機動戦士ガンダムSEED Pale Peace Makers 作:杉鋸
「ハッ! 何が違う、どれだけ違う! 精々6000万程度で5億の代弁者を騙り10億を殺したお前達と私達が!」
「核よりも人道的である」と謳って地球上の全国家から敵も味方も無くエネルギーを取り上げ、核で都市を攻撃するよりもよほど多くのを民間人を――それも本来敵対していた連合以外の者すら――殺したNジャマー。どんな理屈を付けようとどうして正当化しきれるだろうか。
それに無関係の者すら殺したNジャマーの投下が正当であったというのなら、敵対する相手だけを殺そうという彼女達の行為だって十二分に正当だという事になってしまうのではないか。
「違わないとしても……それでも俺はザフトの一員で、プラントを守るのが俺の使命なんだ!」
なんとか搾り出した言葉。例え自分が起こした訳ではない出来事でも否定しがたいザフトの汚点。
それでもプラントを守る手段はザフトの一員として戦う事しかもう残ってはいなかったし、そもそもザフトへと入隊したのはプラントを守る為だったはずだ。
語るべき言葉は無くなった。いや、元から無かった。俺は疎かになっていた機体の制御を再開し、距離をこれ以上離されない様に勤める。
「……そこまで思えるなんてお前は幸せだな。私は地球だってどうでもいい」
少しだけ寂しそうな『彼女』の声。一瞬甘くなった回避運動の隙を付いてバックパックに機銃を叩き込む。
『羽根付き』の加速力は目に見えて落ち、しかし四肢と各部のスラスターを利用した非常に素早い姿勢制御で向きを機体の向きを反転させる。
「失敗作に居場所なんてないんだ」
『羽根付き』が向きを変える中、そんな声が聞こえた様に思う。
これが最後の攻防になると直感し、気が付くと機体や肉体の動きがスローモーションになっていっていた。
『羽根付き』は機体が正面を向く前から頭部機銃を撃ち始め、デュエルの頭部機銃の一つが破壊される。
『羽根付き』が正面を向いた頃、『羽根付き』の羽根の付いたバックパックが分離する。
こちらも頭部機銃を応射してサーベルを持った右腕を破壊し、そのまま頭部に狙いを移す。
その過程で『羽根付き』の胴体にいくつもの穴が開き、『羽根付き』からの射撃を受け続けているデュエルは着弾の衝撃の影響か頭部メインカメラの映像が乱れ始める。
デュエルのもう一方の頭部機銃と『羽根付き』の頭部がほぼ同時に粉砕され、少ししてからメインカメラが機能停止する。
映像が途切れた暗闇の中『彼女』の声は聞こえないし、こちらから呼びかける言葉もなかった。
モニターをサブカメラに切り替えつつサーベルを構える。
しばらくしてモニターにサブカメラの映像が映った瞬間、コックピットの開いた無人の『羽根付き』と、それとは別の人型の影が見えたかと思うとモニターが停止してコックピットが開き始める。
(直接乗り込んで来るだと!)
そう思うが早いか、感覚でサーベルを操作。
コックピットが開き切り、その身に大き過ぎる銃器を構えた小柄な少女が一瞬見え、そして次の瞬間にはビームサーベルの光の中に消え、乱暴に操作したサーベルが勢いのままにデュエルの左腕とわき腹まで蒸発させる。
◇◇◇◇◇
俺は人を殺すのは初めてではない。だというのにも関わらずどうしてこんなにも気持ちが悪いのか分からなかった。
いや、本当に殺したのか、殺せたのかどうか実感はなかったが、それでもきっと殺した。
仮にも会話をした相手だからだろうか。目視しながら殺したからだろうか。……それとも『彼女』の言葉をどこかで受け入れてしまっていたからだろうか。『プラントも彼女達も大差ない存在だ』『どうして否定できるのか』と。
そんな風に感じてしまった、考えてしまったのが大きな隙だった。そもそも敵を全て撃破したとはいえ、戦場で考え事を始めた事が間違いだったのだ。
『羽根付き』は無人のまま半回転を行い、羽根の付いていたバックパックの下にあったスラスターを噴かして加速を開始していた。
バックパックの推進器が破壊され様々な物体――主に撃墜された機体や艦船の残骸――を蹴ったり、各部の補助スラスターで何とか追いついただけの、今となっては射撃武器の一つも残っていないデュエルでは追いつけず、手出しもできない距離が生まれていた。
「このままだとヤヌアリウスにっ!」
◇◇◇◇◇
結果から言えば、『羽根付き』に追いつけなくても問題はなかった。射撃武装どころかサーベルもパイロットすら失った『羽根付き』はもはや運動エネルギーのみを武器に体当たりする以外の攻撃手段を持たず、そもそもプラントは少々の隕石程度であれば衝突しても耐えられるようにできていたからだ。
結局のところ隕石よりも脆くて軽い『羽根付き』の体当たりはヤヌアリウス市周辺宙域にいくらかのデブリを撒き散らすだけに終わった。
とはいえそれは結果論であり、『羽根付き』に爆発物でも積まれていて衝突と同時に爆破されていたならばコロニーの回転軸周辺に傷が付き遠心力に耐え切れなくなって崩壊していた可能性は否定できなかった。
それを戦闘中に思い悩んで見過ごすなどというプラントを守る者として許されざるべき失態であったはずだが、しかし今回の戦闘での被害の大きさから目を背ける為にザフトの内部でも精神的な支柱が必要だったらしい、その実体とは逆にザフト内々のみとはいえちょっとした英雄扱いを受ける事となったのだ。
「野蛮なナチュラルの凶行を良く止めた」だとか「コーディネイターの素晴らしさを示した」などと賞賛された。
けれども最後に戦った『羽根付き』のパイロットはプラントのコーディネイターを「成功作」と呼び、自身を「失敗作」と呼んだ。戦闘での動きもその発言も彼女がコーディネイターである事をありありと感じさせるものだった。
それを「連合のナチュラル」と「プラントのコーディネイター」などというステレオタイプで賞賛されても言いようの無い違和感ばかりが肥大化していった。
『彼女』の言う様に、プラントと彼女達が、あるいはプラントと連合がどれだけ違うのか。どうして『彼女』はプラントに敵意を向けたのか。「連合とプラント」「ナチュラルとコーディネイター」等と型にはめないで、そういったものを俺達はちゃんと知る必要があるのではないか。
ふと考えてしまう。「相手の事が知りたい」と思うのはさながら恋心の様ではないか、と。そして吊り橋効果は心臓の鼓動の理由を勘違いして起きるものだという。……馬鹿馬鹿しい。殺しあった相手にそんな感情を向けるのは流石に無理があるだろう。
――なお
◇◇◇◇◇
結局、停戦後の戦闘という戦争を継続させる燃料になりうる出来事は全て公式記録上から削除された。
現在のプラントの主導権を握っているのも、連合の主導権を握っているのもどちらも和平派であり、また武断派も目的はどうあれ一時の和平を望んでいた事。一方のみの醜聞であればまだしも、規模はどうあれ双方が起こした事。それらを理由として全て無かった事として処理されたのだ。
双方の武断派が戦争の継続を断念したのはどちらも戦力が払底した事が要因である。つまり彼女達はその死を以って戦争を止めたとも取れる。もちろんその為に戦った訳ではないだろう。しかしその目的とは裏腹に戦争を続けようとした彼女達が作った平和とも言えたのだ。
◇◇◇◇◇
俺は今、連合のとある施設に来ていた。彼女達……蒼白隊という愛称で呼ばれていた部隊の母艦の艦長――厳密には「元艦長」だ――との面会が目的だった。
その艦長はどういう訳か「ザフトの迎撃部隊の奴と話をさせろ」と言っているらしい。連合としてはその艦長から聞き出したい事があるらしく、俺はプラントと連合の取引の一環としてここに来た。
俺としてもプラントの外についてもっと知る必要があると思っていたし、『彼女』について聞けるのであれば願ったり叶ったりだ。
「ほとんど無理な要求だとは思ってたんだが……まさか本当に来るとはな」
驚いた様子の男……話通りなら蒼白隊の母艦の艦長をしていた男のはずだ。
「連合とプラントで取引があったし、俺にとっても聞きたい話がある。つまり利害の一致だ」
それから、俺は蒼白隊の最期を話し、『艦長』から蒼白隊と『彼女』――シーラ・イノセという名前だったらしい――の話を聞きだした。……『彼女』の話が少しだけでも連合とプラントを平和に近づける鍵にならん事を願って。