レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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一陽来復~いちようらいふく~

「ホントキっツイ!」

 

何度目の愚痴になるだろうか、あいにくと女に暢気に数えていられるほど余裕はなかった。得意の魔法が使えない中、一人と一匹で旅をしているなど常識では考えられない話だ。肉弾戦で戦う術はあるものの、利口な頭を持つ一般人なら身一つでモンスターに挑んだりはしない。だが女は一般人ではない。戦闘経験はあるが、それはあくまで魔法での体験に過ぎない。体を張っていたのは主に男の方だった。

 

ふと、今はもういない仲間たちが脳裏をかすめる。

色々と気心知れた仲で、共に故郷を懐かしんでいたころが懐かしい。

だがそれも王都崩壊という事実と共に過去のものとなった。

 

女とゲンティアナは知り合いではなかった。

 

たまたま、通りすがりの所を助けてもらって

気まぐれに、命の危険があることを教えられて、

たまたま、優秀な犬をサポートに当てられて、

気まぐれに、死にたくなければ何があっても素性を明かすなと言われて、

たまたま、女の知り合いがレスタルムを目指すだろうからそこに行けと言われて、

女はこうやってレスタルムを目指している。その道中、王都陥落の記事を読んだり、レギス陛下が崩御されたこと、王子と神薙が死亡し王女は行方知れずという内容を目にしたりしたが、女はゲンティアナの言いつけ通り素性を明かすことも、友人の仇討ちなんてこともしなかった。

 

ここに至るまでの経緯は省くとして、ほとほと今の自分は幸運の元にあると思わざるを得ない。不思議なもので自分の手では余るモンスターと遭遇することもなく、今までそれなりハンターの仕事をこなしながら金を稼いで無事にダスカ地方へ来ることができたのだ。そして目的地ももうすぐというところ。

 

「あー、足いた」

 

節約の為にとチョコボに乗るのはやめておいたもの、やはり脹脛がパンパンでむくれている。女はブツブツと文句を言いながら使い潰してくたびれたブーツで歩き出す。

すぐ自分の横を快適な文明利器、車が走っていく中、ヒッチハイクもいいかもと腕を上げようとするが、はたりと思い出す。あの底冷えするような冷たい瞳を。

謎の女、ゲンティアナに氷漬けされるのではないかというくらいの気迫というか脅し?

はっきり言えば、素性を明かすなと言われているのですぐに諦めて上げかけた腕を下す。どちらにせよその車の男女のカップルは見た目怪しげな女を乗せるほどお人好しではないだろう。王都であのような事件があったのだ。警戒して素通りするのが賢明だろう。だが羨ましげに見つめるのだけは押さえられまい。

 

「あのバイク使えてたら……」

 

自分が王都から持ってきたバイクはあいにくとあの女が氷漬けしてくれたので全く使い物にならず置いていくしかなかった。

その横を軽快な足取りで歩き寄り添う毛並みの白い犬。利口そうな顔つきで女を見上げながら、まるで

『どうしたの?』と問うような瞳だった。

女は短い期間なれどすっかり相棒となっている犬に視線をやりながら

 

「あー、先は長いって思っただけよ」

 

と何となしに答えた。女は犬の言葉が分かるわけではない。

なんとなくそう言っているんじゃないかと考えただけだ。白い犬は少し首を傾げていたが前を向き直した。

 

王都近辺から脱出する時は徒歩。ハンマーヘッドでチョコボに乗れるかと思いきや、謎の休業状態。車を手配しようにも顔は出せないし偽りの名でホテルにも泊まる始末。

しかも徒歩でレスタルムまで行けとはどれだけあの女は鬼なのかと叫びたくなる。氷のような微笑を浮かべて言うことはS気質かと疑いたくなるばかりなことばかり。

 

「いえ、まさかね」

 

女は、そんなことないはずと軽く頭を振って目深にかぶったフードに手を掛けてすっと下した。

だいぶ目的地に近づいてきたからか、熱気のようなもわっとした空気になってフードの中も蒸れて仕方ない。適当に纏めた髪が汗で湿っており気持ち悪さに顔を歪めた。腰元に着けてある水筒に手をやりきゅっとボトルの蓋を開けて口元に持ってきて、残り少ない水で喉を潤す。

 

ああ、生き返る。

 

少量の水だが、全身にいきわたるような清涼感に満たされる。

レスタルムに着いたら速攻ホテルに受かって思いっきりシャワーを浴びてやるわと女は決めている。

 

「でも、……ゲンティアナの話が本当ならニックスもリベルトも生きてるなんて……」

 

そう、ニックスと言えばレティである。

あのいつもフードを被って人目を気にしながらも弾んだ声で自分たちの故郷のことを尋ねてくる様子は子供みたいに無邪気で話しているこちらの方も熱が入るというもの。

しっかりと相槌を打って気になったことはドンドン質問してくる勉強熱心なところも好感が持てた。最初は胡散臭い子と怪しんだが、そんな印象は弾む会話であっという間に吹っ飛んで行った。

 

「レティも人が悪いわ。私が家柄くらいで差別するような女とでも思ってたのかしら。あんな吃驚は一度の人生でこれっきりにしてほしいって」

 

女はレティと面識があった。というか勝手に友人同士だと受け止めている。

だがいつもフードを被っていたし、大抵ニックスと共に見かけることがほとんどで、てっきりニックスの彼女だと思っていたが当のニックス本人は疲れた顔をして『いや、色々とな事情が…』と随分と歯切れの悪いいい方をしてものだ。女は、ああ、片想いなのねと同情の眼差しでそっと肩を叩いて、今日一杯驕るわと慰めずにはいられなかった。ニックスは複雑そうな顔をして、サンキュと礼を言っては深いため息をついた。

確かに恋愛面では初心そうだったので、ニックスも苦労するわけだと納得せざるを得ない。

 

だがどうだ。蓋を開けてみれば、ルシスの王女様ときたものだ。これには鳩が豆鉄砲を食ったような顔にもなるというもの。

自分たちよりもずっと雲の上の人。ドラットー将軍でさえ面会など許されないほど厳重なお城の奥に閉じ込められた王女。どれだけ可憐な姫なのかと思いきや、城から抜け出す常習犯で本に夢中になると寝食さえ忘れてしまうほどだという。自分たちと会う度に城から抜け出していたとは、かなりのお転婆姫であったと窺い知れる。

 

水臭いとも思うし、同情の念を禁じ得ない。

レティが外の世界に強く憧れを抱いていたのはひしひしと言葉のそこかしこから伝わってきたが、まさかこんな形で世界に出るとは本人も予想していなかっただろう。どれだけ今回のことの胸を痛めていることか。孤児である自分にも親を失う悲しみは理解できるつもりだ。けど、この事件の手引きをした人物がまさか自分たちの上司。

 

「ドラットー将軍が謀反を起こすなんて……」

 

今でも信じられないと思うが、実際自分は命を狙われた。

自分は都合の良い駒だったということ。今、助かっているのが奇跡みたいなものだ。でなければ、今頃遺体を保存するケースの中で永遠の眠りについてニックスとリベルトと感動の再会ならぬ涙の一方通行な再会をしているはずだろう。

 

それもこれも全てはゲンティアナとこの託されたプライナのお陰である。

モンスターと出来るだけ遭遇しないルートで案内してくれて、水が無くなった時など不思議と水辺がある場所まで案内してくれたり、お腹が空いていると気が付けば口元に食材など銜えていたり、至れり尽くせりなできた犬。彼女のお陰だ。

 

「アンタって本当にお利口さんだね。プライナ」

 

ちゃんとお座りをした白い犬が「わん!」と元気よく鳴いた。

まるでそうでしょう!と言わんばかりに。女はフサフサの毛に手を伸ばして思いっきり撫でてやる。

きっと、プライナは人間の言葉を理解できる犬なのだと女は考える。

 

さて、近いとは言えもうもう少しで日も暮れそうである。

女は気合を入れなおして、水筒を腰元につけなおすと

 

「さて、気を取り直して歩きましょうか」

 

と旅の相棒であるプライナに一声かけて歩き出した。プライナは「わん」と鳴いて女の後を追いかけた。

 

レスタルムまであとすこし。女は知らないだろう。そこで意外な人物に出会うことを。

【彼女と犬の二人旅】




彼女の正体、誰だか皆様にはお分かりいただけたでしょうか?
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