場面もダイジェストでかなり短いです
この世界には“巨人”と呼ばれる存在がいる。その名の通り見た目はデカい人間なんだが、そいつらは揃いも揃って人類を襲うのだとか。
そのおかげで人類はウォールなんちゃらを築いてその中に引きこもった。
まあ引きこもった後もなんやかんやあって人類の生活圏はどんどん後退してったらしい。
そして大多数の人類はそんな現状に折り合いをつけて生きている。だがそんな現実に納得せず、壁の外へ自由を求めて飛び出す命知らずの冒険野郎共がいた。
それこそが自由の翼を背負う『調査兵団』。
俺の第一発見者というわけだ。
「大変なんすねぇ」
場所はどっかの地下牢。そこに収監されたまま俺はハンジさんという女性の説明に聞き入る。
中々に人類の未来が切羽詰まった世界だ。まあBETAに侵略されて国家が崩壊したり、コジマ粒子に汚染された地上で資源戦争に明け暮れる世界よりはまだマシではあるが。
「そう、大変なんだ。5年前のように壁を破られた今は特にね」
「そんな死ぬほど忙しい時にあからさまに怪しい男が壁の外をうろついていた」
ハンジさんの後方。壁にもたれかかり腕を組んだ少し小柄な――リヴァイと呼ばれていた男性がその眼光と同様の鋭い声を飛ばしてくる。
ついでに殺気までビンビンだった。
「それが俺だと」
「壁の破壊は巨人がしでかしたことだし君が関係あるとは思えないんだけど、無関係とも言い切れないからね」
なるほど。
通りで牢屋にぶちこまれた挙げ句、腕はご丁寧に鎖で繋がれているわけだ。
自分の置かれた状況ってのが大体見えてきたな。
「だから、シン。君の知っていることを洗いざらい白状してくれると助かるんだ」
問題は俺が知ってることなんざ何もないってことなんだけども。
「……んで、こうなるか」
レンガ造りの建物は崩れ、瓦礫に押し潰された死体を燃え広がった炎が焼いていく。
死臭が蔓延した街の至るところから悲鳴と鳴き声、助けを呼ぶ声が上がっていた。阿鼻叫喚を絵に描いたような光景。
調査兵団から憲兵団という組織の管理下に移されてしばらく経ったその日。
地震が起きたと思ったら建物がいきなり倒壊した。日本ほどの耐震構造を求めるつもりはないけどさ、さすがにこの壊れ方は欠陥工事すぎない?
なんて思いながら瓦礫を押し退けて脱出する。すると目の前に広がっていたのがこの光景だったというわけだ。
「ただの地震じゃないな。もしかしてこれが巨人の仕業ってやつ?」
結局話に聞いてるだけだから巨人とやらがどんなもんかは知らないままだが、この世界の文明レベルから察するに巨大ってだけでも脅威になるよなぁ。
「そもそも巨人ってどれくらいデカいんだ?」
言葉のイメージからすると最低でも20~30メートルはありそうなもんだが。
そんだけデカけりゃ見えねぇかな、
と思いついてその辺で1番高い建物の屋根に登る。すると遠目にそれらしい姿が見えた。
数は2体。黒髪と金髪の巨人。
どっちも目測で15メートル前後か?想像してたよりちっさいな。全裸なのは……まあしゃーないね。
動きは緩慢。見たところ武器の類いはない。
そんな巨人同士が殴り合いで戦っていた。どんな状況だよ。
しかもその周りを飛び回ってる小人……じゃなくて普通の人間までいる。
あれどういう原理で飛んでんの?
「なんて考えてる場合でもなさそうだな」
白熱の肉弾戦がくり広げられていることで周囲への被害がとんでもないことになってる。
おまけに住民の避難が遅れているどころか始まってすらいないらしい。何人死ぬか分かったもんじゃないな。
「まあ俺がここに呼ばれたってことはあれが相手ってことなんだろう」
なら俺は俺で好きにさせてもらうか。
それが俺の使命で、力ある者の責任ってやつらしいからな。
「まずい!女型が壁に向かってるぞ!」
エレンは……駄目だ、まだ傷の修復に時間がかかる!
リヴァイがいない今、女型を止めることはほぼ不可能。それでもエレンが復活するまで私達で時間を稼がなければいけない。
たとえどれだけの被害を出そうとも――!
「総員、攻撃準備!目標は女型の巨人!倒せなくてもいい、エレンが立ち上がるまで女型を足止めしろ!」
精鋭であるリヴァイ班の4人を、立体起動装置があれば有利に戦える森の中で皆殺しにした相手だ。
果てしてどれだけもつか……。
最悪、この場にいる調査兵団が全滅することも覚悟しなければならない。それでも今はやらなければいけない場面だ。
でなければここまで犠牲を払った意味が全くなくなってしまう!
「かか――」
そして号令を掛けようとしたその瞬間、それは起こった。
まるで数十の大砲を同時に放ったような轟音。反射的に手で耳を覆う。
何事かと事態を注視して、私は目を疑った。当たり前だ。
壁に向かってまっしぐらに走っていた女型の巨人が宙に浮いていたんだから。
それも、上半身だけ。
「……はぁ?」
引き攣ったような声が漏れた。
何が起きたのか、目の前の光景がなんなのか、まるで理解が追いつかない。
まずは引きちぎられたらしい下半身が勢い余ったまま地面に転がり、次いで浮いていた上半身も落下した。
それを最後に、戦場には似つかわしくない静寂が舞い降りた。
誰も彼もが分からないのだ。何が起きて、今自分達が何をすればいいのか。
私ですら言葉を失って立ち尽くすことしかできなかった。
そんな場に緊張感の欠片もない声が響いた。
「あれ、死んでないな。どういう生命力してんだこいつ」
声の主は倒れた女型の巨人――アニの額の辺りに立っていた。
彼がこれをやったのか?とういうかあれは、まさか――
「シン!君なのか!?」
「ん?……ああ、ハンジさん。お久し振りです」
やはり一月前に調査兵団が拘束し、今は憲兵団に管轄されているはずのシンが和やかにあいさつを返してくる。
「そ、そんなことよりその巨人をやったのは君!?」
「はい。まあまだ死んでないみたいですけど」
「あ、ああ……巨人はうなじを切り取らないと死なないから……」
「そうなんすか?」
言うや否や、シンは女型の頭から飛び降りて、その脇腹を蹴り上げた。
それによって女型の体は血飛沫を撒き散らしながらひっくり返る。とても信じられない光景だったが、現実は現実だと受け入れる性分だ。
彼は、巨人を容易く殺す力を持っている。
「おし、出た出た」
再び女型の体に乗ったシンは露になったうなじを前に拳を振り上げて――
「って、待った待った!殺しちゃ駄目だってぇ!」
私はそれを全力で阻止するのだった。
「俺を調査兵団に?」
「そうだ」
眉毛が立派なエルヴィンさん――調査兵団の団長だという男性がまたもや囚われの身となった俺を勧誘しにやってきた。
場所はもちろんのこと地下牢である。いやまあ混乱を避けるために率先して投獄されたんだけど。
「正気かエルヴィン。こいつは巨人を素手で殺す、巨人以上にわけの分からん存在だぞ」
「だとしても彼は率先して女型を止めてくれた。その功績はかなり大きいし、こちらに敵意はない。協力してくれるなら歓迎するべきだ」
リヴァイさんは反対派、ハンジさんは賛成派。そして団長のエルヴィンさんは勧誘してるんだから賛成派。
ならここは長いものに巻かれておこう。調査兵団の方が巨人と戦う機会が多そうだし。
「いいっすよ。入ります」
「君は君で軽いな!?」
即決されるとは思ってなかったらしく、とりあえず諸々の説明を受ける。
俺は先日の女型の巨人が大暴れした件で死亡扱いになったこと。その上で新しい戸籍を用意してくれること。
調査兵団の一員となり、あの力を巨人を殺すために使ってほしいこと。ただし調査兵団に入れば命の保証はできないこと。
まあだいたいこんな感じだ。それらを聞いて俺の返事が変わることもないが。
「あ、でもひとつだけお願いがあります」
「できる限り聞こう」
「そう難しい話じゃないですよ。俺は調査兵団に協力しますが、俺の力を支配しようとは思わないでください」
それがお互いのためだからな。
「調査兵団に加わった時、シンはそんなことを言ってたっけ」
その意味が、今ならなんとなく分かる。
シンは私達が……いや、人間ごときが制することのできる存在じゃなかったってことだ。
「は、ハンジさん!ありゃ何ですか!?」
ジャンが……いや、104期生全員が狼狽えている。
でもそれに返す答えを私は知らない。
「……さあねぇ、さしずめ神様の化身ってところじゃないかな」
人間とも、巨人とも異なる異形。まさに怪物と形容するしかない。
黒い表皮に長い尻尾。ギョロついた目は巨人とは別種の恐怖を呼び起こす。
これがシンの言っていた『ゴジラ』の力なのか?
彼は空を見上げて咆哮する。まるで世界が震撼するかのように大気が、大地が、揺れた。
ウォールマリアを越える超大型巨人。その超大型巨人の倍はあるだろう巨躯。彼はその体をぶつけた。
人類を苦しめ続けてきた巨人の象徴とも言える超大型巨人が、それだけで吹き飛ばされる。
当然だ。身長だけで倍、質量は恐らく数倍はあるだろうタックルを受ければ立っていられるわけがない。
その倒れた体を踏み潰しながらゴジラは超大型巨人の頭にかぶりつく。その隙を見て隠れていた鎧の巨人が体当たりをかましたが無意味だった。
私達が散々手を焼いた鎧は砕け散る。それはあたかも鎧の……ライナーの心を砕いたように見えた。
鎧の巨人は力なく倒れ伏し、それを確認したゴジラは超大型巨人の頭をくわえたまま引きちぎった。
ウォールマリアに血の雨が降る。
私はこの光景を一生忘れることはないだろう。天寿を全うした死の淵でも鮮明に思い出せる確信があった。
「ハンジ!どういう事態だこりゃあ」
「やあリヴァイ。壁の外の巨人はどうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか。いきなりあの化け物が現れて、次に顔を出した時には超大型の頭をくわえてんだ。獣の巨人はそれを見て撤退した」
「ははは、まあ当然か」
知性を持つ巨人であればあれの脅威度は見ただけで分かる。
たとえ超大型巨人ですら戦いにならない圧倒的な、理不尽なまでの暴力。もはや笑うしかない。
「笑ってないで状況を説明しろ。分かることだけでいい」
「簡単な話さ。あのでっかいのはシンで、彼が超大型巨人の頭を食いちぎったってだけのことだよ」
「なんだと?あれがか?」
「そうさ。ああ、そりゃ人類が支配なんてしちゃいけないよね、あの力を」
これは……畏怖ってやつかな?
私は震える体を自分の腕で抱きながら、ただただ乾いた笑いを浮かべてゴジラを見上げていることしかできなかった。
(続きは)ないです。