機動戦士ガンダムSEED Pale Peace Makers 作:杉鋸
近隣の作戦非参加艦艇はあっさりと沈んだ。仮にも味方から撃たれるなんて想定していなかったのだろうから当然だ。まして短時間とはいえ真偽不明の「ザフトの攻勢」に気を取られたものだからこちらの動きなんてロクに見ちゃいなかったのだろう。通信設備を潰された上で推進剤のタンクにビームを浴びせられて火球に変わるか弾薬庫にビームを浴びて火球に変わるか。瞬殺だ。
「このままいつぞやのバレンタインみたいに砕いてやるぜ」
「やる気があるのは結構だけども、本当にただ1機だけの核装備のメビウスが順当に攻撃に成功したと?」
私は突っかかった。気炎を吐くのはいいが、アレを現実的な物と考えて行動されたら無駄死にするだけだ。
「連合の公式発表を信じてるのか?」
公式発表では「プラント側の自爆作戦」なる復讐の名目作り以外にする必要性の無い――言い換えればNジャマーを降らせる大義名分作りとしてやってても驚けはしないとはいえ――無理のある発表がされている。
「まさか! それでもリニアガン装備のメビウスですらゴミみたいに叩き落されてた戦場で、大型ミサイル、それもメビウスに載る中で一番重いのを積んだ機体がたまたまユニウスセブンに攻撃成功した、ってのも運が良すぎるだろ。一番動きが悪くなる装備のヤツが一番近づいて攻撃成功して更に帰ってきたって事になるんだぞ? 攻撃を見逃してもらったとでも考える方が現実的だろ」
しかし純粋な自爆とは考えがたいとはいえ、だからといってメビウスによる単独核攻撃が成功するのが信じられる訳でもない。ましてそのまま生還したというのだからどんな魔法を使ったのか。プラントと手を組んで自爆……他爆とでも言うべきか? したという方が現実味がある。
「そんな事をして何になるんだよ」
大義名分を作るだの、士気を上げるだの考えられない訳ではないが、実際にはどうだったのか。そんなものを知ってる訳が無い。知る機会なんてありゃあしなかった。
「知ったこっちゃ無いさ。ただバレンタインの再現気取るなら現実的じゃないの分かっとけ、ってだけでさ」
一応の作戦目標はユニウスエイトからテンの農業用コロニー……正に血のバレンタインの再現、つまりは食料自給能力を奪うのが目的だった。
――本来プラントに食糧自給能力はない。工業用コロニー群として作られたのだから、当然の事として農業なり畜産・漁業――現代においては養殖業が主だ――は地球なり他のコロニーなりに任せるというだけの話だ。工業用コロニーを改造して食料自給能力を得れば独立が出来ると思い上がったのだから、それを失えば独立なんて考えられなくなるだろう……考え続ければ餓死して考えられなくなるだけだ。
ともかく血のバレンタインの再現が目的なのだから
◇◇◇◇◇
しばらくプラントに向けて進み続けていると、ようやく数機のザフト機が見えてきた。『連合の方で謎の爆発が起きた』から様子を見に飛んで来たのだろう。
「敵の第三波だ!」「あいつらの仇!」
声を張り上げつつ、連合に通信を送る。これで『近隣の艦を撃沈した第二波攻撃に続く第三波攻撃を受けている』と見せかける事が出来れば御の字、出来なきゃ「前門のザフトに後門の連合」だ。……アズラエルが居ない今、連合に「自分の責任で判断して動ける指揮官」が存在するのかは疑問ではあるが。
叫んだが早いか、ザフトの連中が余計な事を言い出す前にビームで永遠に黙らせる。これでザフトが纏まった部隊を出してくれば『ついに第四波』とでも言って全面戦闘が再開されれば最高。とはいえ非参加の連合軍を巻き込むのは距離的にも難しいだろうし連合からの追撃が来ない事だけを祈って私達は進み続けた。
◇◇◇◇◇
それからしばらく、ようやく纏まったザフト軍……多数のジン、いくらかのゲイツ、ただ1機の
――私達はプラントに突撃している、そして敵は私達の方にひたすら向かってくる。あまりに速い相対速度で、しかも攻撃の射程を見切れずにあわてて回避に専念したものだからザフト共は攻撃の機会を逃したまま私達の後方に飛び去ってしまう。
……いくつものグレネードが炸裂した後方宙域は弾片と敵機の残骸でしばらくは近寄りがたい――近寄れば機体がズタズタにされるだろう――状態になった。この状態なら生き延びた敵機が私達に再接近するのは難しいだろう。
あっさりと終わった第一戦に「この調子なら余裕」だなんだと声が漏れる。……もちろんこの調子で進めるなんて誰も思っては居ないだろう。次に来る敵はこちらの射程についての情報を得ているだろうし、それに本来のピースメイカー隊を吹き飛ばした第三勢力――行動原理はともかく、主要な機からオーブ残党軍と目されている――がいつ参戦してくるとも予想が付かない。
それでもひとまずの勝利は私達の士気を上げたし、すんなりと敵部隊を処理して真っ直ぐ進めるのはとても都合の良い事だった。
◇◇◇◇◇
……私達は斜め上後方からの襲撃を受けた。エースパイロットの乗る赤いストライクとエースパイロットだらけのアストレイが4機、その内の1機は他のエースをも突き放すトップエースだったのだろう。
私達が機体の向きを変えるまでに3機のダガーが落ちた。更に向きを変えてからも反撃を始めるまでに2機が落ちた。一瞬で5機を叩き落したトップエースのアストレイが私目掛けて飛び掛ってくる。
相手はシールドを持った左腕でビームサーベルを持ち、距離を詰めようとしつつもビームライフルでも激しく攻撃してくる。
私はシールドでビームを受け止めつつ、右手のライフルで榴弾を撃ち込むも破片ですらロクに当たりはしない。……相手は正真正銘のバケモノだった。
「っ! 無茶苦茶な反応しやがる!」
それでも相手をしなければならない。イーゲルシュテルンと榴弾で近づけさせず、味方に支援を要求する。
「私の目の前のヤツにイーゲルシュテルンで弾幕を張ってくれ!」
そう言いながら味方の弾幕に突入させるべく軽い誘いと両手のライフルでの攻撃でギリギリの誘導を行う。四肢とエールの羽根を利用しての姿勢制御とスラスターを合わせての無茶な機動で機体を振り回しての回避運動。内臓の揺さぶられる嫌な感覚、コックピットを掠めて飛んでいくビーム。生きた心地なんてしやしなかった。
しかし危険を冒して誘導した甲斐もありイーゲルシュテルンの弾幕に突入させる事に成功する。榴弾をまともに喰らうよりはマシだっただろうが、それでも左腕をもぎ取る事が出来た。
狙いもあったものじゃない弾幕でもそれなりの装甲厚の腕を破壊できたのは発泡金属装甲の脆さ――重量比ではともかく厚さ辺りではそこまででもない――のおかげだ(……こちらの装甲も大差ない)。これがジンなら部位を選ぶ必要がある。……もっとも、ジンであれば援護の弾幕を頼むまでもなく榴弾の破片で落とせただろうが。
数の差を生かしての集中砲火、回避困難な弾幕。それによって敵機には着実にダメージが蓄積していき、更には強引な接近からの相対速度合わせによって大きく消耗していたであろう推進剤の残りが心許無くなったのか機動が鈍る。
消耗度合いを考えたらしい敵は撤退する。しかし敵は1機たりとも撃墜できてはいないというのに、こちらはメビウスが3機、ダガーが10機が落とされ、更には
◇◇◇◇◇
残る戦力は
ピュロス他の母艦側からの通信は第三勢力との戦闘中に途絶したきり回復していない。……おそらくは連合本隊に行動を知られ、鎮圧されたのだろう。
前方にはザフトのMS部隊40機。相対速度は比較的小さな物で、本格的な交戦になる事は確実だろう。
後方にもザフトのMS部隊6機。前方の部隊に手間取れば容易く追撃を許すだろう。
対MS戦闘における私達の戦力は27機、敵は46機。私達がいくら精鋭で敵の大半は新兵だとしても数の差は大きく、弾幕を張られてしまえばダメージは嵩む。……磨り潰されて死ぬのは容易に想像できる事だった。
それでも、無謀だとしてももう引き返すことは出来ない。私達はもうルビコン川を渡ったのだから。
◇◇◇◇◇
現在の宙域は非常にゴミだらけの宙域だった。ユニウスセブンの一部、この前のヤキンで出たジャンク、今まで使用されてきた推進剤も撒き散らされている上にビームを拡散させる為に撒かれたであろう粒子も存在する。
ひょっとすればここでなら音が響くのではないか。そんな風に思ってしまう程にこの宙域の真空度は低くビームの減衰が激しい宙域であった。
先に有効な攻撃を仕掛けてきたのはザフトの方だった。センサーの性能と着弾までの時間でおおよその有効射程が決まる現代宇宙戦、特にMS同士の戦闘においては最大の射程を持つビームライフルもこの宙域ではろくに射程の無い武器だった。
現宙域におけるビームライフルの射程外から前方のザフト40機、その内のおよそ半数程度が投射器からロケット弾を発射して来た。狙いはメビウス、特に運動性の低い
その内の1発が
……私の意識が落ちる。
ミラージュコロイドで隠れて核攻撃説もあるようですが、それはそれで「黒いメビウスが核攻撃してないとおかしい」ので個人的にはそれは無いだろうと思ってます。
(当時(というかヤキン戦役中)のミラージュコロイドステルスは装甲色が黒でないと導入不能というのが基本設定なはずなので)