機動戦士ガンダムSEED Pale Peace Makers 作:杉鋸
「ガンマグリ……ええと、その何とかって薬の副作用は?」
「効果が切れるととてもじゃないが戦闘できる状態じゃなくなるらしいが再投与さえすれば問題ない。後はきちんと抜き切るのには時間が掛かるらしいし苦痛も凄いんだとさ」
単に再投与するだけならパイロットスーツでも――宇宙服を着ている間でも定期的に薬品を投与する需要はそれなりにあるし、軍なんてところでは特に需要があるのだから――専用の機器を取り付ければ問題はないはずで、「きちんと抜く」方に関しては生きて帰ってから――と言っても、十中八九戦死なり銃殺なりですぐ片付くだろう話だが――考えればいい。
「
――
切れたら戦闘不能になるというのなら途中で切れるのは困るし、本当に効くにしても不足しているなら元々強い私以外を優先するべきだろう。
「コーディネイターはデータが無いから何とも言えないらしいが、後は問題ないんだと。量にしても俺達に投与するのは本来使うはずのブーステッドマンとかいうのに比べたら微々たる量だから十二分にあるってさ」
個人の体のデータから結構細かく投与量は計算されているらしい、と続ける。
コーディネイター以外のデータは充実しているらしい。どうやって集めたのやら……まあ今更知っても冥土の土産にしかならないだろうし問題はないだろうが、それでも聞きたいとは思わなかった。聞けたとしてもロクな話は出ないだろう。
「……そんなんで効くのか? それともブーステッドマンってのがウワバミの親戚なんで?」
しかし、その言い分だとコーディネイターよりも効きにくいと考えられているようだったからつい聞いてしまった。
「話を聞いている感じだと色々と体を弄っていた……というよりはナマモノではあるんだろうけども本当に人間なのか怪しい感じだったな」
『猿でもモビルスーツに乗れる様になる薬』か、はたまた『とてもじゃないけど人間扱いできない状態になる薬』か。どの道ロクなものじゃなさそうだった。
「……私にも戦闘中ずっと効く量を貰えるんなら私も貰おうか」
とはいえ端から後の事まで考える余裕のある作戦じゃないんだからどんな手を使ったって少しでも成功率を高めて損はないだろう。『後で副作用に苦しむと思って使わなかったらあっさり撃墜されて苦しむ間もありませんでした』なんてバカ丸出しの死に方をしたいとは考えちゃいない。
……まあ、
――結局全員がヤク漬けガンギマリで出撃するらしい。1人くらいビビっても良いのに思い切りが良いというべきか。……むしろビビったからこそ薬に縋ったのか。後ろ暗いところはありそうな薬とはいえ、だからこそ
◇◇◇◇◇
機体の状態をチェック。神経接続よし、操縦桿他問題なし、自動チェックも問題なし、格納庫の中で出来る範囲で機体を軽く動かしても異常なし。左腕の盾の固定もOK。両手に持ったビームライフルも特に問題はなさそう……通電しているかどうかと一応の残弾数くらいしか分からないから最後は撃ってみるまで分かったものじゃない。
ええと、それから弾倉とやっつけ装備の手榴弾?――ダガー用のビームライフルに付けられるヤツにちょっと手を加えて棒から射出できる様に改造した代物――もきっと問題なし。ビームサーベルも自動チェックでは問題なし。
「お前ら、『やっぱやめた』と逃げるなら今の内だぞ」
副隊長――隊長は未帰還だから実質的に隊長――が全機に向けて通信で言う。
みんなが口々に「そんなの無理」だの「ありえない」などと軽口で返す……結構な割合が――殺されるという内容だが――私をダシに使ってくれているのは喜ぶべきだろうか。
「あのなぁ、お前達を殺すのに使う電力やらプロペラントやらがもったいないから変な事しない限りはわざわざ殺したりはしないぞ?」
そう返すと「
「それでシーラ、お前は家族も居ただろう、お前だってなんなら逃げてもいいんだぞ?」
家族……
「いつだったかどっちも死んだ、って連絡があったな」
騒がしかった通信が急に静まり返る。
「ハッ! 気にする事はない! そもそもバケモノ作って人形遊びがしたかったアホがそれを理由にぶっ殺されただけだ。ロクに大事にもされなかった
声を張り上げても嫌に静かなままだった。これから戦いだ、ってのにこんなところで盛り下がってもいけない。言葉を続ける。
「気にすんなら一応は私を腹ん中だ何だで育てた礼にぶっ殺される理由を作ったプラントのクソ共の命でも供えてやりゃあいい! そうでないならバケモノ作って喜んでた報いでクズが死んだだけだ! 笑え!」
笑い声はなかったが、少しずつ戦意が上がってきたのが分かる。通信に「ザフトを殺せ」だの「砂時計をぶっ壊す」だの混じり始める。
「掛け声だ! アタシん後に続けっ! ……青き清浄なる世界の為に!」
渾身の叫びだったと思う。渾身の叫びだったとは思うが、誰も後に続かない。一瞬の静寂。その直後「実はオレ、別に世界とかどうでもよくて、コーディネイターが嫌いだっただけなんすよ」だとか「そもそもどの辺りが清浄だ、ってんだ」だの「『ブルーコスモス』ってか『カオスでブルー』の間違いだよな」だの散々な言い様。……私もそういうクチだからそこを咎める気はない。だが
「じゃあ今から掛け声を決めるのか? 私は掛け声が決まるよりも老衰して死ぬ方が早いと思うけどな!」
笑い声が響く。「それじゃあ全員出撃やめるんすか?」「掛け声なんてなくていい、いい」「よっ!ええ格好しぃ!」好き放題に言ってくる。
「……シーラ、隊長代理の仕事もやるか?」
私に場の主導権を握られっぱなしだった副隊長がいじけた様に言う。
「いやだよ、メンドくさい」
私がそう言うと、盛大に笑い声が響いて副隊長が「だよな」と漏らしてもうひと笑い。全員いい感じに緊張が解れたところで艦長からの通信が入る。
「お前達、いいニュースだ。ザフトの方から突っ込んでくる奴が出た。少数で別方面だがおかげでこっちの作戦もそれっぽく見えるぞ!」
そもそも『最終作戦』で味方と言えるのはこの船――ネルソン級宇宙戦艦ピュロス――他数隻と、私達元々の蒼白隊を中心にした30機のMS――ほとんどストライクダガー――と、20機のメビウス――半数は大型ミサイル装備――だ。ちゃんと停戦する気な他の連合の軍勢は全部敵と考えていい。
だから私達はNジャマー――そこら辺にいくらでも転がってた――で電波撹乱をしつつ連合の大半にありもしない『ザフトの攻勢』を伝えて、光学観測で早々に嘘だと見抜ける周囲の連合を速攻で排除してからプラントに向かう手はずになっていた。
本当にザフトから攻撃をしてくれたのなら私達の嘘も真実味が増して、距離のあるところの連合――どの道近隣の部隊は騙せないだろう――が疑う余地は減ると考えられる。つまり連合からの追撃の確率が減るのだ。
「後3分の予定だったが、後1分で作戦開始だ!」
明らかに普段よりも興奮している艦長の言葉に私達も中てられてか、全員雄叫びを上げつつ了解する。
……『最終作戦』が始まる。