レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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四六時中~しろくじちゅう~

カエムの岬にたどり着いてから数日、ノクトは毎日をぼんやりと過ごしていた。気の合う仲間たちと微妙な距離感が生まれ、差し当たりのない会話などはするもののすれ違いの日々を送ってる。特にプロンプトとはそうだ。一時的に仲直りが済んだのもつかの間、自分だけ疎外感をくらったノクトはプロンプトの前で素直に笑うことができなくなってしまった。何より、容量オーバーなのだ。色々と。

 

ベッドで寝転んでいてもジャレッドの掃除の邪魔になってしまうので仕方なく部屋を出るしかなく、かといってリビングでぐでーっとしていればコルが眉を顰めるのは分かり切っている。情報収集に余念がないディーノは忙しく走り回っているらしく、毎日とまではいかないが電話ではなく直接夜、ここに足を運んでは夜遅くまで念入りにコルと相談などをしている。その中にグラディオやイグニスの姿なども見かけたりするとやるせない気持ちにさせられ、何も見なかったことにしてノクトはふて寝するのだ。タルコットはプロンプトと一緒になって畑の世話などに力を入れている。勉学も必要な歳だがそこはジャレッドやイリスに教えてもらっているらしい。

幼いながらも少しでも力になりたい!と力む少年の姿がノクトには眩しかった。モニカやジャスティンは王の盾再結集の為に準備に勤しんでいる。こちらに出入りする人間も警護の中で見たことある顔や知り合いなんかも複数いた。レティが指示したらしいレジスタンスが本格的なものに変わりつつあるとか。モニカ曰く、王都奪還が夢だと思っていたのが現実に近づきつつあると目に涙さえ浮かべていた。それもこれもレティが手早く指示を出していたからとか、レスタルムのヨルゴの軌跡とか何とかの自警団の力を得られたとからしい。まるで他人事のようにノクトはとらえていた。

シドとシドニーは爺孫娘揃ってオルティシエへ行くための船を修理する最終段階に入っていた。運よく必要だったミスリルも偶然タルコットがそこら辺から拾ってきていて皆驚きを隠せなかった。本当ならこの辺じゃ滅多に採れないらしいからな。加工が必要みたいだからレスタルムに行って職人に頼むのは、元王の剣の二人に任された。

……どうも、あの女苦手。

 

やる気もなくフラフラと行く当てもないノクトはいつも通り灯台へと一人向かっては、旧式のエレベーターを起動させて見晴らしのよい頂上へと上がりぼんやりと空を眺めてる。

来たばかりの頃はジャレッド曰く壊れていて使えなかったらしいがシドの手にかかればチョチョイノチョイ!と魔法のように直ったらしい。使い道は今のところないらしいがノクトには暇つぶしにはもってこいの場所だった。

 

「そういや、レティと初めて行ったドライブの時も高台の方だったよな」

 

ほんの数日しか経っていないような感覚に陥る。今起こっている事実は全て夢で、本当はレティの隣で眠りこけているのかと思ってしまうほどに空は澄み渡っていた。

あの時、夕暮れに染まるルシスを見渡せる高台の上で、同じく夕暮れに反射して光り輝く銀色の髪を風になびかせながら抑える姿に見惚れていた時、彼女はこう口にした。

 

『ノクティス』

 

愛称ではなく、名前でノクトを呼んだレティはゆっくりと視線を交わすと朗らかな笑みで言った。

 

『私、いつかこの国を出るよ』

『………え……』

 

その時のノクトは、ただ戸惑い返す言葉を失っていた。

レティはルシスにいることが当たり前とわかっていたからこそ信じられなかったのだ。勿論、自分がそこにいることも当たり前で。ずっと離れない関係で家族だった。

それはきっとレティも一緒の気持ちのはずだった。

 

コルからの内容を訊くまでは。

 

レティが自分の妹ではなく従妹だったこと。

ミラ王女という隠された王族の存在にその父親が敵国の皇族。

帝国で担ぎ上げられたレティシア・エルダーキャプトという新たな皇女。

敵対関係になってしまった自分とレティの間柄。

すぐにでも帝国を潰してしまいたくなる衝動に駆られるノクトに待ったを掛けたのは意外にも出会って数分経たずのクロウ・アルスティウスだった。

 

『お待ちください、王子』

 

誰もがノクトの豹変ぶりに驚く中、諫めるように静かな声に皆の視線が集まる。それはノクトとて同じこと。

 

『どうしてレティが無理やりに皇女の地位に就いたと思われるのですか?その根拠は?貴方は本当にイドラ皇帝を悪と決めつけるのですか?』

『………』

 

愛称で呼ぶということはそれなりに親しかったはず。

クロウとのやり取りは緊張感漂うものだった。仮にも王族であるノクトに対してクロウは自分の身を顧みずレティの為に体を張って訴えた。不敬罪と処罰されてもいいとまで言い張る彼女はなお追及の言を緩めなかった。

 

「無礼を承知でお許し下さい。不敬罪となること覚悟しております。ノクティス王子」

『おい、クロウ!』

 

仲間であるリベルトがマズいと判断したのか、彼女の肩を掴んで止めようとするが冷静な動きでいなした。

 

『邪魔しないで』

『………』

 

眼光鋭い瞳にリベルトは息を呑んで手を引っ込ませるしかなかった。

クロウの発言が覚悟あってのことと知ったからだろう。

 

『殿下としてではなくレティの一人の友人として言わせてもらいます。彼女は、幼い頃より外の世界へ飛び出ることを夢見ておりました。それがどうしてかお分かりになりますか?レギス陛下より幼少時に自分の娘ではないことを突きつけられ、レティは自分が偽りの王女であることに深く傷つき、自分の居場所を求めてより強く外の世界への憧れを強くしていったそうです。そこでレティは城から抜け出てニックスと、私達と出会いました。王子は知らないでしょう。外での彼女は本当に生き生きと瞳を輝かせて年相応の少女でした。身分を笠に着ることもなく移民出身の私達を当たり前のように受け入れてくれました。恥ずかしながら私は彼女がどういった人物であるかを知りませんでした。ですが、知る前と知った後ではそう大差なく接することができたと今でも考えています。……彼女の人柄に惹かれて私は彼女の友人であることを願いました。

彼女が本当に望む場所はルシスではなかった。なのに、王子はレティが得たかったかもしれない場所を壊すというのですか?貴方にその権利があるというのですか?今まで家族を得られなかったレティから、本当の家族を奪うというのですか?王子のしていることはただの束縛です!』

 

売り言葉に買い言葉でカァと頭に血が上ったノクトは気が付けば怒鳴り返していた。

 

『だったら、そのままにしておけって言うのかよ!!』

『違いますっ!!もっと違うやり方があると言っているんですっ。争いはまた争いしか呼びません!そのうえで犠牲になる者のことを貴方は知っているんですか!?レギス陛下はそれを承知で王都襲撃に備えました。巻き込まれる国民を顧みず、貴方を、ルナフレーナ様を守ることだけを視野に入れて民はどうでもいいと斬り捨てた!王の剣だってそうです!皆命を賭けて闘いましたっ!いつか帰る故郷の為に。皆で、帰る日を夢見ていたのに!この戦いで命を散らしました。私だって、死ぬはずだった!でも運よく私は救われました。こうして仲間と共にいられることを喜ばなきゃいけないのに、死んでいった仲間たちのことが脳裏から離れない。忘れることなんてできやしない!ずっと、私はこの傷を背負って生きていく、そう感じています……。申し訳ありません、話が逸れてしまいまいした。……私が言いたいのは、ただ潰すというのは短慮であると言いたいのです。国には罪なき民がいることを忘れないでください。貴方は、ルシスの王なのですから』

 

全てが事実であり、ノクトは図星と言わんばかりに押し黙るしかなく重苦しい雰囲気に耐え切れずに顔を背けてノクトは『ワリーけど先に寝るわ』と二階へと逃げ込んだ。

 

思い出すだけでも苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。

腐食した柵の上に腕をのせてぼんやりと海を眺めていると、後ろの方でエレベーターに乗ってイリスがつぎはぎだらけのぬいぐるみを抱えてやってきた。

 

「ノクト……」

「……悪い、今一人になりてぇんだ」

 

そう言ってノクトはイリスを避けるようにエレベーターに乗り込もうとする。

だがその背にぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたイリスが叫んだ。

 

「ノクトの馬鹿!」

「………ああ、どうせ馬鹿だよ」

 

歩みを止めて顔だけ振り返ったノクトは自嘲的な笑みを浮かべていた。

イリスは普段可愛らしい瞳をキッと怒りで吊り上げらせて

 

「ノクトはレティを助けたいだけなんでしょ!?人を殺したいなんて嘘だ。衝動的なものなんでしょ!だったらなんで落ち込むのよ。簡単に助けるでいいじゃない」

「……そういう風にいかねぇからアイツらもあんな事言ったんだろ」

 

言わずもがな、アイツらとはクロウたちの事を示しているのだろう。イリスは構わずに言い返す。

 

「でもそれはあの人たちの勝手な考えじゃない!私達には」

 

ちゃんとした理由がと続けようとした。だがそれも抑揚のない声で言い返される。

 

「それもオレ達の勝手な考えだって言い返すだろうな」

 

イリスは、「……あ……」と声を詰まらせた。

結局のところ、本人がいない今勝手に推測するしか手はないのだ。それは堂々巡りということになる。議論したところで事実は変わらない。レティが皇女として即位し次期皇帝の座に期待をかけられているということも変わらない。

 

ノクトは唐突に話題を変えた。

 

「なぁ、イリス……。レティってさ。どんなんだった?」

「え」

 

イリスは一瞬耳を疑った。信じられなかったのだ。ノクトの口からそのような言葉が出ることが。

 

「……オレさ、一番レティを理解してるみたいで全然知らなかったんだ」

 

知っていたつもりだった。

当たり前だったのだ。レティが隣にいるのはいつものことだと。

朝、おはようと互いに朝の挨拶をしてそれぞれ身支度を整えて家族そろっての朝食へ。

冷めた間柄にように振舞う父と娘、そしてその間に挟まれるノクトは自然とそれぞれに会話を振ったりと気を配ったりした。レティに見送られて車に乗り込んで自分が学校に行っている間、当然のように図書室に籠ったり魔法の実験繰り返したり、そういう勤勉に勤しむ彼女がいて、ノクトは学校から帰ってくると真っ先にレティの所へ走って一緒におやつを食べながら今日あったことを話し合う。もしくはプロンプトを引き込んで騒がしくしてイグニスに窘められたりグラディオに鍛錬に付き合わされたりした。そして夜は一緒のベッドでおやすみと囁き合って共に眠り合う。

 

そんなサイクルを繰り返しているうちに、自分が知るレティは変化とは無縁な存在で一生変わらない者と位置付けていた。過信だった。

 

自分が知らない所で何度も城を抜け出していたり、あの男との邂逅を繰り返していたり自分が知らない友人がいたり、クレイラスとの鍛錬だってただ城での生活面で必要最低限な鍛錬だと思っていた。それが事実、いつか外へ出るための鍛錬だと聞かされれば、ショックにもなる。レティがあの時ノクトに告げたのは、直接別れを言わない為の手段の一つかもしれない。前もって言うことで一つの伏線としたのだ。

 

ルシスを出ていくことは確定していて、王女としての生活もいつか終わらせる。

家族と触れあうのもそれが最後になる。

 

今まで自分が知らなかったレティの側面を教えられる度にノクトは自分の愚かさに胸糞悪くなる。どうしていいか、わからなくなる。

 

王となる理由もレティと一緒になるためのステータスでしかなかった。

そのレティが自分が知る人ではないと知った途端、全てが無意味のように感じた。

 

 

「オレ、今までレティの何を見てたんだろうな」

「………」

「……レティは、オレが、嫌いになったの、か……?」

 

切なげに瞳を揺らしてぽろりと吐露した気持ちはノクトの正直な想いだった。

 

家族と思っていたのは自分だけで本当はレティに疎ましく思われていた。

自分を縛り付けた存在であるレギスを憎み、ノクトに怨嗟の念を抱きながら今までずっと過ごしてきたのではないか。だからこそ、あの夕焼けの時に自分は国を出ると宣言したのではないかと思ってしまうのだ。だがイリスはノクトのレティのやり取りなど知らないし教えてもらってもいない。だからノクトの暗く沈んだ表情を前にして苛立ったように乱暴な言葉をぶつけた。

 

「……だったらレティに聞けばいいじゃない。なんで私に聞くの?ずっと、ずっと会えない間柄だった私に。ずっと傍に居たノクトがなんで私に聞くの?」

「……」

「本当にレティが私たちのことを、ノクトの事を嫌いになったのか、疎ましくなったのか直接会って聞けばいいじゃない!なんでレティの気持ち知らないのに勝手に決めちゃうの!?」

 

激昂しながらイリスは乱暴に袖を掴んで無理やり真正面を向かせノクトはされるがまま感情の籠らぬ瞳でイリスを見つめた。それが余計にイリスをイラつかせて、グイッと服を掴んでノクトを怒鳴りつけた。

 

「……」

「今まで一緒にいた癖になんで今さら知らないなんて言い方するの!?私は、私は、ずっと文通しかやり取りしてないし会う機会なんてなかった。それでも手紙の中には必ずノクトの内容が書かれてないことなんてなかった!それだけレティにとってノクトは欠かせない人だったんだよ!?ただ利用するだけの為にずっと同じ人を騙せるほどレティが器用じゃないことぐらい傍で見てて分かってるでしょう!?なんで分からないの!……レティが帝国に行ったのだってノクト達が大切だったからでしょ!?私達に危険が及ばないようにしたかったからでしょ!なんで迷うの?なんでレティの気持ちを疑うの?ノクトの、朴念仁っ!!」

「…イリス…」

 

ノクトは目を見張り感情を爆発させて訴えてくるイリスをただ見つめることしかできず、逆にイリスは悔しさから瞳を揺らしてノクトを睨み付けた。

自分よりも身近にいたはずのノクトがレティを疑っていることを。どれだけ彼女が悩み苦しみ傷つき、それでもノクトの存在に支えられていたか。

これは、嫉妬。

 

どれだけレティにとってかけがえのない存在であるか。分かり切った答えに女々しくなるノクトに苛立ちさえ感じていた。

 

「昔、ノクトが私を庇ってくれたようにレティだってノクトの庇った。それがただの善意だったからじゃないことくらい私は分かる。私のことを考えてくれたから陛下にだって黙ってた。私のことを心配してくれたから!そうでしょ?レティだって同じだよ。ノクトの事心配だから。大事だから守りたかったんだよ。ノクトは、レティの大切な家族だもの!」

「……か、ぞく……」

 

張り手を喰らったような、目の覚める想いだった。

たった一人の家族。

様々な思惑に翻弄されてきたが、ノクトとレティは唯一の家族なのだ。

その関係はたとえ離れた場所に至って、変わることはない。

ドン!とノクトの胸を叩いて、イリスは縋るように頭をこすりつけ悲痛な声で訴える。

 

「だから、お願い、お願いノクト。諦めないで。レティの事、諦めないで……!私は、もう一度、レティに会いたい!!」

「イリス……。ああ、オレも。オレも、会いたい……」

 

色々と一杯一杯だった気持ちの根底にあるのは、ただ『会いたい』その一つのみ。

二人は身を寄せ合うように抱き合った。

 

単純でいい。シンプルでいい。

 

まずは、自分の気持ちに正直になってみよう。それから考えたって悪くはない。

自分にとって何が大切なのか、何を優先させなければならないのか。

 

王という立場を受け入れているノクトは、まず自分の正直であろうと決めた。

 

王である前に、彼は一人の人間で、一人の男なのだから。

 

 

無事に船の修理が終わり、レガリアを乗せシドの運転の元、ノクト達はオルティシエへと向かうことになる。護衛としてクロウとリベルトも同行することになったが、ノクトは以前より気まずさは感じず、頬を掻きながら「その、よろしく頼む」と挨拶するとクロウはきょとんと目を瞬かせたが、すぐに口元を緩ませて「はい」と頷いた。プライナも嬉しそうに尻尾を揺らして「わん!」と鳴いた。

傍で冷や冷やと二人のやり取りを見守っていたリベルトだが、「良かった良かった!これでこれからの旅も気まずくならないな」と喜びながら一言余計なことを言ったばかりにクロウから腹に思いっきり肘鉄くらいノックアウトすることになるとは本人も想いもしなかっただろう。イグニスやグラディオ、プロンプトとはすぐにいつものやり取りとはまではいかなくとも、迷いの晴れた顔になったことで以前よりは明るい話題もするようになり笑顔になる回数も増えた。

 

イグニス達もレティが自らエルダーキャプトの姓を名乗ることを望んだのか、真意は計り知れず最悪のパターンも予想したはずだ。だが自分たちがすべきことをまず優先させることを選んだのだ。即ち、ノクトを支え守ること。

イリス達に見守られながら船へと乗り込んでいくノクトたち。

 

「気を付けて、ノクト」

「レティを無事に助け出してね!」

 

イリス、シドニーからの声援にノクトはしっかりと頷き返した。それからコルへと視線をうつす。

 

「コル、後は頼んだぜ」

「ああ、任せろ……姫を頼んだぞ」

「おう……、イリス。これ絶対渡すから」

 

動き出す船から見えるようにノクトは人形を掲げて見せた。

 

「うん!絶対だよ――!!」

 

満面の笑みでイリスはブンブンと大きく腕を振ってノクト達を送り出す。港で見送る仲間たちの姿が小さくなるまでノクト達は見続けてから、それぞれ椅子に腰を下ろした。

 

「それってイリスが作ったぬいぐるみだよね」

 

プロンプトが興味深そうにぬいぐるみに手を伸ばして軽く触れた。

 

「ああ」

「……なるほどな、レスタルムで布を買い込んで作ったのはそれだったのか」

 

イグニスが納得した顔でそういった。グラディオが感心したように目を細めてぬいぐるみを見つめた。

 

「ああ?イリスがぬいぐるみなんて珍しい」

「モーグリかぁ、きっと姫の配達召喚獣だな」

「ちょっとリベルト、口調」

 

クロウが小さく指摘するとリベルトは「やべっ」と声を漏らして焦るがノクトはいたって気にしていないと首を振った。

 

「ああ、いいよ。別にオレ気にしないし。堅苦しいの苦手」

「そうですか?」

 

礼節を重んじるクロウにとっては正直意外な話だった。幼馴染が割といい加減というか粗忽なので自然とこんな感じになった。だが割と燃えやすい性格でリベルトが冷や冷やしていることに未だに気づいていないらしく、足元に伏せて控えるプライナの毛並みを撫でていた。

ノクトは手をひらひらと振り

 

「ああ、敬語とか省略で。これから向こう着いた時面倒だし」

 

というと、クロウは一つため息をついて苦笑しながら砕けた口調になった。

 

「……分かったわ。それじゃあノクトと呼ばせてもらおうかしら」

「ああ」

 

フランクに愛称で呼ばせることにもしっかりと理由がある。まさか帝国領に属するオルティシエで本名を町中で言うなど命取りにもなりかねないからなだ。イグニスの推測が正しければ帝国軍も水神討伐に乗り出してくるだろうとのこと。用心には用心を重ねての結果論である。

 

「……何かノクトふっきれた顔してる?」

「そうか?だったら、コレのお陰かもな」

 

プロンプトのズバリな言葉に少し口角を上げて見せる。

ノクトの腕には、イリスから託された手作りのモーグリ人形が抱えられて、グッと力を籠めると気の抜ける音が漏れて思わずノクトは「変なのっ!」と可笑しそうに噴き出した。

そして、また水面の方へ視線を向けた。

 

海が、太陽の光を浴びてキラキラと光り輝いて見え、潮風に黒髪をなびかせながらノクトは両目を細め手で光を遮りながら遥か大陸に想いを馳せた。

 

【君に、会いたい】

 

To be continued――

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