二人が最後にたどり着いた世界は、ノクトにとっては見慣れた光景の一部だった。
城を背にしての城門前広場がそこにあった。
『ここはお城の前だね』
「…着いた……」
「…こうなってるんだ、わたし初めて…」
きょろきょろと辺りを見渡すレティにノクトは納得したように言った。
「そっか、レティはいっつも城の中までだもんね」
「うん……でも、なんだか変なの」
静かすぎて、不気味だとレティはノクトの袖をぎゅっと握って怖がった。ノクトはいたっておかしいところは感じなかったが、レティの不安がる様子になぜだか少し緊張した。
何か、いる?
カーバンクルは階段下まで降りていき、くるりと二人のほうを向きなおした。
『う~ん、なんだかおかしいな。ここが君の落ち着く場所?確かにお家だけど』
だが途中で言葉は途切れた。
「カーバンクル!危ないっ!」
「レティ!?」
黒い闇の塊が出現したと思ったその瞬間、全てを薙ぎ払うような大剣でカーバンクルを横に吹き飛ばしたのだ。
『きぅいんっ!』
カーバンクルは飛ばされ壁に激突し鳴き声を上げて反動で地面に落ちる。
「は!?」
「ノクト!」
黒い塊。それは黒い装甲に覆われた巨人だった。
チャリチャリと金属がこすれあう音を出しながら、ノクトとレティへを標的と定め襲い掛かろうと歩き出す。
「……ぁあ……ああ!」
「ノクト逃げなきゃ!」
レティが恐怖に恐れおののくノクトの腕を掴んで逃げようと引っ張るが、足が地面に縫い付けられたかのようにノクトは動けなかった。
『どんな悪夢が来たって僕は負けない!君たちを守るんだ!!』
小さな体で必死に二人を守ろうとしてくれているカーバンクル。その背にレギスの言葉を思い出したノクト。
『怖い夢を見たらコレがお前を守ってくれる。でもいいか、ノクト』
レギスは言った。
『夢の中ではお前が王様なんだ』
そう、願うだけじゃ叶わない。
そうだ、怖がるだけじゃ守れない。
「僕はこわくない」
守らなくてはいけない人を守る力を!
僕は手に入れるんだ!
ノクトの決意に応えるように、周りに小さな光が現れノクトを包んでいく。それは姿形を変えいき、レティはその光景に口元に手をあてがって目を瞬かせて驚いた。
「……ノクト…。大きく…なった…」
『それが君の姿なの?』
そう、幼いのノクトではなく、青年の姿へと変化したノクトが今、目の前に立っていたのだ。大人になったノクトは今よりも低い声に男らしい喋り方で、レティを見やりながら言った。
「レティはそこにいろ」
大きなノクトに庇われてレティは戸惑いつつも頷いた。
ノクトは剣を出現させて勇猛果敢に、敵である鉄巨人へと突っ込んでいく。ワープ能力を駆使して鉄巨人の振るう大剣を見事に避けながら一撃を喰らわす。だが硬い装甲に守られなかなか倒すには難しい。
カーバンクルのアシストを受けノクトは向かい続けるも、なかなか一筋縄ではいかない。祈るように手を組んでレティは言われた通り、離れた所でノクトの戦う姿を熱く見守り続けた。
だがノクトが傷つき吹っ飛ばされて痛む体を堪えて立ち上がり続ける姿に、胸が張り裂けそうになっていた。
わたしは、まもられてばかり。
森の中でも、部屋の中でも、町の中でも。
いつもノクトに手を引かれて後ろばかり歩いていた。
ノクトが王様だから。
あの人の息子だから。
だからわたしは守られていていいの?
このままノクトが倒れる姿を見ているだけ?
いや、そんなの嫌!
わたしは、私は!!
「私は、ノクトを助けたいっ!」
レティの想いが少女の姿を変えていく。キラキラとした光がレティを包み込み、それはあっという間に見目麗しい女性へと姿を変えていく。背中まで伸ばした美しい銀髪に強気意思を宿す緑色の瞳。動きやすいショートパンツから覗かせる日に当たらずに育ったことを伺わせる肌の白さ。革製のニーハイブーツを華麗にはきこなし、レティは一度頭を軽く振るった。煩わしい前髪が視界を遮るからだ。手ですかしあげながら、髪をかきあげる。
「喧嘩上等」
「レティ?!デカくなってる…おわ!あぶねっ」
レティの見事な変身ぶりにノクトが呆けそうになったが、絶賛戦闘中なのであやうくまた痛い思いするところだった。レティが一喝した。
「よそ見しない!」
「へいへい」
気の抜けた返事を返すもノクトのやる気は先ほどよりも俄然上がった。
レティが共に戦ってくれる。この事実だけでノクトを後押ししてくれている。
レティはぐっと左手に力を籠めると、そこにある物質が生まれた。ノクトのように武器を創り上げ一振りの剣を生み出したのだ。それを横に一度振り、もう一度右手にも同じことをし、同じ剣をもう一つ生み出す。それは双剣。
対を成すそれぞれの剣は装飾と形が違うが、戦うために存在する。
「鉄巨人だろうがなんだろうが、ノクトに手は出させない!」
攻めのスタイルで一気にその足で駆けだしたレティは応戦中のノクトの後ろで軽やかに跳躍するとくるりと体を丸めて回転させ、一回二回と斬撃を入れたのち鉄巨人が怯んだのを確認して見事に着地すると間を持たせずに「ノクト避けてよ!」と叫ぶとノクトの返事も待たずに声高らかに「ファイガ!」と呪文を唱えた。
鉄巨人が唸るような悲鳴をあげた。
「レティ!燃やす気か!?」
「今はアレを倒すのが先決、でしょ?」
「そうだけ、どよ!」
納得いかなそうなノクトだったが、レティの勢いに負けじと鉄の巨人へ斬りかかる。
時に、ビルの高層の壁に剣を突き刺しそこから真下の鉄巨人へと目がけて飛びかかったり、レティが続けざまにファイガを連発したりと容赦のない攻撃を与え反撃を決して許さなかった。
そして、二人のダブル攻撃で見事。鉄の巨人を倒すことに成功したのである。
『やった!すこいよ二人とも』
カーバンクルの称賛を受けながらノクトとレティはポシュンと元の姿に戻った。カーバンクルが先に走り出して続くようにノクトとレティが遅れて続く。
カーバンクルがちょこんと座る前にはてなマークのスイッチがあった。ノクトはそれに乗りカチッと作動させる。するとポン!っと黒塗りの車が現れた。
「あれ!」
「…………」
『ノクトのお父さんの車だ。そっか、それでこの場所だったんだね。この車だとお父さんと一緒にいられるから』
「うん!」
ノクトは嬉しそうに頷き返した。レティは、複雑そうな顔をしてノクトから少し身を離したのをノクトは知らずに帰れると一人はしゃいぎ車の後部座席のドアへ近づいた。
ガチャリとドアを開け、カーバンクルに「ありがと」と礼を言い乗り込んだ。
てっきりレティもそれに続くものと思っていたが、ノクトは開いたドアの先にレティがぎゅっとスカートの服を握りしめて佇む姿に驚いて声を掛けた。
「レティ?行こうよ」
そう促すも、レティはふるふると首を横に振った。
切なそうに、
「行かない」
とノクトの誘いを拒んで。
憎々し気にレティは車を睨んだ。
「わたしはその車きらい。わたしの居場所はそこにはないもん」
「レティ、何言って」
「わたしは、あの人に嫌われてるから。わたしの居場所はどこにもないんだもんっ!帰るならノクト一人で帰って!」
レティはそう叫んで踵を返して城のほうへ走って行った。
「レティ!」
ノクトは追いかけようと車から降りようとするがその前にドアが勝手に閉まって、いくら開けようにも一向にドアは開かなかった。焦る思いにノクトはドアを蹴ったり叩いたりとしたが、無駄だった。
「レティ、レティ!!」
ドンドンと勢いよく叩いた外側でカーバンクルが焦ったように、
『レティは現実に帰ることを拒んだんだ。ノクト、先に帰ってて!レティは【僕たち】が守るから』
と走っていたレティの後を追いかけていく。一人車に残されたノクトは、徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
戻ろうとしてるの?でもレティが――。
「カーバンクル!?なんで、レティ!!」
ノクトの呼び声は、レティには届かないまま空しく終わった。