レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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[grow apart~彼女編~2]

イリスside

 

おはよう、私の日常。でもこの世界に彼女はいない。

 

私の我儘に苦笑しながら『仕方ないな』って付き合ってくれるレティはもういないの。

本当に、平和になったんだって朝ベッドから起きて窓を開けて朝日を見るたびにそう思うの。澄んだ空気を肺に一杯吸い込んでふぅ、と息を吐く。

 

魔法障壁が無くなった空は透き通るように青くて眩しいくらい。使い慣れた部屋がこんなにも居心地がいいなんて、贅沢な話だね。レスタルムに居た頃は、ちょっとした旅行だと自分に言い聞かせるようにしてたけど、結構無理してたんだ。レティに会えた途端そんなのも吹っ飛んでいったけどね。

 

王都に戻ってきてすぐに普通の生活に戻ることは難しかった。でもルナフレーナ様の声明がラジオに流れた。世界の人々に向けたメッセージは、言葉一つ一つに重みがあった。

 

『世界は平和を取り戻しました。もう夜の闇に怯えることもありません。シガイも全て消え去りました。……神々の恩恵を受けることはもうできません。ですが今度は私達の力だけで世界を守っていくのです。自分たちの力で世界に光を照らし続けていくのです」って。

 

力強く皆を励ましていく言葉だった。……ルナフレーナ様にはもう神薙としての力はもうないんだって。それはレティが、全て持って行ったから。レティには、こうなることを見越してたのかな。

 

事情を知らない人たちから見れば、まるでルナフレーナ様が世界の救世主みたいでなんだか聞いてる私には複雑だった。

 

どうやって世界は救われたか、その経緯を語ることはなかった。ごく限られた人しか知らない事実をわざわざ教える必要はない。ノクトは辛そうな顔して言ったの。

 

「イリス様、おはようございます」

「おはよう、ジャレット」

 

パリッと糊のきいた制服に袖を通して私が階段から降りてくるとさっそくシャキッとしたジャレットが恭しく挨拶してくれる。そう、あの時杖をついてたジャレットがなんと現役復帰!不思議なことに杖なしで歩けるようになったんだって!

今もバリバリ執事で次の執事にって意気込んでるタルコットの執事修行に余念がないみたい。毎朝ジャレットが入れてくれる紅茶を飲んでから学校に行くのが私の日課。お兄ちゃんも新聞読みながら一緒に食卓するのが家の決まりなの。

 

家族だもん。朝食ぐらいは一緒にしたいしね。

 

あ、そうだ!

あのね、私高校通ってるんだよ。そりゃさ、あんな事あったからすぐに学校に通うなんて無理だったけど。でもノクトが、王都に戻ってくる人達の為にって頑張ってくれたんだ。

 

たまに友達の間で帝国の話題があがることがあるの。

あの帝国は悪逆非道で一般人を人として扱ってなかって。最後の女帝は特に酷い。自国から国民を全て追い出して自分は贅沢の限りを尽くして遊んで最後はノクトに攻められて惨めに自害したって。それでクリスタルを取り戻したノクト達の活躍で今の私達がいるって。それが世間に広がってる真実なんだよって自慢げに語ってさ。

 

私、一生懸命に我慢したんだよ。怒鳴りたいのをずっと、我慢して我慢して笑顔で拳握って、そうだね、何も知らない癖に知ったかぶりするな!って心の中で何度も何度も叫んでた。

 

レティがどんな想いで行動してたか知らない癖に!

レティがどんな最後を迎えたか知らない癖に!!

 

腹立たしさに家に帰ってお兄ちゃんに訴えたりもした。どうして、真実を知らせないの!?って。レティは、レティは!私たちの為に犠牲になったんだよ!って。

お兄ちゃんはいつもレティの話になると痛みを堪えるかのように辛そうな顔になる。そしていつも同じ言い訳ばかり繰り返すの。

 

『それが、レティの願いなんだよ』って。

 

願いって何?私たちの未来の為に犠牲になることが?

本当の真実を伝えないことは、世界にいらない混乱を与えない為?

それって皆に嘘ついてるのと同じことじゃない。

 

レティ、あのね。恥ずかしくて言えなかったけど本当は私の理想のお姉ちゃんだったんだよ。兄さんがああじゃない?だから余計に姉妹っていうのに憧れが強くてさ。中学の友達とかでもお姉さんがいる友達が羨ましかったりもしてたんだけどね。

 

私、写真で幼い時にレティのこと知ってた。

初めて、レティの写真見せてもらった時、なんて綺麗なお姫様なんだろうって私は一目でレティに夢中になった。会って話したい!って何度もパパにお願いしたの。でも、レティに会えるのは難しいって。レティは、お城から出られない。ルシスにとって大切な存在だからって。

 

可哀想な御姫様。お城に閉じ込められてずっと寂しい想いをしてるおとぎ話の王女だって勝手に勘違いしてさ。だから私が助けてあげなきゃって幼いながらに色々考えて手紙って方法で励ましてあげることにした。毎回楽しみにしてた文通。

いつの間にか励ますつもりで書いてた文通がいつの間にか私の心の拠り所になってた。パパから直接手渡される手紙を毎回楽しみにしてて、パパが家に帰ってくるたびに飛びついてせがんだの。レティからの手紙はないの?って。

 

フフッ、私ってほんと単純だよね。

……今でも、信じられないよ。もう、レティがいないって世界が。

 

思いっきり大声をあげて泣きたい日がある。

レティがいない現実を受け止め切れてない私は子供みたいに泣きじゃくる。お兄ちゃんに縋って、二度と声を聞けないレティに会いたい会いたいって。

お兄ちゃんは何も言わずに私を抱きしめてくれる。

 

大きな腕に守られてさらに私は涙を零すの。

 

もうすぐ、レティの命日だ。ああ、また来るのか。あの日が。

静かな墓地にノクトのママと陛下の間につくられたこじんまりとしたお墓。

白い墓石に掘られた字にはこう書いてあるの。

 

ルシスに愛された穢れなき王女――

レティ―シア・ルシス・チェラム、ここに眠る。永眠二十歳。

 

まだまだ一緒にやりたいことあったの。

一緒に思い出作りたかったの。遊びに行きたかった。普通の女の子がすること、全部やりたかった。

 

レティの、馬鹿。

先に逝っちゃうなんて言わなかったじゃない。

もっとずっと一緒にいられるっていったじゃない。

 

嘘つき……。レティの嘘つき……。

 

何度私はこの言葉を呟けばいいんだろう。

 

……命日には、ルナフレーナ様とレイヴス様も一緒にテネブラエから来られる。

去年、彼女は両手いっぱいにジールの花束を抱えていらっしゃったわ。今年もたぶん同じなんだろうね。その日だけは時間が巻き戻ったかのように皆が集まる。国民の誰もが知らない、忘れ去られた過去の出来事を皆で偲んで、そしていつか忘れてしまいそうで怖い。

私は、レティを忘れたくない。過去のものにしたくない!

 

レティ、また皆で会いに行くよ。

お兄ちゃんと私とジャレットとタルコット、他の皆もその日だけは学校をお休みしたり、別の人に仕事代わってもらったりして都合をつける。

それくらい大切で悲しい日なの。

 

私の、大切な友達、私の、親友――。だから、その日だけは泣くことを許してよ。

レティがいない寂しさを埋めるためにも。現実を受け入れるためにも。前を向いて歩くために。

 

【私が泣くのはその日だけにするから】

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