なので、作成した嘘予告です。
fateおよびタイプムーン世界に対する独自解釈などが多々入っております。ご了承ください。
太陽が煌々と照り付ける。
強い日差しが皮膚を焼き付け、道行く背広を着た男がにじみ出たをハンカチで拭った。
「どいて!!」
と、男は角を曲がった少女に突き飛ばされ、尻もちをつく。
抗議の声をあげようと振り返ったが、少女は必死の形相で、男に目もくれずにはしっていくので機会を逃してしまい、苛立ちながら男は立ち上がると、首をひねりながら、その場を後にした。
息をきらし、少女は背後をちらりちらりと確認しながら道を走っている。
ぎらつく太陽が容赦なく少女を照らしす。
金色に染めた髪から汗が弾け飛び、普段、運動していないため、脇腹がいたい。
短いスカートから伸びた足は必死に地面を蹴り上げ、上下に揺れる胸がこのときばかりは邪魔であった。
――ピロロロ♪ ピロロロ♪
携帯電話の着信音が聞こえ、びくりと猫のような素早さで、電柱の柱に隠れる。
見ると、前を歩く小学生の集団のうちの誰かに電話がかかってきたようだった。
恐怖に目を見開きながら、“着信”がかかってこないことを祈りつつ、集団が通り過ぎるのを待つ。
やがて、何事もなく彼らが通り過ぎたことに、ほっ、と一息をついて、天を仰ぎ。
「なんで、こんなことになってるのよ……っ!」
と嘆くのだった。
†
それはいつもと変わらない朝のホームルームであった。
朝、暗い顔をした教師が、友人である
「うそっ……!?」
少女、
昨日もいつもと変わらず、話し笑い、明日もまた会おうね、と約束して別れたのである。
あの子が死ぬとは、夢にも思わなかった。
昨日まで元気に笑い、なんてことのない会話をしていたのだ。
だからこそ、唐突に死んでしまったことは少なからず驚きであった。
かつてゲームセンターで取ったアクセサリーを弄ぶ。
これが羽田子の遺品となってしまったことに一抹の寂しさを感じるのだった。
「禊、ちょっといいか」
「あ、はっい、なんですか、先生」
放課後、帰り支度をしていると担任の先生に声をかけられる。
丸眼鏡をかけた、頭部が額から髪が薄くなりつつある中年男性だ。
出っ歯なことからクラスの皆には密かに鼠と呼ばれている。
「羽田子が残したノートに『メリーさんが来る』と書かれていたらしいんだが、何か知らないか……?」
「いえ、誰ですか、それは?」
禊は聞いたこともない名前に首をひねる。
名前からして外国人であろうか。
しかし、そのような留学生あるいは転校生はこの学校で聞いたことはない。
「いや、知らないならいいんだ……」
鼠、もとい担任の先生も首をひねりながらその場を後にする。
残された禊はもっと意味が分からず、ぱちくりと他の生徒と顔を見合わせていた。
†
友人が死んだことはショックではあったものの、生活に大きな影響があったわけでもなく、少しずついつもの日常が進んでいく。
帰ってこない合の手を寂しくも思いつつも、別の友人と会話し、退屈な授業を受け、いつもの日々が過ぎていく。
肩肘を付き、ただ、授業が終わらないかなーと思いながらも、ぼうっと話を聞いていた。
そんなことでかれこれ数日が経ったある日、不審な電話がかかってきた。
見たこともない電話番号、当然、無視していたのだが、しつこく何度もかかってくるのである。
バラエティ番組を見て、お菓子をつまんでいるときの楽しい時間を邪魔された禊は気分を害して、番号を着信拒否に入れる。
なんだったのかしら、と憤慨し、スマートフォンを机の上に放り投げ、テレビに向き直る。
きっと、悪戯電話かなにかのだろうと、禊は思った。
その時、ザザとテレビに砂嵐が走る。
目を丸くして、禊は画面を見つめた。
『電話に出ないなんてひどいわ。私、メリー。今、三丁目の角にいるの』
そして、金色の髪をした少女が不思議なことを告げたと思うと、砂嵐と共にまた消えた。
「……???」
意味が分からず、とりあえず、今起こったことを友人に話そうと思いスマートフォンを手に取った。
画面をタップし、開くと、メールが入っている。
それは何も操作していないはずなのに、勝手に開き――
『私、メリー。今、二丁目の角にいるの』
と、メッセージを表示した。
やはり、意味が分からない。
禊は意味が分からないまま、電話帳アプリを開き、友人の電話番号を選択するとプッシュした。
着信音が数度響き、ぷつりと相手が出た。
「あ、梨花? いま、ちょっと変な電話が――」
「………」
「梨花? どうしたの? なにかあった?」
普段は姦しいはずの梨花の声が聞こえない。
普通、何かの環境音が聞こえるはずなのだが、それもない。
『――私、メリー。今、一丁目の角にいるの』
そして、聞こえたのは先ほどと同じ、少女の声。
飴を転がすような綺麗で高い声。
しかし、無邪気なソレは今は不気味さしか感じない。
「誰?! 誰なのよ、あなた!」
『―――』
ぷつん、と電話が途切れる。
禊は意味が分からず、腹がたって、机を思いっきり叩く。
そして、拳が痛くなったので、軽く摩った。
意味はわからないが、だんだん近づいてくるのはわかる。
しかし、近づかれたからといって、何が起こるかはわからない。
もしかして、これが羽田子のいっていた『メリー』なのだろうか。
よくわからないが、とりあえず、ここにいるのは不味いと、鞄とスマートフォンをつかむと、とりあえず、家から駆けだした。
一丁目、というのが何処を指してるかはわからないが、とりあえず、家の裏手から反対方向へと駆け出す。
息を切らしながら、自分の住む区を抜けたところで、再び電話がかかってくる。
今度は電話を取っていないはずなのに、スマートフォンは勝手に音声を吐き出した。
『逃げるなんてひどいわ。私、メリー。今、春波町のバス停にいるの』
そこは今、禊がいる町区の先ほど通ったところだった。
確実に近づいてきている!、そう思った禊はスマートフォンが怖くなり、その場にほうりなげてしまった。
そして、再び走り出す。
思えば、一番初めもテレビを介して話しかけてきたの、そして次はスマートフォン。
もしかしたら、電子機器を伝って追いかけてきているのかもしれない。
だから、そういうのがなにもないところへいけば――助かるかもしれない。
そして、禊は再び駆けだした。
†
周りを気にしながらも、禊は走っていく。
民家の近くは駄目だ最低でもテレビがある。
人通りがあっても駄目だ、スマートフォンを持っているだろう。
だからと、普段全くいかない、森のほうへと逃げていく。
木に遮られる薄暗い森の中、昆虫の音がうるさい。
しかし、あの少女の声が聞こえるよりははるかにマシである。
近づいてくる羽虫がうざったいものの、町にもどったらどうなるかわからない。
「……ッッ!!」
より奥に行こうとして、木の上に垂れ下がる無数の蜘蛛を見つけて、足が止まる。
長い脚をして巣の真ん中に陣取る、その虫が禊に危害を加えることはない。
しかし、服に引っかかり、顔についたらとおもうと、生理的な嫌悪で足を進めることができない。
涼し気な風が鬱陶しい。
あの下をくぐろうとして、降りてきたらと思うと、それは悪夢のような光景だ。
だから、薄暗い森の近くで立ち往生することとなった。
いつまでもここにいるわけにはいかないが、どのようにすればいいのかわからず途方に暮れる。
とぼとぼと森の周辺を回りつつ、困っていると近くに駐車場があった。
何かに呑まれるような森の薄暗さが和らぎ、ほっと禊は息を吐いた。
――ねぇ。
そして、声が聞こえた。
飴を転がしたような、綺麗な声
『私、メリー』
それは駐車場に止まっている車から聞こえる。
車にはラジオがついているものもあるのだ。
『今――』
ひたり、と禊の口に手が添えられた。
―――あなたの後ろにいるの
†
此処は何処だろうか、と少女が首をひねる。
ライダースーツに、ウェーヴのかかった亜麻色の髪を背に垂らし、ブーツで古びた屋敷の床を踏みしめている。
釣り目で、勝ち気そうな印象の子だ。
「なぁ、ライダー……どういうことかわかるか」
彼女の相棒であるサーヴァントに話しかけるが、彼は首を振ってわからないことを伝える。
それは異形であった、彼女と同じくライダースーツに身を包み、首が欠損した男。
首から上がないはずであるが、周囲のことは理解しているようで、話しかけると身振り手振りで返してくる。
はじめ在ったときは真底驚いたものの、案外気のいい奴なので、少女としては嫌いではない。
なにより自身についていけるほどのバイクテクニックを持った相手は希少であるため、そういう意味でも趣味が合う相手であった。
彼ら二人は最近、起こっている町の不思議を解き明かすため、調査をしていたのだが、本当に気付かないうちに、いつの間にかこの屋敷に来ていたのである。
先ほどまで町の公道を走っていたはずだ。それが角を曲がった瞬間に、この屋敷の中にいた。
驚いたおかげで、乗っていたバイクで調度品を引いてしまい、スリップしてしまった。
愛用のバイクは現在、ぷすぷすと煙をあげており、その仇を取ると少女は固く誓った。
しかし、不思議な屋敷である。
まるで時代が遡ったような古い丁度品、日本では見たことのない――アメリカのドラマとかで見たことのあるような――家具などが置かれている。
壁紙は少し古びており、窓枠の外は真っ暗でなにがあるかわからない。
冊子を指でなぞってみると埃が積もっている様で何がなんだかわからない。
全体的の木製の家具が置かれており、
「なんつーか……アンティークショップ?に来たみたいだなぁ」
タイムスリップしたような時代錯誤感に襲われる。
二人?はそろりそろりと進んでいく。
にちゃり。
湿った音と共に何か柔らかい感触を感じ、少女が足元を見る。
そこには何かで滅多打ちにされた人の死体が置かれていた。
「!!??」
きゃあっ!と悲鳴をあげながら、ライダーのほうへ飛びすさる少女。
ライダーは飛び込んできた少女をとりあえず抱きしめ、そっと死体から遠ざけた。
顔がないライダーがなにかじーっと死体を見ている。
鈍く赤くはれている死体。
残っている肌は青く変色しており、顔は判別不能なほど潰されており、鼻から上の部分がぱかりと開き、ぐちゃぐちゃとなった脳漿が零れている。
歯は全て折れており、ずたずたとなった唇は赤い血を滴らせ、首と胴体は切り離されていた。
胴体部分への損壊がないことから、執拗に頭から上を殴り、破壊したのだろう、と推測された。
このような死体はいままでなかったはずである。すくなくとも匂いはしなかった。
マスターが匂いに気付かなかったことはおかしいはずだ、とライダーは思う。
しかし、当のマスターはそれどころではないようで、ライダーの後ろでぶるぶると震えて、死体から目を逸らしている。
「ラ、ライダー……? 大丈夫? 襲い掛かってきたりしない?」
気丈な彼女には珍しい声に、少しおかしさを感じつつ、返答をしようとしたところで、きぃぃっと、扉が開く音がする。
「―――、 took an axe♪」
何を言っているかわからないが、何かを歌っている声が聞こえる。
それは上機嫌に歌いながらぎしりぎしりと階段を下りてくる。
ライダーと少女は顔を見合わせた。
「Hit her father forty whacks~~♪」
現れたのは金色の髪をした女の子であった。
ぱっつんと前髪をそろえ、青いワンピースに白いエプロンドレスを着ている。
靴はかわいらしい赤色のもの。
歌いながら、ゆらゆらと楽し気にリズムをとっている。
「When she saw what she had one――」
そして、その手に持っている物が異様であった。
少女の体躯には合わない、巨大な斧。
それは血がべっとりとついており、ぴちゃりぴちゃりとたった今、何かを叩きつぶしたように滴っている。
そして、二人の姿を認めると、
斧を振りかぶり、
「―――She hit her mother forty one!!!」
たたきつけるように、斧を振り下ろした。
†
夜、親が電気を消して出ていく。
それからしばらくして、そっと布団がのけられる。
ぱちりと目をあけるショタ。
眠らないといけないのに眠れない。
だから、布団から起き上がらず、そっと外を見ている。
何もない部屋、お母さんたちの声、テレビの音。
車が通る音、窓から星明りが差し込んでいる。
月はみえないけど、きらきらと小さな光が夜空に映る。
しかし、部屋の中は暗く、輪郭ぐらいしか見えない。
早く眠らないと悪い子になっちゃう。
悪い子は絵本で読まれた様に、お化けにさらわれちゃうんだ。
と、考えたところで、ベッドの下で物音。
びくりと、驚くが、怖くて見れない。
布団をかぶる。
何かが部屋を這いまわっている。ドアは開いてない。窓も空いてない
なら、これは何?
震える少年、布団の中で早くどこかへ行けとと念じながら夜は更けていく。
「それじゃあ、おやすみ」
ぱちりと、部屋の電気が消される。
それから妙齢の女性は瞳を閉じた我が子を見つめ、くすりと笑って部屋を出ていき、扉がしめられた。
しばし、部屋は静けさに満たされる。そして、3分ほど経ったぐらいだろうか。
まだまだ幼い気な子供はぱちりと目を開け、そっと部屋の中を見渡した。
電気が消されたため部屋の中は薄暗い。
窓から差し込む月明かりのおかげで輪郭はわかるものの、明かりがある時とは大違いである。
起きてから部屋から出てみたかったが、お母さんは夜更かしをすると怒るのである。
なので、いい子でいるためには寝ないとならない。
しかし、昼間、あまり遊ばなかったためか、眠くならない。
だから、眠くなるまでぼうっと部屋を眺めることにしたかったけど、目を閉じていようか悩む。
遅くまで起きてるような悪い子の傍にはきてしまうのだ。
白い布を被ったようなふよふよと浮かぶお化けが、やってきて、悪い子をお化けの国へと連れて行ってしまうのだ。
嫌だ、そんなことは嫌だ、と少年は必死に目を閉じた。
ごとり。
ベッドの下で何か物音がした。
鼠……なんて家にいるはずもないし、虫はこんなに大きな音を出さない。
ならば、これは何?
覗いてみたいと思う好奇心と、意味が分からない恐怖心が同時に胸に来る。
そして、少年は毛布を被り、必死に目を閉じた。
そうだ、これはきっとお化けが来たんだ。
夜に眠らない悪い子の元にお化けが来たに違いない。
少年は目を必死に閉じて、お化けがどこかに行くことを願うのだった。
†
烏がかぁかぁと鳴いている。
彼らは電線の上に集団で止まり、黒い瞳で廃ビルを見ている。
それは幽霊がでそうな雰囲気のビルであった。
壁には苔が生えており、手摺にはシダ性植物が巻き付いている。
古びた壁には亀裂も入っている。
床はコンクリートでできており、郊外にあるためか、すき好んで近寄るのは廃墟が好きな人間ぐらいだ。
その中で奇妙なが音が響いている。
壁をたたくような音や、苦悶の声。
その廃ビルの中では不思議な闘争が行われていた。
簡易的なライトと、カラーコーンとポールだけで仕切られたリング。
その中で半裸となった男達がなぐりあっている。
彼らはすでに目や頬が青くはれ上がっており、拳もパンパンに触れく上がっていたが、殴り合うのをやめようとしない。
彼らを囲むようにしている観客たちは興奮し、好き好きに声を投げかけているが、その中で異彩を放つものがいた。
このような粗野な世界が似つかわしくない女性。
着ている服こそ軍服であり、背丈は高いものの、凛々しい顔を歪め、殴り合いをはらはらとみている姿は、暴力を好むようには思えない。
腰辺りまで伸びる緑色の髪が顔にかかり、それを手で払う。
努めて無表情ではあるものの、目は心配そうな光を宿しており、はらはら、とはらはらとせわしなく片方の男性を見ながら、胸に抱いているタオルをぎゅっと抱きしめている。
なんともいじらしい姿に他の男も気づいたのか、一人が卑下した笑顔を浮かべ、女性の肩に手を掛けた。
「おやぁ、こんなところでどうしたの、彼女? そんなに心配そうなら、俺達と一緒に―――」
と、何かを告げようとして、
「邪魔をしないでくださいであります」
男の手首をつかんだかと思うと、埃でも払うかのような動作で、男を放り投げる。
見た目からあり得ない怪力に目を丸くしていた男は、悲鳴をあげながら、ごろごろとコンクリートの床を転がり、ふぎゃ、と柱に背中をぶつけた。
男の仲間だろうか、男を放り投げた女性に向い数人が距離を詰める。
詰めようとして、動きを止めた。
いつの間にか女性の背後に、戦艦の砲台を小型化したような武装が出現し、男の仲間たちに向いていたのである。
「吹き飛ばされたいでありますか?」
静かに。値踏みするかのように静かな視線が男達に向けられる。
もし、このまま攻撃を加えようとするならば、女性は躊躇なく打つだろう。
彼女の眼には躊躇の色がまったくなかった。
それがわかったためか、男達はすごすごと下がり、再び観戦に戻る。
女性も視線を戻すと、すでに戦いは終わっている様で、最後に立っていた男に向ってとてとてと駆け寄っていく。
「大丈夫でありますか、マスター?」
氷水を巻いたタオルを渡す。
「………、問題、ない」
ふごふごと、何かを噛んだような聞き取りずらい発音で男は言う。
彼はもごもごと口を動かし、ぷっと何かを吐き捨てる。
吐き出された赤く汚れた歯が柱にぶつかり、そして止まった。
†
「ちょ、ちょっと、ライダー! あれはなんなの!?」
「――――」
無言で――喋れる口もないのだが――ライダーがアクセルを回し、速度をあげる。
ライダーの背には彼のマスターである女性が抱き着くように座っており、振り落とされないようにぎゅっと腕に力をこめる。
その背後を少女が笑顔で追いかけている。
金色のふわふわとした、波打つ髪をなびかせて。
「An apple pie,when it looks nice,would make one long to have a slice~~♪」
とマザーグースを歌いながら追いかけてくる。
手に持っている斧で邪魔な障害物を壊しながら、バイクにすら引けを取らず、何度か追いつかれそうになったほど足が速い。
明らかに人ではない。
一方、首のないライダーも同じく人外の域にある。
彼は、ウィリーをしながら階段を上昇したかと思うと、そのまま壁に前輪を乗せ、壁を足場にかけあがり、少女の上を跳躍、降りると同時に反転し、少女が振るった斧を避けると同時に下の階へと逃げていく。
あまりにアクロバットな動きに振り落とされそうになる女性であるが、必死にライダーにしがみつきついていく。
もし、彼女一人でここに迷い込んだのならば、あの少女にすぐに惨殺されていただろう。
それは、ここで見つけた撲殺死体が物語っている。
首のないライダーと斧を持った少女の追走劇はまだまだ終わりが見えそうにない。
†
聖杯戦争というものがある。
万能の願望機、あらゆる願いを叶えられる聖杯を使うために英霊を七騎、召喚し、英霊と召喚者が聖杯を巡って覇を競い合う。
それがかつてあった聖杯戦争。
しかし、ある時期を境に聖杯戦争の根本を成していた大聖杯が奪取され、同時に聖杯戦争の術式が流布されたため、世界中でその術式を用いた聖杯戦争が行われるようになった。
これを亜種聖杯戦争という。
神域、すなわち神社で上機嫌に鼻歌をうたいながら魔法陣を描いている少年も、かつて亜種聖杯戦争の参加者であった。
彼は楽しげに魔法陣を描くと、そこに先ほど作った死体を放り込む。
幾度か聖杯戦争に参戦しているが、どれも楽しいものであった。
悪党の英霊と組んで悪逆を楽しむこともあり、
正当な英雄を煽りながら、最後に自害させるのも楽しかった。
あるいは、参加者の願望を聞きながら、それを踏みにじった際の見開いた眼はとても笑えるものであった。
失敗作の聖杯のせいで吹き飛ばされ死にかけることも珍しくないが、それでも長い生の無聊を慰めるのはもってこいの舞台であった。
であるのなら、今回の戦いも面白いに違いない。
と、考えていたところで、どさりと音がした。
振り向くと、短い髪の少女がかばんを落とし、口元を抑えていた。
ここの家の住人だろうか?
とりあえず、といわんばかりに少年は一息に彼女の元へと距離を詰め、腕をひっつかんで地面にたたきつけた。
†
いつも通り学校へ行き、
いつも通り授業を聞き、
いつも通り陸上部で走り、
そして、くたくたになって帰宅し、テレビを見ながらご飯を食べて、
そして、勉強に頭を悩ませる。
そんな繰り返しのはずであった。
しかし、帰った彼女を迎えたのはいつもと違い、電気が消えた我が家。
おかしい、この時間ならば神事もない今日はお母さんが御飯を作って待っている、はずだ。
不審に思い、かばんをぎゅっと握って家に入ろうとしたところで、誰も使っていないはずの講堂から声がするため、そちらに向かう。
110番をするべきなのだが、その時は頭から抜けていた。
ごくりと唾をのみ覗き込んだ先には、あどけない顔をした少年がいた。
彼は薄暗い講堂の中で、何かを床に描いている。
その足元には人型の物体が置かれていた。
強烈な嫌な予感、見たくないという気持ちと、見なければいけないという義務感が同時に沸き上がり、恐る恐るも注視してみる。
暗い中、灯りもないため、よく見えない。
目を凝らし、じーっと見つめると、それは毎日見ている顔で……。
そして、それが何かわかったとき、鞄を落としてしまった。
「お母さん……? お父さん……?」
それは父母であった。
朝までは元気だったはずなのに、いまはピクリとも動かない。
その時、少年が麻衣のほうをくるりと向いて―――そう思った瞬間、まるで一瞬で瞬間移動したかのように彼は麻衣の懐まで踏み込んでいた。
呆気にとられる間もない。
彼は麻衣の腕をつかむと、世界が逆さになったような浮遊感と共に床へとたたきつけられる。
余りの衝撃に、口をぱくぱくとさせ声が出せない麻衣。
巨大な杭で撃ち抜かれて、縫い留められているような錯覚。
ぐるりぐるりとふらつく視界の中、歪んだ少年の顔は笑顔であった。
「うん。ちょうどいいや。お腹もすいてたし」
そういった、少年は麻衣の首元に顔を近づけると。
鋭い犬歯の生えた口で、その首へとかみついた。
†
首元に生暖かい感触と鋭い痛みを麻衣は感じた。
麻衣は足をばたつかせ、身体をよじるが、両肩を抑えつけている少年の力は万力のように強く、僅かな抵抗にとどまった。
接触から数秒もしないうちに視界がくらくらと眩み、霞んでいく。
気分が悪く、「や……めっ……」と叫ぶ者の少年は微動だにせず、麻衣の首から血を啜っている。
今だ背中が痛く、息を吸うのもつらいありさまであるが命の危機に体は必死に反応しようとするが、力の差は歴然である。
死、という言葉が脳裏に思い浮かんだ瞬間、背中に氷を差し込まれたような冷たい感触が走る。
意識が朦朧とする。
麻衣はもはや体の感覚もあいまいだ。
最後に思うのは両親のこと。
でもなく、死ぬのは嫌だ。という恐怖だけであった。
―――死ぬの? 早く死なないの?
ふと、蒙昧になった意識の中、不思議な声が聞こえる。
それは少女のようにあどけないようようで。
あるいは妙齢の女性のようなはっきりしたような。
はたまた老女のようなしわがれたような。
何人かの女性が同時に喋っているように音が重なりよくわからない声であった。
声の主は麻衣に死んでほしいようだ。
そのような意志をひしひしと感じる。
死ぬことを意識したためか、なおさら、死ぬのは嫌だ、と麻衣は強く思う。
(嫌だ)
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
(まだ、死にたくない。何で死ぬのか理由もわからず、死ぬのは嫌だ)
こんな理不尽に死ぬのは嫌だ。
わけもわからず殺されるのは嫌だ。
両親を奪ったヤツに虫けらのように殺されるのは嫌だ。
私はまだ、生きていたい――。
こんな、終わり嫌だ――!!
それは生への執着であった。
死に瀕したことでよりはっきりとした生への執着。
そして、怒りであった。
目の前の理不尽を強いる少年への怒り。
――そう。そうなの、あなたは
じゃあ、
魔法陣に光が灯る。
少年ははっと顔をあげ、魔法陣を見やり、そして、麻衣の手を見る。
そこには奇妙な紋章が手の甲に刻まれている。
「――召喚!?」
圧倒的な力の本流。鉄塊を乗せられたような重圧。
少年にはわかる、それらは英霊召喚に伴い、感じられる英霊自身の力の発露である。
それらが――ない。
余りに軽い、まるで張子の虎のような不思議な感覚。
その違和感に少年は訝しみ、あらわれたものに目を向ける。
それは白い髪をしていた。
それは死に装束であった。
ゆらりと高い女性であった。
しかし、不自然なほどに痩せており、女性らしく肉のついた部分以外はほっそりとしている。
「――寒い。寒いわね、
目には包帯を巻かれているが、視界が見えているように、麻衣の方へと向く。
麻衣はすでに意識がないのか。瞳を閉じ、沈黙している。
少年はそれを見て、怒りを覚えていた。
サーヴァントを先に召喚されたことの怒りではない。
「こんなものが」
それは、
「こんなものが英霊であるはずがない――――っ!!」
何度も聖杯戦争に参加しているからこそわかる。
これは英霊ではない。
これを英霊と認めてしまうのは、これまで参加した聖杯戦争への冒涜である。
少年は爪をぎらりと伸ばし、麻衣には目もくれず、サーヴァントに対して飛び掛かる。
はらり、と女性は包帯を外した。
その下からは赤い色の瞳が見える。
「――――」
少年の目が見開かれる。
次の瞬間、少年の引き裂かれ、内臓が宙へと露出する。
桜色をした腸が床に投げ出され、肝臓が潰され、血が床の上へと広がっていく。
その腸を踏みつけながら、女性が近づいてくる。
復元呪詛、すなわち傷を復元し、元に戻す力がが働かない。
激痛に見舞われながら少年は冷静に思考する。
女性の瞳が光ったかと思えば、自らの腹部が引き裂かれた。
この力は――おそらく宝具だ。
「お前は……」
この程度の傷で死ぬはずがない。
そのはずなのに、
「何だ……?」
そうして、少年の生は終わった。
彼の死体は灰となり、さらさらと風に吹かれ、どこかへと消えていく。
白い、色のない裸足でゆっくりと女性が麻衣へと近づいていく。
さきほどほどいた包帯をゆっくりと目にまきなおし、縛りなおす。
彼女は懐から黒い箱を取り出し――
「あなたが
そして意識のない麻衣の心臓部の上に箱を乗せた。
「お願い
そして、にっこりと笑うのだった。
†
そして物語は動き出す。
――これは虚構へと堕ちる物語。