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その頃、城内は慌ただしくなっていた。
レティ付きのメイドがレティの眠るベッドの脇で頭を抱えて悲痛な声で叫び声をあげていた。
「レティーシア様が!誰か、助けてぇぇぇえ!!レティーシア様!レティーシア様!!」
「どうした!?」
ある男が部屋に駆けつけ錯乱しかけているメイドに驚愕しながら、すぐにベッドに眠る王女の様子を伺った。そこには、手を組んで静かに眠る少女がいた。
幼いながら整った容姿はまるで眠れる森の姫と言っても過言ではない。見た所眠っているだけで変わった様子は見られない。男は不審に思い別の使用人に支えられるメイドを見やるが、メイドは震える声で「レティーシア様が、レティーシア様が」と言い続ける。
男は、意を決してレティーシアに一声、声を掛けながらその組まれた手を触ろうとした。
「レティーシア、おはよう。しばし失礼するぞ」
そっと触れた指先がひやりとした。
「?!」
男は、思わず指先を引っ込めてしまった。その冷たさに驚いて。
まさか、と男は現実を疑いたくなった。
そして再度その小さな手を取った。
現実は、変わらずレティーシアの手は冷たいままだった。男は大きく声を張り上げた。室内に響くように。
「冷たい……、すぐに医者を呼べ!レギスに伝えろ!!」
すぐに別のメイドに温かいものを用意するようにと早口で伝え、男は自分の着ている服を脱ぎすててレティーシアをベッドから抱き上げるとその小さな体を抱き込み、手足を何度もさすって温め始めた。胸に耳を当てるとかすかに心音が動いてはいた。男はまだ望みがある!と希望を抱いてレティーシアの名を何度も呼んだ。
「姫、姫!……レティ!」
愛称で必死に呼び続けるこの男。名を、クレイラス・アミシティア。
レティに生きる力を学ばせ、ある目標を志させた人物である。
どうしてこのような事態になっているのか、クレイラスには理解できなかった。
ただこの子の命を何とかして繋げさせなければと、ただそれだけを考えて考えてレティを励まし続けた。
生きろ!と。
嫌でも思い出してしまう。幼いレティの姿があの時と重なるのだ。
かつて救えなかった命。……ミラの姿と。
今でもあの時の事は忘れることなどできない。他の者が忘れたとしてもクレイラスやレギスはずっと憶えている。
『そういう風になっている』からだ。だからこそ、レティをどうにかして救わねばと思うのだ。彼女の忘れ形見だからこそ。
レティーシア・ルシス・チェラムはこのルシスにとって必要不可欠の存在なのだから。