機動戦士ガンダムSEED Pale Peace Makers   作:杉鋸

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ATTACK PHASE-- ペイル・ライダー

 私は夢を見ていた。

 まだ褒めて貰えた頃の記憶。一番に手が届かなかった記憶。失敗作だと罵られた記憶。怒りを自覚した記憶。プラントを憎んだ記憶。そして……戦場に喜びを見出した記憶。

 最初は褒めて貰えていたのに、いつからか一番じゃなきゃダメになって、一番にもなれず顔形も設計と違うなんておかしいと言われだした。そんな失敗作も戦場でなら必要とされた。認めてもらえた。

 

 でも、だからこそ私はそれに縋れなかった。……ここで夢を見続けてたんじゃ戦場ですらいらなくなってしまう。私は夢を振り払った。

 

 眼前に迫る敵――私を確実に撃墜しておきたかったのだろう――に徹甲弾を叩き込んで撃墜、直近の脅威が居なくなった隙に状況を確認する。機体の状態は少々怪しい、装備はライフル2挺、バックパック(エール)にサーベル2本。シールドは喪失、手榴弾は消費済み。イーゲルシュテルン残弾あり。戦闘は乱戦に移行しつつある。

 ――もう、気を失っている間にどんな夢を見ていたのかを私は覚えていなかった。そんなものを覚えておく余裕なんて無かったからだろう。

 

「お前ら! 強引にでも前に出ろ! ケツに付かせれば榴弾叩き込み放題だ!」

 

 乱戦に付き合うよりは強引にでも突破した方が攻撃機(ピースメイカー)隊が無事に突破できる確率は増えるはずだろう。しかも榴弾を好き放題叩き込めるという事は点や面どころか球としての攻撃を好きなだけ叩き込めるという事だ。他の攻撃よりも当てやすい上に流れ弾での撃墜だって十分見込める。

 ダガータイプのライフルグレネードと護衛(ペイルブルー)隊のメビウスが積んでいる小型ミサイル、私の榴弾を盛大に叩き込んで戦場にちょっとしたケスラーシンドロームでも再現してやろうじゃないか。

 

 攻撃機(ピースメイカー)隊を狙う敵、攻撃機(ピースメイカー)隊の進路を邪魔する敵を優先して撃墜しつつ、蒼白(ペイル)隊全体で前に出る。ザフトとしては護衛(ペイルブルー)隊のメビウスのビームを受けにくい後方を取りたかったのもあるだろう。意外とあっさり私達は前を取れた。

 護衛(ペイルブルー)隊全機が向きだけを反転し、グレネードとミサイル、榴弾を一斉に叩き込む。時限信管で放たれたそれらに纏わり付かれた敵の一塊がズタズタに引き裂かれ、あるいはズタズタに引き裂かれた機体の破片に穿たれて沈黙する。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 ……護衛(ペイルブルー)の残りは16機、敵の残りは28機程度。しかし攻撃機(ピースメイカー)隊は残り5機で、敵を大きく削れる手はもう無い。敵の追跡はついさっき作ったデブリの雲がいくらか時間を取らせるとはいえ迂回すればいいだけの話だ。

 私は減速して味方群からいくらか離れつつ、敵の片翼を狙う。敵の前に出た私に射線が集中すれば味方への攻撃は減る。私が一番攻撃を上手く躱せるだろうし、回避しながらの反撃も得意だ。

 

「っ!?」

 

 接近してきた敵からの集中砲火。ザフトらしからぬ連携――ザフトは個人主義が強いらしく、ここまで真っ当に連携を見せる事は少ない――で放たれるそれに私は回避一辺倒で耐える他ない。しかし私が反撃できなくたって味方が反撃してくれる。

 ダガーのビームライフルが敵機を撃墜し、動揺して砲火が乱れたところで私も反撃する。直撃はさせられなかったが――しかも無手の方だったが――腕をへし曲げる。

 敵が私に攻撃を当てられない事に業を煮やしたか、私以外を狙おうとするからオープン回線で煽ってやる。

 

「よぉ、プラントの成功作様共は失敗作1人殺せない志も目標も低い低い『成功作様』なんで?」

 通信が入るとは思ってなかったのか、それともその内容に驚いたのか一瞬動きの鈍ったジンを叩き落す。

「こんな雑魚をスコアに数えたら笑われちまうぞ、なあ?」

 

 ザフトからもオープン回線で通信が入る。

「失敗作? ……お前もコーディネイターなんだろ? どうして地球に付いてるんだ!」

 むしろプラント側に付く方がどうかしているだろうが、そんな事よりも私に意識を向けさせる為に返す。

「ハッ! お前達みたいな成功作がゴロゴロしてるプラントが気に入らないからだよ!」

 

 私に気を取られていた敵が落ちる。護衛(ペイルブルー)の残りは14機。

 

 更に私に気を向けさせる為に減速して敵群に近づく。

 私が減速したのに合わせて重斬刀を構え増速し接近してくるジンに対して、私は更に減速する事でタイミングを外しつつ蹴りを喰らわせる。

 蹴り飛ばされたジンに気を取られている別のジンにライフルで実体弾を叩き込んで撃墜。半端に機体操作だけは巧い蹴り飛ばしたジンが再度向かってきた所に(コックピット)目掛けてイーゲルシュテルンを浴びせれば機体はほとんど無傷のまま沈黙して慣性に従って漂うだけになる。

 護衛(ペイルブルー)の残りは13機。

 

「……お前達にやらせるかよ! あそこには! 父さんと母さんが住んでるんだ! この失敗作野郎が!」

 家族が住んでる? ……守る家族が居る? 私の頭に血が上るのを感じる。

 

「…………お前らのせいで……父さんも、母さんも殺されたんだよ! お前の両親だけは確実に殺してやるよ! お前達を全部ぶっ殺して!」

 私は、今までで一番集中していたのかもしれない。敵がどう動くのか、どこでどう撃てば効率的に殺せるのかが良く分かった。

 ――私をバケモノとして産んで、顔も能力も性格も全部悪く言う事しか能が無い両親なんて、死んで清々してたはずなのに

 

「私は、私は失敗作じゃなかったんだ、って、一番になれたんだって!」

 あいつらに守りたい家族が、両親が存在してる事が、うらめしい。うらやましい。…………何より、許せない。

 

「一番バケモノを殺すのが得意なバケモノになれた、バケモノを殺すのが一番得意なバケモノに産んでくれたんだって! そう教えてやる為にも!」

 動きを予測して、予想位置に向けてライフルから榴弾を時限信管、調定は感覚で決めて三点射。

 

「……ざまぁ無いよなぁ? バケモノがバケモノらしく振舞った事で別のバケモノを作ったアホが殺されてんだよ」

 機体をスピンさせて敵の攻撃を避けつつ、別の敵達に両腕合わせて12発。

 

「……その原因(てめぇら)も、その製造者(両親)も全員、全員(おんな)じ様に殺されるべきだよなぁ!」

 先に撃ち、敵の後方に飛び出した3発の榴弾は時間通りに起爆し、その榴弾達が作る弾片の雲が一番濃い場所にジンが自分から突っ込んでズタズタにされて爆発する。

 後から撃った12発の内6発が作る大きく広がる弾片の雲に突入しかけた敵前衛が動きを乱し、もう6発が3機に直撃して2機が爆散、1機が沈黙。弾片の雲に機銃ごと腕をもがれるマヌケが1機。

 

 ザフトのヤツらは明らかに浮き足立っていた。一瞬で4機を撃破したんだから当然だ。しかも私を失敗作野郎と呼んだヤツがオープン回線でうめき声を上げ続けていた。

 動きが鈍った敵を更に2機落とした頃、沈黙していた1機が爆発するのと同時にうめき声が途切れる。

 

「安心しろよ、ちゃんとお前の両親も送ってやるからな?」

 きちんとオープン回線でそう伝えると、ザフト兵の怒号が聞こえた。大半が私を殺そうと殺気立っている。

 私を殺そうとしているという事は言い換えれば私以外、特にろくに反撃してこ(気を引か)ないピースメイカー隊に対する攻撃の手が弱まるという事だ。

 

 私は敵をより多く落とす事よりも、より長く生き延びる為の動きに移っていた。

 私がきちんと誘引し続けられればピースメイカー隊の被害が減る。ピースメイカー隊がプラントに攻撃を出来ればそれでいいのだ。相手が私に興味を失わない程度に攻撃し、撃墜し、生き延び続ければ目的は果たせるのだから。

 

「優先順位を間違えるな! この大マヌケ共がっ!」

 焦って回線の設定を間違えたのかオープン回線で、知らない声がザフトを一喝した。

 私からピースメイカー隊に矛先が変わるその前に敵機を落とし挑発しても、もうロクに乗って来る敵は居なかった。

 私の負担は減ったし、私が積極的に敵を落としても私が落とされる危険はとても少なかった。……その分ピースメイカー隊が削られる。

 

◇◇◇◇◇

 

 ピースメイカー隊の1機が片方の『腕』をもがれてバランスを崩し、ミサイルがギリギリのところでプラントを目指せる(ロックできる)角度の内に発射。

 左右の推力バランスが崩れヨー方向にスピンする機体を補助スラスターで180度ロールさせ、上下左右が反転した状態でメインスラスターを噴かしてスピンを相殺。

 機首を後ろに向けたまま、更に機体をロールさせつつメインスラスターを噴かす事で推力バランスを強引に取り戻し、そのままジンに特攻を仕掛けるも機銃で粉砕される。

 プラントに向かったミサイルもメビウスが撃破された直後には撃墜されてしまう。

 

 ストライクダガーの1機がライフルごと右腕をもがれ、しかし左腕にサーベルを握り締めながらイーゲルシュテルンで応射を続ける。

 既にシールドも無いそのダガーは敵の射撃で頭部をもがれ射撃武器を失い、脚とコックピットのハッチすら吹き飛んだ状態でサーベルを構えて突撃する。

 ……銃弾の雨の中左腕とコックピット以外の多くの部分を削り取られるも、何とか撃墜されずに私の横すら通り過ぎて敵陣に突入、そのまま1機のコックピットを見事に貫いたが露出していたパイロット自身も敵機の装甲の出っ張りに叩きつけられて血飛沫に変わる。

 

◇◇◇◇◇

 

 味方が死ぬ。敵も死ぬ。私も敵を殺す。それなりに消耗した敵と、それ以上に消耗した味方。

 ……このままのキルレシオではいくら私が多くを落としても、敵が全滅するより先に味方が全滅するのが分かる、そんな消耗の仕方をしていた。

 だから私は更に危険を冒した。より早く、より多く撃墜しなければ間に合わないのだから。

 

 ……それでも、私が何機撃墜したって私はロクに狙われなかった。

 味方の断末魔の声が響く。コーディネイターへの憎しみ、故郷への憧景、プラントまで届かない無念。

 敵の断末魔の声も響く。地球への憎しみ、故郷への憧景、プラントを守ろうという意志。

 私だけが取り残されている様で頭がおかしくなりそうだった。

 

◇◇◇◇◇

 

 友軍(ザフト)機の残骸――ひょっとすればパイロットが生きているかもしれない――すら足蹴にして追いすがってくる白と青の影(デュエル)

 射撃武装はイーゲルシュテルンのみ、両手にはビームサーベル、背面部スラスターの大半が損傷。いくらGAT-X機にPS装甲が実装されているとはいえ、こちらはビーム兵器を標準装備とし(それを軽く)てい(貫け)る。そんな状態でも戦い続ける程あの『砂時計』が大切なのか?

 忌々しい。本当に忌々しい。そんな状態なんだから一度引いたって『ろくに戦力になれない状態だったから当然の判断をしただけ』とでも言えば済む話じゃないか。

 

 「死にたくない、死ぬのは嫌だ」と言いながら敵に向かっていくストライクダガー。敵に手傷を負わせるも、自身にも傷が増えていく。

「でもお前らと一緒の明日なんてもっと嫌なんだよ!」

 そう叫ぶのが聞こえて、それきり通信が途切れる。

 

◇◇◇◇◇

 

 たまに飛んでくる流れ弾と更に数少ない私を狙った攻撃をギリギリで躱しつつ、攻撃機(ピースメイカー)隊を狙う事に専念している敵機を叩き落す。鴨撃ち状態だった。

 他の誰が――もちろんこの部隊のパイロットならばだが――私の位置に居てもきっと撃墜されなかったし、多くの敵機を撃墜できただろう。それでも私じゃなきゃもっと機体にダメージを受けていただろうし、撃墜できた数はもっと少なかっただろう。

 でも、もうそんな事は慰めになんてなりはしなかった。

 

攻撃機(ピースメイカー)隊が全滅した。

 

 ザフトの大半も落ちたとはいえ護衛(ペイルブルー)隊だって私以外は残っちゃいなかった。

 

 

 それでも、私1人とロングダガー1機でもプラントは壊せる。壊しうる。

 プラントの回転軸部分に十分なダメージを与えられれば、プラントは自壊する。プラントが自壊すれば『湖』が街を包み込んでくれるかもしれない。そこまで都合よく行かなくても十分被害が出るはずだ。

 この機体はビームが撃てる。ライフルが無くてもサーベルがある。プラントの回転軸の1つや2つどうして壊せないというのか。

 

 だからまだ作戦は終わらない。終わらせない。

 この作戦しか残っていないんだから、どうして終わらせられるだろうか。

 

――「この作戦しか残っていない」のは「この戦争が」なのか「プラントを討てる機会が」なのか。それとも「私には」なのか。

――何に対して残ってないのか、もう分かりはしなかった。

 

 最後に蒼褪めた色の馬に乗った死(ペイルライダー)がやってきて、人間を全て死に至らしめる。砂時計の1つ、どうして壊せないというのか。

 私が蒼白隊の最後の乗り手(ラスト・ペイル・ライダー)だった。




(シーラが来る)
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