レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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年災月殃~ねんさいげつおう~

レティーシアside

 

 

王都から見える夜空はそんな大きいものじゃなく、閉鎖的な場所で聳え立つビルなどが空を覆うように並んで隠していて、いかにも閉鎖的。それでも王都の民は守られていることに安堵して変わりない日常を送っていた。私も、その一人。檻から抜け出したい癖に、たまにあの場所をひどく懐かしむ自分がいる。

 

檻の中なのに。

私を見てくれなかった場所なのに。

 

それでも、懐かしいって思っちゃうのはどうしてなのかな。

 

ずっと心に決めていたことを今実行できて幸せなはず。けど私が思い描いていた世界よりもずっと世界は大きくて怖くて簡単に人の命が奪いあえる所だった。そりゃ素敵なこともある。自分の知らないことを教えてくれる異文化交流っていうのかな。そんな体験もできて、沢山の人たちが世界で生きてた。今に至るまでの様々な過去を抱えて、それでも前向きに生きようとしている人もいた。

自分の町を守ろうと決意に奮い立つ人の横で、何処か寂しそうな横顔の彼。故郷を帝国に襲われて家族とも生き別れてしまった彼は、どこか生きる理由を探しているようにも思えた。

 

私は、逃げたいと思う一方この状況から少しでも早く脱出したい気持ちがあった。

何処か、知らない土地へ逃げたい。

 

煩わしい何もかもを捨て去って、新しい自分になれたらって。

出来もしないことを願っては落ちこんで、地面ばかり見つめる。この手で守れるものが本当にあるのかなって疑ってもしまう。

 

私は、卑屈で自分に自信が持てない癖に演技して強がって見せて、いかにも誰よりも一歩先を歩いているように見させる。けどそれは失敗を恐れて誰かを失いたくないから。

だから何が何でも、何を利用してでも歩き続ける。

人はそれを努力や忍耐とか呼ぶかもしれない。

でも私に言わせればやせ我慢だ。体壊してでもいいから進む。最悪自分の命さえも捨ててもいいと。

 

けど、命を捨てることも怖いと思ってしまう。

どっちつかずで優柔不断。まさに他人をイライラさせるタイプに当てはまる。

覚悟なら決めた、と自分に言い聞かせ、だましだまし手探り状態で進む。それで運がよいことに絶好のチャンスに生かされている。だからまだいい。

ここまでは。

 

でも、この先私の行動一つでノクト達の身に、いや、町一つ犠牲になるかもしれない。それだけの危険な行動を私は独断で決めている。誰かに相談するという選択肢はもちろんすぐに考えた。でも今のノクト達に余計な重荷を負わせたくないし、コルだってこれから帝国軍と戦うためにもレジスタンス要員確保に余念がない。そう命じたのは私だけど絶対必要なことだもの。実際、私達だけじゃ王都どころかクリスタル奪還さえ危ういんだ。

だから何事も揺さぶりをかけることは重要。これから王都の基盤となる重鎮を確保するためにもレジスタンス結成は最優先させたい。のちのノクトの助けにもなる。正直、まだまだやらなきゃいけないことはあった。ヴォルフラムと最終的な打ち合わせとか、コルの合流予定がどうなっているのか、召喚獣たちの配置決めとか、まぁ色々。

 

……あと一日、約束の日まで猶予があった。

あったはずなのに、アイツは平然と約束を破ったわ。

 

アーデン・イズニア。

とことん人をコケにしてくれるわ。そっちが最初からその気ならこっちも迎え撃つまでよ。

 

つかの間の休息は一本の電話により終わりを告げるとは誰が考えようか。

 

朝、皆で朝食を食べに外へ出た時「今日こそは買い物付き合ってよ」!と腕にくっ付いてせがむイリスに対して、レティは苦笑しながら仕方なく「オッケー」と了承した。

イリスのお願いに嫌と言えないのはグラディオたちだけでなくレティも同じようで、妹がいたらこうなのかなと自然と頬を緩ませてしまう。緩やかな時間の流れに自分たちの置かれている状況を一瞬でも忘れてしまいそうになるのは仕方ない。常に危険と隣り合わせで気ばかり張っていたせいかそう強く感じるのだ。

 

肩に乗っていたクペも「クペも行くクポ。買い忘れてたのがあったクポ」と付いていく気満々だった。だがクペの買い忘れという言葉を聞いてしまったグラディオとイグニスはつい顔を見合わせてまたあの地獄があるのかとげんなりとした表情になっていることをレティ達は知らない。気まずい雰囲気のノクトとプロンプトはお互いに近づこうとはしなかったので、タルコットは不思議そうな顔をしてジャレッドにこっそりと二人のことを尋ねたりしていた。だが流石年の功。ジャレッドは「お若いからこそぶつかり合いも多いのだろう。邪魔するんじゃないぞ」と言って孫の介入をそれとなく阻止。タルコットはそうなんだとあっさりと納得し、彼の純真さがうかがい知れる。彼がジャレッドの言葉の意味を理解する年齢に達した頃には、懐かしい思い出の一部となっていることだろう。

 

さて、集団での朝食ともなれば普段よりも賑やかでそれぞれに話題は盛り上がり料理もおいしいので猶更朝から食は進んだ。一通り食べ終わった後、まるでタイミングを見計らったかのようにテーブルに置いておいたレティのスマホが鳴りだした。

 

「~♪」

 

ノクトが機械音痴な(本人は認めていない)レティの為に設定したオルゴール調の曲は昔から変えていないものが、流行の廃れ関係なく耳に心地よいメロディを流しだす。

突然の着信に皆の注目を浴びることは必衰。まだ仲直りしていないノクトもレティにバレないように少しだけ視線を向けていた。そしてある部分に目を止める。前にはしていなかったはずの見慣れないストラップの存在に。星型の金属に形どられた透明の液体の中に何か光に反射する物が入っていて光の加減で色が変わるようだ。初めて見る代物にどうしてかそちらが気になってしまうノクトだったが、すぐに意識は着信の方へ引き戻せられる。レティはノクトの視線に気づかずに愚痴を零しながらスマホに手を伸ばそうとした。

 

「まったく、朝から誰よ…」

 

だが軽やかな動きで先にイリスがスマホをさっと取る。悪戯めいた瞳に口元をニヤニヤさせてスマホの画面をのぞき込む。

 

「誰誰?レティの彼氏とか?あれ、登録されてない相手からだ…」

 

レティは「こら」と叱りながらイリスに手を出して返してと促す。

 

「ゴメンゴメン、つい」

 

ぺろっと舌を出して悪びれた様子もなくイリスはレティにスマホを返した。レティはスマホを受け取りながらイリスのおでこに指でデコピンを一発。

 

「いた!」

「お仕置きよ。次はほっぺ抓んであげるわ」

「やだ~」

 

デコピンされたおでこを抑えながらイリスはむぅ~と唇を尖らせた。

さて、確かにイリスの言う通りスマホの画面に映し出される番号はレティの知らない相手からの着信だった。拒否してもいいのだが、もしかしたらコルが違う番号から掛けているのかもしれないと考え出ることにした。席から立ち上がって少し皆から離れた場所に移動してから通話ボタンを押す。その間も粘り強く待ち続ける相手。やはり、コルかと最初は思った。

 

「もしもし」

『やぁ、おはよう』

 

第一声。耳に音として入った瞬間に背中に走る悪寒。ぞくぞくっと鳥肌が全身に走り脳が一瞬その事実を拒否し、思考を急停止させる。石化状態、と言ってもいい。

 

「………」

 

だが電話の向こうの相手側はレティの様子に気づいていない。

 

『おーい。もしもし。オレの声届いてる?また別世界に足突っこんでるの。落ちそうになっても助けてあげられないよ』

 

落ちそうになる。

この言葉でぱっと現実世界へと戻ってきたレティは脳内からあの出来事を思いっきり蹴とばして追い出した。落ちそうになった件については、自分のミスであって、これがアイツとの出会いの切っ掛けではない。断固として認めない。

 

ではどうして奴が?

 

ありえない。そう、ありえないのだ。

この番号を知っているのは、極限られた人物。ましてや他人に知られるなどありえない。

両手で数える以上のアドレスをゲットできたものの、その数はやはり一般人に比べたら極端に少ないと言える。それも仕方ない。

レティは世間では箱入り王女なのだから。

極身近な相手とやり取りするしかない城の生活の中では、スマホをいじるよりも本に触れている時間の方が圧倒的に多かった。なので、機械音痴と本人は頑なに認めていないが、必要な機能以外はまったく使えないという面がある。

レティの意外な弱点を知ったプロンプトは得意げにレクチャーすると張り切ったが、数十分後、ひどく疲れ切った顔して断念した記憶が新しい。

機械オンチにはいくら優秀教師も敵わないというやつだ。

そんな機械音痴な彼女の耳元から聞こえてきた相手は、レティが想像しないまったくの予想外の相手だった。はっきり言うなら、声も聞きたくな顔も会わせたくない人物でレティのトラウマをほじくり返してくれた、アーデン・イズニア本人。レティは明らかに戸惑って「……なんで、……」と呆然と呟くしかなかった。

そんなレティの様子など気にしていない相手、そう、親しい友人にまるで世間話でも始めるかのようにアーデンは尋ねてもいないことを語りだした。

 

『よく眠れたかい。オレの方は色々と準備があって徹夜でさぁ』

 

だが黙って聞き流していられるほどレティは寛容ではなかった。というかそんなことどうでもいいのだ。問題は。

 

「……なんで私の番号知ってるよのっ!?」

 

である。

反射的に怒鳴り返したレティの様子にグラディオが何かを感じ取ってすぐに椅子から立ち上がり「レティ?どうした」と声を掛けながらすぐ傍にやってきた。イグニスたちも同様にレティの様子を気にしているようだったが当の本人はそんなの構っていられないほど混乱していて電話口の相手を殴ってやりたい衝動にかられていた。実際、目の前にいたら殴りかかっていただろう。プリンセスの仮面など脱ぎ去って。それくらいに憤りを感じていたのだ。だというのに、アーデンは露骨に嫌そうな態度をとる。

 

『ああ、そう耳元で怒鳴らないでくれ。耳がキンキンする。君、王女らしくないって言われない?』

 

それとなく嫌味もサラッと。

 

「どうして、アンタが!」

 

ともかくどうして自分の電話番号を入手できたのか問いただそうとした。だがアーデンはあくまで自分のペースを崩さずに間延びしたいい方でこういった。

 

『いいから落ち着いて聞いてくれないか。実は君に朗報だよ。明日の予定だったけど、今日、迎えに行くよ』

「なっ!?」

 

突然の予定変更の知らせに思わず絶句してしまう。

というかしない方がおかしい。自分で約束を持ち掛けておいてあっさりと変更するとか人としてどうか?いや、そもそも此方の予定などまるで無視。やはり、帝国の人間は信用できないと確信した瞬間となってレティに胸に深く刻まられた。

 

『実は『君の御祖父さん』に早く迎えに行けって帝国から締め出されちゃってさぁ、うるさくて敵わないし。手ぶらで帰るとまた怒られるし。オレも二度手間とか面倒だから急遽予定変更して今日になったわけ。だから待ち合わせ場所で待っててくれるかい』

「嫌よ」

 

即答して困らせてやろうなどとレベルの低いことは考えていない。あくまで無理だと言ったまで。が、アーデンに困った様子は感じられなかった。それどころかあっさりと言い切った。

 

『これ、決定事項だから変更できないんだよ。……君も必要な準備は済ませたんだろう?なら、いいじゃないか』

 

まるでこちらの手の内を読んでいるかのような発言にくらりと眩暈を覚えた。

いや、アーデンははっきりとレティが行っていることを示唆しているわけじゃない。

だから落ち着け、私とレティは自分の胸に手を当てて調子を整えようとした。

 

だがそう都合よく気持ちが落ち着くわけもなく、逆に色々と考えをめぐらせて不安に陥ったりしてしまう。レティは不意打ちに弱いのだ。それは本人も認めている弱点でもある。

 

「………(何処まで情報が洩れているの?)」

『とにかく、今日の10時にあの場所で。待ってるよ』

「まっ!」

 

レティの返事を待たずぷつりと電話は切れてしまい、腹立たしさから表情を歪めてギリリと歯ぎしりをした。通話を終えたスマホの画面に映し出される時刻を見れば、約束の時間までそう間がないことに改めてあの男を殴り飛ばしたいと思った。ふと、肩を叩かれそちらに顔を向けると、真剣な表情のグラディオがレティの電話の相手を問い詰めようと、待っていた。

 

「レティ、相手は誰だ。オレたちの知らない相手だな」

 

だがレティは構ってられないと無視して、肩にある手を払って強張った顔でイリスの元へ戻って行く。その後を「おい!」とグラディオが怒気を強くして追いかける。

レティは構わずにイリスの元まで行くと口早に謝った。

 

「ごめん、買い物付き合えなくなったよ。あとでタルコットに付き合ってもらって」

「え、どうして?……レティ、顔怖いよ。どうしたの?」

 

説明できるほどレティには余裕がなかった。とにかく急がねばと簡潔に戸惑うばかりのイリスにそう答え、口早に的確な指示を皆に出していく。その姿は普段のレティのイメージをガラリと変えさせるものだった。

 

「急用よ。ジャレッド、【明日の予定が狂ったわ】。私はコルと連絡を取ってすぐにユリのとこへ説明しに行ってくるわ。ノクト達の荷物とかまとめてもらえる?タルコットも手伝ってあげて。それと皆に状況を軽く説明してもらえると嬉しいわ。クペ、貴方が買ってきた服とか私の荷物すぐに纏めてしまって」

「はい、わかりました。すぐにお仕度いたします。タルコット、行くぞ」

「え、ちょっとまってよ!じいちゃん」

 

ジャレッドは一つ頷いてすぐにタルコットを急かしてホテルへと一足先に向かった。杖伝いの彼にしてははっきりとした力強く足を動かしていてタルコットは驚き目を見張っていた。

クペは何か言いたげの様子だったがぐっと口元を引き締めて固唾をのんでレティの様子を見守っていた。

 

「ちょっと待て!一体何を慌てて」

「そんな、一体どうして」

 

レティは素早くコルのアドレスを呼び出しながら耳にスマホをあてがいながら、戸惑うばかり男子らにこういった。

 

「皆、突然で悪いけど」

 

酷く不愉快そうに眉間に皺を寄せ、邪魔だと片手で帽子を取り去り、まとめて帽子に収めていた美しい銀髪が太陽の光を浴びてより一層輝きを放つ。人目を引くことも厭わずにレティははっきりと告げた。

 

「すぐにレスタルムを出るわ」

 

こうなることも計算済みだったのか、それともただの気まぐれか。どちらにせよ仮初の休息は瞬くまに終わりを告げる。

 

レティ達を新たな戦場へと駆り立てんと歴史の波は彼らの後方から着々と迫っていた。

【数分もしない内にレスタルムは物々しい警備が始まった】

 

 

男はカーテスの大皿を背にして「お帰り」と両腕を広げて迎え、女はただいまとは返さずに双剣を男の喉元に突きつける。

 

男は「つれないねぇ~」と愚痴を零し、女は戯言をと舌打ちしながら殺気を飛ばす。

 

男は「王子にあのことチクっちゃおうかなぁ」と脅しを掛け、女は憎々し気に男を睨み、唇を噛む。

 

男は「それじゃあ行こうか」と女に手を差し出し、女は返事代わりに乱暴に車のドアを開けて後部座席にさっさと乗り込んで足を組む。

 

男は「せっかく君の為にオレの隣を開けておいたのに」と茶化しながら車を発進させ、女は腕を組んでシートに背中を預け瞼を閉じた。

 

男は鼻歌交じりに気分よくドライブ気分を満喫し、女は召喚獣の声にひたすら神経を研ぎ澄ませその声を聞こうとした。

 

男はミラー越しに後ろにしっかりと付いてくる黒塗りの車を肉眼で確認しながらアクセルを踏み込む。女はただ到着するまでの時間を今か今かと待ち続けた。

 

男は大きな門の前で「オレだよ」と声を張り上げて門を開けさせ、女は微動だにせずに車が動き出すのを耐えて待つ。

 

男は、車から降りて「オレはここまでだから後は時間まで、ゆっくりと楽しんできて」と声を掛け、女は「わざわざお気遣い感謝するわ」とひどく不愉快そうな顔をして建前の礼言った。

 

男は声に出さずに口元だけを動かして女を見つめながら『後で迎えに行くよ』と伝え、女は何も言わずに瞼をゆっくりと下してまたあげた。

 

ノクトside

 

『レティを束縛しているだけだ』

 

プロンプトに言われた言葉はオレの心のぐさりと突き刺さった。

 

まさにそのままだった。オレはレティを失いたくない一心でずっと傍に置いておけたらと無意識に束縛してた。姿が見えなくなると急に不安になって急ぎ足で探して見慣れた背中を見つけたらすぐにこの腕の中に捕らえる。不満たらたらに文句言ってくる唇を抓んでアヒル顔にさせて余計怒るレティを宥めて指通り滑らかな髪を撫でて、逃げ出さないように抱きしめてレティの体温を全身で感じる。首筋に顔をうずめて、悪戯にうなじにキスを送っては恥じらいから身をよじらせるレティに忍び笑いしてあふれ出る幸せに浸りたい。

 

ずっと一緒に。

もうオレはレティ以外考えられないんだ。ルーナが生きてるかもしれないってイリスから聞かされた時、オレは純粋に嬉しかったし驚きもした。けどそれは親愛の情であって、愛情じゃない。ルーナとの結婚はオレの中にはもうないんだ。王族としてそういう政略結婚も仕方ないって諦めてたさ。けど帝国と敵対関係にある以上、あの制約は無効だしオレ達が一緒になる理由も存在しない。

 

ルーナがどう思ってるか知らねぇけどな。

 

オレが好きなのは、レティだけだ。

将来を共に歩みたいと思えるほどに愛しいと思う。

決して生半可な想いじゃない。それだけは自信を持って言える。

 

だからその願いを叶えさせるためにもクリスタルを奪還して王都へ戻らなくちゃならない。実のところ、オレがレティの修行に耐えてたのはレティと一緒になれる保証が欲しかったからだ。王になれば誰も文句は言わない。いや、言わせるつもりはないんだけどな。

無事に帝国を潰してクリスタルを奪還してオレが王に即位したのなら、レティに好きだと告げる。後継者を望まれるかもしれないが、別に養子でも迎えればいい話だ。

 

近親相姦だってことは十分よく理解してるさ。……たとえ世間から後ろ指さされても構わない。それくらいは覚悟してる。アイツらは止めるかもしれねぇけど。あー、何よりレティの気持ちが重要だけどな。

 

誰だって打算的なことくらい考えるだろ?

オレだってそうだ。オレが王になる動機は、レティだ。オレはレティの為に王になる。

だから、そう肩肘張って無理すんな。お前の辛そうな顔、もう見たくないんだ。

オレがお前の分まで頑張るから。お前を守る。言葉だけじゃないしそのつもりもない。

 

もう守られてばっかのオレじゃねぇ。守りたい奴は自分で守る力がある。

その力をくれたのはレティだ。守りたいものを守れるだけの力を。

 

コルは王になる為にファントムソードを集めろとオレに示した。

けどそれを逆手に取る。レティを守るためにファントムソードを手に入れる。こう考えるだけで敷かれたレールの上を歩いているわけじゃないって思える。

 

【彼の告白】

 

気が遠くなりそうだ。

うだるような暑さの中、オレとグラディオは別れた仲間と合流するため滴り落ちる汗をぬぐいながら足を動かしている。

 

どうしてこうなっちまったか。原因は主に目の前のタイタンだ。レティに会えた感動だか何だか知らねぇがはた迷惑だっつーの。天然サウナだな、ここは。元々は太古の時代に隕石が落ちてそれが今も活動してるって話だ。

 

心ここにあらずと言ったレティから説明はもらえず、クペから教えてもらったけど何となく納得できないっていうか、いまいち腑に落ちない。この近くにファントムソードは確かにあったさ。レガリアから降りてかなり歩いて登った先にな。

 

だけどそっから情けなくも転落しちまったオレと、オレを助けるために一緒に落ちたグラディオはこうしてレティ達と合流するために歩いてる。

 

いや、よく考えればあのレティにかかってきた一本の電話から全ては始まった。オレ達はレティに急かされるままはっきりとした理由も聞かされぬまま旅の支度をさせらることになった。その当の本人はこっちが止める前に走ってどっか行っちまうし、止めようがないほどの走りっぷりだったぜ。そりゃ急いで追いかけたけどあの入り組んだ路地じゃすぐに見失っちまった。すぐに戻ってくるだろうとグラディオに宥められて仕方なく荷物まとめて、ジャレッドからレガリアで待っているようにとレティからことづけだと言われて渋々駐車場に止めてあるレガリアに向かった。オレ達に会話らしい会話はなかった。

オレとプロンプトは気まずい雰囲気のままだし、グラディオとイグニスは難しい顔して何やらひそひそと話し込んでいる。しびれを切らして探しに行こうと思った時にようやくレティはやってきた。

なぜか見知らぬコブつき。一気のオレの機嫌は落ちるとこまで落ちる。

 

というかクペのぺちぺちビンタよりも衝撃あったぜ。

まさか、レティが男と一緒!?顎外れるなんてレベルじゃない。

メテオ落ちてきた衝撃だった。

 

しかもそのレティについてる引っ付き虫(これで十分だ)の容姿とかも気に障る要因だった。

少し浅黒い肌に女受けしそうな顔、体格の良い体つきで一般人とは違う戦いの心得がありそうな奴だった。前のオレじゃそういうのも見分けつかなかったが、今は大体なんとなく分かるようになってる。これも鍛錬の賜物だな。

 

「ユリ、ここでいいわ。ありがとう」

「レティ、気を付けるんだよ」

 

愛称で呼ばせてるだと……!?

 

「分かってるわ。御忠告、感謝します。……後のことはお願い。彼らには話を通してあるから。もし、その時が来たら」

「……わかってる」

「そんな顔しないで、今生の別れじゃあるまいし」

「……俺にとってはそれに匹敵するくらいの別れだよ」

「変なの」

「……君の鈍さに今は救われてるよ…。違う意味でね」

 

親し気会話をする二人の妙な雰囲気にオレは口を挟まずにはいられなかった。

ああ、手の方もな。王子だからって品行方正にしろって?ああ、そんなの無理。オレ以外の男がレティの瞳に映るだけで嫌な気持ちだ。ましてや、あの男の態度で丸わかりだ。レティに好意を抱いてるってな。

……そういや、どっかでみたことあるような顔だな。まぁ、殴ればみんな同じだよな。

けどオレの考えをあっさりと見抜いていたグラディオに羽交い絞めされて殴れずじまい。

 

「おい!グラディオ、手、離せ」

「離すか馬鹿。ここで暴れてどうすんだよ。注目浴びちまうだろうが!」

「浴びる前に逃げればいいだろ!アイツとレティの関係を吐かせるまでは!」

「だからやめろっての!」

 

オレとグラディオの攻防を横でイグニスはしつこいくらいに眼鏡をくいくいっと指で押し上げてた。背後にオレと同じくらいの嫉妬の炎がめらめらと燃え上がってるようにも見えた。結局、口を挟めないまま男は去り際にさり気なくレティの手を握って去っていた。オレ達のほうをチラ見しながらな。

 

まっさきにオレはレティに駆け寄って喧嘩してたことも忘れて問い詰めようとしたが、「後にして」とすげなく斬り捨てられ軽く落ち込むオレにさらにとんでもない展開が待っていた。レティがオレ達を引き連れて向かった場所に一台の車とそれに寄りかかる人物。

 

「あ!アイツ」

「……どうしてここに」

「あの人って……ガーディナ渡船にいた……お小遣いくれた人じゃ」

「そこはまず置いとけ」

 

クペを抱えたプロンプトの言葉にグラディオがすかさずツッコみかける。

いや、オレも最初はそれ思いついた。

そういや、クペの様子が可笑しかったのを覚えてる。プロンプトの腕の中で体を震わせて、まるでアイツに対して怯えるように「…なんで、アイツが……」と戸惑ってたみたいだな。そりゃ戸惑うよな。オレ達だってそうだったんだから。

 

あの、飄々とした態度の男がレティに気づくと、さも気軽に「やぁ、待ってたよ」と手を上げて挨拶してきたもんだからオレ達は思わずレティと奴との間を何度も二度見しちまった。

 

「彼にカーテスの大皿へ案内してもらうことになってるの」

 

それだけで納得できるわけがない。

 

「レティ、説明してくれ。いつの間にアイツと知り合いになってるんだ」

「そうだぜ!何考えてるんだよ。露骨に怪しいってレティも怖がってただろう?!」

 

強面のオレとイグニスがレティに詰め寄ってそう問い詰めると、レティは酷く冷めた言い方で簡潔に説明をした。

 

「仕方ないわ。ゲートを開いてもらうためには帝国につてのある彼にお願いするのが一番だもの。ノクト達が行かないなら私一人だけ行くわ」

 

と逆にオレ達を驚かせるようなことを言いだす始末。帝国に伝手がある奴だとは思わなかったけどイグニスは、「やはりか……」と納得してる節はあった。流石オレ達のブレーン。其れなりにアイツの素性に違和感を覚えてんだろう。けど、イグニスはまだ納得してない様子だった。アーデンという名前に憶えがあるだとよ。けどはっきりと思い出せなくてもやっとしてる。その当の本人からは

 

「あ、オレの名前。略称だから気にしないで気軽にアーデンって呼んでよ」

 

とかこっちの警戒してる態度すら気にしないで気軽に言いやがって。

レティがやったことに関してはあとでしっかりと反省してもらうことになった。きっとお決まりのお仕置きコースだろうぜ。

 

「よろしく、また君たちと会えるとはこれも何かのめぐり合わせかな。彼女とは縁あって会ってね。困っていた様子だったからオレが申し出たわけ。まぁ、皆でドライブでも楽しもうよ」

 

前回の最悪な出会いをなかったかのように振舞いやがって図々しい奴とオレは不快感を露わにし

 

「言っとくが、オレはお前のこと信用したわけじゃないからな」

 

と視線を険しく睨み付けてそう言い放った。同行云々は仕方ない。レティが一人でも行くって頑なに意見変えないし。

アーデンは、両肩を上げて

 

「まいったなぁ~、君の方からも言ってくれない?」

 

などと気安くレティに話しかけやがって。レティは相手にしなかったけどこれ以上レティと関わらせたくなくてオレは、バッとレティの手を取ってレガリアに向かった。

レティに抵抗する様子はなく、オレが後部座席のドアを開けると黙って乗り込んだ。それに続くようにオレも乗り込む。イグニス達もそれにならってレガリアに乗り込んだ。

クペがプロンプトの腕から抜け出て、羽を動かしながらレティの膝に降り立ち、自分の頭を撫でるレティの手に縋りながら

 

「レティ」

 

と不安そうに細い声で呼ぶが、レティは

 

「ごめん、事情は後で説明するから我慢してくれる?」

 

と強張った笑みを浮かべるだけだった。

 

やっぱ、なんかあったことは確実だった。

それにオレ達が出る頃にはなんだか町の様子がおかしかったし。こう、物々しい警備っていうか、雰囲気がガラリと変わっててますますレティと関係してそうだと直感した。

「……あっちぃ…」

「ふぅ、まるで灼熱地獄だな…」

 

ムッとする熱気に当てられて頭がぼうっとする。さっきファントムソードを回収できた矢先に、猛烈な地震が起きてオレとグラディオがいた場所に亀裂が生じて体を庇いながら下の方に転げ落ちてレティ達と離れちまった。原因はメテオ担いでるタイタンが動いた所為なんだけどな。首がつりそうなくらいに曲げて上を見上げると遥か上の方にイグニスとプロンプトが顔を覗かせていた。結構滑り落ちてきたもんだな。降りるのはあっという間だったけど、上るのは無理そうだ。

よく無事だったと安堵しているとイグニスが声を張り上げてきた。

 

「ノクトー!!無事か――!?」

「おう。レティそこにいるかぁ――?」

 

オレは手を上げてレティの無事を尋ね返した。

やっぱ喧嘩してたって今はそんなの関係ない。心配なもんは心配なんだ。

オレの声にイグニスは一度後ろを振り返って再度見下ろしてきた。

 

「ああ。レティも無事だ。……オレ達も降りれる場所を探してそちらに向かう」

「分かったー」

「気を付けてこいよ」

 

オレとグラディオはそう返して歩き出そうとした。その時、「ノクトぉぉ――!」とデカい声がしてオレ達は思わず動きと止めた。また見上げると気まずそうな顔したプロンプトがいて、言おうかやめようか迷っているようだったけど意を決して口を開いた。

 

「ノクトー!オレ、後で言いたいことあるから!だから怪我しないでよー」

 

必死さも感じてオレはオレはフッと口元が緩んで笑みをつくる。

 

何を言うかと思えば、……素直じゃない奴。

軽く手を上げて、「わかってるってー!お前もな――!!」

 

と同じく大声で言い返した。プロンプトはみて分かりやすいくらいに喜んで手を振り返してきた。……犬だな、ありゃ。

 

早速、レティ達と合流する為に、オレ達は歩き出したけどグラディオが「お前らもう仲直りしたのか?」と茶々入れてニヤニヤしながらオレにヘッドロックしてきやがって!

オレは「いてぇっつーの!」と言い返しながらもにやけ顔になるのを止められなかった。

 

さて、早いとこ合流しちまわないとな。こんときのオレはまだ余裕があった。レティが、どんな覚悟でここにやってきたか知らなかったからだ。

 

オレはやっぱり、弱い。

レティに守られちまったんだからな。この時も。

 

【気付いた時にはアイツの手を離しちまってた】

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