プロンプトside
ノクトが黒焦げになってきたのには驚いたな。一体姫と何があったんだろう?
オレは、一旦皆と一緒に外に出たんだけど。どうにも後ろ髪を引かれる思いで足を止めた。トイレに行くと嘘をついてまたホテルの中に戻り二階まで駆け上がった。そして姫が泊まっている部屋の扉の前まで行きそっとノックした。すると暫く間をあけて、
「……何」
と不機嫌そうに少しドアをちょびっとだけ隙間開けて鼻先を覗かせる姫が出てくれた。……全然姫らしくない行動だけど姫なんだよなと疑いたくなる気持ちになったし、その鋭い視線に思わずたじろいだ。誤魔化しながらオレは何気ない風を装って笑顔を浮かべた。
「いや、その大丈夫かな~と」
「大丈夫よ、ちょっと腹の虫が収まるまで篭るだけだから」
まさにノクトと何かあったと言わせるだけの発言だった。
オレは恐る恐る尋ねてみた。
「……あの、ノクトと何が」「ああん?何かいったぁ?」
「いえ別に!」
ビシッとなぜか敬礼して答えてしまう凄みがあった。ますます姫らしくない脅しの仕方だ。本当にノクトと何があったのか気になった。それとなくノクトに聞いてみるか。
姫は一つふん!と鼻を鳴らした。
「ならばよろしい。プロンプト、要件はそれだけ?皆待たせちゃ悪いわよ。早く行ったら」
そう言ってちゃんとオレの心配をしてくれた。
ドアを閉めようとする姫。オレは思わず足をガッと挟んでとめてしまった。
「いだ!?」
「何してるのよ」
呆れた視線を向ける姫。いや、でも反射的でオレも戸惑っている。
何してんだ、オレ?
「あ、その。ご、ごめん」
「……足、どけてよ。ドア閉められないわ」
「あ、そ、そうだよね。ゴメン……」
とか言って謝るオレだけど、なぜだかこのまま別れたくなくて邪魔してる足をひっこめたくなかった。おまけにドアに手を掛けて閉めようとするのを拒んでいる。
なんか、一人にさせたくなかったんだ。
一人で、疲れた顔させたくなかった。できれば一緒に珍しいものをみて笑ってリフレッシュさせてあげたかった。
色々とできもしないことを考えてオレは一人で撃沈する。顔を俯かせて勝手に暗い影を背負うオレに姫はじっと見つめてきた。そして、
「おみやげ」
とポツリ呟いた。オレは「え」と反射的に顔を上げて姫を見た。姫はそっぽ向きながら照れを隠すようにこういった。
「おみやげ、買ってきてよ。プロンプトの気に入った奴なら何でもいいから」
「…!う、うん!買ってくる、いっぱい買ってくるよ!」
色々と聞きたいこともある。言いたいこともある。でもオレは不器用だからイグニスみたいにスマートに紳士らしくなんてできない。ノクトみたいにストレートに感情を出すこともできないし、グラディオみたいに豪快にアタックできるわけでもない。でも、それでも姫はオレにこうやって優しく手を差し出してくれる。
こんな時まで、オレを気遣ってくれる姫を少しでも喜ばせたい。その気持ちに、報いたいって強く想った。
オレが力強く頷くと可笑しそうに笑った。お土産ぐらいで力まないのって。
「……気を付けてね」
「うん。姫も……その、ゆっくり休んで」
「……ありがと」
両目を細めて微笑んだ姫は、オレが足を退いたことを確認して静かにドアを閉めた。
「……へへっ…!」
胸が、少し温かくなっって自然を頬が緩むのを止められなかった。
ニマニマと頬を抑えながら戻ると、ノクトが怪訝そうに何笑ってんだよと言ってきた。
オレは、別に~と誤魔化して歩き出した。
※
レティーシアside
これ幸いとノクト達はレスタルムを観光するらしい。タルコットも一緒らしいのでこちらとしては好都合だ。クペは私と一緒に居ようとしてくれたけど、観光なんてめったにない機会だから一緒に行くように促した。
イリスに一緒に行かないかと誘われたけどやんわりと断った。ノクト?フン!無視よ無視!
タダで女の肌見られただけでも感謝してほしいくらいだわ!
謝ってこようと近づいてくるけど速攻部屋に閉じこもって鍵かけた。てっきり皆と出かけたと思ったプロンプトが戻ってきたけど、私を心配しての行動みたいでなんだか気恥ずかしさから視線逸らしてしまった。わざとらしくなかったかな?
とっさにお土産をせびるなんてまさに王女らしくなかったと思う。でもプロンプトはなんだか喜んでくれたみたいで逆に助かった。
気を付けてと送り出して部屋に戻った私は、さっそくソファにドスっと腰かけてスマホを取り出してコルに電話を入れた。なぜかって?
帝国軍に居所を知れたのだ。アーデンとの約束の件は伏せておいて、できるだけ早くコルにもこちらに合流してほしいと頼むため。それと今どれくらいの人数が集まりつつあるのか再確認するためだ。
さっそく、履歴からコルの名前をタップし呼び出しを掛ける。コール、三回目くらいで『姫、お怪我などありませんか?』といつもの調子で尋ねてくるコルに相変わらずと苦笑して「大丈夫よ、コル。貴方は無事なの?」と聞き返した。
毎回こんな感じで会話は始まる。まったく、心配しすぎなのよ、コルは。
その内頭が剥げてこないか心配だわ。面と向かって言えないけど。
『姫?どうかされましたか』
反応がないことを不審に思ったか、コルがそう尋ねてきて慌てて何でもないと誤魔化した。
「それで、今コルの首尾はどう。人数は集まってる?」
『はい。やはり警護隊の中にも連絡が取れるものが数名おりました。皆散り散りに逃げることができたようです。それと王の剣の生き残りを二名おりました』
「本当!?そう、良かったわ。それで彼らとはいつ合流できるの?」
王都脱出から随分と疲弊しているかもしれない中申し訳ないけど、焦る気持ちがあった。
『グレンに迎えを頼んだのでオレと合流次第、レスタルムに向かうつもりです』
「……そう。グレンもよくやっているようね。あとでお礼を伝えておいて」
『わかりました。……それで、姫。何が、ありましたか』
来た。こちらが先に言う前に察知してる人。まったく、天晴だわ。
私はくたりと背中からソファにもたれかかった。髪をかき上げながら、少し間をあけて伝えた。
「……帝国軍が私たちの居場所を捉えたわ。はっきり言うなら、帝国の宰相にね。ご丁寧に名乗ってくださったわ。……ノクト達はまだ知らない」
息を呑んで驚いた様子のコル。
『!……できるだけノクトたちと行動を共にしてください。あの男は危険です』
「わかってるわ、言われなくてもね。……期限まで今日を含めて三日。間に合いそう?」
そういえば、ユーリーが今日観光案内をしてくれると言っていたっけ。
これは、使えそうね。
『間に合わせます』
「わかったわ。ノクトたちには言わないでね。今、ストレス発散してるから。……ファントムソード集めで随分と扱いてしまったもの。今だけは休ませてあげたいわ」
『……心中、お察しいたします。ですが、どうか御身も大事になさってください。……今の貴方は……脆い』
「……ふっ、馬鹿だけが取り柄の私に脆いですって?貴方も言うわね」
私の軽口にコルは珍しく感情を込めて荒い口調になった。
『姫!貴方は自分が考えている以上にご自分を軽んじすぎだっ』
「……軽んじてないわ。真実を語っているだけよ」
『姫』
納得いかないと言った感じだが無理やり話を戻させた。
「話を戻すわ。幸い、偶然知り合った自警団の知り合いがいるの。その人物と接触してこの町の警護に専念してもらえるよう交渉してみるわ。最悪、素性を明かすことになると思うけど怒らないでね」
『……わかりました』
事前にそう言えばコルはぐっと何かを飲み込んで仕方なく了承してくれた。
まだまだ言いたいことありそうね。けど長話はしてられない。
「ここにはイリス達の他にも王都から逃げてきた人がいるみたいなの。……守らなきゃいけない。召喚獣たちにも力を貸してもらうつもりよ」
私の決意を汲んで、コルは気遣わし気にこういってくれた。
『無理だけはなさらないでください。…』
「ええ。そのつもりよ。……もし、すれ違いになっているようだったらジャレッドに詳細を尋ねて。彼には話すつもりだから」
『……どうかお気をつけて』
「ええ。貴方も」
私はそう言って通話ボタンを終了させた。
少し、肩が凝った。
【あーあ、ゆっくり本が読みたいな】
※
その後、ジャレッドを捕まえた私は少し話をしない?と誘いをかけた。ジャレッドは快く承諾してくれた。さすが執事。ジャレッドは私の為にお茶の準備をしてくれて一緒に小さなお茶会を開いた。そこで色々と話をした。クレイのこと、これからのこと、色々。イリスはまだクレイの死を知らないらしい。ジャレッドは悲しそうに顔を俯かせた。
私はまだイリスに教えないでと頼み、彼をねぎらった。
ここまで無事で良かったと。
初めて会う人だけど心からそう思って伝えた。
するとジャレッドは「……姫様……」と瞳に涙を溜めて肩を震わせた。タルコットの為にも長生きしなきゃねとそっと背中を撫でるとますますひどくなって嗚咽を漏らした。
ジャレッドが落ち着くまで背中を撫でてあげて、それなりに落ち着きを取り戻した頃「申し訳ありませんでした」とすまなそうに謝るジャレッドに構わないわと微笑んで、具体的にこれからの予定を伝えた。
帝国軍にこちらの居所が割れていること。
いずれイリス達にはここから別の場所へ避難してもらうこと。
その誘導はコル将軍に任せていること。
そしてこれが重要かつ、大切なこと。
カーテスの大皿へ赴く為に、わざと帝国軍を利用すること。ゲートを封じられていてはノクトたちに動きようがないのだ。だから利用する。その際にこちらが手薄になった時、イリス達を守る者が必要だ。もし、コルたちが間に合わなかったときの為に私はとっておきの護衛を頼んでおいた。
「それで、その方とは?」
「……ちょっと驚かないでね。今、【呼ぶ】から……。来ていただけますか、ようじんぼう」
私の力ある声に導かれて、やってきたようじんぼう。初めて出会った時と同じく、桜の花を散らしながらまずダイゴロウが元気よく異界から登場して呼ばれたことによる嬉しさからか、私に向かってあの巨体で飛びかかってきた。
「んぎゃ!?」
『ヘッヘッ!』
「姫様!?」
ジャレッドはダイゴロウの登場に腰を抜かすくらい驚いてたけど、慌てて杖を放り投げてまで押しつぶされかかっている私を助けてくれた。
「あ、ありがとう」
「姫様、これは、もしや」
「そう、召喚獣。あ、この子はダイゴロウね」
『ワン!』
そうだと一鳴きするダイゴロウは私のすぐ横に行儀よくお座りしていて、うりゃうりゃと顔を挟んで撫でてまくってあげた。そして今度こそ彼の登場!
だったんだけど。
めり。
前回と同じく天井が低すぎるようで斜めになりながらこちら側に来てくれた。
召喚獣に対してなんて扱い!本当なら処刑ものだ。私は顔を歪ませて必死に謝った。
「本当にゴメンナサイ。狭い部屋でゴメンナサイ!」
『―――』
それでも気にするなと言ってくれる彼の優しさに思わず涙ぐんでしまった。
「ぐずっ、なんてやざじい…」
「姫様……、なんとおいたわしや……」
そっと白いハンカチを私に手渡してくれたジャレッド。執事らしく自分も目元にそっとハンカチを押し当てた。きらり、と涙が光った。
『―――』
「今回も破格の値段だ大丈夫なんですか!?……本当に何から何までありがとうございます!」
「わたくしめからも心から御礼申し上げます。ようじんぼう様、ダイゴロウ様」
『―――』
『ワンワン!』
こうして無事に護衛の依頼を終えることができた。ようじんぼうには目立つのでひっそりと隠れてもらい、ジャレッドの傍にはダイゴロウを控えさせてもらった。ちょっと目立つけどこれで安心だ。
後は、ユーリーが言っていた自警団と直接話さなきゃならない。
私は、ジャレッドと別れてこっそりとホテルを抜け出ることにした。あ、また伝言は忘れずに伝えておいた。ちょっと女の買い物してくるって!
そういえば、大体男は遠慮するはずと考えたからだ。
どんな買い物?男には必要ないものよ。
【言い方は色々ある。】