ノクトとプロンプトの間に些細なすれ違いが発生していることも知らずに、レティはユーリーの見送りにより無事にホテルへ着くことができた。数分のすれ違いでノクトが隣の部屋に帰ってきたが、ドアをバタン!と機嫌悪そうに閉めて廊下に響かせるほどの音を発生させたことには気が付いていなかった。その後、イリス達が続々と(男二人)大荷物で帰ってきたがその中にプロンプトの姿はなく皆で夕食を食べに行こうとイリスがノクトに誘いをかけてみたものの、ふて寝しているらしく反応はなかった。レティとしては、顔を合わせたくなかったので少し喜んでしまった。だが喜びもあっという間に風船のようにしぼんで罪悪感にすり替わってしまう。
明日は、カーテスの大皿に向かうことになっている。
ノクト達は事実を知らないが、もしかしたら一緒に居られる最後の瞬間になるかもしれない。勿論、レティはイズニアが言う『祖父』に会えたのならノクト達の元へ帰ってくるつもりだ。けど、一度あちらに行ったら戻ってこられるかわからない。
だからこそ、皆で揃って夕食の時間を楽しみたかった。
食事中、隣の席のイリスから昼間様子がおかしかったことをコソコソと教えてもらい、ますますその想いは強くなった。
だが結局プロンプトにも連絡がつかず、ノクトとプロンプト用にテイクアウトしてホテルへ帰路に着いた。夜になると冷え込みも強くなるようで皆急ぎ足でホテルの中へと入っていく。最後尾のレティがドアを閉めようとしたとき、「姫」と小さな声でレティを呼ぶ人物がいた。自分を【姫】と呼ぶ人物は一人しかいない。レティは怪訝に思いながら歩みを止めて外へ出てみた。だが視界を凝らしてみても辺りに人の気配はない。気のせいかなと首を傾げて再びホテル内に戻ろうとした。
そこに「姫!姫ってば、ここだよ!」とレティを呼ぶ者が。今度こそはっきりと聞き取れたその声は、レティのよく知る人物だった。ホテルの壁に寄りかかっていたらしいプロンプトはひょっこりと顔を覗かせて笑みを浮かべてレティに手招きをしていた。
「姫!ちょっとこっち来てよ」
「どこいってたの?遅かったじゃない」
レティは呆れながらプロンプトの元へ駆け寄った。
なぜコソコソと隠れる真似なんかと尋ねようとしたが、しぃ~と静かにするようジェスチャーしてくるプロンプトに思わず黙ってしまう。レティの腕を掴んでホテルの物陰に連れ込んだプロンプトは辺りを気にしながら、少し誤魔化すように鼻先をこすりながら照れながら、
「へへっ、ちょっとね。それより姫。手、出して」
とレティに手を出すよう言った。レティは不思議そうに素直に両手を持ち上げた。そこにプロンプトは小さく茶色い紙袋をそっと乗せた。
「お土産。本当は食べ物のほうがいいのかなって考えたけど、もう夕飯時だったし。オレの感性で選んじゃったから、……喜んでくれるかわかんないけど」
最初、目を見張って驚いていたレティだが、見る見るうちに頬を緩ませて笑顔を浮かべた。
「ありがとう!なんだろ。……これってストラップ?」
嬉しそうに紙袋を開いて中身を取り出すとそれは、携帯用のストラップだった。掌に乗るほど小さな星型にかたどられた金属の枠に中は硝子製だろうか、液体の中に七色に光る細かな粒がたくさん入っていた。プロンプトからそれを軽く振ってみてと促され、言われるまま上下に振ってみるとなんと淡く光り輝いたではないか。
「うわぁ……、綺麗…」
様々な色に輝いてまるで小さなプラネタリウムのよう。
魅了されたようにその小さな星に釘付けになってしまうレティに、プロンプトは満足そうな顔をした。
「…ありがとう……すごく嬉しいわ」
「うん。どういたしまして」
「……でもなんかもう一つ入ってない?」
片手の紙袋に残る違和感に覗きみればもう一つ同じ形のストラップが入っているではないか。何で二つ?と疑問の意味で彼を見ればおどけるように色違いのもあったから買ってきちゃったという。だが同じ物を二つも付けられないとレティは困った顔をした。
「二つも同じの付けられないわ。……じゃあこうしましょ。丁度私もスマホ持ってるから。……プロンプト、ちょっとスマホ貸して」
レティはその場にしゃがんでスマホを取り出して早速ストラップを取り付ける。そしてプロンプトに手を差し出してスマホを貸してと言った。プロンプトもレティと同じくしゃがみ込んで言われるまま「オレの?はい」と手渡した。レティは自分のスマホを膝に置いて手早くプロンプトのスマホにもう一つのストラップを取り付けて手渡した。
「よし、これをこうしてっと!はい、できた」
「え?でもこれって姫にあげたやつ」
「同じのぶら下げてても虚しいだけじゃない!ほら、私もこれでお揃い!」
そう、笑顔でスマホを持ち上げるレティにプロンプトは一瞬言葉に詰まった。
どうしてか、嬉しそうに笑うレティに何も言えなくなった。
普通に考えるなら同じストラップを付けていれば、まぁ恋人同士とか思われるパターンが多い。女同士なら友情の証と捉えられるかもしれないが、自分たちの性別は男女で、確かにレティには親愛の情を持っている。レティもプロンプトに対しては友達として接しているようだし何の問題もない。いや、少し語弊がある。問題はレティに好意を抱いている男がいることで、目ざとい彼らはすぐに気づき不審な目を剥けるだろう。
別にそれに対して怯えている彼ではない。
ただ、なんというか。
こそばゆい、のだ。こう素直な好意に弱いというか。
正直言って慣れていない。
今まで女子との付き合いはあるもののペアルックなんてことはやったことはない。そこまでのめり込んだ恋愛はなく、割と見た目で選んでいた事もあった。だからか、付き合っても長続きせず心の何処かでは空しい自分を感じていたプロンプト。仕事で忙しかった両親とあまり接しずに育った少年期により、愛情に飢えていたのかもしれない。ノクトと出会ってからは彼と仲良くなるために自分を磨くことに没頭したため寂しさもなかったが。
レティの真っすぐな向けられる好意に耐え切れずに少し視線を逸らしながら「……あ、うん、そうだね」と頷くだけで精いっぱいだった。
すぐ表情に出すレティは不満そうにプロンプトを睨み付けた。
「何嬉しくないの?」
「い、いや!?そんなことない!オレ、スゲー嬉しいよ。ただ、その恥ずかしいというか…」
自分の手にあるスマホに視線を落としてそう呟くプロンプトに、レティは
「何を恥ずかしがることあるのよ。同じのぶら下げてるだけじゃない」
と不思議そうな顔をした。まったくこの辺はさすが箱入りお姫様と納得できてしまう。おとぎ話の恋愛には事細かに覚えている癖に現代社会での恋愛となるととことん経験値0なプリンセス。プロンプトは苦笑しながら心内でこっそりと呟いた。
「……(それが理由なんだけどね)」
プロンプトの気持ちなどまったく察していないレティはよいしょっと声を出して立ち上がった。そしてスマホを少し掲げて星型のストラップを覗き込む。夜だからはっきりと光の加減が見て取れるのかもしれない。人工的に創られた星だが、何処か魅了されるものがある。
「綺麗だわ。それにしても……。星ってこうなってるのかしら……」
まだ輝きを失わない星を見つめながらレティはそうポツリと呟いた。
今触れていられるのはまやかしで、本来の星なら間近で見ることなど叶わないだろう。夜空に瞬く星々がこのように永遠に輝きを失わずにいたら、これもまた永遠と呼べるのだろうか。
母上も、レギス王も、クレイも、あの王都襲撃の惨禍に襲われた人々も、この星のように天上に上る星々となれば永遠となるのだろうか。一生、手が届かない元に彼らはいるのに、この胸に沸く一つの感情はどうしようも抑えられない。
会いたい、と。
一目でも、もう一度会えたのなら。
…何を今さらとレティは頭を振る。もう、戻れないことは分かっているのだ。
「…この辺は景色もいいし綺麗な夜空が見えるって。それにカーテスの大皿は夜でも明るいからね。結構映えるってデートスポットみたいだよ」
「………」
「……?」
「……行こうか。お腹空いたでしょ?ちゃんと美味しいのテイクアウトしてきたから味はばっちり保障するわ」
そう言って立ち上がったレティはスマホをポケットにしまって玄関へと歩き出した。だが「あ、あのさ!」と声を上ずらせてプロンプトがその背を止めた。
「……ん?」
呼ばれて振り返ると、どこか真剣な表情で見つめてくるプロンプトがいた。
「前に、オレ色々と姫に教えたいものあるって言ってたよね?あれって、まだ有効?」
「……ああ、王都のこと?今は無理でしょう」
「王都じゃなくても有効!?」
「……?有効も何もプロンプトは約束守ってくれるんでしょ?」
そう何気なく言い返せば、プロンプトは意を決したように言った。
「じゃ、じゃあ!今度オレとで、」
「で?」
その先に続く言葉は。
途中で遮ぎられた。ある者の不意打ちの登場により。
「おら!」
「ぎゃ!」
乙女らしからぬ悲鳴を上げるレティの首元に腕を回しているのは、大柄な男。
プロンプトは声をひっくり返らせて顎が落ちそうなほど驚いた。
「ぐぐぐ、グラディオ!?」
「何二人仲良くコソコソしてんだよ?ああ?」
探りを入れるような視線にプロンプトは大いに慌てた。
「ち、違うから何もしてないから!」
ブンブンと顔を振って全力で否定して見せるが、逆に怪しいことを主張しているようなもの。一方、レティはグラディオの愛の絞め技に涙目になっていた。
「いだい~~この馬鹿力が!」
「優しくやってんだろうが、大げさな。…おらお前ら青春してないでさっさと中入れ。風邪ひくぞ」
「青春なんてしてないし!さっさと放してっ、うわ!」
「落ちるぞ」
「グラディオラスがいきなり持ち上げるからでしょうが!!」
グラディオは暴れるレティを軽々と脇に持ち上げて先にホテル内へと入っていく。
「はぁ…」
気疲れしたプロンプトも深いため息をついて後に続いた。
【どこから見てた?】