レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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和衷協同~わちゅうきょうどう~

レティの指示によりブラザーズのお陰で無事カーテスの大皿から逃げることができたノクト達一行は、なぜかレスタルムではなくチョコボポストに連れて行かれそこで止む負えなく身を隠すことになっていた。

 

去り際、唯一意識を失っていなかったノクトはブラザーズ二匹に対して「レティは何処だっ!!何処に連れて行かれたんだ!?」と必死に縋りついて居場所を尋ねたが、彼らの言語を理解する力はノクトにはなく、ブラザースもノクト達にレティの様子を伝えようと試みたものの、やはり王の力失くして意思疎通は難しく名残惜しくも、後ろ髪を引かれる思いで異界へと帰って行った。

 

「レティ、……なんでっ」

 

意気消沈と言った様子でノクトはトレーラーに閉じこもりで数日間自分の無力さを嘆いてばかりだった。ベッドに腰かけてくしゃりと髪を掻きむしりながら、何度も何度もレティの名を口にする。

じわりと視界が緩んで、瞼をぎゅっと閉じて何とか気持ちを抑えようとするが思い通りにいかない。

 

「レティ、レティ……」

 

今も脳裏をよぎる、レティのあの悲痛な叫び声とわずかに交差した彼女の深い悲しみを宿した瞳。ノクトがレティを助けようと「レティ!?レティ!!」と何度も名を叫びながら必死に能力を駆使してレティが捕らえられている飛空艇を目指す中、「来ないで――!!」レティは声を張り上げながら、自分に向かってブリザドの魔法を連発したことを。レティが望んでやったことではないことをノクトは分かっていた。その時は混乱してどうしてだ!?と問いたかったが、それも頭に直接ブリザドの攻撃を受けてしまいそこで一旦意識を手放してしまった。次に目を覚ました時は己の体は見たこともない召喚獣の腕の中にあり自分は情けないことに運ばれてカーテスの大皿から脱出する途中だった。仲間たちが意識なく運ばれているのを目にしながら、ノクトはレティの姿を必死に探してようやく見つけた時にはすでに手が届かない域だった。

無我夢中でノクトはレティを求めて声を枯らして叫んだ。

 

レティ、レティと。

 

飛空艇のタラップから身を乗り出してレティは安心させようと「お願い!私は大丈夫だからっ」と気丈に微笑んではいたが、すぐにレティは口元を片手で覆ってノクトから顔を背けた。それ以上言葉にできなかったんだろう。

 

私は大丈夫だから――ノクトは逃げて。

 

囚われの身になることでノクト達を帝国軍から守ろうとした。あの抜け目ない宰相がそうレティに迫ったんだろう。それを断ればノクト達の命は保証しないとかレティの弱みに付け込んでそう脅したに違いない。

 

あふれ出る悲しみを抑えきれなかったんだろうにまるで嗚咽を漏らすかのようにレティの肩は小刻みに揺れていて尚更ノクトは胸が締め付けられ息が詰まりそうになった。

 

その華奢な体をこの手に抱き寄せられたら。

その細い腕を捕まえて顔を寄せ『泣くな』と耳元で囁き悲しみを消せたなら。

瞳から零れるいくつもの滴を指で拭い取り、安心できるようにいくつものキスを送れたら。

 

だがそれも叶わない。

 

二人を別つ距離はあっという間に空けていき、ついにレティの姿はノクトの視界から消えてしまった。無情にもノクトの叫びは届かず、その後何とか召喚獣の拘束から逃れようともがく中カーテスの大皿から無事に脱出したところで空が真っ赤に燃えるようにいくつもの隕石が降り注ぎ自分たちがいた箇所に降り注ぐシーンには絶望すら抱いた。

コメテオが発動したということは、頭ではわかっていても感情が追い付かず呆然と見守るしかなかった。ファントムソードを幾ら集めた所で、今のノクトはただの母国を失った王子。王の資格はあれど確定されたわけでもなく、その証さえない。

 

自分の力に対する認識の甘さとレティに庇われた悔しさ、置いていかれた苛立ち、愛する者を奪われた憎しみ。ごちゃごちゃな感情に心を乱しながらノクトは一人レティの名を、姿を求めた。

 

一方でラジオではレイヴス将軍自ら声明を出し、調印式襲撃に関与した犯人を特定するために帝国軍によるダスカ地方封鎖を指揮したと発表されている。大規模なあぶり出し作戦によりノクト達は暫くの間、そこで身を隠すよう、レスタレムにいるコルからの指示により未だとどまっているのが現状だ。他にも巨神討伐成功などと嘯いている話から推察すると、タイタンは何らかの役目を終えて異界へ戻ったと見受けられる。これは少なからずレティが無事であることを証明している証だった。

 

レティが帝国軍に連れていかれてより早数日は経っているが、一行にレティに関する情報がないまま今に至る。最初こそすぐにレティを助けに行くと意気込んでいたノクト達も日数が経つと同時に不安や苛立ちにより精神的にもピークに達し、イグニスとプロンプトとの間でもめることもしばしばあった。すぐにでも助けに行くべきだ!と強く主張するプロンプトに対して、イグニスは高ぶる気持ちを抑えてこんな時こそ冷静になるべきだと言い返す。だが焦り一つ見せないイグニスに対してプロンプトが気に食わないと食って掛かったりする。またそこで言い争いが始まろうとするので年長のグラディオが間に割って入り何とか場を鎮めるという繰り返し。グラディオも何度も同じやり取りばかりで辟易していたが表情に出すことはなかった。それをしてしまえば元も子もなくなるからだ。今必要なのは落ち着いて時を待つこと。

かつて、父クレイラスから言われた言葉を心に何度も唱えて自分だけは平常心でいようと心に強く念じる。

何度目になるか、今後の相談をするもまた同じような展開になるのではという疑念が頭の片隅に沸くが、今度は大丈夫だと自分に言い聞かせるしかない。こればかりは、己の精神面と時間との闘いなのだ。

 

「これからどうする?」

「……シドニーに連絡はしたが、無事レガリアが発見されることを祈るしかない」

 

中々連絡が着かなかったシドニーとやっと電話が繋がったかと思えば、すでにコルから応援を受けたもののこちらと合流するのにもゲートでの検査を受けねばいけないらしい。そこで手間取っているのでこちらに来るのは時間が掛かるとのこと。しかもレティが連れ去られたことは彼女の耳にしっかりと伝わっており、どうして守れなかったの!?と涙交じりに叱責され、言い訳のしようもないとイグニスが辛そうに謝るとシドニーは言いすぎたと口を噤んで慌てて謝罪した。誰が悪いわけじゃないもんねと付け足す彼女の声は暗く沈んでいたが、わざと声を明るく戻すと、私とじいじも行くから落ち込まないで!一緒にレティを探そうと励まされるもイグニスは力なく頷くだけにとどめた。

 

「でもさ、姫は?レティはどうするのさ!アイツあのアーデンって宰相の卑怯なやり口分かるでしょ!?オレ達、きっと餌に使われたんだよ。だからレティはアイツの言いなりになるしかなかったんだ……。早く助け出さないと」

 

落ち着きなさげにプロンプトは軽く爪を噛んだ。イグニスは深くため息をついて苛立った様子で言い聞かせるように口を開くが、畳みかけるようにプロンプトが詰め寄った。

 

「プロンプト、もうその話は済んだことだ。今は現状を」「イグニスはレティが心配じゃないの!?」

 

勢い余っての発言だろう。だがイグニスにとって最も言われたくない言葉だった。だからこそ噛みつくように声を荒げて、普段の冷静さを金繰りすてて言い返した。

 

「心配に決まっているじゃないかっ!!当たり前のことを言うな!」

「だったら」

「だが心配ばかりしていて現状が変わるわけじゃないだろう。オレ達には今やるべきことをやるしか手はないんだ。幸い、レティにはクペが付いている。オレ達は信じて待つしかないんだ!いい加減わかってくれ」

「……言わなくたって、分かってるよ!!」

 

そう怒鳴り返したプロンプトは拳をぎゅっと握って下を向くとイグニスから視線を逸らした。

行き場のない怒りをぶつけたいのは皆同じなのだ。

力不足により招いた事態。レティの身柄と引き換えに助かった自分たち。

待てば海路の日和ありということわざにもあるように焦らずに待ち続けることが大事だろうが、彼らも我慢の限界だったのだ。

 

そんな時、ついに幸運は現れた。

一匹の犬と共に。遠くから呼びかけるように鳴く犬の声。

 

「わん!」

 

聞きなれたその犬の声にグラディオたちは思わず辺りを見回した。

 

「これって」

 

そこにトレーラーのドアが開いてノクトが出てきた。

 

「アンブラだ……!」

 

暗い表情を吹き飛ばし期待籠った声でノクトはいち早く駆けだしてアンブラの元へ急ぎ足を動かした。それに慌てて続くグラディオたち。

何かが変わる気がしたのだ。このひたすら待つだけのもどかしい環境から打破するだけの何かがあると期待せずにはいられなかった。

アンブラは木々の間から顔を覗かせ「わん!」とまた一鳴きして続けと言わんばかりに走り出した。ノクト達はアンブラの姿を見失わないように小さき先導者の背を追い続けた。

 

「アンブラ!待て!」

 

ノクトの掛け声に止まる様子はなく、しばらく走った先でようやくアンブラは止まり行儀よくお座りの状態でノクトたちを待っていた。だが視線はノクト達ではなく木の陰にいる誰かに向けられていた。

 

「―――ゲンティアナ」

「聖石に選ばれし王子よ。レティを救いたくば雷神の元へ行きなさい」

 

黒衣の女、ゲンティアナは両目を閉じたままそうノクトに行き先を促した。

 

「どういうこどだっ!?レティが今どうなってんのかお前は知ってるのか?!」

「レティは今凍てつく大地、帝国に囚われている。神薙が――「レティは無事なのか?!」………無事よ。でもあの子の心は現実よりも強くはない。だからこそ、お前はルナフレーナが持つ光耀の指輪を手にするのです。あれは召喚獣の声を届ける。今のお前ではレティを助けることは不可能なのだから。ルナフレーナは水都にて待っている」

「そんな」

 

今の自分ではレティを助けるには力不足。そう、ゲンティアナに正面切って言われてショックを隠し切れずにノクトは額に手を当てがいながらよろよろと体を後退させた。

 

「王子よ、お前はまだ『王』ではない。それだけは心にとどめておきなさい」

 

ゲンティアナは風に溶け込むように姿を消していった。

プロンプトは辺りを見回すようにゲンティアナの姿を探すが、本当に消えてしまったことを目の当たりにして愕然とした。

 

「あの人って」

「神話の時代から神薙を支える神の遣いだ」

 

イグニスが完結に説明すると、プロンプトはいまいちわかったような分からないような微妙な顔をした。

 

「神の遣い………でもそれってルナフレーナ様に近い人なんでしょ?なんでわざわざレティの無事を知らせてくれるんだろう……」

「それは、……分からない」

「しかし、話が大きくなってきたな。まー、もうすでに大事だが」

 

グラディオが腕を組んでにやりと笑みを浮かべた。やるべきことが今の出はっきりとしたからだ。後は、ノクト次第なのだが。

ちろりと視線をノクトに向ければ、ゲンティアナから痛烈な一言は相当堪えている様子。

 

「……」

 

ノクトはアンブラの前で膝をつくと、ルナフレーナからの日記を手に取りパラパラとページをめくった。新たに追加された彼女からの絵と労わり込められたルナフレーナ直筆。

 

【ノクティス様もどうかご無事で――】

 

ノクトはそっとその字に指で触れ、瞼を閉じた。

幼い頃の彼女との思い出がよみがえってくる。

 

「……ルーナ……」

 

思い返せば初めて会った頃からルーナは自分の助けになると口に出していた。今もレギスから託された光耀の指輪を手にノクトを待ち続けていると考えると、頭に冷水を浴びせられたごとく乱されていた心がすぅっと落ち着いていくのを感じた。

今の自分に足りない物。それは落ち着くことと静かに諭されているようにも思え、ノクトは瞼を開き、口元に笑みを浮かべ「ありがとな、ルーナ」と礼を言わずにはいられなかった。

 

ノクトはレティを必ず助けるという意味合いも含めて、ハンマーヘッドでレガリアを背にして共に皆で笑顔で写真を撮った一枚を取り出して次のページに張り付けた。そして一言、写真の下に『必ず会いに行く』と添えてパタンと本を閉じてまたアンブラに託した。

 

「レティは、必ず助け出す」

 

しっかりと言葉に出すことで、奮い立てるような気がした。

 

【まだ彼は真実を知らない】

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