レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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臨終正念~りんじゅうしょうねん~

カエムの岬を出発したコル達と入れ違いでシド達がカエムの岬に着き、早速船の修理を始めたことを報告で受けると休む間もなく王子達からレガリア奪還の報告を受けた。厳戒態勢にあったレスタルムにはレティが懸念していた通り帝国軍の一部がやってきたようだ。一瞬即発の気配もあったらしいが帝国軍はなぜか早々に引き上げたらしい。一部始終を見ていた者からの報告では引き上げるよう指示が下ったとか。

なんにせよ、また奴らが来るとも限らない状況なので今レスタルムは人の出入りを制限している。いつまでも続けられるものでもないが、しばらくはこのままやり過ごすと快活に笑って見せる昔馴染みの男、ヴォルフラムとヨルゴの軌跡のアジトのビルの一室にて、ソファに座りながらこれからのことについて話し合っていると、息せき走ってやってきたグレンによってやっと王の剣を連れてきたと報告が入る。

 

「コル将軍!」

「グレン……随分と時間が掛かったな」

 

この男、以前の高圧的な態度から一変して殊勝で正義感溢れる青年へと変化した時には、さすがのコルでも脱帽したものだ。真面目に自分の下で働いていることに対してねぎらいの言葉を掛けてやろうかと思ったが、今は状況が状況なので後回しにすること。

 

「そ、それについてはオレの不手際なのでいずれご説明させていただきます!それよりも」

「なんだ」

 

その点について尋ねようとしたところ、グレンは思いもよらぬことを報告してきた。

曰く、ニックス・ウリックが魔法を使えるようになったらしい、と。

 

「なんだと?」

「おいおい、どういうこった」

 

これには、コルだけではなく自分の椅子に座っていたヴォルフラムも驚愕して思わず口に銜えていた葉巻をポロリと落としてしまうくらいだった。二割り増しほど視線が鋭くなったコルにタジタジになりながらもグレンは何とか言葉に出した。

 

「それが、その詳細は話してもらえないのですが。ああ、とにかくニックスさんとリベルトさんを連れてまいります!」

「あ!」

 

言うが早いがグレンはまた慌ただしくドアを開けて駆けて行ってしまった。

ヴォルフラムは「忙しい部下だな、お前と真逆すぎるぜ」と苦笑しながら落ちてしまった葉巻を拾い口元に銜えなおす。コルは驚きで前のめりになった状態からトスンとソファの背もたれに背中を預けた。

 

「魔法が使えるとは、一体どういうことだ?」

「……王子と共に行動しているお仲間なら話は分かるな。姫は言わずもがな王家の御方だ。……お前も魔法は今は使えないだろう?」

 

ヴォルフラムの見識にコルは、やはり気づいていたかとため息をついた。昔から先読みというかまるで自分の心でも見透かされているのかと驚かされてきたが、その見識の鋭さに衰えはないらしい。コルは、自分の手を見下ろして正直に打ち明けた。

 

「ああ。今のオレはこの武器を扱うだけも精一杯だ」

「だろうな。陛下が亡くなった今、魔法が使える人間は数えられるくらいな、はずだ」

 

王の剣は全滅。王の盾は散り散りになった仲間を集めたとしても以前よりは遥かにその戦力差はある。その者たちにコル同様に似たような状態になっている。

 

「………」

「可能性としては、姫があげられるな」

「……どういうことだ」

 

コルは俯いていた顔を反射的に上げていた。

ヴォルフラムはその視線にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「王家の者には自分と繋がりの強く持つ者へその力を分け与えられると聞く」

「それは光耀の指輪の恩恵での話しだろう。姫は違うはずだ」

 

コルは頭を振って否定した。

そう。幾ら枯渇しない魔力があるとしても指輪の力なしに他者へ力を分け与えるなど不可能なはず。少なくともミラにそのような力はなかったはずと過去の記憶を思い出す。

ふぅっと白い息を鼻から出しながら、ヴォルフラムは追い打ちをかけるように両目を細めて言った。

 

「だがニックスは姫に惚れてんだろ。なんせ王都の襲撃の中でかなり活躍したらしいじゃないか。死の縁から生還するくらいに、な」

「……」

 

まるで姫とそのニックスという男が恋仲とでも示唆するかのようないい方にコルは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「まぁどういった事情があるにせよ、姫とニックスには何らかの接点があるってこった」

「……」

 

コルに止めの一撃を与えたヴォルフラムは言い逃げするようにくるりと椅子を回して背を向けた。コルは、何も言い返すことはなかった。

 

ほどなくしてグレンに連れられてきたニックスはふてぶてしい態度を隠さずに入室してきた。部屋の内装に目をやるように辺りを見回している。

精悍な顔立ちに少し日に焼けた肌。均整の取れた体格にコルを目の前にして臆することない様子からかなり肝が据わっていると見えた。

 

「お前がニックス・ウリックか」

 

確認の為に名を呼んでみると男の視線がコルへと向けられた。

 

「アンタが不死将軍……と、誰だ」

「あの方は……」

 

説明を求めるようにグレンをチラ見したニックスに対して先にヴォルフラムは手をひらひらさせて「小僧。俺のこたぁ気にするな、ただのジジィだ」と葉巻をふかした言った。ニックスは「はぁ?」と訝しんだが、気にするなという言葉に従ってコルに視線を戻す。

とりあえず座れと指示するもニックスは、「いや、オレは立ったままでいい」と突っぱねてこう続けた。

 

「正直、詳細なんかどうでもいい。王子に関することもどうでもいい。オレはレティの所へ行きたい。それだけだ」

「ニックスさん、いきなり失礼では……」

 

グレンが注意しようと声を上げたが、コルがさっと手を上げるとグレンは「…はい…」と大人しく身を引いた。

 

「姫の行き先については帝国に探りを入れているがまだ情報は入っていない。だが目途は着いている。おそらく本国だろう」

「イドラの所か」

 

仮にも一国の皇帝を呼び捨てする辺り、度胸があるというか命知らずというか。

 

「……報告ではお前は一度光耀の指輪を嵌めたらしいな。それで生きている、と」

「……レティがオレを助けてくれたんだ。エルという召喚獣の守護を宿した腕輪がオレを生かした」

 

ニックスは一度自分の手の平を広げて、感慨深そうに言った。

 

「エル?そんな名前の召喚獣がいたのか?……待て、そいつはもしや額に赤いルビーのようなものがあった緑色の毛並みの獣か?」

「ああ、そうだが」

「それはおそらくカーバンクルだ。守護を受けし者は何からも守られると聞く」

「ふぅん、そりゃすごい」

 

まるで興味ないと言った態度にグレンは横で見ていてハラハラと冷や汗を流していた。

どうやら真面目に受けごたえする気はないらしい。だがコルは質問攻めをやめなかった。

どうにも意地になっていたのだ。ヴォルフラムが言っていた言葉が頭の片隅をよぎる。

つまり、姫とニックスは恋仲なんじゃないか、と。ずっと傍で見守ってきたコルにとって、レティはただの守るべき姫ではない。

 

「ニックス、お前魔法が使えるらしいな。何処でその力を手にいれた?」

「さっきから素直に答えていれば尋問されてる気分だな。……一体アンタはオレに何を探りいれてるんだ。気に入らないなら出ていくが」

 

軽口に対してコルは口調を強めた。

 

「お前と姫は面識はないはずだ。何処で姫と会った」

「……悪いが答える気にならないな。オレは別行動させてもらおう」

「待て」

 

コルの呼び止めにニックスは眉間に皺を寄せ視線を鋭くさせた。

 

「いつまでオレはアンタの無駄な質問に答えていればいい?少なくともここにずっといるよりは確実にレティに会えるチャンスはあるんだ。いいか、将軍。オレは王子を手助けにきたんじゃない。レティを助けに来た」

 

コルは、言葉を失った。

 

眩しいほど、真っすぐな男。

かつて自分にはできなかったことをこの男ならやり遂げるのではないかという妙な期待感さえ抱いてしまうほどに。

初対面でこそ苛立った様子を隠そうともしない無礼な態度には顔を顰めてしまったがニックスと話している内に、どれだけレティに対する想いが強いかが言葉の端に表情に見て取れた。だからといって、認めたわけではない。どうにも気に入らないのだ。

ずっと傍で守ってきた、娘の様なレティを手放したくないと。

 

「………」

「もう用事がないならオレはこの町を出る」

「ちょ、ニックスさん!?」

 

部屋から出て行こうと動くニックスにグレンが手を伸ばしかけた時、コルが声を上げた。

 

「帝国の基地を攻める。そこで准将を捕らえるぞ」

「……オレにそこへ向かえと」

 

ピタリと動きを止めたニックスは、少しだけ顔を振り向かせた。

 

「ああ。上手く捕らえられれば姫への手掛かりになるはずだ」

「……分かった。だがな、これっきりだ。そこで確かな情報が得られないならオレはアンタらとは別行動させてもらう。もう道草はこりごりだ」

「構わない。ただし、バレるような派手な真似はするな」

「わかってる」

 

ニックスはコルに背をむけて手をひらひらと振って去った。

その後を追いかけるためにグレンが慌ててコルに一礼して退出して言った。

 

傍観を決め込んでいたヴォルフラムが椅子を回転させて正面を向いて懐かしむように言った。

 

「昔のお前を見ているようじゃないか」

「ヴォル、揶揄うな」

 

かつて共にレギスと旅をしたコルよりも年上のヴォルフラムにはいつも頭が上がらなかった。血気盛んな若造といつも揶揄われ、苦手意識があるのだ。

ヴォルと愛称で呼ばれた快活な老爺は口端をにぃっと上げた。

 

「揶揄ってねぇよ、……ミラ王女に惚れてた頃のお前みたいだって言ってんだよ」

 

ここでかつての想い人の名を出されるとは思わなかったコルは面食らい、言葉を詰まらせた。決しておくびにも出さなかったひたむきな気持ちにヴォルフラムは気づいていた。当たって砕けろと何度もアドバイスを送ったことか。だが、コルはそうしようとは思わなかった。身分を気にして自分には無理だと諦めることで、逃げていた。だからこそ、ニックスが羨ましくて仕方ないのだ。真っすぐに、自分の気持ちに正直になれる想いが。

だからこそ、吐露するように切なげに声に出していた。

 

「……オレは……あんなに自分に正直ではなかった」

 

ヴォルフラムは労わるようにコルにこう言った。

 

「俺からすりゃお前もアイツも似たようなもんよ」

「………」

 

その気持ちに偽りなどない。ただ実行しなかっただけの話。

コルは、自分の気持ちを徹底して押し殺すことで遠くから眺めるだけの恋を望み、

ニックスは、自分の気持ちに正直でいることを選び、彼女の為に奮闘しているだけ。

 

結果がどうあれ、本人の意思のみが左右されるのだ。

 

【だが昔の話だとコルは言う】

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