七転八起~しちてんはっき~
これぞという時にトラブルはつきものである。しかもニックスに言わせるならクソ!急いでる時に限って起こる。特にレティに会いたい会いたい衝動に駆られて気が狂いそうになっている時に限ってばかり。ニックスはとことんついてないようだ。
「本当に!申し訳ありませんっ!」
道路の往来で土下座して謝罪するグレンとその後ろで「クエー!」と気性荒くニックスとリベルトに対して敵意むき出しな様子の銀色のチョコボがいた。
「……チョコボってこんなに荒いもんか?」
「さぁな」
何処か疲れた目をしたリベルトと脱力感に襲われているニックスは目の前には大破して見るも無残な変わり果てた姿となったバイクを見つめた。
間一髪、持ち前の反射神経と幾度となく経験してきた戦闘経験から両者共に事故に巻き込まれることだけは避けられ、ガソリンが引火する前に機転を利かせたニックスのブリザラで凍らせることで大きな爆発も免れた。だが魔法が使えないはずのニックスがブリザラを唱えたことでまたリベルトと一悶着あったりもしたが、そこはレスタルムに着いたら必ず説明すると言い聞かせて無理やり納得させた。未だ疑念の視線は消えず、肩身が狭い思いをしていた矢先にこれである。しかし、しっかりと整備やら洗車やらしてくれたシドニーに対して申し訳ない気持ちにもなる。まさか壊した理由がチョコボに襲われてなんて伝えてたところで信じてくれなさそうだからだ。
そもそもどうして、こうなってしまったのか。
その原因の一端ともいうべきものが、グレンの愛馬ならぬ、愛鳥『トワイライトフェニックス』だ。元々はぐれチョコボだったらしくモンスターに襲われて怪我を負っていたところを助けて懐かれたのでグレンが世話をすることになったらしいが、いかんせん、性格に難ありであった。何をとち狂ったか、トワイライトフェニックスは突如二人が乗るバイクに攻撃を仕掛けてきたのだ。些細な言葉に過敏に反応したらしい。ニックスがグレンに向けた
「オレは急ぐがお前のペースで走ってもらっていい」という気遣いの言葉が彼、トワイライトフェニックスにはこう聞こえたらしい。
『オレはこの最高のバイクで疾走するがお前は精々オレのケツでも追っかけてな』
それで鳥だからトサカにきたのか、「クエ~~!!」と怒りの鳴き声を上げてグレンを振り落とし制止する声も聞かずに二人が乗るバイクに鋭い足でけり攻撃やら嘴攻撃をしてきた、というわけである。どうやら気難しい性格の彼女のようだ。だがグレンはトワイライトフェニックスと名をつけて愛情を一心に注いでいる。多少の荒事もこれが初めてではないらしい。……その愛情はほとほと半影されていないようだが、さらに問い詰めて詳しく話を聞けばグレン以外には攻撃的になりコル将軍にも攻撃を仕掛けたこともあるという。ニックスがため息をつくとなおさらグレンは申し訳なさそうな顔をした。
「……はぁ」
「本当に申し訳ありません」
「もう気にするな、仕方ない」
土下座をやめさせたグレンはまだしょんぼりと肩を落として気落ちしていて、ニックスはそれ以上落ち込んでいるとまたトワイライトフェニックスに攻撃しかけられると危惧して慌ててフォローを入れた。ギラリンとトワイライトフェニックスの瞳が光っていたようでニックスは背筋がぞくっとした。あの嘴で襲われたらひとたまりもない。なんせ、奴の嘴はまるでドリルのように容赦なく機体に穴を開けたのだ。一体何を食わせればああなるのか、知りたいようで知りたくない。
主人であるグレンにばかり愛想振りまくシルバーのチョコボは出会いの最初からしてニックスとリベルトを『ハン?うちのダーリンに比べたら貧相すぎて足元にも及ばないわ!』と言った風に見下した態度だった。予想外に機械音痴らしいグレンは車ではなくチョコボで二人の元までやってきたらしい。それとトワイライトフェニックスがグレンから離れたがらないらしい。彼しか世話を出来る者はいないのでそれも納得できる理由だ。仕方ない。人には得手不得手というものがある。
たとえ、チョコボだろうと世の中には空を飛ぶチョコボもいると聞く。……噂程度だがそれでもバイクの後方でくっ付いてくれば問題はない。
と考えていたが甘かったらしい。世界はとことんニックスに厳しかった。
レティに会いたいともがけばもがくほど距離がどんどんと遠のいていく。
「で、どうすんだよ。バイク壊れちゃ徒歩しかねーのか?」
リベルトの嫌々とした表情にニックスも同調し、「徒歩しかねぇだろ」とげんなりしたいい方をするしかない。
ゲンティアナは急げと言っていたが、これではいつレスタレムにたどり着けることやら。
「あ!お待ちください。他のチョコボを呼べますのでそれに乗って行きましょう」
「……性格悪いのは遠慮して置くぞ」
ぼそっと苦言を述べるニックスにグレンはキラキラとした笑顔で言い切った。
「大丈夫です!トワイライトフェニックス以上のチョコボは中々いませんから!」
「クエ!」
親ばかならぬチョコボ馬鹿。
ニックスとリベルトは声を揃えて呆れたようにこういった。
「「あっ、そう」」
果てしなくどうでもいい。
今さらながら、なぜコルがこの人物を寄越したのかさっぱり意図が分からない。まるで厄介払いをされた気がして何となくまだ見ぬコル将軍に対して恨まずにはいられなかった二人。
グレンが呼んだチョコボに跨ってニックス一行は急ぎレスタルムを目指すことになった。道中、コルからの信じがたい連絡に血相を変えたニックスは誰よりもチョコボに激を飛ばして、先頭の風を切って駆けた。
※
チョコボを休ませては走らせ休ませては走らせを繰り返してようやくレスタルムにたどり着いた頃には日付もまたいで日も沈む夕方になっていた。だが町の様子が明らかにおかしいことに気づいたニックス達は驚愕し、声に出さずにはいられなかった。
「なんだこりゃ」
「これは……」
目を見張るニックス達の前には、情報として聞いていた観光名所とは程遠い厳戒態勢にあったのだ。銃を持った物々しい警備の男数名が町の出入り口各所に配置され、そうやすやすと中には入れてくれ無さそうな雰囲気なのは丸わかり。観光スポットとして有名な展望台公園には閑古鳥が鳴いていて人っ子一人おらず、使われていない屋台がひっそりと現状を物語っていた。歓迎されてない様子だが、事前にコルから指示を受けたグレンは「オレに任せてください」と言って愛鳥から降りた。二人は倣ってチョコボから降りることに。こちらの動きに注目していた警備の男たちはグレンが接近してくると分かると僅かに緊張感に銃を持つ手に力を込めているのをニックスは見逃さなかった。リベルトにだけ聞こえるように小さな声で「なんかあったら下がれ」と耳打ちし、リベルトは表情を変えずに「わかった」と短く答える。
グレンのことを信じていないわけではないが、万が一ということもある。ニックスはいつでも魔法を唱えられるように右手に意識を集中させながら注意深くグレンと警備をしている男と会話を少し離れた場所で見守った。
「レスタルムに何のようだ。今現在町への出入りはとある理由により制限されている」
「オレはコル将軍によりある任を仰せつかったグレンと言います。火急の件にて、中へ入る許可を頂けますか?」
丁寧な口調でそう願い出るグレンに対して、人一倍屈強な男は自分よりも背の低いグレンを見透かすかのように目を細めてこういった。
「………話は聞いている。だが証拠は?」
「信じていただけないのですか!?」
まさかそう切り出されるとは予想していなかったらしいグレンは目を見張って大声を上げた。だが男は悪びれた様子もなくあっさりと言った。
「悪いな、これも仕事だ。ボスからは怪しい奴は徹底的に疑えと言われてるもんでな」
「そんなっ!」
「将軍の使いともなれば、それなりの証拠があるはずだろう。それを提示願おう」
男は顎で他の仲間に指示を出すと他の男たちはグレンを威圧するように銃口をグレンへと向けた。その内一人の男が連絡の為に奥へと走っていく姿が見えた。これは応援を求めたということだろう。これにたじろいだグレンは「くっ!」と小さく呻いた。この時、うっかりグレンの頭の中には直接コルへ連絡を取るという選択肢はスッとんでいた。
そして同じく連絡手段を忘れていたリベルトはまさかの展開に憤りを覚え、
「黙って聞いてりゃ……アイツら何様のつもりだっ!」
と言いながら腰元に装備してある武器に手をやりながらニックスに視線をやった。
「おい、ニックス!いっちょアイツらブッたおして……?」
「………」
だがニックスは無言だった。
「お、おい!?ニックスっ!!」
それどころかここで待てという指示を無視し、なおかつリベルトの掛け声など無視してズンズンとグレンの元へ歩いていくではないか。慌ててリベルトも後を追いかける。
「どけ」
「えっ」
強面な表情のニックスはグレンを乱暴に横に退かし自分へと標的を変えさせる。一斉にニックスに銃口が向けられるがそれに臆することなく、「さっさと中へ入れろ」と低い声で相手側を威圧する。少したじろいだ男の仲間たちだったが、真正面に立つ男は片眉を少し上にあげて、
「ほぉ、お前。相当な腕前だな」
とわずかに口角を上げてニックスを褒めてきた。常人ならぬ雰囲気に一発でニックスが戦闘の経験を踏んでいることを看破したということは、相手もそれなりに手練れということ。
「だが証拠がなくちゃ、なぁ」
「だったら直接やり合ってみせてやろうか」
負けじと相手を挑発するいい方にグレンはぎょっとしてニックスの腕を掴んで止めようとした。
「ちょっ、ニックスさん!目立つ真似はするなとコル将軍からキツク言われてますから」
「ニックス!やめろっ」
さらにもう片方にはリベルトが同じくニックスを止めようと肩を掴んだ。だがニックスはそれらを乱暴に振りほどいては、
「うるさい、黙ってろ。オレは一分一秒でも早くレティに会いてぇんだよ!こんなところで道草食ってられるか!」
と怒鳴りつけた。さらに右手を顔近くまで掲げて指関節をぽきぽきと鳴らしながら手の中に赤々と燃える炎を出現させて男たちに「なんだ!?あれは」とそれぞれに動揺を与えて意表を突かせ、身を引かせた。
「オレの道を阻むなら、誰であろうと容赦はしねぇ」
ニックスの気迫に気圧された男たちは得体のしれぬ恐怖に身を竦ませた。一歩一歩と後ろに下がっていく男たちがもつ銃口は震えていて、まともにニックスを捉えることもできずにいた。その中、微動だにも動じなかった男に一つ変化が生じた。
「なぜ王族でしか扱えない魔法を、お前が……?」
「悪いか?オレは特別でね」
軽口でそう言い返すニックスに男は目を見張り、しばし互いに膠着状態が続いたがそこに介入する者が現れた。
「おい、何してんだよ。マリオン」
先ほど連絡に走った男を伴って複数の武装した数人を引き連れて現れた年若い男がそう声を掛けたのに対し、マリオンと呼ばれニックスと対峙している男は
「お前か」
と体を動かしてそちらに視線を向けた。ニックスはまた邪魔者が現れたかと舌打ちしながらそちらに視線を向けた。そして、その男の顔を視界に入れた途端、「……嘘、だろ……」と呆然と戦意喪失してしまった。グレンはニックスの異変に首を傾げ不思議そうな顔をして、リベルトはニックスが呆然としてしまう理由が分かった。というか、リベルト自身も顎が外れるくらいに驚いてはいた。なんせ、その相手の顔に何となく見覚えがあったからだ。幼い頃から親し気に遊ぶ幼馴染の顔をそっくりそのまま成長させたように瓜二つだったのだ。そして、親友であるニックスと似たような容姿。背丈こそ多少違うものの、雰囲気が似ているのだ。
その注目すべき男はニックスとリベルトがガン見するにも気にせずに、くわっと暢気そうに欠伸を一つしながら頭部を軽く掻いた。
「怪しい奴来たからって俺を呼ぶなよ、他の奴まわせってぇの」
「俺は呼んだ覚えはないぞ」
「だからって……ん!?」
ニックスはマリオンと呼ばれた男を押し退いて、「おい!」と声を上げた。その姿はどこか必死さを感じずにはいられなかった。ニックスに突然声を掛けられたユリと呼ばれた男は最初こそ怪訝そうな顔をしていたが、まじまじとニックスの顔を見つめては徐々に戸惑いを露わにしていく。
「あ?………え、……」
そこへ畳みかけるようにニックスはこう尋ねた。
「お前!お前もしかして、ユーリー・ウリックか!?」
「なぜ、俺の名を………」
「ユリ!オレだ!分かるか!?」
ニックスは自分の胸に手を当てて必死に訴えた。
「………?」
幼い頃、ユリという愛称で村の友達に女らしくてイジメられた経験から自分でも嫌いだと普段からぼやいていた彼に対し、兄妹である兄と妹そして母は『自分たちは好きだ。お前だから似合っているんだ』と何度も言い聞かせてユリという名前が特別であることを伝えた。だからこそユーリーは今でもその意味合いを大切にして自分が気を許した相手にしか愛称で呼ばせていない。レティに対してもそうだ。出会って間もない彼女に愛称呼びを願ったのは自分を知ってほしいという気持ちを込めてこそだった。
今の仲間内でも自分を『ユリ』と呼ぶ人間は数少ない。両手で足りるくらいだ。
それに、そもそも初対面で自分を愛称で呼べる人間など彼は知らない。ということは、今自分に向かって叫ぶ男は初対面ではないということ。結論として、ユーリーの中で一つの可能性が導き出された。
「ま、さか………。ニックス、ニックス・ウリック?……兄、さん……なのか」
幼い頃に別れたままの記憶から飛び出すように互いに成長を遂げた思いがけぬ再会は、突如予期せぬ形で起こった。
【これも必然か】