レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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深謀遠慮~しんぼうえんりょ~

レティーシアside

 

 

いざ尋常に勝負!と意気込んで私はバッチリと化粧をしつつ(気合いれて変身)、白のピッタリとしたAラインのワンピースを着て髪をぐるぐるまとめてつばの広い帽子をかぶって髪の毛はしっかりとカバーされていることを確認。トントンと床を蹴ってシルバーのハイヒールサンダルの調子を合わせる。……オッケー。ぐらつくことはないわ。

普段よりも高めだけどこんなのおちゃのこさいさい。普段から白の中じゃ素足だったけどいざ公式の場じゃもっと身だしなみに気を付けてたし、周りも五月蠅かった。お高いブランドドレスなんていらないのにね。普通に手作りのでも私は喜んで着るのに。無駄遣いだと思うわ。あれは。

 

ジャレッドにどうかと見せに行ったら「とてもお綺麗ですよ」と柔和に微笑んで褒めてくれた。ああ、優しいお世辞を言ってくれるなんて!さすが執事ね。

お気をつけてと見送ってくれたジャレッドに手を振ってホテルを出発した私は、完全武装でユーリーが待つ、あの店へと向かった。

 

お店に着くまでジロジロと行きかう人から見られたけどこれは怪しいから見られているわけじゃないのよね?ちょっと不安になったけど、今さら着替えている暇はない。なんせ、ノクト達が帰ってくるまでに済ませてホテルに帰らなきゃいけない。

万が一の為に、ジャレッドに口裏合わせは頼んであるけど、これは私の交渉次第で決まる。気が引き締まる思いだ。

そして、着いた。

 

私の、戦場。

 

名を、『Snow Crystal』というみたい。今やっと店の名前に気が付いたおまぬけな私。こんなんで大丈夫かしら。我ながら不安になってしまう。それにしても、Snow Crystalなんて素敵な名前。発想がまず違うわね。この暑い地帯に雪なんて降るはずがない。さすがマスター。

 

「よし!」

 

私は、バチンと自分の頬を叩いて気合をいれてちゃんと店のドアにオープンの看板が下がっていることを確認して、ドアノブに手を掛けた。

 

カランと、戸口の鐘が鳴り、それはゴングの始まりにも聞こえた。

 

【闘いは始まった。】

 

 

店内は昨日と同じようにガラガラというかお客さんの姿がまったくなかった。レトロ調度品、マスターの後ろに並ぶ数十種類のコーヒー豆。その豆を引く為の本格的な年代物のサイフォンに品の良いカップアンドソーサーたち。ゆったりと流れる昔ながらのレコード音。ここだけ別次元かのように錯覚してしまいそうになる。そんな店内に私は入店した。

 

「こんにちは」

「おお、噂をすればだな、お嬢さん。いらっしゃい」

「…あ、来てくれたんだ!」

 

白髪交じりのマスターが最初に気づいて私は軽くお辞儀をした。次いでカウンターに腰かけていたユーリーがぱっと私に気づいて椅子から降りると嬉しそうな表情で出迎えてくれた。

 

「昨日はありがとうございます。ユーリー」

「いや、別に構わないよ。今日はお洒落してくれたんだ……。すごく綺麗だよ」

「ふふ、ありがどうございます」(本当は観光する気ないんだけどね)

 

少し照れたように笑うユーリーに対して私は軽く褒め言葉を流した。

褒めて欲しいわけじゃないし、時間も限られているのでここは悪いがささっと挨拶をすます私。でもマスターにはちゃんとお礼を言っておかないと。

 

「マスターもありがとうございました。フレンチトースト、とっても美味しかったです」

「いやなに、可愛いお嬢さんの笑顔を見れただけでも嬉しいもんさ。それにしても、随分と目かしこんで昨日と偉い気合の入りようだな」

 

そういって茶化すマスターに、なぜかユーリーが慌てた。マスターには鬱陶しそうにしながらも、

 

「あーもう!いいだろ!俺たちいくから!…さぁ、行こうか」

 

私には優しく目尻を下げてどこか嬉しそうにしながら背に手を回して紳士らしく案内をしてくれようとしてくれる。けど私はそんな彼を手で制した。

 

「ユーリー、最初に謝っておきます。ごめんなさい」

「え?」

 

ぺこりと頭を下げた私にユーリーは不思議そうな顔をした。

言わなきゃ。

私は彼の瞳を見つめながら、緊張から喉をごくんと鳴らし意を決して口を開いた。

 

「……お願いが、あるんです」

「どうしたの、怖いくらい真面目な顔して。もしかして、また君にちょっかいだした奴がいたの?」

「いえ、そうじゃないんです。今日は、私観光案内をお願いしにきたんじゃないんです」

「…えーと。それは遠回しのお断り…?」

 

しょぼーんと残念そうな顔をした彼。

やばい!何が勘違いしているんじゃないだろうか!?

 

言葉足らずだったかもしれないと私は慌てて言い直した。

 

「そうじゃないんです!違います。ユーリー、貴方の力を貸して欲しいです。貴方にしか頼めない!」

 

私は頭を振って必死に違うと否定し、彼の手を取って両手で握りしめた。

信じて欲しいと彼の瞳をじっと見つめてながら、

 

「……レティ、大胆だね」

「え?」

「いや!?なんでもないっ」

 

慌てて口元抑えながら誤魔化すユーリーに私は「そ、そうですか?」と戸惑ったが、時間も限られているので気を取り直し、はっきりと要件を伝えた。

 

「…自警団の代表に、会わせてほしいんです」

「……どういうことか、説明してもらえるかな」

 

先ほどとは打って変わって真面目な表情に変わった彼。私が冗談で言っているわけじゃないと悟ったのだろう。

 

私も彼の手から自分の手を離しお腹の辺りで手を組んだ。

マスターは、黙って私とユーリーのやり取りを見守っていた。

 

「……不躾だということは重々承知しています。でもそれを踏まえてお願いします。…この町の未来に関わることなんです。……レスタルムが危険に晒されています。帝国軍により」

 

曖昧に伝えたところで胡散臭いと思われるだけ。はっきりと言わないと分かってもらえないと思った。だから私はきっぱりと言った。レスタレムが危ないと。

 

「……それは…」

 

でも、案の定ユーリーは半信半疑と言った風に言葉を詰まらせた。たぶん、返答に困っているんだと思う。いかにもまだ出会って一日しか経ってない女のいうことを真に受ける人がいるわけがない。

だから最終手段、私の身分を明かすしかないんだ。私は帽子を脱ごうと鍔に手を伸ばした。その時、静観していたマスターがよく通る声でこういった。

 

「ユーリー、会わせてやればいいじゃないか」

「マスター!?アンタなぁ……」

 

思わぬ介入の声に私は驚き、反対にユーリーは咎めるように荒い口調になった。でもそれを黙らせる眼光鋭い視線にユーリーはぐっとつまり言葉を詰まらせた。とてもじゃないが、一般人が出せる眼圧ではなかった。まるで戦いの経験でもあるかのように感じた。

 

「お嬢さん、嘘じゃないんだろ」

「はい。被害が大きくならない為にも急がねばなりません。……自警団の人たちの力が必要なんです」

「……」

 

ユーリーは複雑そうな顔をしてガシガシと髪を掻いた。マスターからちらりと私を見やった。そしてまたマスターを見る。何だか迷っているみたい。やっぱり、駄目かなと肩を落としかけたけど、マスターがふぅっと息をついた。

 

「……連れてってやんな、ユリ」

「……」

 

それでもユーリーは何も言わない。私は縋るようにユーリーの名を呼んだ。

 

「……ユーリー…」

「……ああもう!わかったよ。そんな顔しないでくれよ……。俺が悪者みたいじゃないか」

 

くしゃっと髪を握って困ったように私を見た。

 

「それじゃあ!?」

「いいよ。分かったよ、……ボスのとこに連れてってあげる」

「ありがとうございますっ!」

「ただ少し、ボスにも『準備』がいるだろうからな」

 

なぜかマスターを睨みながらいう彼。どこか含みあるいい方に私は怪訝にマスターを見つめたが、マスターはさっさと行けと私たちを追い出すように手を振ってみせた。

仕方ない、ここはさっさと出ようと私はぺこりとお辞儀をして先に店を出たユーリーの後を小走りで追いかけた。

 

どうしてかマスターが気になって、ちらりとお店を振り返るとなぜかドアの看板は『open』から『close』になっていた。

 

ユーリーに先導されてやってきたのは人気の少ない路地を通ってあるそれなりに大きな建物だった。元々レスタルの町自体が密集して作られている町だけど、ここだけは独立していてなんだか雰囲気も物騒な感じ。一般人が立ち寄らない裏路地みたいな?

道すがら、ユーリーは不愛想な奴もいるけど基本いい奴だからと前置きをして私を中へと誘った。そして中に入ると、ユーリーの助言通りゴッツイ体つきの目付きが滅茶苦茶悪い男性やら眉毛がない人とかまー個性的な人々から一斉に視線を受けました。

 

「……」

「レティ、こっち上に上がって」

 

指でくいくいっと階段を示されたのでそちらの方へ向かおうとするけど、前方を屈強な男に塞がれた。やだ、立派なスキンヘッド!ちょっと写メ撮りたくなってうずうずしてしまった。

 

「待て、ユリ。その女はなんだ」

「……ボスの面会相手だ。どけよ」

 

いつもよりも低い声でそう言い返すユーリーは何処か苛立った様子だった。

 

「……許可は?」

「もらってる」

「……ほぅ……。その女がなぁ?なぜ、顔を隠す?もしや、表に出せない面してるとかか?」

 

知り合いの男の視線は私を値踏みしているようであまりいい気はしなかった。たとえ写メ撮りたくなるほどのスキンヘッドでも、だ。

しかも私が帽子で顔を隠すようにしていることを面白がって言っている様子。でもここで顔をさらすわけにいかない。出し惜しみじゃないけど、もっと場が盛り上がる瞬間というものがある。そこで活用してこそ相手に衝撃を与えられるというものだ。

 

もし、ここで帽子を脱げと言われたらどうするか。

 

はったおす。

という選択肢が一つ頭に浮かんで慌ててぶーん!と外へ放り投げる。

 

じゃあ、ぶったおす。

これも同じだわ!またまたぶーん!と放り上げる。駄目だわ。気がたっているのか、攻撃的な選択肢しか浮かばない。

 

まず耐える。それから考えよう。うん、決めた!

ピンポン!と正解の電気がついた。

 

けどここで耐えなければ代表と面会することはできない。私は黙ってその視線に耐えた。すると肩をぐいっと引っ張られてユーリーの胸へと抱き寄せられた。

 

「あんまり威圧するな。レティが怖がってる」

「あ、の…」(別に怖がってないけど。むしろ写メ撮らせてほしいのですけど)

「行こう」

 

ユーリーに守られるように男の脇を通って共に階段を上がった。

そして、通された小さな部屋に案内された私はユーリーから、ボスの準備が終わるまで待っててと言われた。彼は少し用事を思い出したと言って部屋を出ようとした。そんな彼の背に私は「ありがとう」と礼を言った。

先ほど、頼んでいないとはいえ守ってくれたのだから。するとドアノブに手を掛けてユーリーは少しだけ顔を振り向かせてウインクを一つして笑みを浮かべた。

 

「……いや、女の子を守るのが俺の役目だからね」

 

いや、頼んでないんですけどと言えない私は曖昧に微笑んだ。

そう言って彼は静かにドアを閉めた。

 

代表が待つという部屋に通された私は、まさかそこである人物を顔を合わせることになるとは考えもしなかった。

まるで野次馬のようにそれなりに広い部屋に集まっている男たち。きっと自警団のメンバーなのだろう。年齢や体格など様々だが彼らの私を見る目付きは明らかに一般人の目とは違っていた。戦いを知る者。なるほど、ここの自警団はそこらへんのハンターよりはかなりの経験を積んでいると推察できる。あら、女性もいるみたい。ちらりと見たけど凛々しいおねー様方と印象を受けた。

 

私も負けれられないわ。人から注目を受けることには慣れているもの。

だってこんなんでも公式の場で皆さんに朗らかに微笑んで手を振ってましたからね。

 

胸を張れ、レティ。

 

私はプリンセス、私はプリンセス。頭の上から足のつま先まで可憐なプリンセス。

でも時に大の男に金的入れちゃうちょっとお茶目なプリンセス。

 

そう、心の中で何度も唱えて、よし。ぱっちだ。

よくドラマで出てきそうな社長机に革張りの回る椅子。ここで悪役社長が葉巻銜えながら椅子をぐるっと回転させて登場するのよね。私の予想はあながち外れではないかも。だってそこの代表が座っていらっしゃいますからね。

 

「貴方が、代表ということでよろしいでしょうか」

 

皮張りの椅子に腰かけている男性が椅子を回転させて此方を向いた。

だがそこに私が予想したごついおじさんではなく、先ほどまで顔を見合わせてた人物が悠々と座っていたものだから思わず顎外れるのではないかというくらいに驚いた。

 

「マスター!?」

「よう、お嬢さん。さっきぶりだな」

 

悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべるマスターは、軽く手をあげてみせた。先ほどよりも若いようにもみえる。あ、そうか。服装が白のワイシャツに腰元のエプロン姿からちょい悪親父みたいなビシッとした黒スーツにセンスの良い柄物のネクタイ。胸ポケットからチラ見せする赤いハンカチに目元には少し濃い目のサングラス。元々後ろで無造作にまとめていた髪はしっかりと結んで乱れを一切見せない髪形へチェンジしていたからだ。

 

正直に言おう。恰好良い。

年上のおじ様ってこういう感じなんだと衝撃を受けたもの。ああ、イリスに自慢したい!

 

「……貴方が自警団のリーダーだったんですか」(一緒に写真撮ってもらいたい)

「ああ、お嬢さん。だが聞きたい。なぜ、俺に会おうとした」

 

ガラリと印象を変えたマスターは、自警団の代表の顔つきになった。

机に両ひざをついて見定めるように私を見つめてくる。

いけないわ、レティ。意識を飛ばしすぎよ。私は、自然と引き締まる思いで口を開いた。

 

「……帝国軍がこの町に責めてくるかもしれません。その時に貴方達の力が必要となるんです」

「なぜアンタがそれを知っている」

 

畳みかけるように私に問いかけてくるマスター。私は、口を噤んだ。

こうすることで、皆の注目を集めるためだ。

 

「……」

「レティ…」

 

案の定、間をあけることで一斉に視線を受ける。これでよし。

私は、躊躇ったようにみせて「私は」と小さく呟いた。

 

そして、ゆっくりと帽子を取る。

あくまで優雅に、あくまでわざとらしさを感じさせないよう。

 

まとめていた髪がしゅるんと背中に落ちるのが分かった。それに一斉にどよめきが発生する。私の露わになった髪を、容姿を目にした男(凛々しいおねー様方も)たちからだろう。それは、ユーリーにも当てはまった。

 

「レティ、……あんた」

 

これが、彼に見せたくなかった理由だ。

すぐにわかっただろう。私が異質であると。

 

「ユーリー。騙していてごめんなさい。レティは私の愛称なんです。私の本当の名は。……レティーシア・ルシス・チェラムと、申します」

 

銀の髪に緑色の瞳。白磁の肌に整った容姿。ルシスで一人しかいないというその存在を知る者は多くいる。それこそルシスの民でなくても耳にするくらいに有名なのだ。

こんな時に、目立つ自分の容姿が役に立ったと思える。フフフ、これで流れは我にあり、だ!

 

後は、ぐっと鷲掴みにさせる台詞をスラスラとよどみない口調で言うだけ。でもここで舌を噛んだりすればあっという間に機会を逃してしまう。そう、チャンスは一回しかない。

私は、すぅっと息を吸い込んでよく通る声で皆に語った。

 

「恥ずかしくも私は民を国を捨て、このような姿で人前に偉そうにおめおめと顔を出せる身分ではないと、それは重々承知しております。……数多の苦言暴言は全て私が受け止める覚悟はあります。私達は陛下の温かい御心によりこうして生き恥晒してこちらにたどり着きました。……国を追われた王族に力がないとお思いだと思います。実際、その通りです。あの魔導兵ら相手に非力な私達では対抗することもままなりません」

 

マスターは黙って私の言葉に耳を傾けた。

 

「……」

「……ですが、状況は一刻を争います。我が兄、今は死亡と扱われておりますがノクティス王子も共に生きております。皆さまはご存知でしょう。すでに帝国は大々的に私の捜索を公にし、確保に余念がありません。その帝国軍の一味である男に、私の素性がバレていました。すでにここにいることは敵側に情報が知れ渡っているはず。このままではこのレスタルムも戦火に巻き込まれるかもしれません。その可能性が捨てきれないのは事実です。…私達はすぐこちらを発ちたいと考えております。ですが奴らは貴方方に私たちの行方を吐かせようとするでしょう。…どうか人の出入りを制限してください。できればそれなりに腕の立つものも町の警護に当たらせてほしいのです」

 

次に何を言われるか、想像できないほど私とマスターの見えない攻防。

自警団のメンバーが固唾を呑んで見守る中、椅子から立ち上がったマスターは、私の方に歩いてきた。思わず身構えてしまったけど、ユーリーが自然な形で私とマスターとの間に身を滑り込ませるように入った。

 

「何もしねぇよ、どいてな」

 

そう言って、ユーリーを退かせたマスターはなぜか私の前で急に膝を折り頭をたれたではないか。これには私もつい動揺してしまった。だってダンディーなおじ様を跪かせるなんて何プレイ!?

 

「な、なにを!?」

「数々の非礼、お詫び申し上げます。風の噂で無事にルシスを発ったことは存じておりましたが、……御無事で何よりでございました。レティーシア殿下」

 

先ほどとは打って変わってまるで臣下のような態度をとったマスター。周りも唖然としてしまう中、「…私を、知っているのですか?」と尋ねるとマスターは体制はそのままで顔だけを上げて理由を語った。

 

「……今はこのような身ですが、昔陛下にお世話になった者にございます。恩義を感じており、いつかお返しできたらと常々考えておりました。このような機会を貴方様に頂けるとは光栄にございます」

「……陛下に…」

 

あの人とこんなところで繋がりがあったなんて。

なんだか、助けられたようでちょっと複雑な気分になった。少し沈んだ表情の私に気づかないでマスターは立ち上がりながら声高らかに皆に聞こえるように告げた。

 

「我が自警団、【ヨルゴの軌跡】は全面的に殿下のお力となることをお約束いたしましょう。いいな、お前ら。これは決定事項だ。文句言う奴は俺が尻に蹴りいれてやる」

 

それでも納得していない様子のメンバーたちの態度にしびれを切らしたマスターは腹の底から怒鳴り声をあげた。

 

「喧しい!オメェらは姫の覚悟が分からねぇか?護衛一人もつけずに俺たちを信用させるために身分まで明かしたんだ。もし、俺らが帝国に情報を売るかもしれねぇってのにだ」

 

スイマセン。全然そんなこと考えてませんでした。

ただ必死だっただけなんですと言えない状況となっている。メンバーの皆は、感慨深く頷いていて「さすが、ルシスの姫だ」とか何とか感心していて猶更言えません。だから私は咄嗟に思いついた台詞を吐いた。

 

「……私は、ユーリーを信じていました。この人なら信じられると思ったから」

 

そう言って彼を見つめた。

ユーリーは「レティ…」と感動したようで上手く私の話に乗ってくれた。

 

私の名演技によりうまく場を盛り上げることができた。

 

「…俺は、それでいいぜ」

「オレもだ。帝国軍に好き勝手させてたまるか!」

「私もよ。正直ムカついてたのよね……アイツラに」

「ええ、あたしもオッケーよ。暴れてやるわ!」

 

次々に上がる賛同の声。私は深く頷いてさっと話を繋いだ。

 

「私の仲間にも連絡は入れておきました。コル・リオニスという男です。合流次第こちらと連携をとってもらう形で話を進めています。陛下の信頼厚い者です。戦闘の腕も保証しましょう。それと、『ようじんぼう』」

 

私の声により異界から顔を覗かせたようじんぼう。今回は桜は飛ばさないで普通にぬっと異界から顔を出して現れた。気を遣ってくれたのね。あとでお礼を言わなくちゃ。

 

『―――』

「うわ!?」

「なんだぁ!?」

 

仲間たちが、驚愕した声を上げる。

 

ここは多少天井も高いので頭をぶつけることなく出てこられた。私の足元にはダイゴロウが元気に駆け寄ってきてぐるぐると回る。私は、膝をついてダイゴロウをそっと撫でながら、

 

「私は召喚獣たちと懇意にさせていただいております。今回の事態にも彼らは協力を申し出てくださいました。その他の召喚獣にもレスタルムを守るようお願いしてあります。ですが人の誘導などは人手しか対応できません。貴方方にはもしもの為に避難の誘導などもお願いしたいのです。直接対決は召喚獣たちに任せます。貴方方に決して怪我は負わせません。お約束いたします」

 

私の誠意は彼らに伝わったようでほっと一安心。

 

「スゲェ…」

「カッコいいぜ!」

 

先ほどよりもフレンドリーな雰囲気へと変わった。

 

「俺の名は、ヴォルフラム・カウンだ」

 

私に向かって右手を差し伸べるマスター。私は立ち上がり、彼に向き直った。

 

「……どうか、よろしくお願いします。ヴォルフラム」

「ああ、こちらこそ。レティ」

 

私達は互いに対等という意味を込めて握手を交わした。

 

あれから、自警団のメンバーの方々に必死に謝られたり尊敬のまなざしで見られたり握手を迫られたりとまぁ色々もみくちゃになってしまった。でもヴォルフラムの一喝で助けられた私は他のメンバーと顔合わせをしてほしいと言われた。少し時間が気になったので、少し断りを入れてからすぐジャレッドへと電話。まだノクトたちは帰ってきていないようで快くその申し出を受け入れた。挨拶を交わしていくうちに彼らが故郷を大切に想う気持ちが強く伝わってきた。色々と詳しい話をヴォルフラムとして、そろそろ帰ることを告げ、私はユーリーと建物を出た。

 

「あの、ユーリー。騙してしまう形になってしまってごめんなさい」

「……俺も、敬って姫様って呼んだほうがいいのかな」

「ううん、そんなことしなくていい。私はレティのままでいいの。本当は敬われるのも畏まれるのも嫌いだもの」

「……変わってるな、君は」

「え」

「だってそうだろ?お姫様ならチヤホヤされて嬉しいはずじゃないか。それに人に簡単に頭下げて……安っぽくみえるし」

 

僅かに視線を逸らしながらトゲがあるようないい方をするユーリー。どことなく先ほどとは見えない壁を感じてしまった。王族という存在は彼にとって険悪の対象なのかもしれないと感じとった。だがそれと今の状況は別もの。彼が抱く王族と自分という存在がかけ離れていて申し訳ないと思うが、自分の考えは伝えなくてはいけない。

 

「私は自分に素直でいたいだけ。助けてもらったらありがとうと感謝の言葉を伝え、自分が悪かったらごめんなさいと頭を下げて謝る。そんな当たり前のことに王族だとか一般人だとか関係ないと思う。同じ人間としてそれは駄目なのかな?」

 

あくまで彼の考えは否定しない。それも彼の意見であると言えるし今の自分にそのような失礼なことはできない。ただ、ユーリーに自分という存在を知ってほしかった。せっかく出会えた機会を、ただすれ違い様のまま終わらせたくなかった。

 

「……いや、ゴメン。意地悪ないい方だったね…」

「ううん、そう思われても仕方ないと思う。たとえ、あの人に追い出されたかもしれなくても、私が王族として、民を、国を捨てたことに変わりはないわ。……責任なら必ず取るわ。この命賭けて」

 

そう、ノクトはこれからのルシスに欠かすことのできない人だもの。

民にとってなくてはならない人。だから、全て私が背負えばいいんだわ。

 

「……あの、さ……。その俺なんかが言える立場じゃないけど……レティはよくやってると思う。さっきのだって、格好よかった。女の子は守るもんだって俺は考えてるから、新鮮というか。……ああ、俺もそうなりたいって思えた」

「ユーリー」

「……ユリって呼んでくれないかな。俺も君をレティって呼ぶから」

「……ありがとう。ユリ」

「……どういたしまして、レティ」

 

私達は互いにぎこちない笑みを浮かべた。

けれど、以前とは違う間柄になったような気がする。

ユリは、私から視線を逸らすと、どこか遠くを見ているかのような視線を向けた。

 

「俺、この町の出身じゃないからさ。ホントはアイツラみたいに熱くなるものなんてないと思ってた」

「……どこか違う町から越してきたの?」

「……越してきたっていうか、俺の住んでたとこ帝国に襲われてさ。…家族とも離れ離れになった。…俺は知り合いのオッサンに助けられてここまで連れてこられたんだけど」

「……そう、だったの……」

 

気の毒に、なんて分かったいい方できなかった。どう声を掛けてあげればいいのかわからなくて言葉に詰まってしまった私に気づいたユリは誤魔化すかのように「ゴメン」と謝って力なく笑った。……なんだか、悪いことしてる気分。

ユリは私が落ち込んでしまったことに慌てたようでさらっと話題をすり替えてくれた。

 

「……そういえば、髪、綺麗だね!銀髪ってこの辺じゃ絶対お目にかかれないっていうかさ」

「そう?ありがとう。…私はあんまり好きじゃないわ」

「どうして?俺は、雪の精霊が舞い降りたかと思ったよ」

「雪の精霊?私が?」

「ああ。そう見えた」

 

真面目くさった顔してそう断言するユリに私はこらえきれず噴き出して笑った。

 

「っぷ!あははははっ」

「そんなに笑うことかな」

 

あまりに可笑しくてヒィヒィと腹を抱えてしまった。

 

「ご、ゴメンナサイ。……まさかそんな褒め方されると思わなかったから」

「……もしかして初めて?」

「ええ。貴方くらいなものよ。私を雪の精霊だなんて例えるのは」

 

本当に一緒に居て飽きない人。私は目尻に堪った涙を指先で拭った。

 

「……大体、皆は私をルシスの宝とか、召喚獣に愛されている証とかそんな風に見てるはずだわ……。ノクト達だって……心の中じゃきっと……」

 

きっと、疎ましいと思っているはず。

浮き沈みの激しい私にユリはさぞ困っただろう。本当に扱いにくい女だと自分でも思う。

 

「あのさ!」

「え」

「もし良かったら、少しだけ散歩しないか?」

 

上ずった声でユリはそう誘ってくれたけど、私は軽く頭を横に振って断った。

 

「……御免なさい。すぐにホテルに帰らないと……。抜け出してきちゃったから」

 

これ以上長居してはノクトたちが帰ってきてしまうかもしれない。今、彼らに悟られるわけにはいかないんだ。私の言葉に一瞬肩を落としたが、すぐに気を持ち直して再度誘ってきた。というかなんだか必死みたい。

 

「……じゃ、じゃあ!せめてホテルまで送らせてくれ。」

「……いいの?」

「むしろお願いしますっ!」

「ふふ、変なの……。こちらこそ、よろしくお願いします」

「マジ?やった!」

 

なんだか落ち込んだり喜んだり忙しい人と思った。それから私とユリは適度な距離で色々話しながらホテルまでの道を楽しんだ。

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