レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

131 / 199
隔靴掻痒~かっかそうよう~

全てが嘘だと言えたらどんなに良かったか。けど後悔したところで全ては終わったこと。何より、召喚獣である彼女はそういう風になっているのだ。決して主の意思に背いてはならない。その願いのままに動き、忠実であり続ける。遥かなる創世から全てが始まった。

 

真実を知った彼女がどのように事実を受け止めるのか、クペには分からなかった。

 

心が苦しいクポ。どんな時もずっと一緒にいるって誓ったくせにクペは逃げてきたクポ。レティがクペを拒んだから、

喧嘩。レティとの喧嘩なんて初めてクポ。ずっと小さい時から一緒だったのに、クペはレティをずっと騙してしまったクポ。

 

クペはレティに拒まれたことがショックで一人別の場所へと転移してトボトボと小さな足で当てもなく歩いていた。周りの風景など視界に入らない。今日が何日なのかも分からない。自分の毛をいつも手入れしてくれる親友はおらず、艶々だった毛もぼさぼさと汚れたりしている。

 

クペがレティの髪を手入れしていたように、レティもクペの毛を手入れしていた。

 

『クペの毛って柔らかくてお日様みたいな匂いがするの。大好きだなぁ』

 

そう言ってクペを抱きしめるレティは幼い頃から変わらなかった。

クペが大好きなレティだった。

 

クペは……、一匹モーグリクポ。

 

「…レティ…」

「ちょっと。アンタどこ行こうとしてるの」

 

聞きなれぬ声と共に背中をグイッと掴まれてクペは我に返り手足をバタバタさせて驚いて自分を捕まえ上げた者を見上げて、大声を上げて驚いた。

 

「あ!お前は」

「やっほー」

 

クペに対して馴れ馴れしくひらひらと手を振って挨拶するのはアラネア准将と呼ばれる女だった。アラネアは右手でクペの背中を抓みあげ自分の目線まで持ち上げると暴れるクペにこういった。

 

「あのまま歩いてたら海に落ちてたわよ」

「う、海?……一体、どこクポ?」

 

言われてみれば、磯の香りが風に乗って鼻先を掠り自分が転移してきた場所が分からずにいた。だが何となく見覚えのある桟橋でクペは丁度その桟橋が終わるところで捕まえられていることに気づいた。

 

「ここはガーディナ渡船場の桟橋よ」

「………クポ」

 

だらりと脱力してしまったクペは力なく項垂れてしまった。アラネアはクペをその場にしゃがみ込んでクペを床へとそっと下しクペはペタンとその場に座り込み膝を抱えて丸くなる。クペがズドーンと暗い影を背負った姿を見て、アラネアはズバリクペの心情を見切った。

 

「もしかして、レティと喧嘩ってとこ」

「関係ないクポ!!放っておいてクポっ」

 

普段は糸目な癖に怒ると目がカッと見開き、くわっと小さな歯をむき出して威嚇する姿はとてもレアで、レティの話題作りのためについスマホをかざして写真を撮ろうとしていたアラネアはハッと我に返って一枚だけ写真に収めてポケットにしまった。

 

「あら、そう。残念ねぇ、もうちょっと根性あるかと思ったけど私の見込み違いかしら」

 

ワザとらしく挑発するようないい方にクペは見事に引っ掛かり食って掛かった。

 

「何が言いたいクポ!?」

「喧嘩したくらいで何をしょげてるのかって言ってるのよ」

 

ぐさり。

地味にクペのハートに突き刺さる言葉。クペはこらえていた想いが溢れてくるのを止められずに声を上ずらせる。

 

「お前に何が分かるクポ!レティは、レティは……!」

 

召喚獣でありながら、誰よりも小さく弱虫でそれが一番のレッテルだった。レティと出会ったことでもっと強くなろう、レティの隣にいられるようにと自分を律してきた。

だがずっと罪悪感が付きまとっていたのだ。自分を親友だと言って慕ってくれるレティを騙していたこと。いや、騙しているつもりなどなかったのだ。だが結果的にレティを嘘をついてきていたのは事実。

 

言いたい、レティに真実を伝えたい。

けれど、クペは口に出すことさえできない。

 

もどかしさとじれったさ、後ろめたさにクペは小さな胸を痛め続けてきた。それでもレティの傍に居たいと願ったからだ。

 

じわりとまた涙が浮かび上がらせて一生懸命に手でグシグシと涙を拭いてクペはグスンと鼻をすすった。アラネアは「仕方のない子」とため息をついて女のたしなみである、チョコボ柄のハンカチをクペに差し出した。クペは戸惑いつつもそれを受け取って涙を拭いた。ついでに鼻もズビー!とかんだ。アラネアは、「返さなくていいから」とニコリと笑顔で付け足した。それからクペが落ち着くまで根気強く待ってからアラネアは確信を込めて言った。

 

「クペがレティを好きだという気持ちを疑われて悔しいってとこかしら」

「!?」

 

ズバリ当たりなわけでクペは声に出せなかった。

 

「悔しいならもう一度喧嘩してちゃんと自分の気持ちを伝えればいいじゃない。一度で分かり合えないならもう一度ぶつかってくればいいでしょう。クペがシヴァに命じられるがまま義理で付き合ってきたわけじゃないのは私も知っているし誰よりも努力家なのは私が保証するわ」

 

まさか人間であるアラネアからの【シヴァ】という召喚獣の名にたちまち警戒心を露わにしたクペは羽根を羽ばたかせてすぐにアラネアから距離を取って飛び上がった。

 

「…どうしてシヴァのことまで……お前は一体、何者クポ!」

 

アラネアは「よいしょっ」と声を上げて立ち上がり、悪戯めいた瞳で口元に人差し指を当てた

 

「まぁ、暴露にはちょうどいいけど素直に教えてあげないよ。……あえて言うなら竜騎士ってのがヒントかしら」

 

最後のヒントでピンと来たクペは全身の毛を逆立てて大声を上げてしまった。

 

「!?まさか、………けんしっ!もごごっ!?」

 

けど最後まで言わせないのがアラネア様である。素早くクペの口元を手で塞いで

 

「はい、そこまで。それ以上は駄目よ」

 

とストップをかけた。

 

「所謂お忍びだから、私。今の方が羽根も伸ばせるし思う存分レティとガールズトークできるしこっちも楽しんでるのよ」

 

今のアラネアの姿とクペが知っている召喚獣とはとて同一人物だとは思えないほど天と地の差だった。だが何となくアラネアが纏う雰囲気に覚えがありそれが人間が放つものではないと知ると、ああ、やっぱりそうなのかと納得せずにはいられない。だが疑問が残る。

だから失礼と思いつつも尋ねずにはいられなかった。クペは「ぷはっ」と息を吐いてアラネアの手を外させてから「なんで、女、クポ?」と質問をした。

 

「あら、私達に性別なんかないのはクペがよく知っているでしょう。そっちの方が人に都合よく見分けがつくというだけの話よ」

「……辛辣ないい方クポね」

「気に入らなかったかしら。クペは人間びいきが強いのよね。王子達と長年つるんできたんだもの。仕方ないわ。でも覚えておきな。私達がこの世界にい理由を。決して人とつるむためにいるわけではないのよ。私達には課せられた使命でしかない。レティの意思こそが我らにとってもっとも重要かつ優先させるべきもの」

 

最後の台詞で何となくアッチの素が混じってるなと感じたクペは仕方なく頷いた。

 

「……わかってるクポ。レティもだからクペに尋ねてきたクポ。自分の本当のことを」

「…それで、レティはなんと」

 

茶化していた態度と一変してアラネアは恐ろしく真剣な顔つきに変わった。

 

「………時間が欲しいって」

 

クペは、萎縮しながらもなんとか言葉に出した。それに対しアラネアは顎に手を当てがって思案顔になり「…ふぅん…」と意味ありげに目を細めた。

 

「……なら丁度いいわね。拾い物もしたし帝国に帰るか。クペも来なさい」

「拾い物?でも、クペは……」

 

クペの煮え切らない態度にアラネアは一喝した。

 

「あのね、レティが本当にクペのこと嫌いになるわけないでしょう!小さい時からレティが一番頼りにしてたのは、一体、誰?」

 

クペは言われてハッと泣きそうな弱弱しい声で、言い返す。

 

「………クペクポ」

 

ぐいぐいと片手に持っていたハンカチで拭ってクペは、また鼻をすすった。

 

「でしょう。だったら胸張って言ってやりなさい。自分がレティの傍にいるのは誰の指図でもない。自分の意思だって!」

「……なんだか、変な感じクポ。アラネアにそう励まされるのが。いつも偉そうにしてる癖に」

 

くぐもった声でクペはそう言い返すのが精一杯だった。

だが、先ほどよりは心は晴れやかなものになった。すうっと軽くなり、自分が言いたかったことを伝えていなかったことを思い出す。レティは現実から逃げたかった。クペもレティに嫌われたと思って逃げた。

 

所詮、やっていることは同じことだったのだ。

逃げることはいつでもできる。けど、自分の気持ちを伝えてからでも遅くはない。

というか、逃げたくない!

 

やっとやる気が出たかとアラネアは口角を上げてクペの嫌味に軽口で返した。

 

「そうでしょう。私も変な感じよ……。ん、誰かしら」

 

タイミングよくなる携帯の着信音。

アラネアはそう言ってポケットから携帯を取り出し「はい、もしもし」と電話に出ると途端に表情を露骨に歪めた。どうやら、話したくない相手らしい。不機嫌そうに声のトーンを落として

 

「何か用。こっちはすぐにそっちに帰る予定なんだけど……ハァ?ミスリル鉱石探しぃ?なんで私が!?……嫌よ、せっかくケーキ買ったのに腐っちゃうじゃない。……っチ!しっかり倍額にしてくれるんでしょうね?嘘だったら……斬り落とすわよ」

 

 

どこを斬り落とすクポ、とは訊けないクペは最後の脅しでブチっとボタンを押して一方的に電話を終了させてアラネアから少し離れた。それでもってアラネアはホテルの方へと向かって歩き出し、ベンチに座り込んでいる男に向かって大声を上げた。

 

「ニックス――!一仕事増えたわー」

「帝国に戻るんはずじゃなかったのか!?」

 

アラネアの声に反応してぎょっとした顔でバタバタと慌ただしく駆けてくる男、ニックス・ウリックは

 

「仕方ないでしょう。王子をオルティシエに行かせるためにミスリルがどうしても必要らしいから。代わりに取ってきて配達してもらってこれで任務終了よ!」

「またあの王子か!……オレはいつになったらレティに会えるんだ……」

 

ニックスは悲観し頭を抱え込んだ。色々と彼なりの葛藤があるのだろう。

アラネアがニックスの背中を景気づけに力込めて叩き、「イタ!」と

 

「男が嘆かない、みっともない。それとクペ、アンタも一緒に来なさい」

「クポ?!」

「ミスリル取ってきたらクペに配達してもらうわ。クペならバレないように置いてくることは可能でしょう」

 

なんて人使いの荒い竜、じゃない、竜騎士、とは言えないので心の中で愚痴る。

 

「それは、できるけど……。何、人の顔ジロジロ見てるクポ?」

 

ニックスとは初対面だがあまり凝視されるのは好きではないクペ。

これでも立派な女子なのだ。何やらノクトとも対面しているようなのでそれなりに召喚獣に対しての知識は備わっていると見た。だからこそ、ニックスが自分に用事があるとは思えなかったのだ。

 

「……お前、もしかして、召喚獣、なのか?」

 

いつぞや、ハンマーヘッドで見かけた配達召喚獣だと気付いたのだ。だがクペとしては面識はもちろんないので若干警戒心はある。

 

「……そう、だけど何か用クポ?」

 

怪訝な顔をするクペにニックスは鬼気迫った顔で、

 

「レティのこと知ってるんだよな?お前、今レティがどうなってるか教えてくれっ!」

 

と言ってクペを両手で捕まえた。

切実に訴えかけたつもりだった。だが、最初の一手がマズかった。

レディを鷲掴みにするのは禁じ手。

 

「ちょ、誰クポ!?っていうかいきなり何するクポ!」

 

クペは遠慮なしにぺちぺちビンタかます。ニックスは受け身すら取れずにまともにくらい「いだだ!」と声を上げてクペを離した。

 

「いきなり鷲掴みにするなんて失礼クポ!まず名前から名乗るクポ」

 

クペはフン!と鼻を鳴らし、アラネアはワタワタと買い込んだ荷物に悪戦苦闘している部下二人にこういった。

 

「ぱぱっと終わらせてささっと帝国に戻るわよ!」

 

その後、高速でぶっ飛ばした飛空艇でミスリル採掘に乗り出すアラネア姐さんと御一行の姿がとある某所で見られたとか、見られなかったとか。

強行軍で彼女らが通った後には、モンスター一匹さえいなかったらしい。

 

【やっぱり、ニックスはレティに会えないらしい】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。