そして一色いろはは過去と向き合う。   作:秋 緋音

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こんなに長くなるとは……。

八幡と再会した後日のいろはす。


コメ付評価して下さった方、ありがとうございます!

とっても励みになります◎


それでは第6話です!







第6話

 

ピピピピッピピピピッ……

 

 

んん…ぁれ……?

 

いつもの目覚ましアラームが部屋に鳴り響き

熟睡から現実へと引き戻され、重たい瞼を持ち上げる。

 

昨日と同じ服が視界に映る。

そっか、昨日あのまま寝落ちしちゃったんだ。

 

すぐ側にある携帯へ手を伸ばし、アラームを雑に止める。

 

重たい身体に鞭を打ち、ベッドから起き上がり

カーテンを開けて日光を浴びる。

意外にも二日酔いの感じはなく、

気持ちよく蹴伸びをしたら

ベッドの端に座り込む。

 

スマホの充電コードを手繰り寄せて

画面を開くと一通の通知が届いている。

 

 

 

 

 

 

 

From:乙葉

「さくやは おたのしみ でしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………。

 

…………ああ~そうだった。

 

サークルのみんなには再会した元カレと

夜の街へ消えていったことになってるんだ……。

 

 

 

いろはす『いや違うの、乙葉聞いて』

 

乙葉『昨夜はお楽しみでしたね。』

 

いろはす『だから聞いて、乙葉』

 

乙葉『まあまあ、話しはじーっくり聞くから、とりあえず今日もちゃんと来なさい』

 

いろはす『……はい』

 

 

 

今日は大学の学園祭2日目。

昨日アシスタントとしてライブを終えたわたしは

もう特に出番もないので、今日は行くつもりなかったのに。

 

これはもう、乙葉に根掘り葉掘り聞かれて

いじられるに違いない。めんどくさぁ……。

はぁ……でも、行くしかないよね。

 

とりあえず、昨日かいた汗がベタベタとして気持ち悪いので

お風呂入って準備するかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイクよし、髪型よし、スマイルよしっ!

 

玄関の鏡で自分の容姿をチェックし

今日はお気に入りのマーチンのローファーを履く。

 

オートロック式なので鍵を掛ける必要はないけど

一応閉まったのか確認してから

エレベーターを使ってロビーへ降りる。

 

家から大学までは、昨夜と同じく駅まで数分徒歩で移動する。

昨夜と打って変わって人は少ない。

駅へ到着してものの数分で電車に乗り込み

今日もイヤホンをして時間を潰す。

 

今日聞いているのはやなぎなぎのアルバム。

3曲目に変わるところで目的の駅へ到着する。

 

大学の文化祭へと向かう人も何人かいるみたいで

同じ歳くらいのカップルや女の子グループが

一緒に電車からホームへ降り立つ。

 

大学も駅からそう遠くなく、歩くこと数分で到着する。

既に今日の文化祭プログラムは始まっており

入口からでも盛り上がりと喧騒が聞こえてくる。

 

とりあえず、乙葉に連絡しておくかぁ。

 

 

 

 

 

Fromいろはす

『着いたよー。いまどこ?』

 

敷地内へ入っていくとすぐに乙葉から返信が届く。

 

From乙葉

『食堂横のカフェラウンジ!早く来たまへ~』

 

うっわ、行きたくない……。

足取りは重く、カフェラウンジへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー! おっそいよいろは!」

「ごめんごめん。乙葉ひとり?」

「さっきまで彩といたんだけど、なんか高校の時の友達が遊びにきてるみたいで、どっか行っちゃった」

 

綾瀬 彩(あやせ あや)は乙葉のバンド『Crown Crows』通称クラクロのメンバーの一人。パートはベース。長身細身で少し大人しめな性格。

 

「そ・れ・に~♪♪」

「……な、なによ」

「二人じゃないと話してくれなさそうだしぃ~♪♪」

「……そこまでして聞きたいの」

「さぁさぁ話してみなさい!」

 

面白がる気満々のにやけ顔の乙葉に

ぐいぐいと圧迫面接のように

言葉通り、根掘り葉掘り聞かれ

まず、元カレなどではないと誤解を解くところから始まり

高校時代の出会いや昨夜二人で飲みに行ったこと

家まで送ってもらったことから家が近かったということまで

洗いざらい吐かされました。

途中間に「ほぅ」とか「ひゃ~」とか

細かな相槌を入れつつ、終始興奮気味の乙葉。

 

 

「……ということです」

「いやぁ~いい惚気を聞かせてもらったよ♪♪」

「別に惚気けてないし!」

「でも腕に抱きついたり……」

ぐっ……!

「今度は恥ずかしそうに袖を摘んだり……」

ぐぐぅ……!

「終いには窓から見つめ合いながら電話……」

ぐはっ……!

 

なにこれちょー恥ずかしいんだけど……!

もういっそ殺せぇぇ……。

 

「いやぁ、でも良かったよ」

「……なにが?」

 

まだからかうのかと、乙葉にジト目を向けると

乙葉は優しげに微笑み

 

「だってさ、いろはって周りの男たちみんなに愛想を振り撒いて手玉に取るのに、今まで誰一人と特別な存在っていうのがなかったじゃん。周りの女はみんな目の敵だし、乙葉ちゃん正直心配してたんだよね……」

 

乙葉は安心したっ!と言って手元のアイスティーに

手を伸ばしズズズッとストローで飲み干す。

 

高校時代のように周りに敵を多く作るわたしを

同じように接してくれる唯一の友達。

 

ほんと、勿体無いくらいいい子だよ……。

 

「ありがとね、乙葉」

「どういたしまして♪♪」

 

二ヒッと笑う乙葉の笑顔は

小さな身体と相まって無邪気で、そして優しい。

 

「あ、そういえば……!」

 

なにを思い出したのか、乙葉は手をポンッと叩き先程とは違う、にやぁっと笑みを浮かべる。

 

「いろはが前に居酒屋で言ってたあの先輩……それが昨日の人なのね~」

 

 

 

………………え、待って?

ちょっと待って?なになになに?

 

「え、なに?なんのこと…?」

 

乙葉と居酒屋で?そんな話した?

 

「ひねくれてて、不器用で、死んだ魚の目をしてて……、でもすごく優しくて、いつも助けてくれて、わたしの本物────」

「わあああああああああああああああああああ!!!」

「もがふッ!」

 

パニックに陥りそうになりつつも、慌てて乙葉の口を両手で塞ぐ。

 

あわわわわ…………なにゆってんの!?

ねぇなにゆってんの!?

そんな話し……乙葉と二人で居酒屋で……。

…………ッ!!

 

あれは夏の暑い日の夜、テストやサークルでストレスが溜まったわたしが

乙葉を連れて飲みに行った日のことだ。

乙葉と一緒になって勢いよくお酒を飲んで

二人でぐでぐでになるまで酔ったあの日……。

最後は彩ちゃんが迎えに来てくれて送ってもらったらしいが

途中から記憶が飛んでいた、あの日!

 

わたし、知らない内にそんな恥ずかしい思い出を

詳らかに口走っちゃったの!?

てか、一緒にぐでぐでに酔っ払ってた乙葉は

なんでそんなに鮮明に覚えてるのよ……。

 

「……他になにか言ってなかった?」

「ああ……そういや確か」

 

乙葉の口から手を離し、まだ他に変な事を口走っていないか確認をとる。

場合によってはまたその口塞がねば……

両手をフリーにして身構える。

 

「奉仕…部…? なんか部活の話?」

「……っ!」

 

そこまで口を滑らせていたのか……。

しかし、乙葉もその話はあまり覚えていないと「あはは~」と笑う。

 

「……でも、いろはがずっと気になってるのってその事だよね?」

「……それもあの時言ってたの?」

「ずっと気になってて、でも怖くて聞けないって。昨日、聞けたの?」

「……ううん。久しぶりだったし、そんないきなり切り込める事情でもなくてさ……」

 

もし、もし仮に、昨夜のあのタイミングで

聞いてみたとしたら……どうなっていたんだろう。

 

意外とすんなり話してくれた?

それとも気分を害して立ち去られた?

 

わかってる、考えたところで答えは見つからないということを。

 

 

「まぁまぁ、きっかけは作れたんだし焦る必要は無いよ、きっと」

「……うん、そうだね」

 

 

 

 

 

「さぁ、いろは!せっかく文化祭来たんだし、お店回ろうよ!」

「……うん。あっ、わたしハニトー食べたい!」

「おおーいいね!行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ~あま~いぃ……」

「う~ん、しっかりハチミツが染みてて美味しい♪♪」

 

ここは大きな円形の広場でサークルごとに屋台を出店している。

ハニトーを売っているのは料理研究会。

分厚目に切ったトーストに9分割に切れ目を入れた上に

細かく切ったアーモンドとアイスクリームを乗せて

たっぷりとシロップをかけてある。

流石は料理研究会、めちゃくちゃ美味しい!

甘さが身体に染み渡る~♡

 

「あっ! あそこタピオカ売ってんじゃん!」

 

乙葉が指さす先にはバドミントンサークルが出店している出店。

ソフトドリンクからフロートやタピオカドリンクまで

幅広くメニューが揃っている。

 

「ちょっと買ってくるね!いろはは何がいい?」

「じゃあ、タピオカミルクティで」

「はいよー!」

 

スタタターッと屋台の方へ駆けていく乙葉。

周りを見渡してみると円形を覆うように

様々なサークルが出店していて

在学生から一般人までたくさんのお客さんが

列を作っている。

その中にはわたしも所属している軽音サークルの屋台もある。

そちらへ目を配ると、売り子をしているひとりの男と目が合った。

 

しまった……ッ!あまり会いたくない人に……。

わたしに気がついたようで、男がこちらへ歩み寄ってくる。

 

「やぁ、いろはちゃん。昨日は大丈夫だった?」

 

軽音サークルの部長、相葉先輩だった。

昨夜、先輩と再会した際に「元カレと再会した」という体で

二次会への参加を断っているので

あまり会いたくないのに……。

 

「はいっ! 大丈夫ですよ!」

「そっか、良かった」

 

大丈夫……ってなにがだろ?

 

「いろはちゃんの元カレさん、かっこよかったね」

「えー、そうですかぁ?」

 

あ、この顔は思ってないやつだ。

絶対自分の方が上だとか思ってるでしょ。

 

「あのあとどこか行ったの?何もされなかった?」

 

なんでそんなこと言わなきゃいけないの?

てか、何もされなかったってなに?

 

「大丈夫ですよ~♪♪」

「そっかぁ。なにかあったらいつでも相談乗るからね」

「はい、ありがとうございます」

「そうだ、いろはちゃん。このあと何か予定ある? 良かったら────」

 

 

「いろはー! おまたせーっ!! って相葉先輩、こんちは~」

「あ、乙葉おかえり」

「お、乙葉ちゃん…こんにちは」

 

ナイスタイミング! 乙葉!

 

「すみませ~ん、今日は乙葉といろいろ回る予定なので」

「そ、そうかー。楽しんでね」

 

 

苦笑いをしたまま相葉先輩は

心做しかしょんぼりした背中で

サークルの屋台へ戻っていった。

 

 

「はいっ! いろはのタピオカ!」

「ありがとう、いくらだった?」

 

代金を支払うために、鞄から財布を取り出し

小銭の入った小部屋を開くが

 

「これくらいいいって♪♪ 乙葉ちゃんの奢り!」

「そう、じゃあ有難くもらっておくね」

 

ありがたく奢ってもらっておこう。

出番のなくなった財布をまた鞄へ戻す。

 

乙葉からタピオカミルクティを受け取って

太いストローを口に含む。

冷たく甘いミルクティが口の中へ流れ込んできたと思ったら

奥から小さくモチモチとしたタピオカが侵入してくる。

一度で二度美味しい!

 

「はぁ~タピオカ美味しい♪♪ 乙葉は何にしたの?」

「わたしはタピオカピーチティー! 一口いる?」

「ありがと!ミルクティも一口どーぞ」

「へへっ、いただきまーす!」

 

辺りは絶え間なく盛り上がりを見せる

文化祭の円形広場にて、乙女二人は

甘いものに舌鼓を打ちガールズトークに華を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさぁ、いろはは進路もう決めたの?」

 

ハニトーを美味しく平らげ、飲み干したカップの底に残ったタピオカを

ストローで器用に吸い込みながら、唐突に乙葉は聞いてきた。

大学3回生になると実習や就活なとが始まる。

 

「ほんと、どうしよう……。乙葉はやっぱりプロを目指すの?」

「もっちろん!! 東京行って箱でライブこなして選考とか受けていくよ!」

 

乙葉のバンド"Crown Crow"は大学のサークルの枠に収まらず

他方へライブ活動をこなしており

全員が卒業後はプロを目指している。

以前ひとつのオーディションを受けたが

残念ながら採用はもらえなかった。

しかし、それが逆にメンバーの士気を高め

本気でプロを目指すようになったとか。

 

 

「乙葉はすごいな……。ちゃんと明確な夢があって、それを一生懸命追いかけてて……」

 

わたしは、なにがしたいんだろ?

特になんの夢もなく、何もかもが中途半端。

この3年半、わたしは何をしてたんだろう……。

 

「……そういやもうすぐあれがあるんじゃない? えーっと、そう! 企業説明!」

「ああ……なんかそんな話しあったね」

「そこでいい会社に出会えるかもよ?」

「うん……そう祈るよ……。はぁ」

 

昨日の浮かれたわたしとは真逆に

ずーん…と落ち込むように吐くため息。

 

わたしの将来はどこへ向かっているのか。

 

「そんなことよりさっ! いまは文化祭を楽しもうよ♪♪」

「あっちょっと……!!」

 

気落ちしたわたしの手を引っ張り

乙葉は次の屋台へと連れ出す。

 

「ほらほら、焼きそば! あ、綿あめもある! あああーアイスも食べたい!!」

「わかった! わかったから!!」

 

あっちへこっちへ、腕を引っ張り回して

屋台を巡り巡っていく乙葉に振り回される。

 

「いーろはっ!!」

「はぁ…はぁ……、なに?」

 

やっと止まったと思ったら、乙葉はわたしの手を離し

くるっとターンしてこちらを振り返る。

 

「ねぇ! いま、楽しい?」

 

心底楽しそうな無邪気な笑顔を浮かべた乙葉はあの時と同じ

わたしと乙葉が初めて出会った時の、同じ質問を投げかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大学に入学して早々に周りに群がる男達に愛想を振り撒き

それに比例し、敵だらけ(主に女)になったわたし。

ひとり庭のベンチで昼食をとっているわたしに

いきなり近付いてきた乙葉は、そう言ったんだ。

充実しているかのような偽物の

仮面を被ったわたしに、そう言ったのだ。

 

「ねぇ……。いま、楽しい?」

 

その時は初対面だし唐突だしで「……は?」って思ったし

どうせ女の敵であるわたしに嫌味か嘲るつもりだと思ったから

「うん、楽しいよ」

作り飾った微笑みと共に、そう返した。

そうしたらこの女は醜く罵倒してくると思った。

 

 

だが、乙葉の反応は大きな笑いだった。

 

「ぷっ、あははははッ!!」

 

意味がわからない。なんだこいつ。

何がしたいんだよこいつ……。

 

「……はーぁ面白い! そっかそっかあ!」

 

なにが面白かったのか、お腹を抱えて目尻に浮かぶ笑い涙を拭う。

 

「一色さん……だよね? わたしは天音 乙葉! お友達になろう!」

 

……は?「……は?」

 

理解が追いつかなすぎて心の中の言葉が、そのまま口から出ていた。

 

これがわたしと天音 乙葉という人間の出会い方。

 

それからというもの、お昼になるとどこに居ても探し出され

当たり前のように隣に座り、一緒に昼食をとるわ

同じ授業に出れば、これまた当たり前のように

初対面のバンドメンバーを携えて隣へ座るわ。

 

初めは鬱陶しく思っていた、身勝手で自由な乙葉だが、同性に嫌われ遠ざけられるわたしに

分け隔てなく接する乙葉に、少しずつ居心地のよさを感じるようになり

誘われるままに軽音サークルに入ることになる。

それからはよく飲みに行ったり、休みに遊びに出掛けるようになった。

今では、こんなわたしには勿体無いくらいの

素敵な友人となった。

 

 

 

 

 

そんな相も変わらず身勝手で自由で

実は人をよく見ていて思いやりがあり

気の利く大切な友達、乙葉は問う。

 

「いま……楽しい?」

 

先を見据え、将来を悩み、落ち込むわたしを

元気づけようとしてくれてるんだ。

今この瞬間が楽しいか、と。

 

わたしはあの時と同じ、だが仮面の微笑みではない

心のままに、こう答えた。

 

「うん……楽しいよ、乙葉!」

 

「……うん、そっかそっか! じゃあ、楽しむよー!!」

「よーっし!屋台の美味しいもの全部回るよ!!」

 

 

 

 

 

無邪気に笑い合う二人は、また走り出す。

 

 





はい、というわけで第6話でした!

こんなに長くするつもりはなかったんですよ……。

でも、天音 乙葉という人間を書き連ねるにあたり

なんか楽しくなっちゃって、えらく長文になってしまった。

これにて文化祭編は終わりです。

感想、評価など頂けると嬉しいです◎

また第7話でお会いしましょう♪♪
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