機動戦士ガンダムSEED Pale Peace Makers 作:杉鋸
最後の1人となった私は機体を反転させ、敵に背を向けて再びプラントを目指し始めた。エールストライカーの大推力を最大限活用してプラントへと向かう速度を増やしつつ、腕だけを後ろに向けてライフルを撃ち敵機を落とす。そして四肢と羽根を動かしたりスラスターの向きを調整して機体を揺らして敵の攻撃を躱す。
部隊の殿に回る為減速して敵機との距離が縮まり続けていたのがだんだんと縮まらなくなっていく。
「後はもうお前だけだ! 無駄な抵抗はやめろ!」
私の挑発に乗ろうとしたザフトを止めた声だった。「無駄な抵抗」? そんな事で止まるくらいなら『最終作戦』になんて参加する訳が無い。
撃墜された友軍機を足蹴にし殴り飛ばして未だに追随を続ける
そしてその直後、残り少ない敵の機銃が私の左腕をもぎ取っていく。
「私1人でも続けるさ……1人でも多く道連れにしてやる」
そう言って文字通り手数を減らされたまま、それでも敵機を削っていく。残り少なくなった敵は青白を除いてあっさりと撃墜されていった。
「そんな事をして何になる! お前1人の為に戦争を続けさせるつもりか!」
ヤツは青白のパイロットだったらしい。そう言いながらイーゲルシュテルンで私の右腕のライフルを破壊する。
「知ったことじゃないね! お前達だってやったことだろう?」
私はバックパックに装備されたビームサーベルに右腕を伸ばしながらそう答えた。
「民間人を殺す事がか!」
青白に羽根を一枚もがれる。
「ハッ! 何が違う、どれだけ違う! 精々6000万程度で5億の代弁者を騙り10億を殺したお前達と私達が!」
民間人の命について言い出すのはプラントがNジャマーを落とした時点で無理筋だろう? 箱物の上限でも6000万人足らずの輩がコーディネイター5億の代表の振りをして世界中で10億をぶち殺したんだ。少数の為に多数を踏みにじったのはプラントが先じゃないか。
「違わないとしても……それでも俺はザフトの一員で、プラントを守るのが俺の使命なんだ!」
数瞬動きの鈍る青白。搾り出したであろう、震える言葉。青白のパイロットは「それでも守りたい」と思えるらしい。
「……そこまで思えるなんてお前は幸せだな。私は地球だってどうでもいい」
青白も、私も、もう相手に掛ける言葉はなかった。
私も機体の制御が甘くなっていたらしい。イーゲルシュテルンを
ふと、声を漏らしてしまったかもしれない。
「失敗作に居場所なんて無いんだ」
機体が向きを変えて、青白と向き合おうとしていく。頭部を敵頭部に向けてイーゲルシュテルンを発射開始。たとえPS装甲が無敵だとしてもセンサーや砲口まではPS装甲で覆えないはずだ。片方の砲口周辺に何発か着弾し、内側から小さな爆発が起きる。
青白と相対するくらいの時にエールを繋ぎとめていた爆裂ボルトを起爆してパージ。
青白からも応射が始まりビームサーベルを持ったままの右腕が粉砕され、更にそのまま斜め上に狙いが移動していき機体各部に穴が開く。激しい揺れが私を襲い、コックピットの上の方にも風穴が開く。
私の撃つイーゲルシュテルンは青白のブレードアンテナをもぎ取り、更にもう片方のイーゲルシュテルンの砲口にも着弾する。青白のイーゲルシュテルンも私の機体の頭部を吹き飛ばす。
コックピットが一瞬暗闇になり、次の瞬間にはサブカメラに映像が切り替わる。イーゲルシュテルンも頭部カメラアイも粉砕された青白が映る。イーゲルシュテルンが誘爆でも起こしたらしい。内側から粉砕されたのだろう。
私は機体を自動航行させる準備をした。命令を発してからいくらかの時間を待ってからプラントに全速力で向かうように設定した。……少しでもプラントに被害を与えられる可能性があるのならどんなにわずかな可能性でも捨て置けなかった。そして、機動ユニット――遭難時用のセットの1つで短距離の宇宙遊泳を補助するスラスターユニット――を取り付け、短機関銃――本来は保安員用の装備のところ無理を言って貰った物だ。遭難時用の水と食料を置いてきて、そのスペースに突っ込んでおいた――を持つ。青白はまだ動かなかった。
青白のサブカメラが故障しているのか、切り替えに時間が掛かっているのか、それとももっと別の理由かは分からなかったが、それでも刻一刻と失われていく勝機を逃さない為にコックピットを開放し、自動航行の命令を出して、狂気の宇宙遊泳に乗り出した。
そもそもゴミだらけの宙域で、しかもゴミを増やしまくった直後だ。常識的に考えればそんな状況で飛び出せばゴミにぶつかって死ぬ確率は相当な高さになるだろう。しかし青白が動き出してコックピットを一突きすれば確実に死ねるし、そもそもその質量そのものくらいしか武器の残っていないロングダガーではプラントを壊す希望はほとんど無い。
でも青白にはまだビームサーベルが残っている。乗っ取れればまだ壊しうる。
薄いパイロットスーツで宇宙空間に飛び出して数秒。青白のコックピットの近くまで着く。まだ青白は動き出さない。コックピットに近づき、ハッチを開放するコンソールに繋がる配線をいくつかカット。青白とダガータイプのハッチが同じ挙動なら――ある種の設計ミスらしい――これで開放されるはずだ。
青白のコックピットのハッチが開放され始める。そして薄いパイロットスーツに熱を感じる……
次回『and more』