道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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九話です。いろいろ衝撃な展開です。プロットは所詮プロットなんですね。何度も思っていることですが、今回は特に思いました。

一言: お待たせ。え? すごく待った? ゴメンなさい(土下座


九節 碧の御使い様

 

 

 

 

 

 

 

「あ、まだ続きがあるよ?」

 

 雛里の言葉に、朱里が手紙に目を落とすと確かに手紙には続きが書かれていた。

 

『そうそう。元直。あなたのお母様については、心配しないでください。昨日占ってみたら近い未来、あなたの元に紅を纏いし者が天より遣わされると出ました。御使い様は、その身に黄龍を宿しており天の力を用いてあなたを助けることでしょう』

 

「……それだけ?」

 

「……うん」

 

 朱里が読み上げた内容に、瑠里はひどく気落ちした様子を見せる。その様子と、水鏡の手紙に書いてあった”助ける”と言う言葉が気になった横島が事情を聞こうと口を開く。

 

「えっと、助けるってどう言う事? お母さん何処か悪いの? オレでよければ力になるけど……?」

 

「おやおや。お兄さんは元直ちゃんを気に入ったようで。ここで恩を売ってやろうという魂胆ですね。そのまま、恩に着せて元直ちゃんを……いやはや、流石はお兄さんです」

 

 横島の言葉に最初に反応したのは、風であった。風は横島の言葉をわざと歪めて捉える。

 

「いやいや、そんなこと考えてないから!? 仲徳ちゃんも分かってて言ってるでしょ……って、そこの二人! お願いだから距離取らないで!?」

 

 風の言葉を真に受けた朱里と瑠里が密かに距離を取る。それに気づいた横島が近寄ると、更に距離を取る。朱里たちも少し笑っていることから、本当に怯えている訳ではないことが伺える。彼女たちの卓越したその頭脳は、風の言葉が冗談であると見抜いていたのである。まぁ、楽しそうに笑う風の顔を見れば、誰でも分かるとは思うが。

 

 そのことに気づくまで、割と本気で逃げていたことは秘密である。

 

 そんなこととは露ほども知らない横島は、床に手をつき四つん這いの態勢で落ち込んでいた。その横島の肩に手をおき優しく慰めているのは、風の冗談にいち早く気づいた雛里である。彼女は自身が救助された時、何の見返りも求められなかった為すぐに気づくことが出来た。その後すぐにフォローを入れずに、黙って事態の推移を見守っていたのは横島たちの空気に早くも馴染んできた証拠だろうか。

 

 そんな光景をひとしきり楽しんだ風は、注目を集める為に手を叩く。全員の視線が集まったことを確認すると、ゆっくりと本題――瑠里の事情へと話を進めるのであった。

 

 

 

 

 

「つまり、元直ちゃんのお母様が最近体調不良が続いてると……」

 

「はい。元から病弱だったのですが、最近は床から出られない日が続いてまして。本人は大丈夫というので旅に出る準備は進めているのですが、やはり心配で」

 

「そうですか……それにしても、こうなると運命としか言い様がないですねー。ね? お兄さん」

 

「へ? 何が?」

 

 病気では自分の出番はないだろうと思っていたところに、話しを振られ少々間抜けな返事をする横島。それに対し、風は何でもないような口調で衝撃の事実を告げるのであった。

 

「手紙に書かれていましたよね? 元直ちゃんを助ける御使い様が現れると。それは、お兄さんのことなんですよ?」

 

 

「「「ええっ!!」」」

 

 

 その言葉に驚愕の声をあげ立ち上がる横島、朱里、瑠里の三人。言った本人である風は当然として、雛里も声をあげることはなかった。代わりに彼女は、一言やはりと呟くのであった。

 

「いいですか? お兄さんの名前は“横子考”です。“横”という文字には“黄”という文字が含まれているのですよ。そして、士元ちゃんたちが贈られた号から推測するに“黄龍”とは、特別な才を持つ人を表していると見てよいでしょう。それに、号をつける人はそのような言い回しを好む人が多いですからねー。水鏡殿もそうだったのではないでしょうか。まぁ、他にも考えられる理由はありますが、今はいいです」

 

 そう言いながら風は、何処からか取り出した紙に“横”という文字を書き記すと、“黄”を丸で囲む。

 

「つまり、手紙に書かれていた『その身に黄龍を宿し』とは、名前に“黄”の文字を含む才能ある人となる訳です。そして、『紅を纏いし』の部分ですが……」

 

 そう言って横島の額にある布へ視線を向ける風。それに釣られるかのように、横島の額に巻かれた“赤い布”を見つめる面々。

 全員の視線が一気に集中した為か、横島は気恥かしそうである。彼女たちは全員美少女と言って過言ではない容姿の持ち主である。そんな彼女たちが、真剣な表情でジッと見つめてくるのだから仕方ないのかもしれない。

 

「ま、そう言う訳なのですよ。しかし、この手紙が開封されるところに居合わせるなんて、正しく運命としか言い様がありませんねー。流石はお兄さんと言ったところでしょうか。何が流石かは分かりませんが。それでは、元直ちゃんのお母さんに早速会いますか? それとも、もう少し理由を聞きたいですか? ああ、どっちにしろ私としてはその前に少々お時間を頂きたいのですが。お兄さん、少しいいですか?」

 

 

 心なしか早口で告げる風に横島が頷くと、風は横島の前へと進み出るとそのまま自然な動作で跪き、臣下の礼をとる。いきなりのことに戸惑う横島は、先程も同じような光景を見たなと、雛里の方に視線を向ける。そこには、真剣な眼で風を見つめる雛里の姿があった。彼女は、風が何を口にしようとしているのか見当がついているのかもしれないと、横島は思いながら視線を雛里から風へと戻す。

 すると、それを待っていたかのように風が口を開く。

 

 

「改めて名乗らせて頂きます。姓は程、名は昱、字を仲徳。天よりこの地に遣わされし碧の御使い様。どうか共にあることをお許しください。そして、願わくは……」

 

 

 そこまで告げると、風は顔をあげ横島と視線を合わせる。風の言葉に驚いていた朱里たちは、途中で頭をあげるという本来は忌避すべき行動をとった風に更に驚く。風はそんな周囲の反応を気にも留めず、横島と視線を絡めたまま言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「願わくは、我が真名をお受け取りください。我が真名は風。常に貴方と共にある風となり、貴方に付き従うことを真名にかけて誓います」

 

 

 それは誓いの言葉。

 

 

 真名の重要性をイマイチ分かっていない横島にも、込められた想いが存分に伝わってくるような気がする神聖な誓いの言葉。予想外の出来事であった筈なのに、その誓いへの返答は最初から決められていたかのようにするりと横島の口から伝えられる。

 

 

「喜んで受け取るよ、風ちゃん。オレの名は横子考。真名は忠夫」

 

 

 風へと一歩踏み出し、手を差し出す横島。風がその手を取ると、横島は笑顔で告げるのであった。風にとって、何よりも意味のある言葉を。

 

 

「これからもよろしく!」

 

 

 

 ――この瞬間、来訪者“横島忠夫”は正しくこの世界の住人となったのである。

 

 

 

 

 

 

「さてさて、それでは元直ちゃんのお母様の所へ行きますか? ああ、そうそう他にもお兄さんなら助けられるのではと思う理由が……おや? どうしました皆さん、そんなボケっとした顔して」

 

 先程までの真剣な様子が幻だったかのように、普段通りに戻る風。そんな風が眼にしたのは、固まっている朱里たちの姿であった。雛里は帽子を深く被り何事かをブツブツ呟いており、朱里と瑠里の二人は主従の真名交換という神聖な儀式に立ち会ったことで、自分たちが主に真名を預ける時のことに思いを馳せているようである。

 

 

 

 朱里たちが正気に戻るまでの間に、横島は生じた疑問を解消することにした。

 

 横島の疑問。それは“碧の御使い”という言葉。横島の記憶では、怪しげな予言の主人公を風がそう呼んでいた筈である。自分が“碧の御使い”とは思っていない横島にとって、風が何故そう思ったのか疑問に思ったのである。

 

 

「風ちゃん、風ちゃん」

 

「はいはい、何でしょうお兄さん。今の内に、三人に悪戯でもしますかー?」

 

『ここは額に”忠”と書いとくか?』

 

「いや、そんなことしないから。大体、こういう時の定番は”肉”って、違う! オレが”碧の御使い”ってどう言う事? 人違いじゃ?」

 

 風と宝譿の言葉に、ツッコミをいれたあと横島は疑問を口にする。それに対し、風はいつものように何処からともなく取り出した飴を咥えながら答える。

 

「人違いではないと思いますよ? お兄さん……ああ、真名を交換したのですから、忠夫さんと呼ばないといけませんね。これは風としたことがうっかり」

 

「いや、どっちでも別にいいんだけど……じゃなくて」

 

「では、お兄さんと。忠夫さんと呼ぶのは特別な機会の為に取っておくことにします。それで、何故お兄さんが“碧の御使い”なのかといいますと、まずお兄さんは不自然です」

 

「は?」

 

 風の言葉に思わず間抜けな声が出る横島。いきなり不自然と言われたのだから、仕方ないのかもしれない。

 

「お兄さんは島国の出身と言いました。まず、そこがおかしいのですよ。私たちがお兄さんとあったのは、大陸でも中央に近い場所です。ここから近い海岸付近の街まで船で川を下ったとしても、一日二日で着くことはありません。しかも、故郷――島国でさらわれたのなら、海を渡ってきたことになります。その分の日数も加えると、十日近くお兄さんはご自分が移動していることに気がつかなかったことになります」

 

 横島はそれを聞いて冷や汗を流す。横島もようやく気づいたのだ。車も高速船も飛行機も存在しないこの世界では、移動にかなり時間を要することに。

 

「無論、薬か何かでお兄さんの意識を奪っていたことも考えられますが、そのような手段を使ってまで攫っておいて、あんな場所で放置する意味がわかりません。また、お兄さんの言葉が嘘だと仮定すると、お兄さんはご自身の意思であの場所に来たことになります。すると、今度は別の疑問が生じます。お兄さんは、武器や路銀を始めとした旅に必要な物を一切持っていませんでした。短刀の一本も所持せず、路銀もなく旅を続けるのは不可能です。では、お兄さんは何故あのような場所にいたのか? 考えられる可能性は三つ」

 

 そう言うと、風は横島に向けて指を三本立たせて見せる。

 

「一つは、お兄さんが旅の途中で賊などに身包みを剥がされた場合。ですが、それにしてはお兄さんはあまりに無防備でした。そのような目にあった人間は総じて、他人に対し警戒心が強くなるというのに。ですので、この可能性は否定できます。二つ目は、お兄さんが数人で行動していたが、何らかの理由でお兄さんだけあの場に置いていかれた場合です。つまり、路銀や武器の類は同行者が持っていた為に、お兄さんは所持していなかったという可能性ですね。その場合、何も所持していなかったことに説明がつきますし、言いにくいことですから、それまでの経緯を誤魔化す為に人攫いにあったと偽ることも有り得ます」

 

 現に、と風は続ける。

 

「稟ちゃんや星ちゃんはそう思っています。お兄さんがスケベさんなのは、この数日の間で理解していますから、それが理由で捨てられたのではないかと。この場合、真名を知らなかったことについても、同郷の人とだけお兄さんが行動していたのなら説明がつきますしね」

 

 その説明に横島は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。美神と除霊に行った帰り道に、セクハラのしすぎで怒った美神に放り出され、見知らぬ土地に置いていかれることが良くあったからである。

 

「三番目の可能性。これは、お兄さんが別の場所から突如あの場所に現れたという可能性。突拍子もない考えですが、そうだとすると色々説明出来るのですよ。何せこの場合、距離は関係なくなりますからね。お兄さんが気づいたらあの場所に居たという言葉も、日本という国を風たちが知らないのも、お兄さんがこの大陸のことを何も知らないことも、遠い場所から突然移動したからの一言で説明できちゃうのです。そして、風はこれこそが真実だと思いました」

 

「いやいや、それは普通思いついても即座に却下する可能性じゃ……?」

 

「あらゆる可能性について思考するのが、軍師には重要なのですよ? まぁ、風とて普段ならすぐに捨てたことでしょう。ですが、風はこの可能性を捨てませんでした。何故なら、風は天の御使いの予言を知っていたからです」

 

「つまり、オレが天の御使いならその突拍子もない考えが事実になる……?」

 

 横島が恐る恐る口にした言葉に、風は笑顔で答える。

 

「そういう事です。予言が真実なら、天の御使いが存在する。そして、天の御使いだとすれば、不自然な所が全て説明できる人が目の前にいる。だからこそ、風はその可能性を捨てませんでした」

 

「ひゃ、百歩譲ってだ。オレが御使いだとして、何で碧? 白かもしれないだろ?」

 

 風の説明に、自分は本当に御使いなのではと思う横島。同時に、碧の方は軍勢の前に出ると予言されているので、せめて白い方ではと淡い期待を込めて風に尋ねる。

 

「簡単ですよ。お兄さんは白い方とは特徴が一致しませんから。それに、あの予言はいくつかある天の御使いに関する予言の中で、一番有名な一節というだけです。世間には広まっていませんが、碧の御使いは紅の布を身につけているとかいうのもありますし、何より風はお兄さんが碧い剣を持っていることを知っていますから」

 

「何を言って……?」

 

「お兄さんの腕の中が心地よかったのは確かですが、そんな状況で簡単に寝入れる程風は子供ではないのですよ。まぁ、剣を見たあとあまりの心地よさにぐっすり寝てしまったのは誤算でしたが」

 

「あっ、あー! あの時、起きてたんか!?」

 

 横島のいうあの時とは、この街に着くまでの道中で野宿をした時のことである。

 野宿ということで横島と風の二人で火の番と見張りをしていた時、風が寒いと言って横島の膝の上に座ったことがあった。最初は驚いた横島だったが、抱え込んだことで風の体温が伝わってきて、暖かく感じたのですぐにそれを受け入れたのだ。内心、これが稟や星だったら良かったのにと思いながら。すると、あっさりと風が寝入ってしまったのだ。

 話し相手を失い、身動きも取れなかった横島は栄光の手で木の枝を拾い、霊波刀で枝を切り薪にしたり、サイキックソーサを操作してUFOごっこをしてみたり、文珠を作成して暇を潰していたのである。因みに、風からほのかに香る甘い匂いや、抱えている体の柔らかさに煩悩がちょっぴり刺激されたのか、その日生成した文珠は、普段より短時間で生成出来たのは余談である。

 

 

 

「碧い剣と盾。それは、碧の御使いの武器であり、天の力。お兄さんが碧の御使いだと確信を得るには十分な証拠です」

 

「オレが御使いかー。あんま面倒なことは避けたいんだけどなー。でもそれで納得できたよ。風ちゃんはオレが御使いだとわかったから真名を預けたんだな」

 

 うんうんと頷く横島に、風は不満げな顔をするがすぐに表情を消すと、顔を両手で覆いながら床へ崩れ落ちるようにしゃがみこむ。それに慌てた横島に、宝譿が風の気持ちを代弁するかのように喋りだす。

 

『おうおう、兄ちゃんよー。風の嬢ちゃんが大事な真名を、そんな理由で預ける訳ねーだろ! これじゃ、嬢ちゃんが可哀想だぜ』

 

「うう、いいのですよ宝譿。風は御使い様という言葉だけで真名を預けるような、軽い女と思われていただけのことです……うぅ」

 

「えっと、あの、違っ! っていうか、その、ほら! 真名って大事だって言ってたのに、オレなんかに預けるのは、その、ブランドというか……その御使いっていう名声? がないとって思って! ああ、謝る! 謝るし、何でも言うこと聞く! せやから泣かんといてー!!」

 

 風を泣かせてしまったと、慌てふためく横島。そんな横島に、弱々しい声で風が問いかける。

 

「本当ですか……? 本当に風の言うこと……」

 

「聞く! 聞くから! もう何でも聞いて聞く!」

 

「約束?」

 

「約束する!」

 

 その言葉を聞くなり、風は立ち上がると普段通りの表情と口調で横島に話しかけるのであった。

 

「そうですかー。そこまで言われると、何をお願いするか悩んでしまいますねー」

 

「う、嘘泣き……?」

 

「それは心外ですねー。風は確かにお兄さんの言葉で傷ついたのです。大体、御使いだからとお兄さんは言いますが、それならもっと早く真名を預けています。風は、お兄さんと過ごし交流する中で、御使いではない忠夫さんという個人に真名を預けると決めたのです」

 

 そこのとこ分かってますか? と首を傾げながら尋ねる風に、横島は大きく何度も頷く。

 

「なら良いのですが。風だから許しますけど……他の方がお兄さんに真名を預けるとなったときに、同じことを言ってはダメですよ?」

 

「はい!」

 

 敬礼しながら大きな声で答える横島に、風は満足気に頷くと朱里たちの方を振り返る。そこには、いつから正気に戻っていたのか肩を寄せ合い、口々に風と横島のやり取りを見た感想を述べ合う三人の姿があった。

 

「ふわわ、悪女……殿方を手玉に取る悪女がいるよ」

「はわわ、凄いよ! 背はあまり変わらないのに何か大人だったよ!」

「あわわ、強敵だよ! 色んな意味で強敵だよ!」

 

「ふぇ!? 強敵ってどういうことなの雛里ちゃん!?」

「悪女!? 何かやっぱり大人な響きだよ!」

「大人!? 大人だなんてますます強敵だよ!」

 

「大人!? ……ふわわわわ!?」

「強敵って!? 雛里ちゃんも大人になっちゃうの!?」

「あわわ、悪女さんだなんて……強敵だよ!」

 

 話を再開するには、今しばらくの時間が必要なようである。

 

 

 

 

 

「実は、世間には広まっていませんが、手紙に書かれていた内容とほぼ同じ一節がある予言が存在するのです。それは……」

 

 しばらくして、三人がようやく落ち着いた所で風が話を再開させる。風曰く、水鏡の残した手紙には、あまり知られていない予言の一節が引用されているとのことであった。

 

 

『其のもの、其の身に黄龍を宿し、天の力を振るう。その力、碧に輝く剣となり、この世ならざる者たちを祓うであろう』

 

 

それが、その一節。そして、風が水鏡の手紙を見たときに、すぐ横島のことだと分かった理由でもある。水鏡の言う御使いが“碧の御使い”ならば、それを横島と結びつけることは風にとっては簡単なことなのである。

 先程、“黄龍”や“紅を纏いし”が横島のことを指すという風の披露した解釈は、“横島”という答えになるように強引にこじつけたものであったのである。

 

 

「という訳で、元直ちゃんのお母様は、御使いたるお兄さんが天の力で助けると言う訳です」

 

「いや、という訳ですと言われても……病気ならオレに出来ることなんてないぞ?」

 

「そこはまぁ、実際に会ってみてから考えましょう。もしかしたら、お兄さんの隠された力が覚醒するかもしれませんよ?」

 

「んなバカな」

 

「冗談です。まぁ、どの道あってみないことには進みません。風の持つ知識が役に立つかもしれませんし。お兄さんに知識面では……ふぅ」

 

「そんなあからさまに期待してないって視線を反らさんでも……って、元直ちゃんたちも!? そんなにオレってバカっぽい!?」

 

 約一名が騒がしいが、取り敢えず瑠里の母親に会う為に瑠里の母親が寝ている部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 しかし、彼らは知らない。そこに予想だにしない困難が待ち受けているとは……

 

 母を助けてっ! 少女の叫びが男に新たな力を呼び起こす!

 これがオレの新たな力だ! 行くぜ! 悲劇はオレが防いでみせる!

 

 次回、GS横島忠夫! 新たな力! その名も……」

 

「子考さーん! こっちですよー」

 

「あ、ゴメン。すぐ行くー!」

 

 

 

 

 

 

――おまけ:真名交換の真意――

 

「あのー」

 

「何ですか、孔明ちゃん?」

 

 移動中、恐る恐る風へと話しかけてきたのは、諸葛孔明――朱里である。

 

「その、子考さんが御使い様だというのが本当かとか、瑠里ちゃんのお母さんのことを治せるのかとか、色々聞きたいことはあるのですが……それは今はいいんです。きっと、直ぐに真実は明らかになりますから」

 

「まぁ、そうですねー。お兄さんが治せるかどうかは試せばすぐわかりますからね」

 

「はい。それでですね!? 実はそれ以外で聞いてみたいことがあってですね?」

 

 ググッと近づいてくる朱里に少々のけぞる風。まぁ、来ている服がゆったりしているので分かりにくいのだが。

 

「はい、何でしょう?」

 

「その、何故……いや、本来いつするかは本人の自由なんですけど。ま、真名の交換をでしゅね、そのー」

 

「何故、あの時に真名の交換をしたのか……ですか?」

 

「は、はひっ! しゅみません、こんなこと聞いて。ただ、どうしてあの時だったのかと思って」

 

 朱里の言う通りなのである。風が横島と真名を交換する機会はこれまでもいくらでもあったし、これから先も同じくである。今から瑠里の母親を助けるというところで、真名交換を行う必要はないのである。

 

「あー、それはですねー」

 

 風はそう言うと周囲を見渡し、瑠里と雛里が何故か後方に佇んでいる横島の所に向かっている姿を確認すると、朱里に耳を貸すようにと指示する。

 

「これはお兄さんやあの二人には内緒ですよ? 実は、あの時する必要はなかったんです。ただ、お兄さんが御使いだと言った時、元直ちゃんと士元ちゃんの眼が変わった気がしたんです」

 

 風の言葉にそうだっただろうかと、記憶を探る朱里。しかし、横島が御使いだということに気を取られていた為、彼女たちの様子までは見ていなかったことに気づく。

 

「その時、こうビビっと直感が働きまして。ああ、この二人は近い内にお兄さんに真名を預けるなと。もしかしたら、このあと直ぐにでも真名を預けるのでは。そう思ったら、もう自分を抑えきれなかったのですよ」

 

「えっと、別に二人が預けるからって、それほど気にしなくてもいいんじゃ?」

 

 朱里の疑問も最もである。真名とは、誰が交換しているかを気にするようなものではない。その順番に差が生まれるようなものではないからである。

 

「分かっているのですよ。そこに差はないと分かっていても、なりたかった。……お兄さんの初めての相手になりたかった。ただ、それだけなんです。誰かに奪われたくなかった……子供みたいな独占欲と、ちっぽけな自己満足ってやつですよ」

 

 そう言って、微笑むと風は遅れてくる横島たちの方へと歩き出す。その風の背中を見送りながら、朱里はただ呆然とその場に佇んでいた。

 

「やっぱり、大人だ……」

 

 




 九話です。この話の半分以上が予定外です。当初、風が真名を預けるのは、華琳のあとの予定でしたし。まぁ、朱里が同行する時点で予定は大幅に変更になったわけで、その上瑠里も連れて行くことにした為、大幅に変更したという。うん、よくあることです。

 因みに、この話では既に風は改名済です。いつ改名したのかは、追々機会があれば。

 次回は、さくっと旅立って、さくっと次の街へ行きたい。うん。いい加減次の目的地行かないと。

 予言が複数ある。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。

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