の集まりだった。
MX703G ビームライフル
本作においては「実体弾とビームの撃ち分けが可能」かつ「実体弾の種類すら選べる」高性能ビーム(だけじゃない)ライフル。高性能ではあっても良くも悪くも多機能で、手間が掛かる為に主流にはならなかった。
戦後において欺瞞工作の為に「実体弾用のGAU8M2 52mm機関砲ポッド」と「ビーム用のMX703G ビームライフル」は「同一のプラットフォームを共有出来る様に作られた別々の火器である」として存在が抹消されている。