レグルスの子供たち   作:サボテンダーイオウ

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才子佳人~さいしかじん~

ノクトside

 

 

レティ、今、何処で何してる?会いたい。会いたい。会いたい。

 

ずっとオレの胸を占める言葉はこればかり。今までレティがすぐオレの傍で笑って怒って泣いたり喧嘩して仲直りしてすぐ触れられる距離にいたことは、実は結構贅沢だったことを今さらながらに思い知った。イリスから羨ましいなんて言葉言われるまでは。オレってホントついてたよな。

あれだけ仲間に好かされてるレティが家族なんだから。

 

でもその家族はオレの中で障害でもあった。

妙に意識しだしたのはこの旅の最中だったけど、お互いに成人になり始める前からオレは自分自身が気が付かない内にレティを妹ではなく、一人の女として見ていた様な気がする。

あれはルーナとの婚姻が決まった時の事。親父からの話が終わった後でどうにも気持ちが落ち着かなくてレティの部屋を訪れた。返事待たないで勝手に入るとレティはいつもみたいに小難しい分厚い本なんか読んで、視線を此方に向けることもなく『ノックしてから入ってよ』といつも通り注意してきた。オレは適当に相槌打ってレティが座っているソファの隣にドスっと腰かけた。んでレティの肩に頭をもたれかける。

 

構えという合図だ。

 

だがオレの意思表示を無視して本を読み続けるレティがやっと本からオレの方をねめつけてきたのは20分ぐらいしてからか。その間もオレは体勢を変えないでレティにもたれかかったままだ。そろそろ肩が痛くなったはず。

 

『このソファ四人は軽く座れるはずなんだけど、どうしてわざわざいつも私の隣に腰かけるのかしら?そして頭重いから乗せるな』

『やだ』

 

そこがオレの定位置だからと開き直って言ったところで『余計暑苦しいだけだわ』と冷たくされるだけなのは目に見えている。深窓の姫君と国民の間で噂されるレティは『はぁ……』と蟀谷を抑えて瞼を閉じ深いため息をついて、読みかけの本を閉じて膝に置いた。

ついに音を上げてオレを構う気になったと少し心が弾んだ。レティからあの話を切り出されるまでは。

 

『……何を不機嫌になるのやら。逆に嬉しい限りじゃない。陛下からの御話は』

『……知ってたのかよ』

 

まさかもうレティの耳に入っているとは知らなかった。オレは驚きで反射的にもたれかけていた状態から体を起こす。膝に乗せていた本をテーブルに丁寧に置くとレティは頷きながら詳細を話した。

 

『うん。貴方の軍師のイグニスが、色々と詳細を教えてくれたわ。……ノクト、彼女と結婚決まったみたいだね。とりあえずおめでとう』

『………』

 

面と向かって祝いの言葉を送られるとオレはなぜだか胸がもやもやして不快感に襲われた。

オレの様子に気づいたレティが怪訝そうに首を傾げてオレの名を呼ぶ。

 

『ノクト?』

『政略結婚じゃんか……。オレの意思とか関係ねーし』

 

おめでとうと言われても顔が歪むだけだ。

 

親父は恋愛結婚だった。母さんが幼馴染だったから。でもオレはルーナと会ったのは子供のころの話で文通も続けてはいるけど極他愛もないことばかりですぐに愛情が芽生えるわけじゃない。それなりな不満を抱いているオレにレティは諭すように言う。

 

『でもノクトは王様になるんでしょう?だったら仕方ないよ。それとも好きな人でもいるの?』

 

好きな奴。パッと頭に浮かんだのは……目の前の妹で、オレは慌てて頭を振って邪な考えを振り払った。

 

何考えてんだ!?と当時のオレはそりゃもう内心パニックだった。

 

『ん?ノクト~?』

 

目を細めて追及の手を緩めないレティがずいっと顔を近づけて身を乗り出してくるからオレは反射的に仰け反った。癒しを与える深い深緑の瞳に見つめられると嘘がつけない。というかはぐらかせない。手をブンブン振って否定するしかない。

 

『……いない!いないから!』

『そう。残念。でもいないならいないでいいじゃない?もしかしたらその内好きになってくるかもしれないし。彼女のこと』

 

レティがルーナに好感を抱いていないのは薄々気づいてた。

よっぽどじゃない限りレティの口からルーナの名前が出たことはないし、言うとしたら決まって『ルナフレーナ嬢』と呼ぶ。もしくは、『彼女』と示唆する。

 

『でも、それってなんか、……納得できないっていうか』

 

レティの言うことも一理ある。

オレ自身の立場が拒否も許されないものだって理解もしてるしさ。でも感情は、心はそう簡単に割り切れないだろ。

 

レティは本で得た知識からか、さもオレの不安は当然だと言った顔をする。

 

『マリッジブルーみたいなものよ。誰だってそうなるわよ』

『軽く言うし、経験ないくせに』

 

同い年な癖に年上ぶるからレティの髪に手を伸ばして一房掴み軽く引っ張った。

 

オレの子供じみた反撃に呆れつつもレティは『痛いわよ』とオレの手を外しにかかる。でもオレも一旦手を離してはまた片方の手でレティの頬を抓ったりとスキを見て手を出す。

地味な攻防が続き、ついにはキレたレティがいつものサンダーをオレに落として決着は呆気なくついた。オレの負けだ。

焦げ臭い匂いが部屋に満ちてレティは嫌味っぽく『換気しなきゃ!』とテラスへと続くドアを少しだけ開けに行った。

黒焦げになり悔しくてそっぽを向くオレを満足げな表情で見つめてレティはこんなことを言っていた。

 

『もしかしたら私だってノクトみたいになるかもしれないわよ?』

『レティが、結婚?……ありえなさそう』

 

想像できなくてつい本音をぽろっと口に出すと、

 

『何よそれ。失礼ね、私に嫁に行くなって事?生き遅れの王女なんてごめんだわ!』

 

としかめっ面になる。

本当にクルクルと表情が変わるもんだ。見ていて飽きないくらいに。

 

『分かってる。いつかはそうなるって……、でも何となく、嫌だ。オレは』

『……だったらノクトが知らない内に結婚でもしておこうかしら』

『はぁ?』

『だってノクトって私の夫になる人のこと駄目だしとかして認めてくれ無さそうなんだもの。だったら誰にも知られない内に結婚済ませておいた方が文句も言えないじゃない?―――ああ、これが事後報告っていうのか。納得』

 

『レティ!』

『冗談よ冗談。そんな真に受けないでよ』

 

ケラケラと笑う彼女を見て、ようやく揶揄われたと気付いた時にはレティの頭に手刀を落としていた。

それが結構威力が強かったらしくて、「ノクトの馬鹿!」と涙目になったレティにまたサンダーを落とされて部屋から放り出された。それから一週間は口きいてもらえずご機嫌どりに躍起になるオレは最終的に王都で当時大人気だったチーズタルトの行列に並んでレティに献上することでやっと満面の許しをもらえた。

 

『これ食べたかったの!ありがとう、げっそりした顔で長蛇の列の中王子様特権使わずにちゃんと並んで買ってきてくれたのね』

『疲れた。マジで疲れた』

『でしょうね。お疲れさま、一緒に食べましょう!』

『――ああ』

 

食べ物でコロっと態度を変えるところがいかにも女子というか。でも苦じゃなかった。レティが相手なら仕方ないって苦笑して終わらせられるし。

 

自分の結婚でさえすぐに受け入れられなかったのに、レティの結婚だなんて考えたくもない。

家族はオレや親父だけで十分だ、なんて過信してたのはオレの落ち度だったのかもな。

 

【人生の中で変化がないことなどないのに】

 

リウエイホテルにたどり着いたクロウたちは早速格式高いホテルのフロントで宿泊の申し込みをすることにした。入った瞬間に目がチカチカしそうな照明にいかにも高級そうな調度品が置かれたロビーにまずお金の心配をしてしまったクロウだが意を決してフロントへと向かう。

 

「いらっしゃいませ。ご宿泊でしょうか」

 

年若いフロントマンがにこやかに対応をしてくる。

このようなホテルなど泊まること自体初めての経験なので多少どぎまぎしながらも平静を装うクロウは自分の声が震えていないかどうか気が気ではなかった。

 

「ええ、お願いできるかしら。えーとノクト達は一緒の部屋の方がいいのよね。シドはリベルトと一緒でも大丈夫かしら?」

「ああ」

「四人部屋はある?」

「はい」

「それじゃあ四人部屋と…ツインとそれとシングルで。ああ、動物はオッケーかしら?」

「専用のお部屋がございます。そちらに変更いたしましょうか?」

「ええ、お願いするわ」

 

つつがなくチェックインすることが出来てほっとするも宿泊料金に目玉が飛び出そうになり、思わず心の中で『たかっ!』と叫んでいた。つい、後ろのソファにのんびり腰かけているシドの元へ小走りに向かい、本当にこのホテルで良かったのかしら!?と必死な形相で相談する。シドは高額な料金に対して驚いた様子もなく、「どうせ王子の懐から出るんだ。滅多にない機会だしゆっくり羽根伸ばせばいいと思うぞ」と意地悪い笑みを浮かべた。これにはクロウも苦笑して「そうね。これも経費みたいなものよね。イグニスからそれなりの金額は渡されてるし」と開き直った。

とりあえずやることはやったので、ノクト達と合流する為に電話を掛けようとスマホを取り出した時、「わん!」と突然シドの脇に控えていたプライナが体を起こして鳴き声を上げた。何かに反応するように尻尾をパタパタとさせて興奮しているようだ。

 

「どうしたの?プライナ」

「ワン!」

 

すると、ロビー内の違う方向からもう一匹の犬の鳴き声がしてきた。クロウとシドもつられてその方向を見つめるとプライナが勢いよく駆けだした。

 

「あ!プライナ!……あら、あの犬は?」

 

プライナと同じく体躯でフサフサの黒い毛並みで賢そうな顔立ち。

まるで自分の片割れのように会えた喜びを全身に露わにして迎え入れている。鼻先をこすりつけたりしてじゃれ合う二匹は見ていて微笑ましいものだ。いつもの仏頂面が消えて表情が緩くなっているシドはきっと自分の状態に気づいていないだろう。

 

「随分と仲がよさそうじゃねーか」

「そうね、じゃれ合ってるわ。もしかしてあの子がノクトが言ってたアンブラなのかしら?」

 

ノクトからの話の中でプライナと対であるアンブラというルーナの犬の話を少し聞いていたのでもしかしたらと首を捻ると、

 

「ワン」

 

じゃれ合いをやめて、まるで正解!と言っているようにクロウを見上げて一鳴きしクロウの足元に走って寄ってくた。

 

「当たりのようね」

「そのようだ。どうする。オレはウィスカムの所へ行くが」

「私も行くわ。プライナ!アンブラも一緒に行く?」

 

クロウはその場に膝をついて甘えてくる二匹を撫でてやりながらそう尋ねると二匹は声を揃えて

 

「「ワンワン!」」

 

と仲良くお供すると返事を返した。

 

とある通りでかなりの人だかりに遭遇したノクト達。プロンプトは興味深そうにノクトに声を掛けた。

 

「ねぇ、ノクト。ルナフレーナ様のドレスがさ」

「観ない。オレ達にのんびり観光してる暇なんてないだろ」

 

だがノクトは素気無く断った。プロンプトは納得しがたいようでイグニスに同意を求めるように視線を向けた。

 

「それはそうだけど……ねぇ、イグニスは観たくない?」

「オレはノクトの意見に従うが」

「ならいいじゃん。行くぞ」

「……」

 

ゴリ押しのような形でルナフレーナのドレスを観ることなく快適なゴンドラの短い旅を経て、海上市場駅オルティシエのレストラン【マーゴ】にたどり着いたノクト達。常連客で賑わう明るい雰囲気の店で辺りを物珍しそうに見回していると、パチリと店主と視線があい、親しみが籠められた声で歓迎をされた。

 

「ようこそ御一行様。さっきシドから連絡があったよ。こちらに向かっている途中らしい。私はウィスカム・アルマ。ノクティス王子、大きくなったぁ。背中の愛らしいぬいぐるみは身分を隠すためのカモフラージュか。よく考えたものだ」

 

感心したように頷いているがノクトにはまったくそんなつもりはない。だがウィスカムは勝手に納得しているので誰も突っ込むような無粋な真似はしなかった。プロンプトは心の中で『違うんでーす!まったく違うんで―す!』と盛大に突っ込んでいたし、リベルトも内心では、素で感心しているのか、ワザと目立ちすぎていると指摘しているのかどちらにせよウィスカムという人物を侮れない相手と感じていた。

 

「ん?」

 

感慨深くカウンター越しに挨拶をされてもノクトとしてはいまいちピンとこず、少し首を傾げる。背中に背負うモーグリぬいぐるみのボンボンも僅かな動きに反応してゆらゆらと左右に揺れた。ウィスカムは残念そうに肩を竦めて両目を細めた。

 

「おや、覚えてないか?ははっ、小っちゃかったもんな……。妖精のような可愛らしいお姫様は一緒ではないようだな」

「アンタ、レティを知ってるのか?オレのことも……」

 

『妖精のような可愛らしいお姫様』というキーワードだけでそれがレティの事を示しているとすぐに分かったレティ馬鹿のノクト。勿論イグニスだってすぐに分かった。

 

「妖精のような姫という特定の相手を示す言葉が現実的に符合するのはレティ以外ありえないだろう」

 

自信満々にスチャッと指先で眼鏡を押し上げる様は彼が聞こえない位置にいる観光客の女性らにしてみれば、格好いい仕草なわけでイケメンじゃない?」とか「そうかも~」なんて黄色い声まで出してそれぞれ特徴的なイケメンにドギマギしていたり。でも流石にノクトが背負うぬいぐるみには首を傾げていた。

さて、自分たちが注目の的であることなどさっぱり眼中にあらずなノクト達は一心にウィスカムの声に集中している。

 

「ああ、よく知ってる。あの小さな愛らしい姫のことは目に入れても痛くないほど可愛がっていたからな、レギスは」

 

まるで当時の事を思い出すかのように懐かしさに表情を緩ませるウィスカムだが、ノクトとしては自分が知るレティに接する父親象とウィスカムが語るレギスの話がずれていてどちらが本当なのか信じがたい話だった。だがまずは現状の把握が優先すべきことであり、ノクトは世間話を後回しにし「……ここって帝国の属国なんだな」と改めて真剣な表情で確かめた。遠巻きにノクト達に視線をやっていた店の常連客だろうか、口々に「あの男、ぬいぐるみ背負ってるぜ」とか「堂々としてるよな。なんか一般人じゃないオーラみたいなの感じるぜ」とますます注目の的になっていた。酷ければ勝手に写メ撮られていたり。でもそれにはいち早く気づいたグラディオがその人物の所へ足早に向かい強面で詰め寄って強制的に削除させていた。さすが王の盾。

 

「ははっ、そこまで警戒することはないよ。ただこの国は自治が認められているだけだからな。帝国の人間もしょっちゅう出入りしている」

「心得ておこう」

 

サラッと教えてくれた情報にイグニスが重々しく頷いた。

 

「確かに立場としては微妙だよ。何かするにも帝国の許可が必要なはずだ。生きていた神薙が街で演説するというし、政府は帝国をどう誤魔化しているのやら」

「帝国軍はよく来るのか?」

「街にも店にもよく来るよ。市民にとっちゃあ彼らの姿は見慣れたもんだ。先日はレイヴス将軍を見たって大騒ぎさ」

「レイヴスを――」

 

皆、顔を顰めて以前対峙した時のことを思い出してしまうのも仕方ない。

レイヴスが乗り込んできたとなれば確実に帝国軍を率いているのは間違いない。問題はその中にレティに関する手掛かりがつかめるかどうかということ。ノクトはすぐにでも聞き出したい気持ちを我慢してウィスカムの声に耳を傾ける。

 

今すぐにでも必要なのはルナフレーナに会って指輪を渡してもらうこと。

 

「ルシスで巨神襲撃の騒ぎがあっただろう?街じゃ次はここだろうって話で持ちきりさ。帝国は世界を征服する為に神々を狙い始めたってんでね」

「まぁ、間違いではなさそうだけどな。……ルーナはどこにいるか知ってるか?」

「街にはいらっしゃるだろうけどお見かけはしてないよ。新聞や雑誌も所在には触れない。政府が厳しく情報を管理しているのかな。そういえば、噂程度だけど派手な赤い機体の飛空艇が2週間前くらいにオルティシエ入りしたらしい。でも一旦不時着してすぐに撤退していったらしいけどな」

「赤い、飛空艇?」

「ああ。どんな用事で来たかは知らないけどね」

「ノクト、もしやアラネアの飛空艇じゃないのか?」

 

彼女のトレンドマークであるあの赤い機体がホイホイと何隻もあるとも限らない。イグニスの読みは的確でレイヴスがオルティシエ入りを果たしている今、その可能性も捨てきれない。だが腑に落ちないことはある。なぜすぐに撤退していったのか。

レイヴスの指揮下に入っているなら共に行動するはずだが、もしや別の任務ですぐに出立したか、はたまた別の可能性があるのか。

はっきりとした答えはすぐに出るわけではないので頭の隅にとどめて他に必要なことを聞き出すことにした。

 

「かもしれねぇ。それで水神に変わった様子はないか?」

「港は穏やかなもんだよ。でも近く政府は神殿を開けるらしいね」

「儀式の為に、か」

「ところが一方で食料や生活物資に奔走しているそうだ。水神が暴れて街に被害が出ると思ってる?ならどうして儀式をさせるんだろうね」

「……ルーナがそう望んだんだろうよ」

「おや、さすが婚約者ということか。彼女の考えもお見通しというわけだ」

 

茶化すようないい方にノクトは気まずそうに視線を逸らす。

 

「そんなんじゃ、ねーよ」

 

婚約者という肩書で縛り付けられている現状が歯がゆく、世間に浸透している政略結婚を解消することが今の自分では不可能であることを痛感させられた。

 

ルシスの亡き王子と神薙であるルナフレーナとの婚姻。

 

オルティシエ入りを果たしてから何処に行ってもその話ばかり。正直息が詰まりそうになり衝動的に全力で声を振り絞って叫びたくなったりもなる。

 

『違う違う!!オレはルーナとは結婚しない。あれはもう無効なんだ。―――オレが好きなのはレティなんだ!』と。

 

自分が考える王と民が期待する王とのズレが少しずつノクトを押しつぶそうとしていた。

その後、クロウ達と合流したノクト達の元にアコルドの首相カメリア・クラウストラが突然訪れ内々に一方的な会談の申し入れをしてきた。明日に官邸を訪れることを約束し、ノクト達はホテルへと帰路についた。

 

レティーシアside

 

 

私達が泊まる一室に突然の訪ね人が現れた。事前に電話で一言言っておいてくれればいいのにとんと気が利かないというかとことんマイペースというか。

 

「やぁ、レティ。お忍び旅行は満喫してるようだね」

 

ノックされたドアをクペが「はーいクポ」と開けると、ズカズカと遠慮なしに入ってくる見慣れた格好の一国の宰相、アーデン・イズニアその人。

 

「クポ!?」

「アーデン!?どうしてこの部屋が……」

 

私はと言えばニックスと顔を突き合わせてソファに座りながら作戦会議中。

カメリアから極秘で送られてきたノクト達の行動スケジュールと国民の避難経路図など水神の儀が始まるまでの間に彼らの誘導をサポートしなくちゃならない。手はいくらでも欲しいところでニックスにも陰ながらノクト達の手伝いをお願いしていたのだが、すげなく断られた。

 

『オレはレティを守る』との一言の一点張りでまったく譲らないのだ。

 

嬉しいけれどそれでは避難の方が間に合わなくなる。それは今後の私の計画にも支障を及ぼすので犠牲が出てしまう前にしっかりと対処しておきたい。けれどニックスは頑なに首を横に振ってばかりで話は平行線をたどるばかり。

今回の水神の儀ではリヴァイアサンに一芝居打ってもらおうと考えているのだがそれも無理そうだとほとほと困り果てた時。

彼の登場である。

 

「意外と元気そうで何より」

「勝手に入ってくるなクポ!」

 

クペがアーデンに引っ付いてぺちぺち叩いて猛攻撃を加えているけど効果はないらしい。見た目は癒し効果があるので疲れた時にはおすすめだ。ああ、話が逸れた。

 

「事前に連絡くらい寄越しなさいよ……」

 

急な頭痛に苛まれる私をよそに、「いや~、探すの大変だったよ。ホテルというホテルしらみつぶしに尋ねたからね」となんとも暢気な様子のアーデンにもっと痛くなってくる。

 

いつものペースで挨拶してくるものだから私はついついニックスに説明しておくのをすっかり忘れてしまっていた。

案の定、警戒心むき出しなニックスはすぐにソファから立ち上がると私の腕を引っ張りあげて無理やり立たせると「後ろに下がってろ」と険呑めいた声で私に指示を出すと返事も待たずに取り出してアーデンを威嚇する。

 

「帝国の宰相自らお出ましとはな」

「レティ、こちらの護衛は一体誰だい?いつの間に飼いならしたの知らないが、躾が足りないようだ」

 

そう言って意地悪く笑みを浮かべて肩を竦めるアーデンにニックスは舌打ちしながら

 

「犬扱いかよ、下種が」

 

と忌々しそうに吐き捨てて自慢の武器を取り出して斬りかかる体勢になる。

ホテルの一室で殺傷沙汰とかマジありえない!というか、

 

「ちょっと待った―――!!」

 

両者雰囲気最悪な状況に慌てて二人の間に割り込んで待ったをかけた。背でアーデンを庇い両手を広げて待ったをかけるとニックスがショックを受けたような顔をして「レティ、なんで…」と蚊の鳴くような声で呟いた。反対に後ろのアーデンから調子に乗って「いやぁ~、これも愛の力かな」なんて馬鹿な事言うので「脇が甘い!」と肘鉄一発入れてやった。

 

「ぐっ!」

 

鳩尾に入ったから腹を抑えて膝をつくアーデンを冷めた視線で見下ろし「調子に乗るからよ」と注意してから呆然と固まっているニックスに向き直り説明をした。

 

「違うのニックス。アーデンはちゃんと知ってるから、私達の事を」

「なんだと?」

 

とりあえず武器をおさめてもらい、三人でソファに座ることにした。ちゃっかりと回復したアーデンが私の隣に座ろうとしたけどそこでまたニックスと一悶着あったので、キレた私が問答無用で男二人を同じソファに座らせて見事黙らせることに成功した。最初からこの手で攻めれば良かった。

 

「―――というわけなのよ。分かった?」

 

さて、ニックスが対抗心燃やしているアーデンの出自(これはあっさりと説明した)と私達の協力者であることを教えると、

 

「とりあえずは分かったからそっち行ってもいいか?」

「オレも同じく」

 

右手を挙手してげんなりとした顔のニックスと、飽きたのかそっぽ向いて適当に返事をしてくるアーデンに口からため息が漏れていく。

 

「はぁ、いいわよ。何処でも座れば」

 

必要なことは伝えたのだ。許可を出せばニックスは嬉々として私の隣に腰かけてきた。

そんなに私の隣がいいのかしら。男二人並ぶと窮屈というソファでもないのに。

 

「それで、アーデンの用事は?まさか私の様子見に来ただけじゃないでしょう」

 

ジロリと睨みを効かせるとアーデンは素直に打ち明けてきた。

 

 

「まぁね、それもあるよ。後は打ち合わせか。オレは『予定通り』に軍を率いて水神討伐の名目で神薙から指輪を奪う、っていう流れでいいのかの最後の確認だよ。コレ、本当にやるの?辛辣だなぁ、ルナフレーナ様には」

「ああ、それね。いいわ、それで。でもあくまで奪う真似よ。手荒な真似はしないわ。それとあくまで演技ですから!私情なんか入ってないわよ」

「分かっております。お姫様」

 

本当に分かってるのかしら。Sっ気が強いから余計なことまでしそうで少し怖いわ。

 

ぎょっとしたニックスが話の途中で割り込んできた。

 

「レティ、ちょっと待て。なんだその指輪を奪うとか物騒な話は!?」

 

そういえば、ざっくりかいつまんで説明しただけでニックスにはまだ教えてなかった。

 

「ああ、芝居よ。ノクトにはリヴァイアサンと直接戦ってもらうわ。彼らの株を高めるためにも必要なことなのよ。それに多少大暴れしてもらって簡単に神を従えさせようなんて甘っちょろい考えを失くしてもらいたいしね。……今回の水神の儀で彼女から完全に神薙の力を消すわ。レイヴスも彼女の生存を条件に協力者になっていることだし。一石二鳥よ」

 

神々の力を頼りとしながらその神々を力で従えさせ人間たちの都合で封印させておいて、やれ危険が迫っている、今こそ御力を借りる時だ!なんて都合よく目覚めさせて人間にとって召喚獣はアイテムか何かだと勘違いしているようだから、鼻をへし折るくらいの勢いでやらないと彼らに戒めと受け止められないだろう。多少荒療治でも実行しなければ意識改革なんて夢のまた夢だ。

 

しれっと説明するとニックスは怪訝な表情になる。

 

「一石二鳥っていうか?まぁ、レティがそれでいいならオレは従うが……」

 

渋々ながらも協力してくれるニックスに礼をのべた。

 

「ありがとう……、さてアーデン。まだ何か言いたそうね」

「うーん、わかった?実はレイヴス将軍から預かりものがあってね」

 

そう言って、アーデンは一つ指をパチンと鳴らすとフッとあるものを出現させた。

ふわりふわりと空中で浮かび上がるその品物に私とニックスは息を呑んで凝視した。

 

「……それ、は。父上の剣じゃないの…!?」

「確かに、レギス王の剣だな……」

 

そう何度も目にする機会はなかったが、間違えようがない。命を賭けて戦った証拠にこの剣は刃先がボロボロでどれだけ全力で挑んだか伺い知れる。

なぜアーデンがこの剣を所持しているのかわからなかった。

 

「本当ならレイヴス将軍が直接ノクトに渡すつもりだったらしいけど、レティから渡した方がノクトも喜ぶだろうってさ。オレが渡すよう頼まれたわけ」

「……私がノクティスと会うかもしれないなんて、決まってないわよ」

「それでも君が渡したほうがいいだろうさ。なんせ君の父親の形見だ」

「………」

 

躊躇う私にニックスが優しい口調で促した。

 

「レティ、受け取ってやれよ」

「う、うん」

 

躊躇いながら両手を差し出すと剣がゆっくりと降りてきて私の両手に乗る。

 

「……父上……」

 

私の両手に乗せられる父上の形見からほんわりと温かみを感じた。

 

【貴方の温もりを感じているようです】

 

 

演説開始前、ルナフレーナの元にカメリアが足を運んでいた。互いに向き合う形でソファに座り儀式に必要な祭壇と水神を呼び起こすための逆鉾の説明をするためだ。だがカメリアはどこかルナフレーナに対して威圧的な態度で接しているのは、彼女なりのけじめなのだ。私情を挟まず、神薙と一国の首相という立場で対話せねば、失うものが大きすぎる。優しさや同情など世界は安易に成り立たない。

以前にレティーシアと会談した時も同じ。

向こうはアコルドが帝国の属国である立場を指摘し自分の策に従うよう強要を強いてきたがカメリアには、あれがレティーシアなりの譲歩の仕方なのだと考えている。互いに譲れぬものがある以上、張り合ったところで得るものも少ない。許容範囲内で可能なことを提供し合えば互いにリスクは少なくすむ。約束だけ守れば後は互いがどうなろうと知ったことはない。

要は覚悟があるかどうかだけの話。

 

今、対峙している神薙もその覚悟をして同じ場に立っているもの。だからこそ、カメリア個人ではなくアコルドの首相として話すのだ。

 

「何かあれば海の底に捨てるって話なら奴らもいうことを聞かざるをえないからね。ちゃんと保管してあるわ。神薙より厳重なくらいよ」

「分かりました。では逆鉾は祭壇で受け取ります」

 

やや緊張感からか強張った表情でルナフレーナは頷いたが、

 

「ああ、帝国兵士の監視がつくことをお忘れなく」

 

と、その後にわざとらしく言葉を付け足されると頷くまで少し間が開いた。

 

「――はい」

「気分は悪いだろうけど儀式のためなら我慢することね」

「ありがとうございます」

 

自分の立場を弁えているからこそ、深々と頭を下げてまで礼を伝えるルナフレーナの心情は果たしてどのようなものか。カメリアには知る必要はない。

 

「全部終わったら行動の制限はないしうちで保護はできないわよ」

「わかっています」

「そろそろ時間ね。演説、頑張ってちょうだい」

 

おざなりな応援の言葉を残してカメリアは部屋を出て行った。

それと同時にわらわらと部屋に侵入してくる帝国兵たち。その手に持つ銃口を無抵抗なルナフレーナへと一斉に向ける。ルナフレーナは微動だにせずにその向けられる銃口を見つめた。

そこに、「ルナフレーナ」ととある人物が現れる。

 

「お兄様……!?」

 

ここで初めて表情を変化させたルナフレーナは驚愕し、自分に歩み寄ってくる兄、レイヴスを見つめた。テネブラエで再会してよりここオルティシエでは敵同士だと互いに線引きをしたはずなのに、自分の兄は温かな眼差しで自分を見つめてくることに戸惑ってしまう。

 

「なぜ、お兄様が」

 

レイヴスは手を上げて帝国兵を隅に下がらせるとルナフレーナが座る前へと片膝をつき妹の手を掬い上げて両手で包み込んだ。

 

「ルナフレーナ、お前に言い忘れていたことがあるのだ。短い時間だがお前に会いたくて来た。……どうか何があってもオレのことを信じて欲しい」

「どういう、ことですか……?」

「オレは、神薙をこの世から完全に消し去るつもりだ」

「!?一体、何を」

 

レイヴスの考えが理解できず声を上げるが、レイヴスはさっと立ち上がると背を向け足早に部屋を出て行こうとする。

 

「―――ルナフレーナ、すまない。これ以上は言えん。だが必ず……」

「お兄様っ!」

 

決意に奮い立つ兄の背に手を伸ばすも、ルナフレーナを取り囲む魔導兵に阻まれてしまう。突然の兄との邂逅と意味深な言葉。もうまもなく演説が始まろうとしている今、ルナフレーナの心は乱れてしまっていた。

 

【一体何があったというの?】

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