レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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膠漆之交~こうしつのまじわり~

ユーリー・ウリックにとって、ニックス・ウリックは過去の遺物である。育ての親であるヴォルフラムから家族は皆死んだと、教えられた時はすぐに受け入れることはできず毎日抜け殻のように過ごしたものだ。だが生きて行く上で感傷に浸ってられるほど現実は甘くはなく、生きるための知識と技を磨いていく内にユーリーの中で、段々と家族に対する意識執着心が薄れていった。いや、麻痺していったのかもしれない。人生なんてそんなもの、人は脆く簡単に死ぬ生き物で執着していつか別れが来る時自分が辛い想いをするだけ。だから人に対する執着心は薄くなった。浅いだけの関係こそが自分にとって最も最良な選択で最善であると思うようになった。人生諦めが肝心。

だがそんなユーリーを変えた衝撃的な出会いを果たしたレティという女性。

この縁はユーリーの静まり切った心に波風を立てるものだった。だから症状も緩和されたかと思ったらそうでもないらしい。彼女を取り戻すには非力な自分では到底無理だと自覚したら諦めてしまった方が楽だともう一人の自分が囁く。どこまでも希薄な人生に嫌気すらさしている。

 

すぐにでも助けに行きたい。

けれどレティが望んだのは、俺にレスタレムを守れということ。

 

それに予想もしなかった兄の件も重なってユーリーに覆いかぶさる。

今更死んでいたはずの兄が本当は生きていたと知ったところで、冷めきった感情がすぐに会えて嬉しい!などと蘇るわけじゃなかった。そういう風に斬り捨てた気持ちはすぐに掘り出すことはできない。

 

だからユーリーの脳内を占める言葉はこれ一点に限る。

 

どうするか、である。

 

考えあぐねいた結果、ヴォルフラムの店に連れて行こうと判断し、ニックスとリベルトに「こっち、とりあえず来てよ」とついて来るよう促して先に歩き出す。

 

「あ、ああ」

 

ニックスは咄嗟に返事をして素っ気ない弟に戸惑いながら後をついて行くことにした。とりあえず中に入れてもらえたニックスとリベルトはユーリーの案内でヴォルフラムという人物が務める喫茶店へ行くことになった。グレンとはコル将軍と連絡を取るために一時的に別れた。隣に並んで歩くリベルトがこそっとニックスにだけ聞こえるように囁く。

 

「なんかホントにユリなのか?」

「別人だと言いたいのか、お前は」

「いや、そういう気はねぇけどよ。昔よりも淡白というか関心が薄いというか……」

 

目が死んでるような、とは流石に兄貴の前じゃ言えないリベルトは語尾を濁した。

ニックスは苦笑して友人の想いを知ってか、弟の気持ちを代弁するかのように言い返した。

 

「いきなり死んでた兄弟にあって感動の再会があるわけじゃないだろ。オレだって夢でも見てるんじゃないかって思ってるさ」

「抓ってやろうか?」

「いや、遠慮しとく」

 

それはニックスとて同じこと。だが若干ユーリーよりは浮ついているかもしれない。死んでいたと思っていた弟が生きていた!

妹や母そして弟を失った悲しみをバネにニックスは王の剣として毎日戦いに明け暮れていた。自分のために、友のために、家族のために故郷を取り戻すという強い信念を掲げて。ただ我武者羅に前だけを見つめていけば後ろは振り向かなくていい。

けれどニックスの固執する英雄という価値観を打ち砕いたのがレティとの出会いだった。

誰かの為、じゃなく、自分が本当に大切に想える人の為に力を奮うという初めての気持ちを抱かせた少女。彼女を助けたい!守りたい!という強い想いこそが今のニックスの原動力なのだ。生い立ちがどうとか立場がどうとかそんなものかなぐり捨ててニックスは高々と叫べるだろう。

 

オレは、レティの為だけにここまで来た。

彼女の心を守るために、彼女が泣かないようにするために。

今度こそ、傍で守るために。

 

と、彼女への意気込みを語ったところで肝心の弟との距離がいきなり縮まるわけもない。

 

どうしても尻込みしてしまい、何を話せばいいのやら分からない。

 

懐かしき兄弟の再会。

声に出して話してみようと口を開くものの、何を言えばいいのか分からず結局また口を閉ざしてしまう。

 

「……」

「………」

 

主人がいない店に勝手に入ったユーリーはニックスとリベルトをカウンター席に座らせると手慣れた様子で店の機器を使ってコーヒーを入れてそれを二人のテーブルの前に置く。

 

「どうぞ」

「……ありがとう」

 

ユーリーも同じカウンターのリベルトの隣の席に腰かけた。

 

リベルトは、なんでオレを挟んで座るんだ!?と訴えたかったが、微妙な雰囲気に負けて大人しくすることに。

 

男二人に挟まれて喜ぶ男なんていない。オレは絶対違う!

ああ、神よ!憐れな男を救いたまえ!と祈るとこまできていた。

 

お互いに何から話していいのか分からないようだ。突然の再会に戸惑うのも無理はない。だがリベルトとしては、こうむず痒い雰囲気に居心地の悪さを感じて無性に酒欲しさに我慢していた。

とりあえず、兄として先に口を開いたのはニックスだった。

 

「ユリ、お前どうしてレスタルムに?」

 

まずそこから突っ込んだ。ユリも内心、そこからかよと困惑したが省略して話し始めた。

 

「………ヴォルが、俺を拾って育ててくれた」

「ヴォル?」

「俺の、育ての親。もう、じーさんだけど……。それより兄、さん、こそ今までどうやって?」

 

やはり兄さんというにはためらいがあるらしいユーリーは気まずそうに言った。

 

「……あ、オレはその、話せば長くなるんだが……。レギス王に拾われて王の剣に入ることになった。リベルトも一緒にな。ずっと故郷を取り戻すために戦ってた。そこから色々あって……ってコル将軍は!?レティはどうなってるんだ!」

 

過去話を振り返ることで自分の最大の目的を思い出すニックスは急に現状を思い出して叫びだす。

 

「今更かよ?グレンが確かめに行ってるはずだろうが」

 

リベルトのツッコミは彼には届いておらず。だがユーリーは別の所で反応した。

 

「レティ?なんで兄さんの口から彼女の名が……!?」

「ユリ、お前こそなんでレティの名を知っている……?」

 

二人は、驚きを隠せずにリベルトを挟んでまじまじとお互いの顔を見やった。互いの口から出て来た共通する彼女の名に男同士だから分かる違和感なるものを二人は感じ取り、少し雰囲気が変わったような気がした。悪い意味で。そこにリベルトがこそっと口を挟んだ。

 

「お前らオレを無視すんなよ」

「あ、悪い」

 

つい謝るニックスにリベルトは全然悪いと思ってないだろと苦言をこぼす。

 

「オレのことは無視かよ、ヒデー兄弟だぜ……。それよりオレ達はコル将軍と急ぎ合流しなくちゃならなかったんじゃなかったか」

「……そうだ!レティは!?今無事なのか!」

 

急かすようにユリに問うとどこか諦めた表情でボソボソと語り出す。

 

「……レティは、帝国軍に連れて行かれた。俺はこの町を守るよう言われてたから」

「なんだ、と?」

「王子達を庇ったってコル将軍から連絡があった」

「……クソッ!これだから王族は信用ならないんだっ!」

 

そう悪態づいてニックスは勢いよく立ち上がった。リベルトが反射的にニックスの腕を捕まえる。

 

「どこ行くんだよ!?」

「帝国に決まってるだろうが。取り返しに行くんだよ」

 

リベルトの手を振り払おうと乱暴に腕を振るニックスの目は据わっていて明らかに別のスイッチが入っているようだった。

 

「無理言うな馬鹿!あんなとこに単身突っ込んだって死ぬだけだろ!?」

「離せリベルト!アイツらはレティの力を悪用しようとしてんのは目に見えてんだろ!?」

「落ち着けニックス。今はコル将軍の指示を」「待ってられるか!いちいちもう我慢の限界なんだよオレは。……レティを助けに来たってのに肝心の彼女がいないなんて、ここにいる意味はない!」

 

リベルトの手を完全に振り払いニックスは勢いよく喫茶店を出て行った、リベルトもすぐに続きながら、

 

「ニックス!待てっ!?ユリも一緒に追いかけて捕まえろっ」

 

とユーリーに応援を頼んで出ていく。ユーリーは渋々手を上げてゆっくりと立ち上がりカップを片づけてから喫茶店の鍵をちゃんと閉めて後を追いかけた。

案の定、警護している仲間とリベルトがニックスを引き止めようと躍起になっている様子をみて、ユーリーは自分は出る幕ではないなと早々に諦めた。そこに仲間がユリに気づき声をかけた。

 

「………」

「おい、ユーリー。またお客さんがきてるんだがどうする?」

「あ、どういうこった?」

 

また俺がらみとかは勘弁してくれよとげんなりとした表情になる。

 

「いや、白い犬を連れてるフード被った怪しげな女が中に入れろってうるさいんだ」

「女?」

「ああ、なんか町に知り合いがいるとか。王都から来たとか。ほら、お前の連れの隣で同じく騒いでるだろ?」

 

そう言われてみれば確かに騒ぎの元はニックスだけではないらしい。

警護の男に突っかかっているいかにも疑ってくれと言わんばかりの顔を隠すように被っているフードで薄汚れた格好をしている。女とみられる人物の足元には白い犬がお利口さんに座って女と警備の男の押し問答をじっと見守っていた。

女は金切声を上げて怒鳴っている。

 

「だから中に入れてって言ってるのよ!ちゃんと知り合いがいるんだってば」

「だから身分を明かせと言っているだろう」

「それができたら苦労しないっての」

「じゃあ駄目だ」

「この分からずや!魔法が使えてたらトードにしてやるのに」

「なら身分を……」

 

見かねてユーリーが間に割って入った。

ニックスは後回しでも大丈夫だろうと判断したまで。決して女の方が相手するの楽だからとか逃げの姿勢ではない。

 

「おい。俺が相手する」

「ああ、ユーリーか。兄貴はいいのか」

 

もうすでに他の仲間にまで話が回っていることに、正直頭抱えたくなった。

が、そこは軽く流すことにしたユーリー。

 

「ああ、とりあえずそこで押し問答してるからいい。それより、そこの彼女。どういった理由でレスタルムに用事かな?見ての通りこの町は今部外者の立ち入りを制限させている」

「どうせ部外者ですよ。でもね私だって好きでこんなことしてるわけじゃないわ!」

 

というわけで女はまた最初の問答を繰り返す。

ニックスと言えば、リベルトと他の警護の男たちに拘束されかかっている。

 

「だからニックス!待てって!」

「離せっつーの!リベルトお前オレがどれだけ彼女に会う機会を待ち望んでた分かるだろう?!」

「分かるが落ち着けって言ってんだよ!お前一人でどうやって姫を救い出すっつうんだよ!」

「それは真正面から突っ込む」

「余計ダメだろ!?」

 

友人にダメだしされようとニックスの気持ちは変わらない。そこへ「ニックスさん!?何してるんですか!」とグレンまで来て余計話がややこしいことに。もみくちゃにされる男たち。そんな中、

 

「え、嘘」

 

女はようやっと自分の隣でもみくちゃにされている男に注目をした。

口元に両手を当てがってショックを受けたように一時放心状態だったが、すぐに駆けだしてニックスとリベルトの方へ向かっていく。そして両手を広げて歓喜に満ちた声で二人の名を叫んだ。

 

「ニックス!リベルト!」

「「ああ?」」

 

女はフードを取り去りその顔を露わにし目尻に涙を溜めて熱く二人を見つめ歓喜に震える。

 

「ああ、生きてた!本当に生きてたっ!」

 

クロウ・アルティウス。

王の剣でずば抜けて魔法の才際立つ存在で男だらけの紅一点であり、ニックスとリベルトのなんでも打ち明けられる友人。

 

彼女は死んだはずだ。その最後をしっかりと見届けたはずと頭で認識しているはずだが、目の為には確かにクロウが存在している。もしや白昼夢かとニックスは自分の頬を抓ってみた。

 

「…いてっ……、ってことは本物?……嘘だろ」

「………クロウ?」

「そう、私よ。クロウよ!」

「………」(バタン!)

 

かつて彼女の遺体と対面したニックスは昼間から幽霊か?と目を瞬かせて何度もクロウの姿を確認し、リベルトに至っては血の気が引いた顔でその場に倒れて気絶してしまった。

クロウはリベルトが気絶してしまったことに対して腹を立てて腰に手を当てた。

 

「ちょっと!人の顔見て気絶するなんて言い度胸してるじゃないの」

 

喋って怒ってじろりと睨んできて仁王立ちしている。

 

クロウだな。

 

やっと本物であることを受け入れた(まだ半分信じられない)ニックスは、

 

「………そりゃクロウの死に顔と対面してるオレらからしてみれば……」

 

と言い訳をしてみるが、果たして通用するかどうか。

顔色伺ってみれば、やはり言い訳は通用しないらしい。ご立腹と言わんばかりに鼻を鳴らすクロウ。

 

「失礼しちゃうわね。ゲンティアナからバレないように移動しろなんて言われなきゃ優雅にドライブしながらここまで来てたわよ」

「ゲンティアナだと?じゃあクロウもあの女から契約を?」

「契約?そんなもの聞いてないけど……でも、殺されそうになった時に助けてくれたわ」

 

色々と聞きたいことはあったが、お互いに自然と笑顔になった。

 

「……とりあえず生きていて良かったよ」

「ええ、ニックス達もね」

 

二人はそういって熱く抱擁を交わした。

足元に伸びているリベルトを放置して友情を確かめう二人に、暢気に声を掛けるユリ。

 

「今日は本当に尋ね人が多いな」

「ユリ」

 

ニックスが弟の名を呼ぶとクロウは「……え?」と目を白黒させてニックスとユリを交互に見つめて、顎がハズレそうなほど驚く。

 

「え、ユリ?ユリってあのユリ?」

「よぅ、クロウ。まさか同郷の仲間にまた会えるとはな」

 

ニックスとリベルトに接している時の素っ気なさとは打って変わって女向けのスマイルでにこやかに対応する辺り、ユリは女好きに成長したんだなと弟の意外な一面に驚くしかない兄。クロウはクロウでもう混乱状態だった。ニックス、リベルトと続いて共に幼い頃遊んでいたユーリーがいる事実を受け止め切れずに、口をパクパクさせて

 

「……ちょっとニックス!どういうことっ!?ユリって死んだんじゃないの??」

 

信じれないと驚愕するクロウはニックスの首元の服を両手で握りしめてがくがくと激しく揺らす。ニックスは脳がシェイクされる感覚から吐き気に襲われながら

 

「説明するからオレの首を絞めるな!!」

 

と頼まずにはいれなかった。

運命の歯車から『意図的に』外れた四人は、こうしてまた一つの場所に集まったのであった。

 

【仲良し四人組、再集結】

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