にげてきちゃった、ノクトから。
だってズルいもの。ノクトだけは特別だから。皆から大切にされて皆に愛されて必要とされてるもの。
でもわたしは誰からも愛してもらえない。一生懸命わたしを知ってほしくてもっといろんなことを知っていればわたしをみてくれるって。だからいろんな本をたくさん読んだよ。
クレイとの修行だってノクトが学校に行ってる間、頑張ったんだよ。怖かった。本当は木刀を持つ手が震えたもの。クレイは本気で来いって静かに言うけど目は鋭い鷹みたいに光ってた。殺される、殺される前に行かなきゃ!ってわたし何も考えずに挑んだ。でもクレイは簡単にわたしをいなした。逆にバシン!と一手を打ってきてうまく受け身を取れなくて床にごろごろと転がったわたしにクレイは立ちなさいって言った。わたし、痛くて起き上がれなかった、だから痛いから少し待ってってお願いしたの。
でもクレイはダメですって無理やりわたしを立たせて木刀を握らせた。痛くて、怖くて、泣きそうになった。でも泣いちゃ駄目だからわたし頑張ったよ。
体中に青あざできても、ノクトにバレないように必死で隠したんだよ。
練習も、勉強も、王族としての振舞い方、マナー、色々頑張ったんだよ。
母上はわたしを褒めてくれた。
頑張ったわねって、撫でてくれる。
でも、ノクトが来るとわたしが欲しい一番はノクトに行ってしまうの。
わたしは、いつも二番目。
ずっと、ずっとそばで見てた。ノクトと母上とあの人が揃うところ。
わたしだけが、仲間はずれ。
あの人はわたしを一度も見てもくれない。
なんでノクトばっかり、ノクトばっかり!
わたしがいらない子だから。わたしがあの人の子供じゃないから。
だからわたしは愛されないって思った。
だったら戻りたくない。あそこはわたしの居場所じゃないもの。
でもどこにもわたしの居場所はない。
このルシス国には。
わたしは、走って走って息が切れるくらい、もう走れなくて倒れ込むくらい走った。
擦りむいた手の平がジンジンしていたい。
気が付いたら、ひとりぼっちだった。
真っ暗なところで、わたしだけ。
ここなら泣いてもいいかな。だれも見てない。わたしだけなら。
ゆるされるのかな。
ぽろってなみだがこぼれた。
わたし、泣いたよ。悲しくてわたしをみてほしくて、でもだれもみてくれなくて。
わたし、ひとりだよ。
だから声を上げた泣いた。
クレイにわたしは生きたいって言った。生きれるって思ったから。
でも誰もわたしをひつようとしてくれないなら、わたしはなんのために生きるのかな。
誰もわたしを知らない。
顔を両手で覆ってわたしは視界を閉ざした。
本当に真っ暗な世界がわたしを待っている。だれかが耳元でささやくの。
なら、消えちゃえよって。誰もお前を必要としてなんかいない。
役立たずの王女はいるだけ邪魔だって。
なら、きえても、いいのかな。
あの人の影が、わたしに突きつける。
き・え・ろ、と。
『消えちゃダメクポ!』
聞いたことのある声がひびいた。
わたしは顔を覆っていた手を下ろし、その声にハッとさせられた。
この声、この声!
そう、
忘れてた、わたしの大切な友達を。あの子は自分が弱くてひとりぼっちだと言った。
だからわたしがいってあげた。わたしがいるってずっとそばにいるって。
『レティは一人じゃないクポ!クペがいるクポ!だから消えちゃダメクポ!!』
わたしに必死に呼びかけるクペの声にわたしは座り込んでいた体を立ち上がらせた。
クペ!どこ、どこにいるの!?
探さなきゃ、クペを探さなきゃ!
わたしはまた立ち上がって走り出した。どこにいるかなんかわからないけど、ずっとわたしの名前を呼んでくれるクペの声をたよりに走った。
『こっちクポ!もうちょっとクポ!!頑張れレティ!』
うん、うん!
わたしは走りながら涙を乱暴に手で拭った。まだ頑張れる。クペがわたしを呼んでくれているから。
一か所だけ光る何かを見つけて、わたしはそれを目指して走り続けた。