レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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年災月殃~ねんさいげつおう~2

レティーシアside

 

 

どうにも居心地の悪い椅子に座って私は、頭を抱えてブツブツと一人悩みまくっていた。

 

何がどうしてそうなった!?

途中までは良かったのに、何が一体原因だったの?

 

自問自答したところで答えが出ることはないと分かりきっている。けどこれが悩まずにいられるか!?と心の丈をぶつけたいところだが、それを実行してしまうと散々小馬鹿にしまくっているヤツに対してさらなるネタを提供することになるのでやめておこう。

 

何やら、じとーとした視線を感じ、ふと顔を上げてみるとバチッと視線が合う。途端に私は顔を「げっ」と顔を歪めてしまう。

私の向かい側に座っている男が退屈そうに欠伸を一つして呆れた様子でこう投げかけきた。

 

「君さっきから百面相ばっかりしてるよ。せっかく可愛い顔してるのに台無し」

「うっさいわ!」

 

反射的に怒鳴り返した私は手近にあった物を掴んで思いっきり奴の顔に投げつけた。

けど掴んだものが妙に柔らかいことに気づいたのは後の祭りというやつで、

 

「ぶっ!」

「グボ~~!?」

 

投げたのは隣に座ってたクペだった。どうりで軽かったわけだ。って納得するな私!

 

「ごめん!?クペ投げちゃった~~!」

 

慌てて目を回すクペを介抱し自分の膝に乗せて丁寧になでなでしてあげたので、多少機嫌は良くなった。あ、ちなみにクペが召喚獣だということはすでにアーデンにバレている。奴曰く、喋るぬいぐるみはさすがにないってさ。

 

「ごめんね、クペ。アイツの顔に思いっきり物を叩き込みたくなったの」

「いいクポ。しょうがないから許してあげるクポ」

「良かったねぇ、心の広い召喚獣サマで」

「だからアンタには言ってない!」

 

どうしていちいちこっちの会話に首を挟むのかしらこいつは。

ブリザガでも放ってやりたいくらいだわ。でも飛空艇の中では私にも被害が及ぶこと間違いなし!さすがにコイツと心中する気はさらさらないのでそこは我慢している。

 

そう、私は今現在帝国軍の飛空艇の中におります。ニフルハイム帝国に向かって進路良好でありまーす。

……なんてふざけてでもいないと取り乱しそうだ。最後の最後まで私の名を必死に叫ぶノクトの表情が脳裏から離れない。恰好はまず置いといて。

他の皆も無理やり担がれて全然サマになってないけど無事に逃げてくれているといい。

いや、逃げていてくれないと困る。行先は、レスタルムかしら?

その方が都合がいい。きっとノクト達の居所を探そうと別動隊があっちに赴いてるかもしれないし。そこで別動隊を叩き潰してコル将軍とうまく合流でもしててくれれば……!

 

「………」

 

私の心を見透かすかのように、アーデンはズバリ私に心境を言い当てた。

 

「ノクト達のこと、気になるのかい?」

 

コイツ、いつからノクトだなんてフレンドリーに呼び捨てしてるのかしら。

 

「気安くノクトだなんて呼ばないで。……もし、彼らに手を出すような真似してみなさい。……帝国にメテオブチ落としてあげるわ」

 

被害?そんなもの関係ない。笑い飛ばせるわ!

王都を奪われ大切な人達を失ったのだ。相応の報いを受けてもらわねば。

 

私の本気の脅しはアーデンは軽く肩をあげてみせた。両目を細めて獲物を定めるかのようにしながらこうも言うじゃないか。

 

「少なくともオレは手を出す気はないよ。せっかく幸運が舞い込んできたんだ。……みすみす金の卵を破壊したりしないさ」

「金の卵?」

 

怪訝に表情を歪める私に対してアーデンは、「物のたとえだよ」と誤魔化した。それから眠そうに欠伸を一つした。……この余裕な態度、呆れて何も言えなくなる。

いや、これも奴の作戦の一部かもしれない。レティ、気を許しちゃ駄目よ!

 

そう自分に叱咤して、警戒しながらちょっと前回の反省点について振り返ってみようと思う。

 

【ここからは回想始めまーす】

 

 

アイツに案内されてゲートの手前で別れた私達は、カーテスの大皿に到着することができた。奴と別れ際、私にだけに聞こえるように合図を送られるも私は皆に気づかれないようにそれらしく振舞うほかなかった。幸いにも、ノクト達に私の動揺を勘付かれることはなかったけど、クペはアイツの異質な気配に気づいていたから移動中も私の腕の中で震えていて可哀想だった。きっとどうしてこうなっているのかと一番に尋ねたかったに違いないわ。

けど、何か考えがあるだろうと悟ってくれて、我慢してくれている。正直助かった。ここでバレたら絶対止められるだろうと思ったから。

でも、私の考えが浅はかだった。

 

奴はこの混乱に乗じて私を連れ去る気満々だったんだ。

 

レガリアからひたすら進んだ先で、これ以上進めないということで徒歩で歩いてようやく王の棺を発見。先頭を歩くノクト達の後ろで徐々に痛み出してきた頭痛に蟀谷を抑えながらなんとか続く私。クペが心配してくれたけど、その時はまだ大丈夫だった。

 

やっとタイタンと会えたかと思えば、何を考えたのかタイタンは、私に会えて嬉しさからメテオを抱えている状態にも関わらず歓喜の叫びをぶつけてきた。それは強い頭痛として私にダメージを与えた。

ここまで激しい頭痛は初めてで立っていられないほどの痛みだった。

 

「うぅ…」

「レティ!大丈夫か」

 

私の異変に真っ先に気づいてくれたイグニスが足早に私の所へ駆けてきた。膝をつく私の横に同じように片膝ついて私の肩に腕を回して抱き寄せてくれた。

 

「……タ、イタンが」

「タイタンがどうした?」

 

イグニスの問いに答える余裕すらない私は痛みに気を失いそうになりながら、何とか声に出してタイタンを呼ぶ。

 

「ああ、タイタン、どうか落ち着いて…」

「レティ!オレの声が聞こえているか!?」

 

イグニスの声が遠く遠く聞こえている。すぐそこに彼の顔があるのに。

 

「レティ!!」

「姫!」

「おい大丈夫か!?」

 

私を心配して駆け寄ってくるノクト達の声。クペの悲鳴。

 

「あ、…あ……!」

 

痛みから目を開けていられなくてぎゅっと瞼を瞑るしかない。

駄目、痛くて、痛くて、このまま気を失ってしまいそうだった。

 

『ついに、ついに来た!』

 

うん、私はここにいる。だから私の声に、応えて……。

 

『シヴァは言っていた!我らが主はついに目覚めの縁に立っていると』

 

シヴァ?目覚めの縁?一体何を言っているの?

お願い、頭が割れるように痛いの…!

 

『時は満ちた。我らが女神の誕生を祝うのだ』

 

女神?もう何を言っているのか分からない。

 

タイタンは興奮状態にあるらしく、こちらの言葉は届かないのにタイタンのメッセージだけが一方通行に聞こえている状態で私の痛みは最高潮に達しようとした。もはや、意識すら手放しそうな痛みに、生理的に涙さえ浮かべてしまった。その時!

大地が唸り声を上げながら大きく揺れ始めたのだ。立っていられないほどの地震が私達に襲い掛かり、ノクト達の戸惑う声が上げている。

 

「うわぁぁ――!?地震!」

「でっけぇぞ!!」

「危険だ!離れろっ」

 

私を抱き抱えて後ろに後退したイグニスと彼の肩にへばり付くクペそしてプロンプトがいた場所は大丈夫だったけど、ノクトがいた足場は崩れていきぐらりと体制を崩したノクトと彼を助けようとしたグラディオラスは下の斜面へと転がり落ちてしまったのだ。

 

「ノクト!」

「グラディオ!?」

 

彼らの悲鳴が私の耳に届き、何とか痛みと闘いながらイグニスの腕に手かけて体を起こした。

 

「私は大丈夫だから早く二人を……!」

「わかった。無理はするな」

 

イグニスはそう言って私からそっと身を引くと崖の方へ走って行く。私も頭を抑えながらよろついた足取りで崖となった場所へ向かい下を覗き込むと幸いにもノクトとグラディオに怪我はないみたいでよかった。イグニスからノクト達は下の道を進んでこちらと合流するとのこと。

イグニスとプロンプトが下の二人と声を張り上げて話している最中、私は崖から離れた所に移動する。

 

クペから「……レティ、アイツと何があったクポ?」と不安そうに尋ねられたけど、「ごめん。落ち着いたらちゃんと説明するから、何も言わずについてきてくれる?」と力なくお願いするしかなかった。

クペが嫌だって言えば無理強いするつもりはなかったし、私がこれから行くところは敵地だったから。でもクペは迷うことなく「クペはレティと何処までも一緒クポ」と言ってくれた。彼女の優しさが十分に伝わってきて、少しだけ肩の力がほどけた気がした。

 

それからよ。

早くタイタンが私に気づく場所に行かなきゃって焦る気持ちが先走ってイグニスとプロンプトから離れた途端、クペがいち早く頭上に浮かぶ帝国の飛空艇の集団に気づいたけど、逃げるには遅かったわ。

 

Out!

 

後ろでイグニスとプロンプトが私の置かれている状況に気づいてすぐに応戦して助けに来ようと向かってきたけど、彼らの進路を阻むように飛空艇から魔道兵らがばらばらと降ってくるし、私の周りにも同様に雑魚クラスの魔道兵たちがうようよと周りを取り囲んで逃げる隙を与えようとしなかった。違う、イグニスとプロンプトは私を釣る為の餌だったのよ。

 

逃げる素振りを少しでも見せたら、二人がどうなるか。

言わなくても分かるわ。

 

かなり強者となっている二人にたかだか低レベルの魔道兵らが束になっても叶うはずがないのよ!!

 

「レティ、すぐに行く!」

「っていうかこいつらマジウザ!」

 

実際にイグニスとプロンプトは鬼の所業で向かってくる魔道兵らをちぎっては投げちぎっては投げという鮮やかな攻撃で倒しているじゃない。

 

ああ、哀れよ、魔道兵ども。せめてその命星の輝きとなるがいい。

 

このレティの目に狂いはなかったわ。

無理して彼らを鍛え上げてよかったと心底嬉しかったよ。あの時は。

強力なモンスターの巣窟と化しているダンジョンに戦闘経験がそれなりにあるとはいえ最初は無謀かなと心配ばかりしていたし、実際ノクト達はボロボロにやられてたもの。陰でようじんぼうが手を貸してくれているとは言え、全て防いでいては意味がないものね。だから限りなく命の危険がない限り手は出さないようにお願いしていた。

けれどどう!?

彼らの成長ぶりと言ったら、もうたくさんの花束飛ばして拍手喝采を浴びせてあげたいくらいだわ。

 

けれども、私の目的はまだ果たせてない。

帝国にいるとされる祖父に会うこと。どのような方なのか見当もつかないし、アーデンの言うことが真実なのかもわからない。もしかしたら、嘘だって可能性もある。

何よりファントムソードは無事に入手できたのは少なくともアーデンが約束を守ってくれたお陰なのだ。……敵との約束を破りたくない、なんて甘すぎだよね。私って。

 

この私の魔力を持ってすれば、魔道兵の大軍など敵ではない。けれど人質を取られてしまったら私は手を出せなくなる。そう、あの無敵っぷりを披露している私の仲間は人質なの、と無理やり自分に言い聞かせる。

 

「いや、見事な戦いぶりだねぇ」

 

奴はまさに余裕綽々といった態度で現れた。

飛空艇のタラップから風の煽りを受けて飛びそうな帽子を片手で押さえながら降りてくる赤髪の男。黒い死神。

 

「やぁ、用事は終わったかい、レティーシア姫」

 

アーデン・イズニアの予期せぬ荒い出迎えによって私は飛空艇へと誘いこまれたのだ。

無理やり、取り押さえられて両脇を固められた私は抵抗することもできないままに地上へ降り立った飛空艇の中へと連れて行かれる。逃げやしないというのに手荒な真似をしてくれるわ。

タラップを上がっていく私の後ろで、クペは私を助けようと躍起になって魔道兵らにその小さな体で勇猛果敢に立ち向かってくれたけど、彼女はあくまでサポートに適している。戦闘に特化した召喚獣じゃない。

どちらにせよ、事情を知らない彼女にしてみれば私を拉致ろうとしているように見えたはずだ。私は腕を拘束されながらも後ろを振り返ってクペに「危ないからもうやめて!」と叫んだ。

 

「レティを放すクポ!!」

「クペいいんだよ!無理しないでっ」

 

小さな体で弾き飛ばされてもまためげずに突っ込んでくるクペ。魔道兵の一体がクペの顔を両手で捕まえて、ああ、口に出すのもむごい!むごすぎる!

乙女の顔(かんばせ)をぐにょぐにょと挟んだり弱めたりクペの顔はタコのように膨らんだり伸びたりと弄ばれてしまっていた。

それでもクペは大声で叫ぶのだ。

 

「嫌クポ!?レティはクペが守るクポっ!!」

「っ!!クペ……」

 

それはもう、胸が張り裂けそうだった。ここまで身を挺して守ろうとしてくれている彼女にこれ以上黙ってみていられるほど私は薄情じゃない!

何より、もう我慢ならなかったのだ。アイツらに対して。飛空艇が上昇している中で、私は我慢の限界地突破!

 

「私の大事な友達に何遊んでくれてんのよぉぉぉお―――!!」

 

両脇にいる魔道兵らの拘束を気合一発!掛け声と共に一瞬にしてぐっと力を込めて、外させて体制が崩れたのを逃さず体を低くして床に片手をついて素早い動きで足払いを仕掛け、両脇の魔道兵二体を倒れさせる。グラついた躰の後方に滑るように回り込んで後ろから回し蹴りを食らわしいとも簡単に二体はタラップから身を吹き飛ばされ地面へと真っ逆さま。すかさず「サンダガ!!」と呪文を唱えて下でもみくちゃにされているクペ以外の対象物に対して容赦なくサンダガの餌食をさせる。焦げ焦げになった魔道兵らの山を背に、クペが嬉しそうに羽根を動かして飛んできた。

 

「クペ!」

「レティ!」

 

私達は互いにしっかりと抱き合って不安定なタラップの上に座り込んで歓喜の涙を浮かべたのだった。呆れたような顔をしてやってきたアーデンは下のほうをひょっこりと覗いては

 

「あーあ、また無駄に倒してくれちゃって。……オレがあの口うるさいじーさんに文句言われちゃうんだけどな」

 

と疲れたような声を出していたが私達は全て関係なし!

飛空艇はイグニスとプロンプトを置いて上空へ上がろうとして、まさかこのまま飛び立つつもりなのとぎょっとした私は、アーデンにビシィイイー!と指さして怒鳴りつけた。(人に指さしちゃいけません☆)

 

「アーデン・イズニア!一体どういうことなの!?こんな真似するなんて聞いてないわっ!」

 

事前に教えてもらってても素直に従わないけどね。

 

「オレの約束は君をタイタンの元へ連れて行くこと、じゃなかったけ?」

「だから今こうして私はここにいるじゃない!破ってるならとっくにとんずらこいてるわ。そうじゃなくて!この、」

 

思わず叩いてやろうかと右手が飛び出たけど難なく交わされて、危うくバランスを崩して落ちそうになった。

ヤバイ、バランスが、保てない!

奴め、ニヤニヤしながら私にひらひらと手を振って別れの挨拶などしてくれおった!

 

「へ、あ、あわわわあ!!?」

「レティ!!フヌヌヌヌ………ファイト~一発クポ~~~!!」

 

クペが寸前で私の服を引っ張って頑張って引っ張り上げてくれたから助かった。

 

「…死ぬかと、思った……!」

「クペが、死にそう、クポ…」

 

涙目になりへたり込む私と、すぐ傍で息も絶え絶えなクペ。

そして、期待外れだと言わんばかりに止めをさしにくるアーデン。

 

「今度は落ちなかったね」

 

コイツ、マジムカツク!怒りのままに私は靴を片方脱いで思いっきりアーデンの顔に投げつけてやった。

 

「アダ!」

 

今度は避けられなかったアイツはスコーンと小気味よい音を出して顔面に靴がクリーンヒット!どかっとお尻から尻餅着いた奴を見て、「よっしゃ!」とガッツポーズして喜ぶ私に対して、アーデンは、

 

「……いたたた、……ホントにルシスでどういう教育受けてきたのか知りたいくらいだ」

 

と赤くなった顔面を片手で押さえながら恨みがましい視線で私を見た。クペが私の靴を拾い上げて持ってきたくれたのを履きなおしてから立ち上がった。

 

「フン!失礼なのはどっちよ?早くノクト達を一緒に助けて。定員オーバーじゃないでしょう?」

 

無駄なやり取りをしている間にも外に横目をやれば、タイタンの暴れっぷりは激しさを増していた。あれじゃあ一種の暴走だ。下手すれば近隣にも被害が及びかねない。

これ以上時間をかけてはノクト達の身も危ういと判断したまで。

だが奴のいうことはズバリ一言。

 

「でもこれ帝国行だけど」

「グッ!いいの!途中で下せばいいじゃない!」

 

語気を強めて言い返す私にアーデンは気が乗らないようないい方をする。

 

「それでもいいなら乗せてあげるけど、ノクト達は君を帝国には連れて行かせないだろうなぁ。君、思ったよりも大事にされてるし」

 

なんだかんだ理由並べて乗せたくないだけなんじゃないか!?

 

「……卑怯者!!」

「いやホントのこと言ったまでなんだけど。………調子狂うなぁ。君はどちらかというとルシスの王様に似ているよ。君が御父上から受け継いだのはその瞳だけみたいだね」

「何を言って?ええい、埒が明かないわ」

 

私はヤツに背を向けて、斜めの状態になっているタラップの上で両足をしっかりと開き、右手手首をくるりと回して使い慣れた杖を呼び出す。

右足のつま先の靴をタンタン!と足踏みして簡易的魔法陣を創りだし、声高らかに叫ぶ。

 

「[来たれ、我が召喚の求めに応じ、出でよ!ブラザーズ]ミノタウロス!セクレト!お願い、力を貸して!」

 

通常ならもっと意識を集中させて呼び出しに応じてもらうのだけど今は一分でも時間が惜しかった。だから位の低い召喚獣を呼び出すことにした。

私の求め【祈り】によって、飛空艇より真下の地面近くに大きなゲート=異界が出現。真っ黒な闇の中からぬっと顔を出して現れる二体の召喚獣。待ちわびた彼らだ!

 

『おう!姫じゃーん。やっとオレたちを呼んだな。待ちくたびれたぜ』

『姫の願いにより参上したが、肝心の姫はどこに……』

 

牛の獣人のような出で立ちで大きな体躯の方が弟のミノタウロス。小さい方だけどどこか落ち着いた雰囲気の方が兄のセクレトの兄弟召喚獣。丁度つりあいの取れている彼らはいつも一緒でどんな時にも前向きで幼い頃よく追いかけっこして遊び相手になってくれた。

兄のセクレトが呼び出したはずの私の姿がないことに戸惑いながら首を動かす。

 

『…しかし姫はどこにいる』

 

私は、タラップに両ひざをついてぎりぎり落ちないように注意しながら顔を覗かせ彼らにわかるように手を振った。

 

「私はここよ!」

『姫!なんでんなとこにいんだよ~?』

『なんと上空から…』

 

ブラザーズ二匹揃って首を動かし驚愕した様子で私がいる飛空艇に注目した。

丁度良いところに無事に合流したノクト達も駆けつけてきた。なんてタイミングだ!逃がすには絶好の機会。

だが、こちらの想いとは裏腹にノクトは「レティ!?レティ!!」

と狂ったように私の名を連呼して叫んでは何をとち狂ったか、ファントムソードとテレポートを駆使してこちらに乗り込んで来ようとした。鬼気迫る表情に気圧されてこのままでは飛空艇ごと沈められると悟った私は、「来ないで――!!」と叫びながら、ノクトに向かって速攻ブリザドで作った氷の塊を投げまくってこちらにくるのを阻止しようとした。いくつか避けられたが、一個がノクトの頭に『ごすっ』と直撃し、

 

「きゅう~」

 

と呻いて気絶したノクトはひゅう~~と下に落ちていく。けどこのままじゃ地面と熱いキッスを交わしてしまう!

 

「セクレト!お願い」

『承知』

 

間一髪セクレトが受け止めてくれたので良かった。デカいたんこぶ一つこさえる程度に収まって良かった、と額に浮かんだ汗を手の甲で拭う私に、クペはぼそっと「鬼クポ」と引き気味だったことは知らない。アーデンが忍び笑いしてたことも知らない。

ノクトは片付いたが、イグニスやグラディオにプロンプトはそううまくあしらうことができない。

 

「帝国軍だと、もしやあの男……。帝国軍宰相アーデン・イズニアだったか!」

「アイツ…!」

「姫――!!今助けるからっ!!」

 

一機団結して私を救い出そうとする気持ちはありがたいがまずアンタらが危ないんだと言いたい。気づいてないのか後ろでタイタンが暴れていることを!君らの足元で魔道兵が地に伏していることを!……これはイグニスとプロンプトがやったんだった。

 

なので彼らには「スリプル!」を掛けて仲良く寝てもらった。

バタリばたりと次々に倒れていく三人。あとは彼らを連れて脱出してもらうのみ!

 

「ブラザーズ!お願い!皆を連れて逃げて!貴方たちじゃタイタンには叶わないわっ」

『おいおい!?姫捕まってんじゃねぇかー!?今助けてやるぜっ兄貴!上まで持ち上げてくれっ』

『だが今王子が』

『王子なんてその辺に転がしときゃいいんじゃね?』

「ノクト転がしたらエアロガ&バイオぶっ放すぞ」

『オッシャー任せとけ!』『安心して行くがいい』

 

私の心からの願い(脅し)により、あっという間にミノタウロスはイグニス達を両脇に抱えて逃げる準備オッケーな体制となる。

素直な召喚獣って、素敵ですね!

 

「レティ!!」

 

私に向かって必死に腕を伸ばすノクトが一番に目に飛び込んだ。いつの間に気絶から復活を遂げたの!さすがに強くなったわねと息子の確かな成長を感じた母親の気分になった。しかしその声が、表情が、私の胸に突き刺さるの。笑っちゃいけない、セクレトに御姫様抱っこされて逃げてるとこは。シリアスな雰囲気が台無しになってしまう。

 

「お願い!私は大丈夫だからっ!ぷっ」

「レティ笑っちゃダメクポ」

「笑って……ないもん」

 

口元抑えてさっと視線を逸らすしか堪える方法はない。

 

「ブッフフフ!」

「完璧吹いてるしね」

 

そこ五月蠅い!

嘘でもなんでもいいから安心させなきゃ。

私のことよりも自分のことを考えて。レスタレムに戻ってイリス達を守って。コルたちがノクト達を待ってるから。きっとノクト達の力になってくれるから。

 

言いたいこと、たくさんあった。

待ってて、……とは言えなかった。何より、

 

「レティ!!」

 

ごめん。その姿がミスマッチすぎてお腹痛い。

ノクトの悲痛な叫び声を聞きながら、私はブラザーズ達に捕まえられて無事に脱出をはかる彼らをずっと見送った。彼らが無事に安全圏に離れたのを確認して、私は不安定なタラップの上ながら、その場に立ち上がって、タイタンに向かって声を張り上げた。

 

「タイタン!私は、ここにいるわ!どうかその力を鎮めてっ」

『―――』(主を彼の地に)

 

私の声、届かない。届いてない。

 

「私は自分の意思でここにいるの。お願い――!!私は大丈夫だから、その力を鎮めて」

『―――』(我らは役割を果たす時がきた)

 

自分の言いたいことだけしか言わない。こっちはそれ[メッセージ]によるダメージがきてるってのに。

 

「だ・か・ら、私の話を、聞けぇぇえええ――――!!」

 

全力でぶっ放したコメテオが発動し、頭上から降り注ぎタイタンに命中していく。

 

ごすっ、どす、めりっ。

 

いつもよりも多く降っておりますコメテオ。その数、……ひー、ふー、みー、よー、いつ、むぅ、なな、やつ、ここ、とう。両手じゃ足りたかった。

暫く振っていたので座って見守ることにしました。空と比例して赤々と燃えて灼熱に燃える隕石が次から次へと落下する姿は見惚れるほど綺麗だったなぁ。

 

「クペ、綺麗だね」

「この世の地獄クポ」

「そうかな?」

「世紀末って感じだなぁ」

「アンタには聞いてないって!」

 

そんな会話を何度か続けてコメテオが落ちてこなくなった頃には、すっかりタイタンは落ち着きを取り戻してくれた。……あたりの地形がちょびっと変わってしまったけどそこは誰も文句は言わないでしょう。元々人が立ち入る場所じゃないし、ちょっとレスタレムの観光事情には打撃を与えるかもしれないけど、タイタンがいなくなったことで見晴らしもよくなってるはずだと無理やり納得させる。

 

『―――』(主よ、目覚めの一発に相応しい瞬間だった)

 

ちょっと凹んだり多少!ボコボコになったタイタンはこれから私に力を貸してくれると約束してくれた。

啓示?忘れてたって。丁度いい、これで彼女の計画は一部だが阻止できた。それにしても、どうしてメテオなんか担いでいたのが疑問に思って質問してみたら、案外理由は簡単だった。自分を鍛える為に担いでたんだって。来るべき時を迎える為にってことらしいけどそこらへんは分からず。とにかく、タイタンはこれから力を貸してくれることを約束してくれた。これで七神の内の三神が私に協力してくれることになった。タイタン、シヴァ、イフリート、後は直接彼らから話を聞かないと。

 

「ありがとう……タイタン!」

 

私は感謝の言葉を伝えて、光と共に消えていくタイタンに手を振った。

胸に手を当てれば、何か満たされていく感覚に新たな力が加わるのが感じとれてたわ。

 

こうして、私とクペは新たな境地へ旅立ったのであった……。

 

ここで回想終了。

 

【ほとんどレティが攻撃加えてた】

 

で、こうして私達は今に至るということです。

私の回想に最後まで付き合ったアーデンの感想は、これでした。

 

「…コントなお別れだったねぇ」

「………」

 

何かしらこの敵対関係であるはずの私達の間に広がる待ったり感。どうにも戦意喪失させる効果があるらしく、私はこのまま引きずりこまれてたまるかと、あくまで奴は敵であると自分に言い聞かせる。それにしても、なんともやる気のないコメント。ここまで回想を続けるのにどれだけ胸が張り裂けそうだったか。

 

「何処まで茶化せば気がすむの」

 

また私の靴を投げつけられたいのかと思って、靴脱いであげたのに奴は「狭い中で飛ばさないでくれるかい。機械って結構君が思うよりも繊細なんだよ」と迷惑そうな顔をする。私だって迷惑だわ!いちいち人の会話に首突っこんできてさ。

 

「狭い狭いってこれのどこが狭いのよ。あんた自身の視野がせまいんじゃないの?」

 

嫌味たっぷりに言い返せば、これまた嫌味で返されるとは、出来る奴!帽子を脱いで自分が座る脇に置くと、アーデンはふさっと髪を掻き揚げながら、

 

「これでも真面目に仕事こなしているんだけどね。君をわざわざ帝国に招いたりとかさ」

 

といかにも仕事熱心をうたうじゃないか。

 

「どこが仕事よ!人を殺しておいてのうのうとのたまわれたものね」

 

だがこちらはちゃんと筋は通してある。

約束も守っている。だが帝国がしたことはどうだ?自分たちの目的の為に沢山の人たちの命を奪ってクリスタルを奪った挙句に、まだ満たされない欲望の為にノクトの命まで狙おうだなんて。お天道様が許してもこのレティーシア様は許さないわ。

 

「……君も散々殺してるだろ。魔導兵を」

「あれは人形じゃない」

 

人形を倒して何が悪いと訴えるとアーデンは意味ありげに含み笑いをした。

 

「…ふっ、そうだよ。あれは『人形』さ。……そうだ。帝国に来るんだ。色々と学ぶといいよ。お姫様。君は世界を知りたかったんだろ?教えてあげるよ。世界がいかに無情で残酷で脆いか、を知るといい。君は、知らなければならない」

 

その表情は最後に少しだけ悲しそうなものになった。

 

「?」

 

だがすぐに飄々とした態度に戻ったので、目の錯覚かと気にしないことに。

 

「……ああ、向こうに着いたらすぐには会えないからね。少し部屋で寛いでいて」

「……監禁しようと?無駄よ」

 

バッサリと切り捨てるようないい方をすれば、アーデンは苦笑しながら顔を横に振った。

 

「監禁じゃないさ。監視はつけさせてもらうけど。お利口な君は知っているだろう?君の身分は『今は』ルシスの王族だって。……君らに個人的に恨みを持つものがいるから用心に越したことはないさ」

「ルシスに恨みを持つもの?」

 

どうにもきな臭いいい方をする。片眉が若干上がってしまういつもの癖がでた。

だって仕方ない。アーデンのいう言葉が不可解だからだ。

個人的という部分がどうにも怪しい。私のような娘を一人いたぶったところで王家に大々的なダメージが行くわけでもなし。今、レギス王が亡き王都は荒廃していく一方だろう。まさに恨みなど晴れたようなものじゃないか。……アーデンのいい方が正しいならその人物は王家の血縁者に対しても恨みを抱いて昇華しきれていないことなる。だから私にも、そしてノクトにも敵意を抱いている?ううん、ただの推測だけじゃ意味がない。

これは、今接触できる内に何らかの対処をしておいた方がいいかもしれない。いずれその被害がノクトにも届きかねないし。

 

私が緊張感から身を固くする一方で、本当に帝国の一宰相かと疑いたくなるほど、余裕ありありな欠伸をした。

 

「……ああ、そうだ。……ふぁ~……どうしてかな。君が傍にいるとさっきから眠くて仕方ない。…今まで眠れたことなどなかったのに……」

 

まるで眠ったことがないようないい方に半分呆れた視線を送る。

 

「……寝首掻かれても知らないわよ」

 

忠告だけはしておいたのに、アーデンはこちらが驚くような答えを返した。

 

「君にそんなことはできないと信じてるから大丈夫さ」

「馬鹿らしい。敵に信用してるですって?頭でも沸いてるんじゃないの」

「……そうかもね、……ああ、本当に眠い……」

 

そう言ってアーデンはゆっくりと顔を俯かせた。慌てて私が「ちょっと!?本気で寝ないでよ」と注意するがどうやら睡魔に襲われているアーデンには抗いようもないらしい。本人でさえその急な眠りに困惑しているようだったから。

 

「……わからない。……どうして、こん、な……」

「……もしかして……残業続きで睡眠不足とかじゃない」

 

適当に返してみたものの、病気とかじゃないわよねと妙な焦りを感じてしまった。……敵の心配してどうするの私!

 

帝国ってブラックだから居眠りとかも普通なのよ、うん。そうに決まってるわ。たとえ、お目当ての姫がいたとしても寝ることを優先させるのよ。……やっぱり悪だわ。暇つぶしの相手もしないとは。

 

「…確かにそうなんだけどね……。これも、きみの力なのか……」

 

そう呟いて、アーデンは寝息を立てて眠ってしまったようだ。

私に癒し効果でもあるのだろうかと不思議に思った。

疑り深い私は、そんな演技じゃ騙されません。

アーデンの目の前まで移動してやめた方がいいとクペが注意するのも構わずに、椅子から立ち上がってアーデンの目の前に移動。顔の前で手をひらひらと動かした。

 

だけど、反応はない。

 

「本気で寝ちゃった……。反応なし……クペ、なんだか変な奴よね。こいつって」

 

せっかくの暇つぶしがなくなったなんてこれっぽちも残念だと思ってない。

 

「………」

 

暫く様子を伺ってたけど反応はなく、戻って椅子に座りなおすと私の膝にクペがちょこんと乗った。先ほどよりは幾分か顔色がよくなったみたいだ。軽く撫でてあげると気持ちよさそうに身を委ねるクペ。

アーデンと一緒にいる空間すら怖いという感じだったから心配していた。しばらく撫で続けていたら、クペが何やら意を決して何かを伝えようとした。

 

「……レティ、この男から……ある気配がするクポ」

「アーデンから?」

「うん。……でも今は言うのやめとくクポ。……もうすぐ帝国領クポ」

「そうだね」

 

帝国に着くまでは時間が掛かるらしいから、今までの鬱憤晴らしということで思う存分、寝ているアーデンの顔に悪戯書きしてあげたわ。勿論、油性で。

 

【帝国領って肌寒いのね】

To Be Continued--

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