飛空艇から落とされたコンテナからぬるりと蛇の肢体で現れた因縁の敵、マリリス。六本の腕に六本の剣。上半身が女、下半身が蛇の顔にレギスから攻撃を受けた時の傷痕を持つシ骸である。その者、視界に捉えるないなや、レティの表情が一変したむき出しになる殺気は普段のお転婆姫のイメージを覆させる恐ろしさがあった。
「ノクト!アイツ私に殺(や)らせて!」
「レティ!?」
かつて因縁の対決ともいえるマリリスとの戦闘の前にいきり立つレティは、ノクトの返事すら待たずに魔法杖ではなく、双剣を両手に出現させて先ほどまでイグニスに言われた注意などすっかり頭から弾き飛ばし今にも駆けだす寸前だった。
「待てレティ!」
「止めないでよ!?アイツは母上の敵よ!」
「危ないクポ!」
親友であるクペの引き留めも空しく魔導兵らを蹴り技で蹴とばしながら単身突っ込もうとするレティを寸前でイグニスが間一髪引き留める。だがレティは怒りの形相で自分の腕を掴んで離さないイグニスを睨みつける。だがイグニスは怯まなかった。むしろ叱責を飛ばした。
「君が連携を乱してどうする!ここは訓練場じゃないんだ。君だけの身勝手な行動で仲間の命が危険に晒されるかもしれないことを忘れるなっ!でなければ誰かが死ぬかもしれないんだぞ」
「っ!」
イグニスの剣幕と誰かが死ぬという言葉でレティは顔を歪ませた。
今更マリリスに拘ったところでアウライアが生き返るわけではない。それは分かっている。だが憎しみがレティの中で消化しきれずに残っているのだ。アイツがそもそも現れなければ自分の敬愛する母は生きていたかもしれないのに、と思わずにはいられないのだ。
イグニスとて、レティの気持ちは痛いほど理解していた。だが分かっていて止めた。彼女が暴走すれば確かに敵は倒せるかもしれない。だが感情のままに剣を奮った所で理性の欠片がなければその刃が味方に向けられるかもしれない。もしもの想定を考えておかなければ先読みなどできはしない。
イグニスは言い聞かせるように悔しさから泣きそうになるレティに言い聞かせるように言った。
「君は後方にいるんだ」
「………」
レティは無言のままだった。イグニスは念を押すように名を呼ぶ。
「レティ」
「……分かった」
絞り出すような声でレティは掴まれていた腕をだらりと降ろして双剣を消した。イグニスはレティを庇いながら後方に下がる。
「レティ!」
「…クペ…」
ピュー!と勢いよくレティの胸に飛び込むクペ。
「危ないクポ!クペの寿命を縮めないでほしいクポ!」
と擦り寄るクペにレティはゴメンと謝りながら軽く頭を撫でてあげた。
その間グラディオやプロンプトが魔導兵を倒していく。必然的にマリリスの標的はノクトへと向けられることになる。
一連の二人のやり取りは仲間達にも伝わっていた。
レティの気持ちを汲んでやりたいものの、あのレギス王でさえ倒せなかった強敵にレティが叶うとも思えなかったのだ。だからこそノクトは気を引き締めてマリリスと対峙する。
「うらぁぁあああああ―――!!」
唸り声を上げて猛然と立ち向かうノクトはその時、マリリスと視線を合わせた事であの頃の記憶がフラッシュバックした。
※※
魔法障壁に守られた区域内でのことである。とある場所からの車に揺られての帰り道。いつも共にいるはずのレティは王城で留守番をさせられていた。ノクトは
『レティも来れれば良かったのに』
ととても残念そうな声で母に愚痴のように零した。
『そうね、でもお土産のお花は沢山摘んだでしょう?』
『うん!すっごく綺麗だからレティも喜んでくれるよ』
『ええ』
そういうノクトの手には花で作った花冠があった。アウライアと二人で作ったそれははレティへのプレゼントの一つである。厳しい父の言いつけに不満そうにしながらもアウライアとノクトを送り出したレティは今頃首を長くして二人の帰りを待っている頃だろう。
早く帰りたくて仕方ないノクトは足をブラブラと揺らした。
『でも変なの!【名もなき花】なんて名前。名前がないってことなんでしょ?』
『……そうね。ずっと昔の人が付けた名前なのよ。とても美しいからこそ名前を付けることすら憚られるという意味を持つと言われているわ』
『ふーん』
軽く頷いてみるものの、ノクトには理解するには難しかったらしい。アウライアは目を細めて自分に寄りかかるノクトの髪を軽く撫でた。
『私の知っている人もこの花が大好きだったのよ』
『へぇ~、僕の知ってる人?』
『いいえ、ノクティスは知らない人よ。けど知り合いになれてたらきっと楽しかったと思うわね』
『そっか、会ってみたかったな~』
和やかな母子の会話は突然終わりを告げるのだった。
帝国軍の急襲を受け、護衛車が次々とやられていく中、アウライアとノクトが乗っていた車にもその牙が襲い掛かる。爆炎を上げて車が燃え上がる中、一台、また一台と攻撃を受け警護隊の男達も殺されていく。アウライアがノクトを連れて燃え上がる車から脱出を図り何とか逃げようと二人で走るも後ろから一振りの剣がアウライアの背中目がけて一振りされ
『ァア!』
甲高い悲鳴と共に地面へと倒れ込む二人。
どくどくと温かい血がアウライアからあふれ出ていく中、ノクトはぼんやりとした思考の中今の状況を把握できずにいた。自分を庇うように覆いかぶさりピクリとも動かない母。
冷たい地面、ぬるりとした液体。鈍く広がる痛みとぼやける視界。
赤く染まっていく白い花冠。
『ノクト……ノクトォォ!』
父レギスの声が木霊して響いて聞こえていた。徐々に遠のきつつある意識の中でノクトは小さく、『は、はうえ……』とアウライアを求めるように呟き、そこで完全に気を失った。
それからノクトが目を覚ました時、王城の自分の部屋のベッドでレティは風邪で寝込んでいることを知る。そして、アウライアの死をレギスから伝えられることになる。
幼心に全てが夢であったら良かったのにと思わずにはいられなかった。――この時からだ。自分たちの家族としての在り方が狂っていったのは。
※※
一度は危うくなりそうになりながらも連携技で危なげながらも無事にマリリスを倒すことができたノクト達。満身創痍と言った様子でふらふらとノクトは立ち上がり崖近くへと歩いていく。グラディオやプロンプトは強敵を倒した事で達成感なるものを味わっていた。
「やったか」
「やった、……やった~!ノクト!」
プロンプトは喜びを分かち合おうとノクトへ駆け寄ろうとした。そこへイグニスがプロンプトに静かに手を出しながら制止をかけた。
「待て」
「ん?」
首を傾げるプロンプトはイグニスは答えようとはせず、静かにノクトの行動を見守った。レティはノクトから少し離れた場所で唇を噛んで耐えるように見守っている。
レティなりに感じ取ったのだろう。ノクトの心境を。
ただ倒した。それだけなら単純に喜べるだろう。だが違うのだ。レギスが倒せなかった相手を自分たちは倒した。過去の父がどれだけ王の力を酷使していたか。民を、国を守るために魔法障壁という自分の寿命を縮める行いをしながらも自分を助ける為に駆けつけてくれた父。どれだけ大切に守られていたか。母の温もりに、父の優しさに。自分とレティは確かに守られていたのだ。だからこそ、今の自分たちが存在できるのだから。
キラキラと光を帯びて輝く海を眺めながら柔らかな海風がノクトの髪を揺らし、その風と共に今は亡き父の言葉がノクトの胸を締め付けるのだ。ノクトは初めて、たった一人の父親であるレギスの為に涙した。レティの前で泣く事がなかった青年がここで初めて涙を流した。
【父さんが、守ってやるからな】
幼い頃、自分を励ますようにそう言ってくれた父親はもういない。最後まで迷惑かけっぱなしだったことを悔いたところで文句の一つもぶつけられない。今はもう、母上同様いないのだと、ノクトは受け止めなければならない。
「……親父…」
ふらりとノクトは力なく地面に膝をついた。立ち続けることもできなかった。ぽっかりと心に空いた空虚感に今更ながら気づかされたのだ。
(もう、親父はいない)
『気をつけていくんだぞ。ルシス王家の人間として、――このレギスの息子として、常に胸を張れ』
(送り出しだと思っていた言葉が最後の手向けの言葉になるなんて思うわけないだろ、馬鹿親父)
そう心の中でノクトは文句を飛ばしてみせた。だがただのやせ我慢に終わる。もう、ノクトの中で限界だったのだ。色々と押し寄せてくる波のようにノクトの悲しみは溢れ出した。
「……ふ……っ……く…っ…」
ぎゅっと拳を握って声を押し殺し悲しみに耐えようとするノクトにレティはたまらずに寄り添うように膝をついて後ろから覆うように優しく抱きしめた。
「ノクト、泣いていいんだよ」
母を失い、父を失った二人だからこそ分かり合える感情。レティはノクトが泣く姿を見ていない。今なら自分が覆い隠せる。だから泣いていいと囁くのだ。
「………」
ノクトの悲しさを共に共有し、温かく包み込もうとするレティ。ノクトはその優しさに縋りつかずにはいられなかった。
「…う、……く……ふ、ぅ……」
ノクトはレティの腕に縋りついて顔を伏せ、泣いた。
愛する父の為、そして、父とさよならをするために。ノクトは父の為に泣いたことはない。だからこそ今は思いっきり泣ける時なのだ。完全に王となってしまえば弱さや辛さを曝け出すことも容易ではない。今ならまだ、許される。
今はただ、泣いた。レティという残された唯一の家族と共に。もう一度歩き出す為の束の間の時間まで。
【悲しみを乗り越えての光】
アニメとはまた違った内容でしたが、いかがだったでしょうか?こちらは姫を主軸にしたストーリー展開でしたので、タイトルとは若干違った話だったと思います。
この連載小説でのノクトの母、アウライア死亡の原因はマリリスに殺されたという設定となっています。アニメ版ではノクトの乳母となっていましたが、そこら辺少し変えて考えてみました。
彼女に関する情報は少ないのでほとんどが捏造ですがまぁまぁ喋り方も無難な方だと思います。
ゲームの中のキャラクターを生き生きとさせ、なおかつオリジナルキャラを入れて物語が崩れないように慎重に進めるというのは中々大変なことだと思います。話を創り上げるのは想像以上に大変ですが、それでもいつの間にか感情移入しちゃっている自分がいて変な感じでしたね。
これから王子、姫らに待ち受ける新たな困難にどう対峙していくのか。
次のchapterから物語は大きく展開していきます。どうぞ楽しんで読んでもらえると嬉しいです。