レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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この手が欲しいなら選びなさい。選択は二つに一つ。どちらか両方を得ることはできない。

彼女を守りたいのなら、この手を取りなさい。

氷の女神は狙いをつけた。


管鮑之交~かんぽうのまじわり~

ニックスside

 

 

まさかシドニーの友人がレティだったとは心底驚かされたぜ。あの召喚獣を見れたのはラッキーだった。あの場面を見逃せば今頃まだあっちでハンター業に精を出していたはずだ。それもこれも、やっぱレティのお陰なんだなと思う。シドニーから詳細を教えてもらった時に彼女が持つワックスだったけか?あれがレティからのプレゼントだと嬉しそうにオレに話すシドニーの表情はまるで子供が宝物を見つけたかのようなものだった。

相変わらず、自分に好意を向ける人間にはとことん甘いようで、全然変わっちゃいないらしい。懐かしさと早く会いたいという気持ちがオレの中で風船のように膨らんでいった。少し無茶言って何とかレティに会える手段がないかと頼んだ時。シドのじいさんが丁度困惑するシドニーに詰め寄るオレっていう場面に出くわして無言でスパナ投げられた。

慌てて避けて直撃は免れたが次は何が飛んでくるやらって剣幕だった。オレはすぐに誤解だ!オレはレティに会いたいだけなんだ!と必死に伝えて、シドのじいさんの誤解を解くことに成功した。そこからはオレとリベルトの経歴を説明してとんとん拍子であの不死将軍と名高いコル将軍と連絡を取ってもらうことができた。

 

今はダスカ地方の帝国軍基地を見張っているらしい。直接迎えにいくことはできないらしいが、部下を送るからソイツと合流しろだとさ。使える戦力ならすぐに欲しいらしいが、分かりやすい指示だぜ。レティと合流させてくれる雰囲気は微塵も感じなかったが大丈夫か?……最悪、単身乗り込んでやるがそれはその部下って人物との交渉しだいだ。

 

ああ、そういえば。

シドニーは気を利かせてレティに連絡を入れようか?と申し出てくれたが、オレは首を振って断った。電話じゃなくて直接会いに行くと決めていたからだ。どうやらレティは王子一行とレスタレムを目指しているらしい。ともかく無事ならなんでも良かった。

なんせスマホなんてもんはとうの昔にぶっ壊れてて使い物にならなかったし何より、レティの電話番号なんて知らないしな。別れ際にリベルトに聞こえないようにこっそりと紙を手渡された。盗み見るとそこには手書きで電話番号が掛かれていた。オレは、怪訝にシドニーを見やると、パチンと笑顔でウインクをされた。

 

……レティの電話番号だってすぐに気づいたさ。

オレは苦笑しながら手を上げて礼を言った。そっから二人旅の再開ってわけだ。

 

まぁまずまずの旅と言っておこう。相変わらず、魔法なしの戦闘はキツイがそれなりに敵の避け方とか体が慣れてきて前ほど危なげではなくなった。

 

 

シドの仲介を経てコル将軍と連絡を取ることに成功したオレ達は待ち合わせ場所と指定されたコルニクス鉱油アルスト支店にやってきた。ゲートを超えた瞬間に、乾いていた空気が湿っているのを感じたが、これほどまに大自然が広がっているとはな。雄大に広がる緑の森林に息を呑みながら、王都からかなり離れてきたことをまざまざと感じた。

給油所の前にバイクを停車させ、エンジンを止める。

 

「ここがダスカ地方になるわけか…」

「よっと……、いや、ケツいてぇ~。ニックス~、たまにはオレに運転させろよ」

 

鈍い動きでのろのろと後部座席から降りるリベルトはケツを痛そうに抑えながらそう文句を言ってきた。だがオレは肩を軽くあげて

 

「お前が運転する前に酒飲んでるから無理なんだろ」

 

と正論で言い返すとグッと詰まった表情になり「オレを篭絡させる奴が悪いのさ」と最後には開きなおって、ったく。オレはシドニーからもらった腕時計で約束の時間よりも少し早めに着いたことを確認し、リベルトに続いてバイクを降りた。

 

シドニーの手にかかり整備されたバイク見違えるほど唸るよう音を出して爽快な走りをみせここまで何度か休憩を挟んだが、ストレスも前ほどに感じない。ついでにサービスで洗車もしてくれたから新車並にピカピカだぜ。

さすがだな。聞けば王子が乗っているレガリアってのもシドニーが整備しているらしい。そりゃスゴイはずだ。……ありゃじいさんが可愛がるはずと納得できる。オレじゃなくても別の男がシドニーに下心持って近づいただけですぐに分かるらしく不機嫌そうに周りをうろうろしてるからな。隙あらばスパナが飛んでくるってもんだ。聞けば、その昔陛下と旅をしてたっていうじゃないか。年とっても現役なのか、そこらへんは。

 

リベルトにまだ約束の時間より早いことを伝えると、嬉々としてクロウズ・ネクストに入るぞと意気込んで先に駆けて行った。元気な奴。

 

オレはため息をついてその後に続いた。店内に入ると人はまばらに寛いでいてリベルトはガラガラなカウンターに席を着いた。さっそくアルコールを頼もうとしたのでジュッティーズで我慢しとけと釘刺しておいた。渋々といった表情でジュッティーズとケニーズ・サモーンを頼んだ。ったく、これから待ち合わせしてるってのにべろべろに酔っぱらってたら何言われるか。

 

「しばらくは砂にまみれてモンスター退治かと辟易してたがまさかのシドニーからの姫様ドンピシャ!オレたちゃついてるぜ」

「……それもシドニーには感謝しなくちゃならないな。あの召喚獣がシドニーに会いにこなけりゃわからなかったんだから」

「そうそう!なんつったっ?その召喚獣、えーと名前が……」

「クペ、だ」

 

オレがそう付け加えるとリベルトはおお!と納得したようだ。

 

「そうそう!クポだかクペだかクコだかそのなんちゃらのお陰でこうやって緑あふれる大自然と触れ合えるってもんだ。やっぱ、空気がうめぇぜ」

 

すでに名前候補が三つも上がっているが突っ込む気にすらならない。

 

「……リードとは明らかに気候が違うな。こちらは湿地地帯だから雨も降りやすいと聞くぜ」

「ああ~?そうだな」

「……」

 

すでにオレの話は聞く耳も持たないらしい。メニュー表に噛り付いてみる辺り、他にも頼むつもりの腹積もりのようだ。

仕方ない、付き合うか。

 

リベルトの腹が膨れる頃にようやく約束の男が現れた。

 

「お待たせしました!」

 

若い男の声が後ろから響き反射的にオレとリベルトはそちらに視線を向けると少し肩で息を乱した男が戸口に立っていて他の客も後ろを振り返って注目していた。オレとそう歳は変わらないだろうか。いや、なんか若そうだ。

 

「あの、ニックス・ウリックさんとリベルト・オスティウムさんですよね?」

「ああ、アンタがコル将軍の使いか」

 

折り目正しい男は快活な喋り方で折り目正しい挨拶をした。満面の笑みで。

 

「はい!オレは姫様付の見習い騎士候補のグレンと申します」

 

だがある言葉にオレとリベルトは顔を歪めてしまった。

 

「見習い騎士、候補ぉ?」

「しかもレティの?」

 

レティに専属の騎士を付けさせるつもりだったとは聞いてない。まぁ、オレなんかがレティ近辺の情報など聞かされる身分ではないのはわかっているが、本人からもそのような話は聞いていないので戸惑いはあった。だが人目もある為、そうおおっぴらにできることではない。控えめに態度に出してみたが、こちらの気遣いなど気づいていないグレンと名乗った男はハキハキと清々しい態度で

 

「はい!コル将軍から二人を案内するよう任を仰せつかっています。とりあえず、詳しい話をお伝えしたいのでオレも同席をお許しいただけますか」

 

とご丁寧に同席の許可を求めてきた。目立つからやめろと言いたかったがそれも言えず。

なんか真面目というか、なんというか。堅苦しさは感じないが今までにいないタイプだ。

 

「ああ、座ればいい」

「ありがとうございます」

 

グレンは軽く頭を下げてオレの隣の席に座った。それからオレたちはグレンからコル将軍からの伝言をご丁寧に小一時間かけて語ってくれた。その頃にはリベルトはぐーすかーといびきをかいてカウンターに突っ伏して寝ていたし、オレも欠伸をかみ殺しながらあーだとああと適当に相槌を打っていた。

確かにコル将軍の伝言は聞いた。前半は。

 

やっぱり、すぐにはレティと合流できそうにないようだ。オレ達をこき使う気だな、コル将軍ってのは。どうやらグレンの話じゃオレ達以外にも王都警護隊の生き残りもちらほらいるらしい。あとは、コル将軍の声掛けで集まった陛下に恩ある者とか。こりゃレジスタンスって感じだな。なんでも帝国に対抗するためにレティが人数を集めるよう指示してきたらしい。そこらの軍師よりよっとぽ動きが早い手腕だ。気張って無理してなきゃいいけどな。レティの能力ならできるだろうさ。それだけ人の動かし方が上手いから。

こう、人の心をつかむのが上手というか、助けてやりたいって気持ちを起こさせる何かがレティにはあるというか。本人のひたむきな努力によるものなんだろう。それがレティの魅力または確かな実力として発揮されている。

 

けど、能力が高いかといって精神面も余裕があるとは限らない。レティなんて無理すると周りが見えなくなるくらいに自分を追い込む癖があるようだしな。きっと、オレの予想は当たっているはずだ。……最悪、コル将軍の用事でレティと合流するのが遅くなるようだったらリベルトに後は頼んで俺は単独で動くか。正直、王子はどうでもいい。大体オレみたいなやつよりもすでに立派な護衛がついているらしい。それならオレが守るべきはレティだけだ。文句言われようが気にするか。…やっと近づいたんだ。もたもたしてらんねぇ。

 

さて、決意を新たに固めたオレとしちゃさっさと行動に移したいところだが、そうもいかない。後半はグレンの生い立ちだとかレティの目覚めの一発により正気を取り戻しただとか、まぁとにかく美化されたレティの話ばかりだった。おまけに信じられないこともグレンは語った。

自分は以前は帝国軍に従事していて洗脳されていた時に名乗っていた名前は准将ロキだとか。

頭が痛くなるレベルじゃなくなっていた。

 

一体、何があったんだ?グレンの話じゃレティが関与していることは分かったがここまで感化されている様子を見ると、相当大事だと思うが。

平気でこの男を送ってきたまだ見ぬコル将軍とやらを恨むぜ。

 

オレは自分の話に夢中になっているグレンに気づかれぬよう、忍び足で外へと逃げ出た。

もう外は夕方で、今日はここで寝泊まりすることになりそうだとため息をついた。

 

【そんな彼に忍び寄る影】

 

 

突然だった。

 

黒髪の見知らぬ女がニックスの目の前に現れたのは。

ミステリアスな雰囲気を持つ女はまるで獲物を定めたようにニックスを見つめ、赤い唇でこう囁くように言った。

 

「守護者候補、ようやく会えましたね」

「はぁ?守護者候補?なんのことを言ってるんだ、アンタ」

「ニックス・ウリック。お前に選択肢をあげましょう。力が欲しいなら私の手を取りなさい。」

 

女はそういって手を差し出した。何も持たない手を、ニックスに差し出した。

 

「力?」

「今のお前ではレティは守れないわ。あの子はいずれ遠く彼の地へ赴くのだから。人の身では行けぬ場所。人のお前の手が届かぬところへ」

 

まるで詠うように紡ぐその言葉は歓喜に満ちていた。女の隠しきれない感情を含んでいて、少し不愉快にもなるほど。そう決定づける何かが女にはあると本能で感じとったニックスは警戒の態勢を取った。だが女には隙が何処にもなかった。

それが逆にニックスに違和感を与えた。まるで常人ならざる者と対峙しているようで、言い知れぬ圧迫感を感じて後ずさる。

女は気にした素振りもなく、再度迫った。

 

「選びなさい。私の手を取るか、人のままレティに置いていかれるか」

「アンタ一体なんだ」

 

たまらずに警戒込めた視線を向けるニックスに黒衣の女は自分をこう、名乗った。

 

「私は、ゲンティアナ。神々の遣いであり同時に……七神でもあるわ」

 

自らを、神だと名乗った女は突然現れた。

 

【少しづつ狂う歯車】

 

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